2023年8月30日にオンラインセミナー『ユーザー視点を重視したサービスアイデアの検討プロセスとは? 実践的手法をUXデザイナーが解説』を開催いたしました。
この記事では当日用いた資料を公開し、そのポイントを解説しています。
目次
UX検証の目的
なぜUX検証が必要なのか?
下図のとおり、ビジネスモデル検証というのは事業者側の視点です。いわゆる、いくら儲かるか?を考えるプロセスだといえます。一方、UX検証は、そのサービスを利用する人の視点から、このサービスを使いたと思うか?本当に買うのか?を考えるプロセスです。
両者は対の関係であり、ユーザーが使ってくれないことにはビジネスを継続できないため、事業者側の視点と同様にユーザー視点の検証もとても大切です。
今回は、事業のアイデアを出し、ビジネスモデルの評価やUX観点での検証を加えてブラッシュアップを行うプロセスの中で、どのような「UX検証」の方法があるか簡単にご紹介します。
アイデア創出時のUX検証
新規サービスの種を見つけるためにはアイデア出しが必要になります。
複数人の集まるワークショップなどでまずはアイデアをたくさん出して(発散して)、そのアイデアをブラッシュアップして、徐々に案を絞ってくのが一般的なやり方ではないでしょうか。
UX検証に用いる「ペルソナ」
アイデア出しの時点ではあまり深く練られてはいないかもしれませんが、アイデアの時点でも誰向けのサービスなのか?は考える必要があります。
ビジネス書などでは「ターゲット設定」といった言葉が出てきますが、どういった属性の人を狙うビジネスなのかを考える必要があります。例えば「都内に勤める一人暮らしの30代の女性」には食事自動配達サービスのニーズがあるのではないか?と考えるのがターゲット設定です。
この「ターゲット」というのは事業者視点での言葉で、どうしても自分に都合の良いターゲットのイメージをつくってしまいがちです。
UXデザインでは「ペルソナ」を考えます。
ターゲット設定は、「都内に勤める一人暮らしの30代の女性」程度の情報しか持たないのに対し、ペルソナは、「その人がどんな生活をして、どんな性格をしているのか、どんなものが好みなのか」と、具体的な一人の人物像まで思い浮かぶように、細かく属性を設定しています。
その後の分析工程で「ペルソナだったらどう考えるのか?どう行動するのか?」を想像するため(つまりユーザー視点で検証するため)に用いるので、自分自身がその人物になりきれるように具体的に人物像を定めていくことが重要です。
UX検証に用いる「アンケート調査」
ペルソナのような仮想のユーザー視点を用いた検討ではなく、実際のユーザーやユーザーになりそうな人にアンケート調査を行うこともあります。
このような新規サービスがあったら使いたいか・使いたくないか?と尋ねる以外にも、ある属性の人の消費傾向を調査したいというような目的などでアンケート調査は行われます。
調査対象が決まっていて人数が少ない場合は、Googleフォームなどを使って手軽に調査できます。
何百人、何千人としたい場合は、アンケート調査を専門の会社に依頼することもあります。調査会社では人選や、結果の集計などさまざまなサポートをしてくれますが、Googleフォームなどで手軽に行うのと比較して大きなコストがかるので、プロジェクトの予算に合わせて企画する必要があります。
UX検証に用いる「インタビュー」
一定の質問に回答してもらうアンケートではなく、対話形式での調査もあります。
よく使われるのは、グループインタビューと、デプスインタビューです。グループインタビューは、ユーザーと属性が似た人を数人集めて、司会者が知りたいテーマについて質問をし、参加者同士でディスカッションしてもらいます。複数人から同時に意見を聞けるので、それぞれの視点から意見を得られる、というのが特徴です。
デプスインタビューは、一対一で行うインタビューのことです。意見や要望を深掘りしたい時や、人前では話しづらいテーマの時に、詳しく話がきけるのが特徴です。
UX検証に用いる「行動観察」
行動観察という手法もあります。これはフィールドワークとも呼ばれます。
調査する人が現地に赴いて、ペルソナに近い人の行動や、その周りの人々の様子などを観察します。インタビューやアンケートなどの言葉を介した調査と違い、直接行動を見ることができるので、新たな気づきや、行動からその背景にある心理を探るヒントが得られます。
特に業務向けサービスなど、一般の人には利用シーンが想像しにくいものに関する調査としては非常に有効な手段です。現地に赴くことが難しい場合は、動画を用いて観察することもあります。
行動観察を行う場合、本人や周りの人が意識してしまうと普段通りの行動をしてくれなくなるため、観察していることを対象者に気づかれないようにすることが重要です。
UX検証に用いる「体験」
体験というのは、自分自身がペルソナと同じ体験をしてみることです。例えば、検討中のアイデアが乗り物関連の新規サービスであれば、自分もユーザーの立場でその乗り物に乗ってみることは有効です。
ただし、自分がペルソナとかけ離れている場合は体験が難しいこともあります。例えば、ペルソナが小さい子供や高齢者の場合、身体的な違いによる体験の差は埋められないためです(対策として、妊婦体験ジャケットなど道具を使った擬似体験ができることもあります)。
行動観察と体験をミックスして行うこともあります。例えば販売店でのUX検証として自分自身はお客様の立場を体験しつつ、販売員の行動観察も行うということは同時に実施できます。
このようにさまざまな手法を用いて、ユーザー視点に立ってサービスを設計していきます。
ビジネスモデル評価時のUX検証
新規サービス検討のプロセスでは、ビジネスのアイデアをある程度絞り込んだら、ビジネスモデルを検討して事業のかたちを具体化していきます。
下図はビジネスモデルの検討に用いられるフレームワークのひとつ「ビジネスモデルキャンバス」の例です。詳しい解説は省略しますが、誰にどんな価値を提供するビジネスで、そのたにめどのようなリソースが必要なのかなどの情報を整理していきます。
冒頭の説明の繰り返しにはなりますが、こうしたビジネスモデルの検討は事業者(実行者)の視点で行います。
NCDCでは、このタイミングでユーザー視点での検証も取り入れるためによくカスタマージャーニーマップを使ったUX検証を行います。
簡単に具体例を挙げると、ビジネスモデルを考えることとユーザー視点でサービスの価値を考えることは次のような違いがあります。
ビジネスモデルは、月額1,000円のサブスクリプションサービスを1万人が利用すれば月に1千万円の売り上げがある、サービス提供のために必要リソースは何があるか、そのコストとしていくらかかるのか…というようなお金の計算が主眼に置かれがちです。
それに対して、カスタマージャーニーマップを用いたUX検証はひとりのユーザーになりきって、本当にそのサービスを利用するのかを検証するものです。ペルソナの行動や感情を深く考え、どんなサービスだったら月額1,000円を払ってくれるかを検討していきます。
カスタマージャーニーマップ作成のポイント
カスタマージャーニーマップはとにかくペルソナになったつもりで考えるのが大切です。先にペルソナの項で説明した通り「どんな生活をして、どんな性格をしているのか、どんなものが好みなのか」具体的に人物像を思い浮かべて行動や心理を考えるので、そのペルソナを無視した都合の良い解釈を入れると意味がなくなってしまいます。
ペルソナの行動や感情を書き出すカスタマージャーニーマップができたら、インサイト分析を行います。「Insight」とは元々「洞察」「深い理解」という意味をもちますが、このプロセスにおいては「ユーザーが無意識に持っている欲求」や、「ユーザーの本音」というイメージで捉えるとわかりやすいと思います。
想像したペルソナの行動や感情から、ペルソナがなぜこの行動にいたっているのか?なぜこうした感情になったのか?をさらに想像して書いていきます。
この「インサイト」から新規サービスのタネを得たり、サービスの改善の手がかりを掴んだりできるため、非常に重要なものです。
なお、ペルソナやカスタマージャーにマップはあくまでも仮説であるため、その精度を上げるために先にあげた各種調査を組み合わせることもあります。
ただし、短い時間で簡易的に行うこともできる仮説を用いたサービス検討と異なり、調査には時間とコストがかかることが多いことは注意点です。
スピーディーに進めるためには、まずはペルソナやジャーニーマップを用いた仮説で検討を行い、調査はもっとあとの工程で、たとえばサービスのプロトタイプを作ってからユーザーに触れてもらうというかたちで行うのがお勧めです。
実証フェーズでのUX検証
ビジネスのアイデア創出時、ビジネスモデルの検討時など各段階でUX検証を行なっても、それで本当にユーザーにとって価値ある新規サービスが実現できるとは限りません。ここまで主に仮説ベースで考えてきたものをプロトタイプで具現化し、実際にユーザーが想定通りに使ってくれるのかを確認する(PoCを行う)ことも大切です。
ひとくちにPoC方法といってもさまざまなやり方がありますが、あくまでも検証なので、できるだけ期間やお金をかけずに、検証できる部分から取り組んでいくことが重要です。
たとえばWEBシステムやモバイルアプリであれば、デザインツールなどを用いて主要画面画面のモックを作成して、まずユーザーに画面遷移だけを見てもらい、アンケートやインタビューを行ってユーザーのニーズを満たしているか、使用性に問題がないかを検証することから始めることも可能です。
アイデアの可視化
ここまでの話の流れとは少し異なりますが、「サービスイメージをビジュアル化」しておくことも有効です。
新規サービスのアイデアは主に文字情報で説明されていることが多いですが、このかたちでは他者にイメージが伝わりにくく、決済者の理解を得るのに時間がかかってしまうこともあります。
誰が、いつ、どんなシーンで使うサービスなのかが一目で伝わるように表現できると、ユーザーヒアリング用の資料としても、社内外関係者への新規サービス案のプレゼン資料としても使用できる可能性があります。
NCDCではアイデアを可視化するのに次の4つをよく用いています。
- ストーリーボードなどのサービスのイメージ画
- サービスのフロー図
- コンセプト動画
- UIデザインのプロトタイプ(先に「主要画面画面のモック」と紹介したもの)
ストーリーボードとは、サービスのイメージを起承転結の4コマのイラストなどでビジュアル化するものです。起承転結の4コマに拘らず、1枚絵で説明することもあります。
NCDCにはデザイナーがいるのでオリジナルの絵を描いて作成しますが、上手に絵が描けない場合は商用利用可能なイラストを組み合わせて作成するなど、さまざまな表現方法があります。目的に応じて表現のレベルは調整しても良いと思います。
サービスフロー図とは、提供するサービスに関連する業務の流れなどをわかりやすく図示するものです。
例えば、レストランの調理や配膳に関連する新規システムを検討した際、NCDCではユーザーとなるレストランのスタッフの方々への説明用に、時系列順でイラストも添えたフロー図を作成したことがあります。
目的や対象者によって違いはありますが、サービスフロー図を用いることで、長い文章を読まなくても誤解なく流れがわかるようにすることができます。
コンセプト動画もアイデアをわかりやすく表現するのに有効です。NCDCでは、新規サービス立ち上げのコンサルティング案件で何度か新規サービスのコンセプト動画を作成したケースがあります。多くは社内外の関係者への説明や、新規サービスの決済者に向けてのプレゼンで使用していますが、内容によっては展示会などでお客様向けにアピールする資料としても使えます。
ただし、ストーリーボードやフロー図と比較すると、コンセプト動画は作成するための時間とお金がかかるので注意が必要です。
新規サービス検討のご相談はNCDCへ
事業者視点によりがちな新規サービスのアイデアをユーザー視点で検証し直すこと。つまり「そのサービスはユーザーにとって本当に価値があるものなのか」を考えることは、新規サービスの準備段階で重要なポイントであり、この検証の良し悪しが新規サービス成功への最初の関門であるといえます。
NCDCは新規サービス立ち上げ支援に多くの実績を誇り、プロジェクトの早い段階からUXデザイナーが参画して、ユーザー視点を重視したアイデア創出や検証をサポートしています。
新規サービスのアイデア創出や評価、検証などの進め方に課題をお持ちの方は、ぜひご相談ください。