本記事では、ゲーミフィケーション(gamification)の要素を、UX(User Experience:ユーザエクスペリエンス)を検討する際にどのように取り入れていくべきか、その手法を考察します。
ゲーミフィケーションを活用したアプリの開発など、この分野に関心のある方はぜひご覧ください。
目次
ゲーミフィケーションとは
ゲーミフィケーションとは、ゲームに使われている構造をゲームとは別の分野で応用することです。ゲームのデザイン手法や仕組みを用いて、問題解決やユーザーのエンゲージメントを獲得することを目的として、さまざまな分野で利用されています。
わかりやすいゲーミフィケーションの例は、夏休みに地域で行われる「ラジオ体操」の出席カードとスタンプです。
「早起きして体操をしに行く」というある意味苦行でしかないプログラムが、スタンプがもらえる、集めたスタンプの数によって何か特典が得られるというゲーム的要素によって、自らモチベーションをもって参加できるものに変化していきます。
ゲーミフィケーション普及の背景
先に挙げた「ラジオ体操」の例のように、昔からユーザの自発的な動機付けを行う工夫はさまざまなものがあります。しかし、近年あらためてゲーミフィケーションという概念が登場し、一時バズワードとなって広く普及した背景には、スマホをはじめとしたテクノロジーの進化があります。
- ソーシャルメディアとの親和性
誰もがスマホを持ち、SNSを利用するのが当たり前となっている社会で、他人の情報を手に入れ、評価し、批評し合う(対戦する)ことが容易にできるようになりました。 - ゲームに対する概念の変化
「ゲーム即ち怠惰」という印象を持たれていたのはひと昔前の話かもしれません。現在では、eスポーツという概念が成立するほどゲーム市場が成長しており、ゲームアプリを利用している人は61.7%とMMD研究所の調査の結果がでています。
有名なゲーミフィケーションアプリの成功事例
NCDCへのご依頼でも「アプリ開発の際にUXにゲーミフィケーションを取り入れるにはどうしたらよいか」というご相談が増えてきています。
では、具体的に「ゲーミフィケーションを取り入れたアプリ」とはどのようなものなのか、すでに世に出ている有名な事例を紹介します。
[事例1] Nike Run Club
NikeのフィットネスアプリであるNike Run Clubでは、ユーザーが互いに競争し、その結果を毎日共有します。これにより、ユーザーがアプリを日常に取り込み、ブランドを取り巻くコミュニティが生まれ、継続的なブランドロイヤルティが強化されることを狙いとしています。
https://apps.apple.com/us/app/nike-running/id387771637
[事例2] ポケモンスマイル
このアプリは、子供たちの歯磨き習慣を改善するための拡張現実(AR)ゲームで、スマートフォンのカメラを利用して子供が歯磨きする様子をモニタリングします。子供たちは「むしばきん」に捕まったポケモンたちを助けて捕獲することができます。
今までゲームとして利用されなかった歯磨きという時間をゲーム化することによる市場インパクトが大きい事例です。
https://apps.apple.com/jp/app/id1512331079
[事例3] Coke ON
コカコーラが配信しているこのアプリは、自動販売機でドリンクを購入するたびにスタンプが溜まり、ドリンクと交換できるというゲーミフィケーションを導入しています。
また、1週間の目標歩数を自ら設定してそれを達成するとスタンプが得られるなどの仕組みもあり、ドリンク購入時だけでなくアプリを日常的に楽しく使える工夫がされています。
https://apps.apple.com/jp/app/coke-on-koka-korano-zi-fan/id1088184021?ls=1
ゲーミフィケーションの手法
次に具体的なゲーミフィケーションの手法をお伝えします。
まず、ゲーミフィケーションによってどのような効果が期待されるのかを、あらためて心理学の文献からご紹介します。
自ら進んで行う要素を与え、没頭させる
心理学的な実験から、外から動機づけられるよりも自分で自分を動機づけるほうが、創造性、責任感、健康な行動、変化の持続性といった点で優れているという結果があります。
//心理学者 エドワード・L・デシ『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』
また、創造的な活動や高い技術力を必要とされる仕事などに没頭しているとき、疲れをしらず、時間の過ぎるのも忘れて活動を続け、永続的な満足感を得られていることを見出しました。
//心理学者 ミハイ・チクセントミハイ『フロー理論』
外的な動機付けよりも、内的な動機で(自ら進んで)行動できる要素を与える方が、ユーザは没頭し、持続的に活動するということがわかります。
では、具体的にどういったコンテンツが内的な動機付けに役立つのかを次に説明します。
ゲーマータイプを分類し、最適なUXを与える
イギリスの研究者リチャード・バートルが定義した4つのゲーマータイプがあります。
タイプによってどのようなUXによって満足感を得るのかが異なるため、ゲーミフィケーションを取り入れる際は、ゲーマータイプを定義し、タイプに適した仕掛けを考えることが大切です。
4つのタイプと、最適なゲーミフィケーションの手法
1. アチーバー(Achiever)
Achieveの意味である「達成」することに満足感を得ます。
例えば、提示されたクエストをこなすことや、称号を集めることに喜びを感じます。
[手法]
– 明確な目標設定をすること
– ユーザーが何のためにこの作業をするのかが明確であること
– 気を付けるポイントは、課題を難しいものにしないことで、段階的にレベルをあげていく仕組みの構築
– どのくらいの難易度が適切なのか、ユーザーの特徴の分析が必要
– クエストを細かく設定すること
– 現状を可視化できている
– 数値を可視化し、ユーザーが今の状態を把握できるようにする。
– グラフや図にするとよりわかりやすくなり、ユーザーにフィードバックを返すことができる
2. エクスプローラー(Explorer)
Exploreの意味である「探検」に満足感を得るタイプです。
例えば、ゲーム内で探検することや、新たな発見することに喜びを感じます。
[手法]
– 隠れた要素を取り入れる
– コレクションできるようなアイテムを収集する要素を取り入れる
3. ソーシャライザー(Socializer)
Socialの意味である「社会」的な他人とのかかわりに満足感を得るタイプです。
例えば、掲示板やチャットでのやり取りなどで喜びを感じます。
[手法]
– 掲示板を用意する
– ユーザー間の評価をしあえる
– ユーザー間のフォローができる
– 強い敵が現れた際、”チームで協力し合って倒す”という行為など(レイドバトル)
– 他のユーザーと協力する、ライバルとして対戦するなど、ユーザー同士が交流する
4. キラー(Killer)
他人より上の立場に立つことに満足感を感じる(マウンティングをする)タイプです。
例えば、レベル制、ランキングで他人よりも強いことが可視化されることに喜びを感じます。
[手法]
– ユーザーランキングを用意する
– ユーザーランクを用意する
まとめ
ゲーミフィケーションの手法と事例をご紹介しましたが、参考になりましたでしょうか。
みなさんもユーザーが没頭して自発的に継続利用するシステム(アプリ)を作るために、取り入れてみてはいかがでしょうか。
最後に、NCDCが関わった事例をご紹介します。
NCDCではUXデザインからアプリの開発までサポートしていますので、こうしたゲーミフィケーションの要素をもったアプリをご検討中の方はぜひご相談ください。
NCDCが開発に関わったアプリの事例
ストレスマネジメントアプリ
– アチーバータイプへのゲーミフィケーションUXを導入
– ストレスの軽減に応じたポイントの導入をしました。
– 貯まったポイントを給料や有給休暇など福利厚生に利用できることを検討しています。
電気自動車アプリ
– キラータイプへのゲーミフィケーションUXを導入
– 電気の供給量に応じたポイント、ユーザーステータス、ランキングの導入をしました。
– ステータスやランキングに応じて、さらにポイントが付与されます。
– 貯まったポイントは、様々な割引サービスに使っていただけます。