リモートアジャイル開発の勘所

公開 : 2020.07.21 

スクラムガイドでは、透明性、検査、適応の3本柱が重要と伝えています。そのため、スクラムのガイドの多くは「Face to Face、同じ部屋で」ということが前提になっています。

スクラムは、経験的プロセス制御の理論(経験主義)を基本にしている。経験主義とは、実際の経験と既知に基づく判断によって知識が獲得できるというものである。スクラムでは、反復的かつ漸進的な手法を用いて、予測可能性の最適化とリスクの管理を行う。
経験的プロセス制御の実現は、透明性・検査・適応の3本柱に支えられている。
スクラムガイド

では、Face to Faceが難しい環境ではどのようにアジャイル開発に取り組めば良いのでしょうか?

※本記事は、アジャイル開発の中でもスクラムの手法に焦点を当てた内容です。

リモートアジャイル開発の相談が急増

昨今のソーシャルディスタンスが重視される状況下において、「アジャイル開発をリモートワークでできないか?」という相談を受けることが増えています。

もともとNCDCはリモートワークを基本としており、現在取り組んでいる自社サービス開発も全員リモート参加のアジャイル開発で行っているのですが、私自身がそのプロジェクトにスクラムマスターとして関わる中で、さまざまな工夫をしています。
この記事では、その経験から得た知識を、リモートでのアジャイル開発をうまく回すためのノウハウとしてお伝えしたいと思います。

リモートだからこそ徹底したいスクラム哲学

まず、工夫する方向性としてはFace to Faceのプロジェクトルームが持つ雰囲気をいかにオンラインで代替できるかを考えます。そうすると、行き着くところは「リアルなコミュニケーションをいかに代替するか」がテーマとなります。

コミュニケーションとは大きく2つに分類されます。
一つは急に思いついたことを誰かに聞いたり、聞かれたり、または雑談したりという口頭でのコミュニケーションです。プロジェクトルームにいる場合の「ちょっといいですか?」というやつですね。

もう一つは文章によるコミュニケーションです。目的が明確であり、それを正確にかつ効率的に伝え、残すことが目的になります。アジャイル開発では、プロジェクトルームでの文章によるコミュニケーションの代表例はホワイトボードと付箋かもしれません。

リモートだからといってこの2つのコミュニケーションを軽視することなく、むしろリモートだからこそ徹底してスクラム哲学を意識してチームで作業に取り組むことが大切ではないか。そのように考えています。

それでは、リモートアジャイル開発における口頭のコミュニケーションと文章のコミュニケーション、それぞれのプラクティスを見てきましょう。

リモートアジャイルの口頭コミュニケーション

現在は、大きなコストをかけずに使えるオンライン会議ツールが豊富にあるので、基本的にはそうしたツールを用いてプロジェクトルームにいるときと同等の、リアルタイムでコミュニケーションをとれる手段を確保します。
ただし、Face to Faceと異なり、相手の状況や雰囲気をみて声を掛けることが難しいため、そこをどう補うかがリモートアジャイルでは重要です。

常にオンライン環境で即レスを心がけましょう

スクラム開発は、プロジェクトルームで顔と顔を合わせて行うというのが基本ですが、あえてリモートで行うというのであれば、オンラインでも同様のコミュニケーションレベルを保つ必要があります。

  • スクラムは、知の集合体を作ることで、1人の知識で乗り越えられない課題を無くすことを意識しています。
  • 問題があったらいかに早くチームに共有して、課題を潰せるかが勝負です。
  • 可能な限りプロジェクトメンバーはオンラインで繋がる状態を維持し、即レスを心がけましょう。
どういったコミュニケーションにするかをチームで定義しましょう

チームの性格によっては、ビデオ会議などで直接会話するより、ドキュメントやチャットでのやりとりが効率良い場合もあります。例えば、海外にいるエンジニアがいて生活リズムが違う場合などです。チームメンバーにとって負担が大きい方法、すなわち効率の悪いコミュニケーション方法を採択しないよう相談しましょう。

  • チャット、ビデオ会議、電話などのツールを使用して、コミュニケーションを円滑にできるようにします。最もリアルな環境に近いのはビデオ会議ツールを繋げっぱなしにすることです。疑問が出たらすぐ会話できるのが理想です。
  • プロジェクトやチーム体制の様子を鑑みて、コミュニケーションに負担が無いように随時改善も検討します。
  • NCDCではDiscordというWEBミーティングアプリ上でプロジェクトルームを設けています。その中で常に話しかけて良い部屋と集中して仕事をしたい部屋などをわけるようにしています。具体的には、Discord内で、コワーク、会議室、食堂、集中作業室など、目的別にルームを設けて運用しています。Google Meetも併用していますが、Discordは比較的、雑談をする場所、気軽にしゃべりながら作業をする場所として活用しています。
Discord上での部屋分け例
適時振り返りを実施しましょう

コミュニケーションがうまくいっているかいってないかは、適時レトロスペクティブで振り返りましょう。
コミュニケーションに穴があれば、コミュニケーションのルールを見直し、以下のような失敗例が起こらないように改善を繰り返していきます。

アジャイル開発のコミュニケーション失敗例

・こういう仕様だと思って開発したけども後で確認したら違った
・仕様がわからなかったので、スプリントゴールには入っていたけども着手できなかった
・間に合うと思っていたが、当日になって間に合わないことがわかった

雑談をしましょう

“スクラム”の言葉通り、チームを一つにするには、チームを柔らかくすることが大切です。仕事の話をする時間だけでなく、雑談をする時間を設けましょう。

  • 「雑談担当」というロールを設けるのもありです。
  • 仕事の話をするチャット、雑談をするチャットと分けてチャンネルを作りましょう。
  • NCDCでは、Slack、Google meetとDiscordとツールを併用し、使用用途を分けています。

リモートアジャイルの文章コミュニケーション

まず重要なのは、「スクラム開発は、ドキュメントがなくていいから楽だよね」という考えは大間違いだということです。
スクラム開発は、ドキュメント(仕様の可視化)の作成を否定していません。ドキュメントよりも、コミュニケーションを取ることに比重をおいているだけです。
ですので、別の国に住んでいるなどの事情があって、時間が合わず、リモートでなかなかコミュニケーションが取れない場合は、それを補うドキュメントが必要です。
そのため、リモート環境では以下のドキュメントがあるか、無いとしてもその必要性について十分な議論をしたかどうかが重要です。

共同で見られるオンラインのホワイトボードがあるか

オフラインで行われるスクラム開発では、共同のプロジェクトルームがあり、過去の議論を振り返ることができるようにホワイトボードが用意されているのが一般的です。
ですから、オンラインでも議論の内容を随時可視化し、振り返れるような場所が必要です。その上に、様々なドキュメントを配置していきます。
NCDCではmiroというオンラインホワイトボードアプリを使い、共同のプロジェクトルームを設けています。

miro
Miroにはカンバン等、アジャイル 開発でも使えるテンプレートが揃っており便利です。また、複数名で付箋をぺたぺた貼り付けることができ、コワークの場として活用することができます。
プロジェクトバックログの詳細が明確に定義されているか

マネジメントよりのプロジェクトバックログから開発よりのスプリントバックログにタスクを落とし込む作業はとても繊細であり、そこで問題が生じるとスプリントレビューにて「こんな仕様ではなかったはず」というフィードバックが起こりがちです。
開発に入れるための、ストーリー詳細のフォーマットを定義(Readyの定義)しておくことをお勧めします。

用意すべきものの例

  • シナリオの詳細
  • 機能一覧
  • 簡単なワイヤーフレーム
  • デザイン
  • DONEの定義(どのシナリオが実現できたら完了と言えるのか)
パーキングロットは用意されているか?

チャットや会話の中で、なんとなく出ていた話や課題は全てパーキングロットに記載しておきます。レトロスペクティブの際に見返せば、言ったけど保留になっていることがはっきりわかります。保留しておく場所があるだけで、開発の進捗を妨げるリスクを減らすことができます。

まとめ

オンラインでスクラムチームを形成するには、一体感を出すためのコンセンサスやコンテンツが重要です。ただし、それらが形骸化しないよう、適時コミュニケーションをとり、振り返りと共有を繰り返しましょう。

NCDCではリモートワークの環境下でもプロジェクトマネジャー・デザイナー・プログラマー等が連携し、チーム一体となってお客さまのプロジェクトをご支援してきた豊富な経験があります。
「コロナ以前」と比較して、リアルな場で密なコニュニケーションをとることが難しくなっていくであろう今後に向けて、新たなアジャイル開発のスタイルを検討している方はぜひNCDCにご相談ください。

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