1929年の創業以来、「最大ではなく、最高を目指す。」というYASDAスピリットのもと、一貫した妥協しない姿勢で高精度・高耐久性の工作機械を送り出してきた安田工業株式会社。
工作機械メーカーであるYASDAが、ハードウェアの開発のみならずアプリケーションのUX/UI改善に注力することになった経緯や、今後の展望などについて、同社のソフト開発課の皆さまにお話を伺いました。
尾上氏 ── 工作機械とは、様々な素材を切削・研削して目的の形状に加工する機械を指します。工作機械で作られた部品は、自動車や医療機器、スマホカメラのレンズなど様々なものに使われますし、航空宇宙産業や半導体産業にも使用されます。当社では、多様な分野に関わる工作機械の中でも特にマシニングセンタ※1の設計・製造を行っています。
※1 マシニングセンタ:数値制御を行うコンピューターと工具の自動交換機能を搭載した、切削加工用の工作機械。
尾上氏 ── 0.001mmの加工精度を実現する当社のマシニングセンタは、「YASDAブランド」として世界的にも高く評価していただいています。一方で、業界内の競争が激しく、ハードウェアだけではなかなか差別化を図れないという現実もあります。このため、お客様のニーズに合わせた追加機能や付加価値という面で、ソフトウェアも重視するようになりました。
尾上氏 ── 工作機械業界、製造業全体の問題でもあるのですが、働き手の減少という課題があります。外国人の方など様々なバックボーンを持つ方が、ベテラン技術者の不足を補っているという状況なので、従来のように習熟に時間がかかったり、慣れが必要であったりする複雑な操作感のものは受け入れられなくなっています。そういった意味で、ユーザーの多様化に合わせた誰もが使いやすいUX/UIというのは、重要な付加価値であると考えました。
三吉氏 ── 新たな画面が必要になり作成する際は、従来の画面デザインを踏襲しつつ、直感的な操作ができるようにと気をつけてはいたのですが、全体的なデザインを改善するというところまでは行えていませんでした。
尾上氏 ── 社内で全体的な見直しを行うことは難しいため、今回のプロジェクトでは、現状のアプリケーションの操作性を外から見てもらって改善することを目標としていました。
尾上氏 ── NCDCさんを知ったのは、展示会で偶然見かけたのがきっかけでした。そこから数年越しに、UX/UI改善のパートナーを探すとなった際に思い出し、ちょうどいい内容だということでWebからお問い合わせをしました。
尾上氏 ── 正直なところ、パートナー探しを進めていく中で、候補先がどんどん減っていってしまったというところはあります。というのも、工作機械というニッチな業界ですし、専門性も高いため、そこにキャッチアップできる企業自体が珍しかったので。そのような中で、残った複数社の提案を比較する際に、NCDCさんは見積もり時点で既存のアプリケーションに対するUIの改善点を具体的に指摘していただいたことが決め手となりました。工作機械に深く興味を持ってくださっていることが伝わってきて、嬉しかったですね。
三吉氏 ── プロジェクトを進めるうえで初めて導入したBacklogやFigmaといったツールが便利でした。ツールの使い方などについてもレクチャーしていただき、タスクの管理や提案していただいたデザイン案の確認がスムーズに行えました。
山本氏 ── 私は、こちらの要望に沿ったUIデザイン案を、一つの画面に対して複数提案していただけたことがとても良かったと思っています。週に一度、オンラインで定例ミーティングを行っていたのですが、一週間のうちにいただいたデザイン案を社内で検討したり、要望を取りまとめたりして、ミーティングの際にそれをお伝えするという形で効果的にプロジェクトを進められました。
尾上氏 ── 担当のデザイナーの方に当社の製品の取扱説明書を読み込んでもらい、それに基づいてデザイン案を作成していただいたのですが、専門性が高いため、マニュアルを読むだけで仕様や操作方法などを完全に理解するのは難しかったと思います。定例ミーティングの他にもチャットなどで密にコミュニケーションを取って、お互いに疑問点を一つずつ解消していくようにしていました。
山本氏 ── 担当のデザイナーの方が、膨大にあるアプリケーションの機能一つひとつについても詳細に把握されていました。短期間で、工作機械について深く勉強されていたのが印象的でした。また、繰り返しにはなりますが、自分たちでは思いつかないような案を何個も提案していただいた中から最適なものを選べたという点が、期待以上でした。例えば、ワークの芯出し※2のアプリでは、操作の手順に沿って上から順にボタンを並べ一画面に収めたものを最終的には採用しましたが、そこに至る過程ではこの他にもガイダンス形式やスクロール形式など複数の案を出していただき、比較・検討して決めることができました。
※2 ワークの芯出し:被削材を加工するための原点を設定すること。マシニングセンタで加工する際に必要な手順。
三吉氏 ── 既存のUIは、当社で採用している制御装置のUI特有のもので、ボタン類が画面の右側や下側に集まっているなど、パソコンのOSや一般的なアプリのUIとは乖離したものになっていました。今回、ヒューリスティック評価や問題点の洗い出しを経て提案していただいたUIデザイン案は、UX/UIデザインのセオリーに則ったものだった点が良かったです。既存のUIから変更してしまうことに関しては、ユーザーテストで支障がないか確認をしました。
山本氏 ── ユーザーテストは、まず社内で別の部署のメンバーに対して実施してから、社外の実際にYASDAの工作機械を使ってくださっているユーザー様に対して実施しました。ユーザーテストをする機会自体がこれまでほとんどなかったので、ユーザーが実際に操作を行う様子を見られたというのが貴重な経験になりました。ユーザーの操作が、開発側の私達がイメージしているものとは異なる場面があり、大変参考になりました。
三吉氏 ── 実際のユーザー様へのテストでは、生の声が聞けたのがまず大きな成果でした。テストに使用したのはデザインプロトタイプ※3でしたが、実際の操作環境を疑似再現してテストすることで、想像とは違う部分で操作のつまずきがあることが分かりました。また、お客様の目的によっては使わない画面もあるなど、画面の使用頻度が想定とは大きく異なることも分かりました。
※3 デザインプロトタイプ:アプリやWebサイトなどの試作品。画面デザイン上のボタンなどにリンクをつけ、擬似的に実装時と同じ挙動をもたせたものを作成し、操作性の評価などに役立てる。
三吉氏 ── 安全性に直結するところなど、工作機械には特殊な条件が沢山あるのですが、ユーザーの方が普段多く触れているアプリなどのセオリーは踏襲しつつ、工作機械を操作するのに最適なデザインにしていただけたと思います。
尾上氏 ── 工作機械という特殊な分野のソフトウェアのため、プロジェクトが始まる前はデザイナーさんに仕様が正しく伝わるかなど不安はあったのですが、いざ物が出来ると不安が払拭されました。既存の仕様が新しい画面に完全に落とし込めていますし、不要な画面遷移を削っていただいたことで操作感が良くなり、成果物として期待以上のものが出来たと思っています。
尾上氏 ── 始めにもお話した通り、製造業全体の抱える人手不足の問題があります。いろいろな方にとって使いやすく、作業効率が上がるようなUIデザインという、ソフト面からのアプローチを続けていきたいと思います。特殊な業界のため、続けていくうちにどうしても閉じられたものになってしまうという側面があります。NCDCさんには、今後もUX/UIデザインの最新トレンドについての情報提供や、第三者的な視点でのデザイン支援をしていただけたらありがたいです。
三吉氏 ── 今回のプロジェクトでの経験を踏まえて、社内の人でも、社外の実際のユーザー様に対しても、ユーザーテストを継続して実施していけたらより良い意見が聞けるのかなと手応えを感じました。工作機械のように、特定の分野、特定の製品に対しても最適なデザインや改善方法を提案していただけるので、UX/UIデザイン改善に取り組みたいと考えている方、特に社内に専門の部署がないような会社さんにはNCDCさんをおすすめしたいと思います。
山本氏 ── この度はUX/UIデザイン改善のためにNCDCさんにご協力いただきましたが、担当のデザイナーの方の対応速度が本当に素晴らしく、期待以上の成果を得ることができました。私達もそうでしたが、自社のリソースだけでは時間をかけてデザインを見直すことができないという悩みを抱えている方には、外部の専門家の力を借りて改善していくことをおすすめしたいです。