「ユーザーの課題に寄り添ったデザインを」と私たちはよく口にしますが、実際にどれだけユーザーの“本当の困りごと”に迫れているでしょうか?
行動ログやUIの操作からは、ユーザーがなぜその選択をしたのか、その背後にある感情や動機までは見えてきません。こうした“見えにくい背景”に光を当て、深い理解を得る手がかりとなるのが「リサーチ」、特にインタビュー調査です。
目次
インタビューは「定性調査」の中心手法
リサーチにはさまざまな手法がありますが、主に次の2つに分類できます。
- 定量調査(Quantitative Research)
数値でユーザーの行動や意見を捉える調査(例:アンケート、アクセス解析など) - 定性調査(Qualitative Research)
ユーザーの感情や行動の背景、その理由を深く探る調査(例:インタビュー、行動観察など)
このうちユーザーインタビューは、定性調査の中でも代表的かつ柔軟性の高い方法です。
ユーザーの体験や思考を直接聞き取ることができるため、「なぜその行動をとったのか」「どんな気持ちだったのか」といった、背景の深い理解が可能になります。
ただし、インタビューにもさまざまな種類があるため、得たい情報に応じて最適な手法を選ぶことが重要です。
【目的別】ユーザーインタビュー・調査手法の整理
ここからは、UXリサーチにおいて活用される代表的なインタビュー・調査手法を「目的別」に整理して紹介します。
- ニーズや課題の把握
手法例:デプスインタビュー
ユーザーの行動や発言に対して「なぜそうしたのか?」を丁寧に掘り下げていくことで、表面的なニーズの背後にある本質的な課題を探ります。インサイト発見や課題仮説の形成に最適です。 - 利用シーンの文脈理解
手法例:文脈インタビュー(行動観察+インタビュー)、行動観察調査
ユーザーがどんな環境や状況でサービスを使っているのかを知るためには、実際の利用現場での観察と併用したインタビューが効果的です。サービス等利用時のリアルな制約や使われ方が、普段見落とされがちな発見を得ることができます。 - 体験全体の流れの理解
手法例:カスタマージャーニーを取り入れたインタビュー(や対話)、カスタマージャーニーマップの作成
サービスの前後も含めた体験の流れを時系列でたどることで、感情や行動の変化、接点ごとの課題が見えてきます。体験設計の再構築に役立ちます。 - 思考プロセス・判断基準・メンタルモデルの把握
手法例:思考発話法(Think-Aloud)を取り入れたインタビュー等
ユーザーに実際の画面やプロトタイプを操作してもらい、その間の思考や迷いを声に出してもらうことで、UIのわかりにくさや判断基準が浮かび上がります。
ユーザーテストに関する基礎知識や実施のプロセスについては、こちらの記事をご覧ください。 - 深層心理や動機の掘り下げ
手法例:ナラティブインタビュー、デプスインタビュー
ユーザーに体験やエピソードを語ってもらいながら、「なぜそう思ったのか」「どう感じたのか」を深堀りしていくことで、価値観や判断基準といった内面に迫ります。サービスの“刺さる理由”を探る場面で有効です。
インタビュー方式や手法を「目的別にどう使い分けるか?」という観点で整理すると、上の表のような形になります。
インタビューは“話を聞く”だけではなく、問いの設計次第で得られる気づきが大きく変わります。プロジェクトのフェーズや明らかにしたいテーマに応じて、最適なスタイルを選ぶことが、真にユーザーに寄り添った体験設計への第一歩となります。
ここからは、上記の中から代表的なインタビューを取り上げ、それぞれの詳しい違いや特徴を紹介します。
掘り下げるタイプのインタビューに有効な手法
デプスインタビュー(In-depth Interview)
目的:ユーザーの価値観・生活背景・意思決定の構造など、深層心理に迫るのが目的
形式:1対1で時間をかけてじっくりと話を聞く形式(30〜90分程度)
特徴:
– 非構造化(または半構造化)の質問が多い
– Whyだけでなく、感情、価値観、理想像、選択理由などを多面的に探索する
– 論理的な問いに加え、「どう感じたか?」「なぜそれを大事にしているのか?」なども含み掘り下げていく
デプスインタビューは非構造化(または半構造化)の質問を行うので、インタビューフローの設計等の準備はしますが、準備した質問の通りに実施するというより、以下のような点に気をつけながら行います。
- 回答者の反応を見ながら質問の仕方を調整すること:どのような質問をしたら、自然な流れで良い回答が得られるか、思い出してもらいやすく、行動の流れが自然に出てくるか等を気にしながら進める
- 感情に注目すること:驚き、イライラ、満足などがUXの改善ポイントになるので深掘りする
- 本人の言葉を拾うこと:その人らしい言い回しを「ユーザーの声」として拾い、そのまま受けるのではなく、情報として得る
また、ユーザーの体験を深く理解するために、以下のような流れで質問を組み立てます。
1. アイスブレイク・導入
簡単な自己紹介や、「普段どのように関連サービスを使っていますか?」といった質問から始め、リラックスした雰囲気で会話に入ります。
2. 現在の行動・使用状況の把握
「使い始めたきっかけは?」「最後に使ったのはいつ?どんな場面?」など、具体的な使用状況を時系列で確認します。
3. 利用時のフローの確認(ジャーニー把握)
サービスの利用ステップをたどりながら、「使いづらさを感じた場面」「そのときどう対処したか」「良いと思った点」などを掘り下げます。
4. 感情・動機・価値観の深掘り
利用中にどんな気持ちになるか、サービスを通じて何を実現したいかなど、行動の背景にある考えや価値観に焦点を当てます。
5. 理想体験・期待
「もっとこうなったらいい」と思う理想像や、今後期待する改善点・機能など、潜在的なニーズを引き出します。
その他にも、必要に応じて「なぜそう思ったか」「もう少し詳しく教えてください」「その時の気持ちはどのような感じであったか」「その選択の背景にはどのような考えがあったか」などの問いかけを加え、相手の言葉を丁寧に深掘りしていきましょう。
非構造化とは、事前に質問項目を準備しない(またはほとんど準備しない)形式で行うインタビューを指します。インタビュー前に大筋のテーマを設定し、会話の流れを中心に質問を展開していきます。
半構造化とは、事前に質問項目を用意し、質問項目に沿ってインタビューを進めますが、回答者の反応や会話の流れに応じて質問の順序を変えたり掘り下げたい内容の質問を追加し進めていきます。
価値観やモチベーションなどを探索する形のインタビューの利点としては、定量データや行動ログでは見えない“なぜ”を掘り下げられるというところです。
回答者の反応や回答内容に対してさらに掘り下げることがポイントで、ユーザーの本音や深層心理に近づくことができます。
ユーザーの行動背景や文脈を理解するのに有効な手法
文脈的インタビュー
(コンテクスチュアルインタビュー・コンテクスチュアルインクワイアリー等)
目的:ユーザーの“自然な行動”と“その文脈”を理解するのが目的
形式:現場観察+その場での対話のようにユーザーが実際に使っている環境・状況の中で行うインタビュー(「今、何をしているのか? なぜそうしたのか?等」)
特徴:
– 作業を観察しながらインタビューすることで、自然な行動や無意識の習慣が見える
– 「言っていること」と「やっていること」のギャップが発見できる
– 現場(職場、家庭、サービス利用している場所など)に訪れて行う
向いているケースは、「日常的な業務フローやルーティンを理解したいとき」や「現場やサービス利用特有の工夫や制約がありそうなプロダクト」の調査です。ユーザーの行動を実際の文脈の中で観察し、インタビューや会話を通じて深い洞察を得ます。単発の調査にとどまらず、長期的にユーザーやそのコミュニティに関与することが一般的で、表面的な行動だけでなく、より深い文化的背景や社会的な要因も理解することができます。
文脈的インタビューと総称してタイトルに記載しましたが、関連する調査方法を以下にご紹介します。
これらの調査方法は実際にユーザーの生活や作業環境に足を運び、観察を行うことが特徴の手法です。コンテクスチュアル・インクワイアリー(Contextual Inquiry)や行動観察はユーザーリサーチ手法として、特にUXデザインや人間中心設計の現場でよく使われます。
コンテクスチュアルインタビューやコンテクスチュアルインクワイアリーは行動観察+質問なのに対して、行動観察調査はリサーチのフィールドワークで取られる手法であり、どの手法も特定の文化や社会集団の人々の行動、習慣、価値観、日常生活を詳細に観察し、記録を行うことにより、自然行動とその文脈理解ができるので、UXデザインやマーケティングの分野でも多く利用されます。
ユニ・チャーム社の生理用品「ソフィ」の例
ユニ・チャームは、ターゲットとなる消費者層(主に女性)に対して、実際の使用シーンを観察するため、女性たちがどのようなタイミングで、どのように生理用品を使っているのかを直接観察しました。そしてインタビューを行い、どのような点に不満を感じているか、またはどのような機能があればもっと使いやすいと感じるかを調査しました。
多くの女性は生理用品の漏れや肌への刺激を心配しており、特に夜間や多い日にはその不安が強くなることがわかり、また、使いやすさや装着感、そしてブランドの信頼性が、製品選びの重要な決め手となっていることがわかりました。
生理用品の分野で非常に競争が激しい市場において、製品の機能性だけでなく、使用感や肌触り、見えない部分での安心感など「体験」設計を製品開発に生かすため実際の生活シーンやニーズを深く理解する目的で行動観察+会話形式のインタビューを利用した例です。
ユーザーの行動文脈・感情の流れを理解するのに有効な手法
ナラティブ型インタビュー
目的:背景文脈・意味づけ・感情の流れの理解
形式:「いつ・どこで・何があって・どう感じて・どう行動したか」といった出来事の流れ(ナラティブ)を自由に話してもらい、その語りの中からインサイトを探る、体験をストーリーとして語ってもらう
特徴:
– ユーザーの「語り(ナラティブ)」を中心に構成される
– 出来事の前後関係や背景、感情の変化に注目
– 質問は最小限で、できるだけ中断せず傾聴する姿勢が求められる
– 一人ひとりの文脈(コンテクスト)を重視
– 医療・教育・心理・福祉・UXなど、幅広い分野で活用されている
例えば、顧客体験の理解を得たい時に、製品やサービスを利用する顧客体験全体を時間軸に沿って語ってもらうことで、感情の動きや課題、満足度などについて知ることができます。そしてインタビューで得られた顧客の語りから、よりリアルで共感しやすいペルソナ(架空の顧客像)を作成したり、既存のペルソナをより深く理解したりするのに役立てることもできるでしょう。また、コンテンツへの活用にも有効的で、インタビューで語られた顧客の体験談を、具体的なストーリーとしてWebサイトなどに掲載し、顧客が製品やサービスを利用する際の感情や変化をリアルに伝えることで、潜在顧客の共感を呼ぶことが期待できます。こういった施策等を検討していく際にも利用できる手法です。
例:ユーザーにアプリを使い始めたきっかけから現在までの利用状況を語ってもらい、継続利用の要因や離脱のきっかけとなる要素を探る。
ナラティブインタビューの最大の利点は個人のアイデンティティや経験にフォーカスして情報を取り入れることができる点です。
カスタマージャーニーを取り入れたインタビュー
(や、カスタマージャーニーマップの作成)
目的:ユーザーがあるタスクや体験を通じて、どのような感情・行動・思考を経るかを理解するため
形式:ユーザーが体験する一連の流れ(例:購入前〜使用中〜アフター)に沿って質問を進める、過去の具体的な体験をたどる(ユーザー体験ジャーニーのベースに質問をする)
特徴:
– タッチポイントやペインポイントの把握に役立つ
– 「昨日、あなたがこのサービスを使ったときの流れを教えてください」など、時系列で聞く
– カスタマージャーニーマップの作成を依頼したり、ワークショップや対話形式でジャーニーマップを作成して行う
ユーザーの行動や感情の変化を時系列(ジャーニー)で追いながら深掘りしていく方法です。カスタマージャーニーやサービスジャーニーの補完に役立ちます。カスタマージャーニーなどの作成はインタビュー形式で行われるというよりも、関係者が参加するワークショップ形式等で行われることが多いですが、これらをインタビュー形式で取り入れることで、ユーザーがある目的を達成するまでの過程(例「商品を知る」「比較する」「購入する」「使う」など)を振り返ってもらい、それぞれの段階で何を考え、感じ、どう行動したのかを詳しく聞いていくことができます。
メルカリの例
フリーマーケットアプリケーション「メルカリ」は個人間でモノを売買できるオンラインマーケットプレイスとして有名になりましたが、ユーザーインタビューやユーザーテストにて、「出品ボタンが見つけにくい」「発送方法の選び方が分かりにくい」など、出品から取引完了までのプロセスにおける初心者がつまづきやすい課題があることが発覚しました。
出品や購入の「実際の体験」を時系列で振り返ってもらうことで、プロセスの中で感じる感情・思考・障壁を深掘りし、単に「困っているかどうか」ではなく、「どのタイミングで、どんな気持ちになったのか」を把握し、改善の糸口を探るため「カスタマージャーニーを取り入れたインタビュー」を実施。不安や疑問の詳細情報を収集し、「出品時のガイド表示やチュートリアルの追加」や、発送方法に迷うユーザーへ向けた「UIの簡素化」などを行いました。その結果、新規ユーザーの出品率が改善し、使いやすさへの評価が向上しました。
目的に応じたインタビュー手法:まとめ
本記事では、インタビューという手法に焦点を当て、目的に応じたスタイルの選び方や、それぞれの特徴についてご紹介してきました。
インタビューは、ユーザーの思考や感情の深層に迫るための有効な手段ですが、適切な問いの設計と使い分けがなければ、得られる気づきも限られたものとなってしまいます。本コラムが、ユーザー理解をより深めるためのリサーチ設計やインタビュー活用の一助となれば幸いです。プロジェクトの目的やフェーズに応じて最適な手法を選択し、必要に応じて他の調査手法と組み合わせることで、より立体的で実効性のあるユーザー理解に繋がります。
UX/UI改善のご相談はNCDCへ
NCDCは、業務用システムからコンシューマー向けのモバイルアプリまで豊富なUX/UIデザインの実績を有しています。
新規プロダクトのUX/UIデザインや既存プロダクトのUI改善、それらに関するユーザーテストの取り入れ方などについてお悩みの方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。