カルチャーブック制作の取り組みが寄与する企業の未来

公開 : 2025.02.25 

企業ブランディングの基盤を支える重要な要素として、「インナーブランディング」が注目されています。
この取り組みの目的は、ブランドの社会的存在意義(パーパス)、理想像(ビジョン)、そしてブランド価値観(バリュー)を社員一人ひとりが深く理解し、一貫性を持って行動に反映させることにあります。インナーブランディングは、企業ブランドの力を内側から強化するための鍵となる施策なのです。

本コラムでは、インナーブランディングの具体的な活動の一例として「カルチャーブック」を取り上げ、その目的や制作ステップについて詳しくご紹介します。

カルチャーブックとは

カルチャーブックは、企業文化(カルチャー)を社員やステークホルダーに明確に伝えるための資料や冊子です。
カルチャーブックには、企業のビジョン、ミッション、価値観、行動規範、歴史、ブランドストーリー、社風、成功事例、社員の声などが掲載されるのが一般的です。この一冊には、企業が大切にしている価値観や方向性を内外に伝える工夫が詰まっています。その目的は、社員が企業の一員としてどのように行動し、考え、貢献すべきかを示し、企業文化の浸透と共有を促進することにあります。
カルチャーブックの主な目的を以下にまとめました。

企業文化の共有
カルチャーブックは、新入社員だけでなく既存社員に対しても、企業の基本的な価値観や行動指針を伝える重要なツールです。全員が同じ方向性を持つことを目指し、企業のミッションやビジョン、価値観を組織全体で共有します。この共有が、企業として一貫性のある行動を可能にし、社員一人ひとりがブランドの担い手として自信を持って行動する土台を築きます。

社員のエンゲージメント向上
社員が企業理念に共感し、組織の一員であることに誇りを持てる環境をつくることは、組織の活力を高めるうえで非常に重要です。カルチャーブックを通じて理念をわかりやすく伝えることで、社員は自分自身の行動や考え方を企業のビジョンや価値観と結びつけ、モチベーションの向上や業務への積極性につながります。また、こうした共感が、社員同士の連帯感や結束力を強化する役割も果たします。

採用活動での活用
カルチャーブックは、採用活動においても大きな役割を担います。企業の文化や価値観を事前に候補者に伝えることで、企業と応募者双方がより深い理解を得られるため、採用後のミスマッチを減らすことが可能です。さらに、候補者が自分の考えや価値観と企業の文化が合致していると感じた場合、入社意欲が高まる効果も期待できます。このように、カルチャーブックはカルチャーフィットを重視した採用活動の一助となります。

社内コミュニケーションの基盤
企業文化や理念が社員に浸透していることで、社員同士が共通の認識を持ちやすくなります。これにより、業務の進行やプロジェクト遂行においてスムーズなコミュニケーションが実現しやすくなります。また、社員が同じ方向を向いて取り組むことで、組織全体としての一体感が強まり、結果として業績の向上や組織力の強化にもつながります。

これらの目的を踏まえ、弊社でもカルチャーブックの制作に取り組みました。
以下は、完成したNCDCのカルチャーブックです。

次のセクションでは、その具体的な制作過程や、ブランドを浸透させるためのステップについて詳しくご紹介します。

カルチャーブックができるまでの10ステップ

以下が、弊社が行ったカルチャーブックの主な制作過程です。

0. 目的の確認・設定(弊社でのカルチャーブック制作の目的)

弊社のカルチャーブック制作の目的は、社員一人ひとりがNCDCという会社のアイデンティティをしっかりと認識し、理解することにありました。
社員には、代表の想いや会社の風土、アイデンティティを深く理解したうえで、自分たちの解釈を見出し、それを行動指針として日々の業務に活かしていけるようになることが求められています。社員数が増加していく中で、新しいメンバーでも会社の持つ考え方を念頭に置きながら働けるようになること、自発的にその文化を体現できるようになることも目的でした。

1. 他社カルチャーブック調査

カルチャーブック制作にあたって、他社の事例を徹底的に調査しました。これにより、企業アイデンティティの伝達方法や、近年のブランディングのトレンドを把握することができました。ブランド周知の手法や形式が年々進化しているため、定期的なチェックを行うことで、より効果的なアイデアを得ることができます。

2. 自社の現状調査

次に、弊社の企業理念を深く理解・解釈することを重視し、関わるメンバーはまず、自社のアイデンティティを再認識し、その上でカルチャーブックにどのように落とし込むかを考えました。また、自社メンバーの抱いている「想い」や「リアルな声」も必要であったため、インタビューを後に企画し一人一人の現在の声を知ることにしました(後のステップにて記載します)。

3. 企画設計

カルチャーブックの形式は企業ごとに異なり、どのような形式でどのように発信するかの選定が、ブランディングの最初のステップとなります。
弊社では、リモートワーク勤務が主流となっていない時代から、効率化を重視したワークライフバランスの取れた自由な働き方を推進する社風を大切にしてきました。
カルチャーブックでも書籍や資料の形式ではなく、オンラインでいつでも閲覧できる形式にすることを選び、独自で考えたストーリー仕立てのコンテンツパートと、社員の模範となる行動例をあげたコンテンツパートで構成しました。

オンラインスライドツールを活用したカルチャーブックの公開

親しみやすく、社員が自然に理解できる形を目指した結果、登場キャラクターやブランドカラーなどが定着しつつあります。

さらに、登場キャラクターやブランドパーソナリティを活用した掲示物やノベルティを企画し、社員が日常的に接することでカルチャーが自然に浸透するような仕掛けを考えました。

  • 企画段階でどのような形で情報を伝えるか、オンライン形式か書籍形式かなどの案を出し確定する
  • 必要な追加コンテンツを検討する(例: 行動規範、役員インタビュー、社員の言葉など)
  • カルチャーブック制作後の運用方法や活動などのアイデア出しをする

形式や手法のアイデアを出し選定し、社員が企業文化を実感できるような仕掛けを盛り込むことがインナーブランディングを促進する鍵となると考えています。

4. ブランドパーソナリティ策定・精度をあげるための取り組み

弊社のカルチャーブックではブランドパーソナリティに焦点をあて、それらのキーワードをベースにストーリーやコンテンツを検討し制作しました。そのため、ブランドパーソナリティの構築に時間をかけ、十分に熟考しました。
ブランドパーソナリティを構築するためには、言葉や表現の精度を高めることが欠かせません。そこで、弊社ではまずミッション、ビジョン、パーパスを全社員で共有し、その基盤をもとにしたアンケートとインタビューを実施した上でブランドパーソナリティを構築する活動を行いました。

この取り組みを通じて、社員一人ひとりの考えや感じていることをしっかりと把握し、ブランドパーソナリティをより具体的に形にしていきました。
次に、全社員を対象にワークショップを実施しました。このワークショップでは、ランダムにチームを組み、各チームが意見を出し合いながらアイデアを発散させる場を設けました。チームメンバーそれぞれが感じる社風やブランドに対する印象を共有し、そこから得られた情報をもとに、既存のブランドパーソナリティや社風について再考する機会を作りました。

全社員で出しあったワークのボードとキーワードのマッピング
このプロセスで社員の声を直接反映させることで、ブランドパーソナリティがより一層、社員全員に浸透し、精度の高いキーワードや表現を抽出することができました。社員が積極的に関わることで、企業文化を深く理解し、それを反映させたブランディングが可能となります。

5. アイデア整理・ブランドコアの検討

アイデアや意見を整理し、ブランドパーソナリティの核となる要素を抽出することは非常に重要であり、難しいステップです。
まず「ブランドパーソナリティとは何か?」という根本的な問いから制作チーム内で多くの議論を交わし、4で行った取り組みの内容を整理していきました。

  • インタビューやワークショップの内容を詳細に理解し、分析を進める
  • 各インタビューから得られた情報を整理し、重要なキーワードを抽出

この作業により、社員からのフィードバックや発想が明確な形となり、ブランドに関連する重要な要素が見えてきます。
次に、すべてのキーワードを合わせてマッピングし、キーワード同士の関連性を見出す作業を行います。

  • 抽出したキーワードのマッピング、重複するアイデアや異なる視点を整理
  • 最も強調すべきキーワードを特定(選定)

全社員の意見を体系的にまとめることで、ブランドパーソナリティに対する理解が深まるとともに、具体的な施策に繋がる重要な材料が整います。
これに加えて、会社の代表に対してもインタビューを実施しました。社員の考えや現状を踏まえた上で、どのように考えるべきか、トップダウンとボトムアップの両方の観点からブランドパーソナリティに必要なキーワードを慎重に選定することが非常に大切です。

  • 会社の理念と大きく乖離がないかを改めて確認する
  • 選定したキーワードの微妙なニュアンスの違いに違和感がないかメンバーで話し合う

6. カルチャーブックの骨格となる構成ラフを作成

5で検討したアイデンティティと抽出したキーワードを元にカルチャーブックの骨格を作成するため、ページの構成案を複数検討しました。その後、ストーリーの方向性を決定するために、いくつかの世界観の案を作成しました。この段階ではアイデアボードを利用して、詳細なストーリーではなく、物語の大まかな方向性と世界観を検討しました。

ページ構成案と世界観のアイデアシート
この段階で、すでに骨格となる明文化されたアイデンティティ(ブランドパーソナリティのキーワード)は見えているわけですが、言葉を並べるだけでは無味乾燥な文章になってしまうため、いくつかの世界観を作成し、よりブランドに合う方向性となるよう議論しました。
ストーリーパターンを作成する際は、「すでにある印象を明確にするアプローチにするべきか」「記憶に残りやすい印象的な言葉を使ってアプローチすべきか」と、悩みました。
当たり前の言葉だと忘れられてしまう可能性がある点や、弊社にフィットする世界観やアイデアは何かを探ることも重要と考えていたためです。加えて、決定したアイデンティティが数年後にもフィットするかどうかは予測できないため、利便性やメンテナンス性も考える必要があると感じました。
これらをもって、ストーリーには柔軟性を持たせ、一部を書き換えたり追加したりできる余地を残すことも時には必要だと感じたため、バッファを持たせたストーリー設計を行うことを意識しました。

  • 制作する際に自社の印象にフィットするか
  • 数年後のメンテナンス性の考慮

数年経って振り返ると、こういった取り組みは、この後に続く段階で想像力を広げ、より深く考えるための土台作りとしての意味があったと強く感じます。

7. アイデアとの整合性を考える・コンテンツを決める

この段階では、カルチャーブックに盛り込むコンテンツや全体の構成を確定します。
ブランドパーソナリティとの整合性を確認しながら、ストーリーの展開や具体的なコンテンツの詳細を詰めていきます。

コンテンツの確定とストーリー展開の検討

  • 明確にしたブランドのメッセージや価値観を基に、カルチャーブックの内容(コンテンツ:ミッション・パーパス・ストーリをこの位置に入れるなど)を具体的に決める
  • 伝えたいメッセージを整理し、適切なストーリー展開を再検討する(世界観を確定、に沿った数案のストーリー案を作成)

この段階で重要なキーワードを再度振り返り、体現する文章やストーリー(物語)として具体化していきます。ブランドパーソナリティのキーワードを再度見直したり、ストーリーの中に言葉の持つ意味合いがしっかりと反映されているかを再確認し、振り返ることで、より適切な表現を模索します。

構成案の修正とブランドパーソナリティの最終決定

  • 構成案を修正し、ブランドパーソナリティに関するキーワードを最終的に決定
  • コンテンツのボリュームを決定

社内で構成案を見直し、具体的な改善案や新たな視点を加えながら調整していきます。

キーワードを見直すため意見を出し合い、スプレッドシートにまとめた

社員を巻き込んだインナーブランディングワークの実施
弊社のカルチャーブックでは、行動規範に則った行動を紹介するページを設けることにしました。
そして、社員を巻き込んだワークを行い、カルチャーブックで取り扱う行動事例の具体化を行いました。
Do(NCDCの社員なら行うこと)とDon’t(NCDCの社員なら行わないこと)として実際に社員同士で意見をあげていき、ランダムに分かれたチームで意見交換をします。

  • 社員参加型のワークを制作過程に盛り込む企画を入れる
  • 社員がブランドパーソナリティを理解し、日常業務で体現できるように促す活動を取り入れる

社員参加型のワークを実施することで、制作に社員全員が関わるができ、より深く会社の文化について理解してもらうことができます。このようにして理念への共感を生んだり、会社の一員であることを実感してもらったりすることも重要なインナーブランディングの活動です。
このような過程を通して、ブランドアイデンティの6要素となるキーワードが精査され、弊社には6つのカルチャーコードが出来上がりました。

8. コピーライティングとイメージドラフトの作成、構成の確定

コピーライティングと具体的な構成の策定
構成案に基づき、各セクションのコピー(文章)を作成します。ここでは、ストーリーの流れに沿ったキャッチフレーズや文章の作り込みを行います。

イメージドラフトの作成
完成版に向け、ビジュアル要素を含めた全体像をイメージできるた初期ドラフトを作成します。この段階では、コピーに加え、イラストや写真などのレイアウトやデザインの素案も盛り込んだドラフトを用意します。

寝かせて見直す
一度作成した案を一定期間寝かせ、冷静な視点で見直します。そのまま最後まで作成仕切ってしまいたいところですが、ここで案を寝かすことで客観的に改善点を発見し、最終的な品質を高めます。

最終構成の決定
最終的な構成を確定し、全体の確認をします。

9. デザイン作成

カルチャーブックのビジュアル部分を完成させます。

  • イラストやグラフィックデザインを制作
  • 必要に応じて文章構成やレイアウトを再度見直し、デザインを仕上げる

10. 公開

完成したカルチャーブックを最終確認し、正式な形で公開します。

完成したカルチャーブックの一部

カルチャーブックの運用とさらなる活用の工夫

完成したカルチャーブックはWeb上で閲覧可能な状態になりましたが、単に公開して終わりではなく、運用や活用を工夫することで、ブランドの浸透をさらに強化しています。
制作後の主な取り組みとして挙げられるものを以下にまとめました。

  • イラストデータの改変
    ドキュメントやノベルティに転用するためのデータ加工
  • 印刷物やPDF、パワーポイントファイルの作成
    誰もが簡単にアクセス、利用できる形でのデータの提供
  • 運用方法の検討と実践
    カルチャーブックやブランドを活用した全社的なワークや説明会の実施
  • ブランドガイドラインの制作やオリエンテーションの実施等
    ブランドの統一感と浸透を強化するための取り組み

以下は弊社で実施した具体的な取り組みの一部です。
まず、カルチャーブックをもとに印刷物やノベルティを制作するためのデザインデータの改変を行いました。
そして、ノベルティという形で、社員が日常的に触れるツールに変換していきます。

オフィス内では、社員が自然にキーワードを目にできるよう、壁掛けを設置しました。
また、公開時には全社員が集まる場で「ブランドパーソナリティ」に関する説明会を実施しました。この場ではカルチャーブックの意図や運用方法について共有し、社員がブランドの理念を理解する機会を設けました。
全社会議では、新入社員が増えたタイミングで、カルチャーブックや社風を表すキーワードを用いてNCDCのカルチャーを理解する場を設けています。ブランドに対する理解を深めるだけでなく、チーム間や社員間の結束も強化されるとよいなという意向で行っています。

カルチャーブックやカルチャーコードを利用し社員同士でグループワークを行った際のディスカッション資料
さらに、カルチャーブックの導入後には、社員参加型の「ネーミングワークショップ」を開催し、カルチャーブック内のキャラクターに名前をつける取り組みを実施しました。キャラクターの名前はオフィス内の会議室名として採用され、いまはブランドストーリーが日常業務に溶け込む仕組みとなっています。
制作物を単なる成果物として終わらせるのではなく、そこからプログラムを生み出し、社員がブランド理念を体現できるようサポートする活動を続けることが、インナーブランディングの成功には欠かせないと考えています。

インナーブランディングのご相談はNCDCへ

NCDCでは、ここでご紹介したようなカルチャーブック制作をはじめ、ブランドパーソナリティの浸透に役立つワークショップの実施やノベルティの制作など、インナーブランディングにまつわる様々なご支援を行っております。
インナーブランディングを強化していきたいけれど、どこから手を付けたらよいか分からない、といった段階からのご支援も可能ですので、一度お気軽にご相談ください

ページトップへ

お問い合わせ

NCDCのサービスやセミナー依頼などのお問い合わせは
下記のお電話 また、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

050-3852-6483