2024年4月9日にオンラインセミナー『新規サービスのアイデア創出・具体化方法』を開催いたしました。
この記事では当日用いた資料を公開して、そのポイントを解説しています。
目次
新規サービス実現までのプロセス
新規サービスのアイデアが出てから事業展開されるまでにはさまざまな検討が必要です。下図はその流れを示したものです。
今回は図中の「事業アイデア創出フェーズ」内を中心に説明します。
新規サービスのアイデアを創出する
まずはアイデア創出について。
むやみに新規サービスのアイデアを生み出そうとしても難しいので、NCDCでこのアイデア創出フェーズをご支援する場合、フレームワークを用いて行います。
具体的には下記のようさまざまなフレームワークを用いてアイデアを発散させて、たくさんの案を生み出すことからはじめます。
フレームワークの例
- マンダラート
- 掛け算アイデア
- オズボーンのチェックリスト
- シナリオグラフ
- 常識を疑う
このアイデア創出フェーズについては以前のセミナーで詳しく解説しているので、別の記事「資料公開|新規サービスの生み出し方。UXデザインを取り入れたアイデア創出からPoCのポイントまでを解説」をご参照ください。
新規サービスのアイデアを具体化する
続いて、ある程度アイデアが出たあとの「アイデアを具体化するフェーズ」の説明です。
アイデアを具体化する取り組みとして、まずはアイデア創出フェーズで出てきた案を下記のフォーマットに当てはめて説明を言語化、具体化します。
【プロダクト名】は
【対象顧客】で
【○○なニーズを持っている】人向けの
【プロダクト分野】。
【最大の利点は○○】であり、
【競合製品や代替品】とは違って、
【差別化の内容】することができる
最大の利点は何か? 競合との差別化要素は何か? などをフォーマットに従って書いていくことでアイデアを具体化させていきます。
具体例がある方がわかり易いので「働く人の健康を応援するサービス」というテーマでアイデア創出を行い、「健康的な食事を自動配達するサービス」というアイデアが出たと仮定して先のフォーマットを埋めてみます。
【プロダクト名】は
【食事自動配達サービス】は
【20~30代の独身会社員】で
【食事を用意する、考える時間用意する時間がないというニーズを持っている】人向けの
【食事を自動で毎食配達してくれるサービス】。
【最大の利点は中食の割に安価、健康なメニューを勝手に決めてくれる】であり、
【Uber Eats】とは違って、
【選ぶ必要がない、配達依頼がない、健康的な食事を】することができる
「食事の自動配達サービス」だけでは実際どのようなサービスなのか具体的にイメージできませんが、このフォマートに入れることでイメージが共有しやすくなります。
ただアイデアをぱっと単語にするだけだと関係者間でイメージに差があったりターゲットが不明確になったりしてしまうため、このような詳細の言語化が必要になります。
特に「最大の利点」や他サービスとの「差別化の内容」がポイントとなります。
はじめに紹介したアイデア創出フェーズで多数のアイデアが出てくると思います。
散らかったアイデアのすべてを事業化検討の対象にはできないので、この「具体化フォーマット」を用いて具体化した後で、10個程度には絞り込むことをお勧めしています。
アイデアの絞り込み
アイデアを絞り込むための有効な手段としてアンケートやインタビューという手法があります。
この例だと、「働く人の健康を応援するサービス」をテーマとしていたので、ターゲット層である「働く人」にアンケート、インタビューをして、ニーズがありそうなものを絞り込むという作業を行います。
アンケート調査を行う場合のポイント
- 調査人数が少ない場合は、Googleフォームなどを利用することで手軽に調査できる
- 調査人数が多い際は、人選やアンケート結果集計も任せられるアンケート調査専門の会社に依頼しても良い。ただし数百万のコストがかかることもあるので、予算に合わせて企画・設計する必要がある
- 質問内容は、自社に都合の良い回答を誘導するような文章にならないように注意する
インタビュー調査を行う場合のポイント
グループインタビュー
複数人(調査対象者5〜6人)が参加し、参加者同士でディスカッションを行うインタビュー
- 司会者が調査テーマについて質問を行い、参加者同士で自由に発言してもらう
- 参加者同士の相乗効果により、多角的な意見を吸い上げることができる
デプスインタビュー
インタビュアーと1対1の面接形式で行うインタビュー
- 本人も意識していなかったニーズや要望を知りたい場合に有効
- 人前では話したくないようなテーマや、深い本音を聞き出したい場合に有効
ビジネスモデル評価
次はビジネスモデル評価というステップに進みます。先ほど絞り込んだアイデアがビジネスモデルとして成り立っているのか評価しながらアイデアを発展させていくというフェーズです。
具体的には、CVCSやビジネスモデルキャンバスというものを作成していきます。
CVCS(Customer Value Chain Analysis)
CVCSは登場人物の相関図のようなもので、ステークホルダーの価値の流れを図示してビジネスの流れを表現します。
先の例「食事の自動配達サービス」を図示すると下図のようになります。まず食事をつくっていただくパートナーが必要です。そのほかに配達のパートナーも必要です。
この図でお客さまにどんな価値を提供して、どう対価をもらうのかも表現しています。具体的には、お客さまには楽に健康的な食事を取れるサービスを提供して、対価として月々の利用料金をもらいます。その利用料金の中からコスト(食事作成、配達の委託費)を支払うというお金の流れも見えます。
ビジネスモデルキャンパス
先の例「食事の自動配達サービス」でビジネスモデルキャンパスを作成すると下図のようになります。
ビジネスモデルキャンバスで一番大切とされているのが、真ん中のVP(価値提案)で、このアイデアにしかない価値は何かを示すものです。
ビジネスモデルキャンバスは検討中のサービスがビジネスモデルとして成り立つかどうか、足りていない部分はないかを検証するためのものとして使われますが、このフレームワークに当てはめて考えてみることで曖昧だったアイデアを具体的にしたり、追加のアイデアを出したりもできるので、アイデア創出のツールとしても便利です。
例えば「食事の自動配達サービス」の価値として、三食自動で健康的な食事ができると「意識せずに健康になれること」ことが挙げられます。
しかし、三食ともいわゆる中食のサービスに頼ると結局「意識せずに健康になれること」の対価としては利用料がかなり高くなってしまい、利用されない懸念があります。そこで「価値」に「中食の割には価格が安い」という新たな価値を考えられます。
そうすると、次に「中食の割には価格が安い」という価値を実現するためにどのようなリソースが必要になるかもビジネスモデルキャンバスを書く中で考えることになります。具体例を挙げると、価格を抑えるために「食材を安く仕入れる仕組み」が必要なので、賞味期限が近いものやアウトレット食品などを食材として使える仕組みにすればいいのでは?というアイデアが考えられます。
このように提供したい価値と、その価値を実現するためにどういうリソースが必要かを考えて書き足していくことがこのビジネスモデルキャンパスでは大切です。
事業性評価
次が、事業性の評価。事業環境の分析および戦略の方向性確認、収益のシミュレーションを行った上で、どのアイデアを事業化へ進めていくか選定するフェーズです。
3C分析、SWOT分析、収益シミュレーションなどを行いますが、3C分析、SWOT分析は有名なフレームワークなのでここでの解説は省略します。あまり詳しく知らないという方も、検索すればたくさん情報が見つかると思います。
収益シミュレーション
収益のシミュレーションでは、実施前の準備としてコストや販売価格の検討を行う必要があります。具体的には初期コスト、年間運用コストがどのくらいかかるのか?価格がいくらで、どのくらいの数売れたらどう売り上げがあるのか?などを検討します。
ここでも先に紹介したターゲットユーザーに対してのインタビューは有効です。どんな販売チャネルで、どのくらいの価格で売っていたら買うのか、反対にいくらなら買わないかなどをユーザー候補に聞き、価格設定の妥当性などを調査します。
販売価格の検討には、調査に基づくユーザーの購入可能価格のほか、競合の価格設定、コストなどさまざまな情報が必要です。
その他に一回ごとの売り切りなのか、事前に複数回の利用権を買ってもらうチケット制なのか、サブスクリプション契約なのかなどさまざま売り方の中から適切な販売形態を検討していくことも必要です。
ここまでで検討した内容をもとに、次で収益シミュレーションを実施します。基本的にはシミュレーションシートをエクセルか何かで作成して、販売価格やコストを入れてみて初期投資が何年ぐらいで回収できるのか、目標収益を達成するにはどのくらいの単価に設定すればいいのかなどを見ていきます。
収益シミュレーション実施してみた結果、初期費用を回収できるまでに膨大な時間かかってしまう、どうやっても赤字になってしまう等の問題が発覚した場合は、コストや販売価格の見直しを行ったり、ビジネスモデルキャンバスから再検討を行ったりします。
収益シミュレーションは、やってみてダメそうだったら前に戻って考え直し、またシミュレーション行うという繰り返しが大切です。
アイデアの選定
アイデア創出、具体化、事業性評価といくつかの段階を経ても、複数の候補が検討対象として残ると思います。その場合はいくつかの評価軸を定めてサービスアイデアを評価して選定していきます。
評価軸の例
- 市場の伸びとシェア獲得ができそうかどうか
- 競合と差別化ができそうかどうか
- 自社がもつ強みを活かせるかどうか
- 実現に向けての課題の大小
- 初期投資金額や五年後の利益予想
上記のような評価軸を決めて検討していきますが、この評価軸をどう設定して、どの軸を重視するのかは自由です。
例えば「自社がもつ強みを活かせるかどうか」という評価軸については、自社の既存事業と近い領域の場合は重要ですが、反対に既存事業以外の新たな収益の柱づくりに取り組むのであれば、重要ではない場合もあります。
「実現に向けての課題」が多い場合、自社がその壁を乗り越えられるかを評価することも大切ですが、自社だけが壁を乗り越えれば他社が参入できないという面で考えることもできます。
大切なのは「どんな新規サービスでも、市場が伸びているところに参入するのが正しい」というような、画一的な評価方法はないと理解しておくことです。自社がなぜ新規サービスに取り組むのか、今それを行う目的は何か、どのくらいの収益を目指すのかなどを考えて、評価軸から検討する必要があります。
UX検証
最後にUX検証を紹介します。
先に紹介したCVCSやビジネスモデルキャンバスはあくまでも事業者側の視点で検討を行っています。要するに、この事業でいくら儲かるかを考えるのに主眼を置いたプロセスでした。一方で、UX検証は利用者の視点からこのサービスを使いたいと思うか、本当に買ってくれるかっていうことを検討するものでます。
具体的には、最初にサービス利用者の典型的な人物像を「ペルソナ」として定義して、そのペルソナがどんな思考をしてどう行動をするのか「カスタマージャーニーマップ」を用いて検討します。
そして、その思考や行動の裏にある「インサイト」を分析する。簡単にいうとユーザーの本音を探ることで「利用者視点」の評価を行うのです。
ペルソナ
下図はペルソナの例です。こういう時にこのペルソナがどう判断するのか?と他人である私たちがリアリティを持って想像するのに必要な情報を書き出していきます。
この例では30代の都内在住独身女性という人物像をより詳しく、ひとりの人物として想像できるよういするために、「加藤詩織さん」というペルソナをつくり、氏名、年齢、仕事、年収等を決めています。
ペルソナ定義でどこまで情報を書くかルールはありませんが、今回は食事系のサービスを提供する想定なので、食事関連の項目を多めに定義しています。
例えば普段の食事がどんな感じなのか、自炊をどのくらいするのか、食事と関連する健康状態についてどうかはところを定義しています。昨今の新規事業はITを使うサービスが多いので、スマホやPCは何を持っているのか、どんなアプリをよく使うのか、SNSの利用頻度はどうかなどを定義するとより具体化しやすいかなと思います。
カスタマージャーニーマップ
カスタマージャーニーマップというのは、新規サービス利用で想定される場面におけるペルソナの行動や思考を可視化していくものです。とにかくペルソナになったつもりで考えるのがポイントで、自分だったらどうするかは考えないようにします。
今回のケースでは、まだ世の中に存在しない新しいサービスを想定しているので、二種類のジャニーマップを作成する必要があります。
一つ目が「現状を示すジャーニーマップ」です。これで食事に関して今もっている不満などのインサイトを抽出します。
もう一つは「新規サービスが実現したと仮定したジャーニーマップ」です。今回の例では、食事の自動配達サービスが利用できる状態でのジャーニーマップを作成します。これによって新規サービスが実現すると、「現状を示すジャーニーマップ」で抽出された課題が解決できるのかを確認することが大事なポイントです。
具体例を示すと、現状(新規サービスがない場合)のカスタマージャーニーマップでは出社して、朝8時出社で夕方18時退勤ぐらいの勤務をしており、途中でお昼を食べる。お昼をどうやって食べているかというところを考えながらDo(行動)を書き出していきます。
この日は忙しい日だったと仮定して、会議が伸びてお昼休みにいつものお店に向かおうとしても入れなかった。代わりにお弁当屋さんにいったら欲しいものが売り切れていて、最後はコンビニに寄った。時間がなくて結局飲み物だけを買ってオフィスに戻ったというDoの例ができまました。
続いて、そのDoに紐付けてそれぞれペルソナが思っていることであろうことをThinkに書き出しています。
最後にDo、Thinkを振り返り、Insightを書き出していきます。Insightは行動や思考の裏にある「本音」と考えてもらうとわかりやすいです。
例えば、忙しいので何を食べたいかなど考えず、確実に食べられるものを優先して行動しているというビジネスパートナーのDoやThinkが見えてくると、「この人にとってランチは楽しみではなくて、なるべく時間を節約したいものでしかないのではないか?」というInsightが見えてきます。
次に「食事の自動配達サービス」ができた場合のカスタマータニーマップを作成します。ストーリーは同じですが新しいサービスを利用しているのでDoは変わってきます。
「現状のカスタマージャーマップ」ではランチを食べ逃したり、買いに行くのに時間を無駄にしたり、何を食べようか考えることにストレスを感じたりといった課題が抽出されましたが、「新規サービスが実現したと仮定したジャーニーマップ」ではその課題が解決できているのかを確認していきます。
もちろん、都合よく課題が解決したストーリーを描いても意味はないので、「新規サービスが実現したと仮定したジャーニーマップ」を書く際もサービス提供者視点で考えるのではなく、ペルソナになりきって考えることがとても大切です。
その他のUX検証方法
UXを検証する方法はこのペルソナ方だけに限りません。たとえば新規サービスのプロトタイプを用意して、利用してもらった方にアンケートやインタビューを行ってもいいですし、サービスが実際どう使われているのか行動観察してみる手法も考えられます。
すべての検証を行う必要はないですが、必要に応じてこのように実際にユーザーに体験してもらう手法を取り入れると、UX検証の精度を高めることができるのでおすすめです。
一回であきらめず試行錯誤をくり返す
新規サービスを検討する際は事業者側の視点だけではなく、利用者側の視点も入れることでユーザーに受け入れられるアイデアかたちにしていくことができます。
とはいえ、新規サービスの実現はそう簡単ではありません。アイデア創出と具体化のフェーズを根気よく繰り返して、アイデアをブラッシュアップしていくことが大切になります。
実際に新規サービス検討のプロジェクトに参画した経験からも、ある程度アイデアを具体化していった後でもう一回ターゲットを変更して一から考え直す。それを何度もくりかえすということはありました。一回であきらめず長期間試行錯誤を続けられる体制を用意しておくことも成功のためにとても大切な要素だといえます。
新規サービス立ち上げのご相談はNCDCへ
新規サービスを立ち上げてユーザーの評価を得ることはとても難しいからこそ、できるだけ多くのアイデアを生み出し、スピーディーな検証や評価を重ねることが重要です。
NCDCはデジタル領域を中心に豊富な新規サービス立案支援の実績を有しています。新規サービスの企画からシステム開発まで一元的にサポートできるパートナーをお探しの方や、アイデア創出のさまざま手法・アイデアに磨きをかけていく方法を学びたい方は、ぜひ一度ご相談ください。