2022年11月30日にオンラインセミナー『新規サービスの生み出し方。UXデザインを取り入れたアイデア創出からPoCのポイントまでを解説』を開催いたしました。
この記事では当日用いた資料を公開し、そのポイントを解説しています。
新規サービスのアイデア創出や実証プロセスに課題を感じている方、新規サービスの企画や推進、DX部門の方まで幅広く参考にしていただける内容です。
目次
新規サービス創出から実現までのプロセス
新規サービス創出から実現までのプロセスは、次の3つのフェーズに分けられます。今回は、このうちアイデア創出から実証までの2つのフェーズについて、NCDCがよく実践している手法をベースとして進め方を説明します。
- アイデア創出フェーズ
アイデア創出
ビジネスモデル評価
UX検証
事業計画立案 - アイデア実証フェーズ
PoC実施
PoC評価 - 事業展開フェーズ
システム開発
販売戦略検討
運用方法検討
新規サービスアイデア創出
まず、最初のステップであるアイデア創出から説明します。NCDCではアイデア創出をする際は、Ideationと呼ばれる手法を用いてアイデアを発散させることからはじめます。多くのアイデアが出やすいように関係者を集めてワークショップ形式で実施することをお勧めしています。
今回は「健康を応援するサービス」というテーマで、新規サービスを検討する例を用いてIdeationの手順を説明します。
Ideation準備
ワークショップを始める前に、「健康×スポーツ」のようにテーマとのかけ算対象を用意することで参加者からアイデアが出てきやすく、効率的にワークショップを進めることができます。
Ideation手法① 常識を疑え
まず、「健康を応援するサービス」として既に世にあるサービスから、誰もが当たり前、常識だと考えている要素をあげてみます。その後、「常識とは逆の考え方やアイデアではダメなのか?」「他に応用できないか?」など逆転の発想を促し、新しいアイデアを考えます。
常識を覆したサービスといえば「IKEA」が例として挙げられます。次のような逆転の発想から生まれたビジネスモデルで成功を収めています。
家具業界の常識→IKEAの発想
- 家具は長期間使うもの→数年で買い替える(壊れる)もの
- 家具は配送されるもの→顧客自ら運んで組み立てるもの
- 家具はセールスが接客して売るもの→顧客が自由に見て買うもの
- 売り場では家具のみを販売→家具以外の商品も販売(小物・食品など)
Ideation手法② ワーストアイデア
次に紹介する手法は、顧客が怒り、会社の信用が傷つくような最悪なサービスのアイデアから、逆転の発想で新たなアイデアに変換するアプローチです。
先の手法と同じく、まずワーストアイデアを書き出し、その後で赤の付箋に変換したアイデアを書き出します。
例えば、「健康を応援するサービス」がユーザーの行動を強制的に制限するものや決められた時間しか使えないものだとユーザーには不便でワーストアイデアだと言えますが、そこから次のような逆転の発想を生み出すことができます。
- 睡眠時間になったら電気が消える
- 食べるものを勝手に決めてくれる
- 決められた時間に食事をして記録しないといけない
同じように「誤った情報を連携される」というワーストアイデアからは、
- 実際の消費カロリーより少なくみせて、余計に運動するように促す
という逆転の発想が生み出せます。
ワーストアイデアから発想されたサービスとして「自動貯金サービス」が例に挙げられます。「カードで決済するとお金が余計に取られる」というワーストアイデアから、カードで決済すると金額の端数が切り上げられ、購入金額との差額が自動的に別の口座に貯金される仕組みが考えられました。
例えば、350円の商品を購入すると400円が口座から引き落とされ、50円は自動的に別口座に貯金されます。貯金をしたくても自分の意思では難しいという層に人気のサービスです。
Ideation アイデアまとめ
2つの手法を用いて創出された「健康を応援するサービス」のアイデアを整理していくと、例えば次のような3つの新規サービスの案が考えられます。
- 食事自動配達
- 毎食分の食事が届くサービス
- 意識、管理しなくても、ラクして健康的な食事を取れる
- 食べるものを勝手に決めてくれる
- 健康データシェア
- 似たような健康状態の人同士でデータをシェア
- 励ましながら健康促進
- 生活習慣アドバイス(強制力強め)
- 実際の消費カロリーより少なくみせて、余計に運動するように促す
- ペナルティ制度:決められた量の運動をしないと食事が届かない
- 病気になった時の損失金額を教えてくれる
ビジネスモデル評価
次のステップはビジネスモデル評価です。Ideationで創出した3つのサービスアイデアに対し、ビジネスモデルキャンバスを利用してサービスイメージを深めます。
本来のビジネスモデルキャンバスは、検討中の事業・サービスがビジネスとして成立するか机上検証するためのものですが、アイデア創出の過程でも活用できます。
Business Model Canvasサンプル
例えば、先述した「食事自動配達サービス」をビジネスモデルキャンバスに当てはめてみたのが次の図です。
各要素についての説明は省略しますが、最も重要な要素である「価値提案」とそれに付随する「リソース」について説明します。
ビジネスモデルキャンバスを書き込んでいく際、価値提案(VP)に当てはまるものとして、まずは次の2つが考えられます。
- 意識せずに健康が保てる
- 食事の内容を考える必要がなくなる
ビジネスモデルキャンバスを書き進めていく中で「値段が高いとサービスの利用を遠ざけてしまう」という懸念が生まれたとします。その場合VPに「中食の割に値段が安い」というアイデアを追加できます。
「値段が安い」を実現するためには原価を抑える必要があるので、リソース(KR)の部分に「食材を安く仕入れる仕組み」を追加する必要が出てきます。そこから「アウトレット食品を活用する」というアイデアが生み出されます。
このように、各要素を埋めるだけでなく、「アイデアにおける本当の価値とは何か」を議論しながらビジネスモデルキャンバス作成を進めることで、サービスの具体性を深め、追加のアイデアを創出することができます。
アイデアの絞り込み
アイデアのビジネスモデル評価を行った後、実現に向けて進めるアイデアを絞り込みます。検討軸を決めて、各アイデアを比較します。
- 事業性(つまり、儲かるかどうか)
- 実現可能性(技術、法制度)
- 予算
- 実現希望時期との兼ね合い
- 会社方針との整合性
このように、会社が取り組むべき価値があるか、既存事業との親和性があるかなども合わせて検討します。
下図のように各アイデアを比較していくと優先的に取り組むべきものが見えてきます。今回の例では「食事自動配達サービス」のアイデアを採用します。
UXデザイン検証
次のステップは、UXデザイン検証です。
(UXデザインとは、ユーザーエクスペリエンス(User experience)デザインの略称で、ユーザー(顧客)体験を設計することをいいます。)
UXデザイン検証の目的は、ユーザー視点でサービス検討を行い、ユーザー満足度を満たすような追加のアイデア創出を行うことです。
前述したビジネスモデル検証は事業主視点の検証を行うのに対し、UXデザイン検証はユーザー視点の検証を行います。新規事業・サービスの検証では、両方の視点から検討することが非常に重要です。
(アイデアがすでに決まっている場合は、UXデザイン検証から行うことも可能です)
UXデザイン検証の実施
UXデザイン検証は、次の4つのステップで進めます。
- ペルソナ定義
- ジャーニーマップ作成
- インサイト分析
- サービスアイデアの追加
ペルソナ定義
ビジネスモデルキャンバスで書いたサービス利用者の想定から仮想の人物像(ペルソナ)をつくります。ペルソナはその人の思考や行動など細かいところまでイメージできるように、年齢、職業、家族構成などを細かく定義します。
自分視点で考えるのではなく、皆が同じペルソナの視点で考えられるように具体的な人物像を用意することが重要です。
ペルソナ例
30代の独身一人暮らし、多忙な女性をペルソナとします。
今回検証するサービスアイデアが「食事自動配達サービス」のため、このペルソナでは食事関連の項目を多く設けていますが、項目は一定ではありません。検討するアイデアによって項目を変える必要があります。
カスタマージャーニーマップ作成
ペルソナの行動を想像・定義し、その時の感情・心理状態を可視化します。
手順は次の通りです。
- ストーリーを抽出する
- ストーリーに基づきペルソナの行動を列挙する
- ペルソナの行動を列挙した後、各行動時にペルソナが考えるうる気持ちをできるだけ多く列挙する
まず、「会社に出社して昼食を食べる」というストーリーを設定し、「Do」に行動を列挙します。その後、多忙な加藤さんの感情や心理状態を想像して「Think」に思考を列挙します。ペルソナになったつもりで想像を膨らませることがポイントです。
インサイト分析
インサイト分析では、カスタマージャーニーマップからペルソナの行動や思考に影響を与える感情や本音を導き出します。「この行動の裏にあるペルソナの本音は何なのか?」を何度も問いかけ、深く考えることがポイントです。
先ほどのカスタマージャーニーマップに「Insight」を追加し書き出していきます。
インサイトを解決する方法を考えて、新たなアイデアを創出します。今回は食事自動配達というサービスアイデアに対して、「職場の近くで受け取ることができる」というアイデアを追加します。
上図では、インサイトに列挙したのは次の3つです。
- 昼食のことを考えるのが面倒くさい
- 確実に食べる・買うことができる
- ランチは楽しみより時間との戦い
これらのインサイトを解決する方法を考えることで、「職場の近くで受け取ることができる」というアイデアが生み出されます。
サービスアイデアの追加
このように、最初のアイデア創出後も、ビジネスモデル評価、UXデザイン検証を進めていく中で追加のアイデアを創出することが可能です。
アイデアを実証する
ここからは、創出したアイデアに対してPoC(概念実証)を行うアイデア実証フェーズについて説明します。 PoCとは、新たなアイデアやコンセプトの実現可能性、得られる効果などを実際に検証することです。机上の議論のみで新規サービスの成否を判断するのは困難なため、PoCで実現可能性や期待した効果の有無を確認してから本格的な開発プロセスに進めます。
PoC実現方法例
あくまでも検証なので、期間、工数、予算をかけずにできる部分から進めます。さらに言うと、開発(プログラミング)をせずに新規サービスを擬似的に体験でき、価値を検証できる方法が望ましいです。検証するアイデアによって、最適な実現方法を選択することが大切です。
実現方法の例は、下記の図を参照下さい。
PoC実施
PoCを実施する前に、ゴール(目標値)設定を行います。
今回の「食事自動配達サービス」というアイデアの場合、サービスがユーザーに受け入れられるかどうか体験者の声を集めて検討することが検証のゴールです。
技術的な実現可能性の検証が必要なサービスではないため、検証のためのシステム開発などは極力行わず、簡単な方法でユーザーにサービスを実際に体験してもらうPoCを実施します。
例えば、お弁当の受け取り場所として社員食堂や近くの個人店に協力を依頼し、ペルソナに類似した人に、近くでお弁当を受け取るサービスを体験してもらい、ヒアリングを行います。体験者には、健康的なお弁当が届くという案内を事前に連絡します。
本格的な事業展開時にはモバイルアプリを活用する予定であっても、検証の時点ではメールで代用します。アプリで連絡があることが今回のアイデアの主要な価値ではないため、PoCの段階では工数をかけてアプリを用意する必要はありません。
新規サービス実現までのプロセス
今回はPoC実施までを説明しましたが、その後の流れについても簡単に説明します。
PoC実施後は結果の評価を行い、PoC計画時に立てたゴールを達成できた場合は次のステップに進みます。達成できなかった場合は、アイデア創出プロセスのやり直しや、PoCを再度行うことを検討します。
新規サービスやPoCのご相談はNCDCへ
今回は、アイデア創出からPoC実施まで順を追って説明しましたが、アイデア創出から実証のプロセスまで1度でうまくいくことはそうそうありません。
実証まで進むことなく、ビジネスモデル評価やUXデザイン検証の途中で大きな方向転換が生じたり、アイデア創出を一からやり直したりすることもあります。
とはいえ、アイデア創出の際に事業主視点だけでなく、ユーザー視点を取り入れることで成功確率を高めることは可能だと考えています。
今回説明したプロセスを根気よく繰り返してアイデアをブラッシュアップし、結果が出るまで挑戦を続けられる体制があると、成功の確率は上がるのではないかと思います。
NCDCでは、UXデザインの手法を用いた新規サービス検討や効果的なPoCのプランニングをご支援しています。
新規サービスのアイデア創出やPoCの進め方に課題をお持ちの方は、ぜひご相談ください。