2021年7月29日にオンラインセミナー「DXに伴うクラウド利用シーンの変化とは? 上手な活用方法とコストの最適化手法を学ぶ。」を開催いたしました。
この記事では当日用いた資料を公開しています。
目次
DXとクラウドのコスト
DXとクラウドの活用は密接な関係がありますが、セミナーの前半ではまずコストという観点に絞って、クラウド活用の意義を正しく評価するために意識しておくべきポイントを解説しました。
DXを推進すると増えるコストとは?
まず最初にDXを推進することで新たに発生するコストについて説明しました。
DXとは今までデジタル化されていなかったものをデジタル化することなので、ITに関わるリソースの利用が増えてIT機器に直接かかるコストは増えます。例えば新しくIoTのデバイスなどを導入すればその費用がかかりますし、扱うデータ量が増えればサーバーの費用も増えていきます。
後で解説も出てきますが、クラウドに移行した場合の「クラウドの利用料」も「オンプレミスのサーバー自体の費用」との単純比較をするとコスト増になる場合が多いです。
クラウドを活用することで減るコストとは?
次にクラウドを活用することで減るコストについて説明しました。
クラウドに移行すると物理的なサーバーの管理(設置場所、防犯、電源など)が不要になります。また、仮想サーバーの場合は利用するリソースの増減も容易になり、急に負荷が高まったときの対応などを自動化することもできます。管理するレイヤーが減る分、運用は楽になり、そこにかかるコストを減らすことができます。
クラウドの活用でもっとも削減できるコストは何か?
このようにコストの面から考えると、クラウドを活用するメリットは「サーバー代金」のような直接的なIT機器にかかるコストの削減よりも、運用にかかる人件費など、間接的なコストの削減にあるといえます。
運用に必要なものは人的リソースだけに限りませんが、ここではあえてクラウドの活用でもっとも削減できるコストは「人件費」だとしておきます。
ただし、一番意識してほしいポイントは単に人件費が削減できることではありません。
運用にかかるコスト(人的リソース)を減らせる分、本来やるべきことに注力できるようになる。例えばPoC用のアプリを開発したり、機能改善したりという取り組みをより迅速に行えるようになる。
これこそが、DX推進にクラウドを活用する際、もっとも評価すべきポイントだと私たちは考えています。
クラウドとオンプレミスの費用比較
ここまでの解説も踏まえて、クラウドとオンプレミスでシステム関連費用の内訳にどのような違いがあるのかを図示したのが次のイメージです。
あらためて「インフラ側のコスト」と「アプリ側のコスト」という観点で分けて、順番に説明します。
インフラ側に関しては、単純な「オンプレミスのサーバー費用」との比較では「クラウド利用料」の方が高くなる可能性が高いです。マネージドサービスであるクラウドは、構築・運用・保守等を任せているという部分も費用に含まれるためです。
一方で、マネージドサービスであるが故に、保守運用費用(とくに人件費)を大きく減らすことができます。オンプレミスの場合、運用保守に加え、(図には含まれていませんが)初期構築や設備更新などでも費用が大きく膨らむことを考えると、「インフラ費用」のトータルは、クラウドの方がかなり安くなる可能性も大いにあります。
アプリ側に目を向けると、アプリ構築から新機能追加や障害対応まで、さまざまな点でクラウドの方がオンプレミスよりもコストを抑えられるはずです。
なぜなら、AWS等が提供してくれるサービスをうまく活用することで、これらの作業にかかる手間を大きく削減できるためです。
DX推進のためのシステムというテーマで考えると、このアプリ側のコスト削減(開発・検証・改善などにかかる手間の削減)がとても重要になってきます。
なぜなら、DXの取り組みでは新しい技術への挑戦をする場面が多いため、アプリの機能修正や障害対応の頻度も必ず高くなります。
クラウド活用によって「アプリ側のコスト」が抑えられれば、改修を繰り返してもコストが大きく嵩むことがなくなるので、メリットがより大きくなるのです。
(反対に、新しいことをしない、単なるオンプレミスからクラウドへの置き換えのようなケースでは、相対的にクラウドを利用するメリットは小さくなるといえます)
DXにおけるクラウドの役割
先にコスト面に重きを置いた解説をしましたが、後半ではコスト以外の観点からもDXにおけるクラウドの役割を解説しました。
DXの基盤としてクラウドを使うべき4つの理由
先にも少し触れた通り、DXは新しい技術をどんどん取り入れ、実施・検証することが常に変化する「不確実性」の高い取り組みです。そうした変化に素早く柔軟に対応するには、下記のような特徴を持つクラウドの活用が有効です。
パブリッククラウドの恩恵
- 豊富なマネージドサービス:コンテナ、サーバレス、AI、IoTなどの先進技術を管理・運用込みのマネージドサービスとして提供してくれる。
- 高い拡張性:サーバー等の計算資源を柔軟に拡張、縮小することができる。また、管理画面から素早く簡単に構成を変えることもできる。
- 従量課金の料金体系:利用した分だけ支払う課金形態なので、イニシャルコストはゼロに近い。最初から大きく投資する必要がない小規模なPoCの開始時などはコスト面でメリットが大きい。(一方で、オンプレミスで扱っていた大量のデータをそのままクラウドに移行するような場合は、想定よりも高額になる場合もあります)
- 構築・維持の外部化:構築や維持がプログラムによって自動化でき、インフラの管理工数が減る。
クラウド活用事例
こうしたパブリッククラウドの恩恵をうまく取り入れている、弊社がご支援したプロジェクトを2つご紹介します。
①AWS大規模IoTプラットフォーム構築
世界各地にあるデバイスから1日に数億ものデータを取得して分析するシステムをクラウドに移行したケースでは、AWSのサービスを組み合わせてデータロストがなく、即時処理できて、オートスケールが可能な仕組みを実現しました。
NCDCはAWSのアーキテクチャやリファレンス実装を支援しました。
②コンシューマー向け商品販売サイトのリプレイス
改修・メンテナンスにコストがかかっていたコンシューマー向けの販売サイトを刷新したケースでは徹底したサーバレスの設計を採用し、管理工数を大幅に削減しました。
NCDCはサーバレスを実現するアーキテクチャや、開発速度向上のためのCI/CDの仕組みの設計などを支援しました。
アーカイブ動画内ではより詳しく、どのようなサービスを利用して何を実現したか、技術的な解説もしています。ご興味のある方は以下のボタンからお申し込みください。
クラウドを活用してDXを推進するには
最後に、クラウド活用時の「ベンダー選定のポイント」と「コストの削減」について解説しました。
ベンダー選定のポイント
クラウド活用は外部ベンダーに依頼する企業が多いと思いますが、大原則としてまずお伝えしたいポイントは「ベンダーに丸投げはしないこと」です。
例えばコスト面に目を向けると、不要なオプションや過剰スペックでの構築になっていないかなどを発注者側でも見極める必要があります。
もちろんベンダー側もはじめから無駄なコストを生じさせようとするわけではありませんが、継続的・積極的に内容の見直しをしてくれるとは限らないので、丸投げをしていると結果的に不要なものにコストを払い続けるかたちになってしまう可能性はあります。
ベンダーの選定のために複数の提案を受ける場合は以下の3点に気をつけてチェックすると良いかと思います。
- 自社で直接AWSの利用料が確認できる契約か
- サーバー構築や管理が主提案になっていないか(クラウド活用のメリットとして重要なのはそこではない)
- 自分たちの使いたいサービスについての提案は具体的か(クラウドをうまく使いこなせるベンダーかを見極めたい)
特に3つ目の「自分たちが使いたいサービス」に関する提案力が重要です。実現したいことをクラウドを使ってどう実現するのか、具体的なアーキテクチャを提案してくれるベンダーに依頼することをおすすめします。
例えば、AWSならよく使われるECS、Lambda、API Gateway、CodePipeline、CloudFront、DynamoDB等のサービスをどう活用しようとしてるのか、提案内容をよく見て検討するのが良いと思います。
クラウドにかかるコストの削減
コストに重きを置いてベンダー選定をしたり、ベンダーに対して既存のクラウド環境のコスト削減提案を求めたりすることもあるでしょう。
そうしたケースで意識していただくと良いポイントは下記の4つです。
- 「いつ」コストの最適化に取り組むか
DXではまずPoCを行うことも多いと思います。PoCの段階でコストの試算をしても、その後確実に状況が変化してくためあまり意味はありません。ある程度運用が安定した段階でコストの最適化を検討するのが望ましいです。 - 「どんな」コストを削減するか
前述の通り、コストはシステムの運用全体で見る必要があります。IT機器のコストのみで考えず、どれだけ運用の手間が減らせるかも重視して考える必要があります。 - 「どのくらい」の性能を必要とするか
闇雲にコスト削減に走り、必要な機能を失っては元も子もありません。可用性や保守性をどの程度求めるのかしっかり検討し、必要なものは残すという判断も重要です。 - 「なに」を使って構築するか
単純なオンプレミスからの置き換えのようなかたちでクラウドを利用してもコスト面のメリットは小さいといえます。コストを意識するなら、コンテナ、サーバレスのような可用性を高めつつコストを抑えられるサービスの導入を検討することが重要です。
コスト削減のテクニック
上で挙げた4つは、比較的長期的視点での検討に大切なポイントです。既存クラウド環境のコスト削減を短期間で実現したい場合には適したものではありません。
実は、既存環境の設定を見直すことですぐにコストを抑えるテクニックもあります。短期的なコストの改善が必要になる場合もあると思いますので、ご興味のある方はこちらの記事もご覧ください。
AWSのコストを削減(最適化)する具体的な方法を解説(初心者向け)
NCDCでは成果報酬型のAWSコスト削減サービスを提供していますので、もし現在のAWS利用料が削減できないかと悩まれている方がいれば、お気軽にご相談下さい。
サービス:AWSコスト削減支援(成果報酬型)
まとめ
クラウド活用はDXの「目的」ではなく、DXを加速させるための「手段」です。
インフラコストの削減ももちろん重要ですが、DX実現によってもたらされる競争力の強化こそが最大の目的だということは忘れてはいけません。
「不確実性の高いDXという取り組みに対応できるインフラ」としてクラウドを上手に活用をすることが大切です。
高いレベルでクラウドを使いこなす知識や技術があれば、コストを最適化しつつ可用性の高いインフラを構築することが可能になります。
DX・クラウド活用のご相談はNCDCへ
NCDCでは、クラウド移行の計画立案からアーキテクチャの設計や実装段階の技術支援、そしてコストの最適化まで、クラウド活用に関する幅広いサービスを提供しています。
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よりよいクラウドの活用方法や、クラウド関連のコストに関してお悩みのある方はぜひご相談ください。