こんにちは。テクノロジー ディレクターの茨木です。
NCDCでは、サービス企画やUXデザイン、テクノロジーの分野でさまざまなサービス提供をしております。
テクノロジー領域では、先端的な技術を使って課題を解決する。新しいサービスを実現する。といった取り組みを得意としているのですが、その中でも今回は、私が関わったエッジコンピューティングのビジネス活用事例を、利用したエッジデバイス、プログラミング言語など技術面の解説付きで紹介したいと思います。
(本記事は、過去に公開した記事およびオンラインセミナーの資料をもとに、2026年5月時点の最新の情報を加味してリライトしたものです)
エッジコンピューティング(エッジAI、IoT)とは?
まず「エッジコンピューティング」とは何かと、一緒に語られることが多いエッジAI、IoTについて簡単に説明します(この項目が不要な方は読み飛ばして次に進んでください)。
エッジコンピューティング(Edge Computing)の「Edge」は「端」という意味を持ちます。
クラウドサーバにデータを集約してデータを処理するクラウドコンピューティング(Cloud Computing)に対して、ネットワークにおける端末機器(スマートフォンやIoTカメラなど)や、端末機器の近くに分散配置したサーバなどでデータ処理を行うモデルを「エッジコンピューティング」と呼びます。
なぜエッジコンピューティングを利用するのかというと、すべてクラウドで処理するのと比較して通信にかかる時間や費用を抑えられることが理由として挙げられます。動画などの大量のデータを扱う場合にインターネットに出す手前で(エッジで)データを処理することで、必要最小限のデータのみを送信することが可能になるのです。
また、近年ではクラウド側のデータセンターにおける電力消費や通信負荷を削減する「サステナビリティ」の観点や、機密データを組織外に出さない「セキュリティ」の観点からも、エッジコンピューティングの重要性がさらに高まっています。
(エッジコンピューティングのさまざまなメリットはまた後ほど解説します)

エッジデバイスに搭載されたAIのことをよく省略してエッジAI(edge AI)と呼びます。たとえばカメラで顔認証を行う際、クラウドにデータを送ってからAIで処理するのではなく、カメラを含む端末(たとえばスマホ)側に搭載したAIで処理する場合はエッジAIと呼ばれます。
最近ではシンプルな画像認識処理だけでなく「SLM(小型言語モデル)」をはじめとする軽量な「生成AI」をエッジ側で直接動かせるようになっており、エッジAIができることは劇的に広がっています。
さまざまな「モノ」のデータをインターネットにつなぐIoTにおいては、データをそのままサーバ(クラウド)に送信せず何らかの前処理を行う場合があるので、モノ(端末)や端末機器の近くに配置したサーバで行う処理はエッジコンピューティングにあたります。現在は、すべてをクラウドに送るのではなく、クラウドとエッジで処理を分担させる構成が一般的になっています。では、その分担はどのように決めればよいのでしょうか。
エッジコンピューティングのメリット・デメリット
クラウドとエッジの分担を決めるには、エッジ側が何を得意とし、何を苦手とするのかを押さえる必要があります。そのために、エッジコンピューティングのメリットとデメリットを整理しておきましょう。
エッジコンピューティングのメリット
- 通信コスト・クラウド費用の削減
冒頭でも触れた通信費用に加えて、クラウド側の処理コストにも注意が必要です。動画や画像などの膨大なデータ処理を全てクラウドで実行すると、データ転送の通信費用がかさむだけでなく、クラウド側でAI処理(推論)を行うためのコンピューティングコスト(サーバー費用)が大きく跳ね上がる可能性があります。エッジ側である程度のデータを処理し、必要な答えだけを取り出してクラウドと通信することで、大幅なコスト削減につながります。
なお、通信量とクラウドでの処理量が減ることは、データセンターの電力消費の抑制にもつながります。コスト面だけでなくサステナビリティの観点からもエッジコンピューティングが注目されるのは、このためです。 - リアルタイム性が高い
ネットワークの遅延や障害などが生じるとクラウドとの連携に影響が出て処理ができなくなるリスクがありますが、エッジ側であればネットワークを介さずにデバイスの近くで処理・集計できるため、即時性高くデータを処理することができます。 - 通信障害につよい
インターネットの通信障害が起きても影響を受けることがないので、欠損することなく継続してデータの収集・処理が行えます。 - セキュリティの担保と情報漏えい防止
前述の「機密データを組織外に出さない」という考えも重要です。クラウドにデータをすべて集めると外部からの攻撃によるデータ漏えいなどのリスクが高まります。、一方で、エッジコンピューティングを用いることで「個人情報に関するデータはクラウドに転送せずローカルで安全に前処理をする」等の対応が可能となり、漏えいリスクを軽減することができます。 - レガシーな装置とクラウドを中継できる
インターネットに接続できない古い装置からエッジ側でデータを収集して、さらにそのデータをクラウドへ送ることができます。エッジ側がレガシー装置とインターネットを中継をするようなイメージです。
エッジコンピューティングのデメリット
- 拠点ごとにサーバーを設置・管理する必要がある
複数の拠点で実施したい場合、拠点数分のサーバーやデバイスが必要になるため、機器を物理的に設置・保守・管理するための工数がかかるようになります。 - 高いマシンスペックが必要な処理は苦手
例えば、AIを一から学習させるようなハイスペックな処理を行う場合、対応できるマシンは高価になります。これを各拠点に配置・管理するにはコストがかかりすぎる可能性があるため、クラウドに任せるのが現実的です。
エッジとクラウドの使い分け(役割分担)
このように、エッジには明確に得意な領域と苦手な領域があります。だからこそ、何をクラウドに任せ、何をエッジで処理するかの使い分けを考えることが重要です。
基本的には、大量のコンピューティングリソースが必要な「データの集計や分析」「AI学習」「複雑なビジネスロジックが関わる処理」についてはクラウドで実施するのが良いでしょう。
一方、クラウドにアップするための「データを集める・整形する」処理や、その場で答えを出すような「AIの推論処理(実行)」などはエッジで実施していくのが適しています。一つのプロジェクトにおいてどちらか片方だけを使うのではなく、処理したい内容に応じて組み合わせることが重要です。
エッジAI、IoTのビジネス活用事例
次に、弊社が関わった事例の中から、エッジコンピューティングがどのようにビジネスに活用されているのかを具体的にご紹介します。
事例1 エッジAIで車内カメラの動画解析
エッジAIによる動画解析で、シートベルト着用率の改善を図るサービスのPoCに取り組みました。
具体的には車内に取り付けたカメラの動画を解析し、人が乗車している際にシートベルトを着けているかどうかをリアルタイムで検知するアプリを作成しました。

エッジデバイス
- RaspberryPi
主な使用技術
- TensorFlow + Keras
プログラミング言語
- Python
実施したこと
- 車内の動画を複数パターン撮影
こちらのデータの収集は、役者さんを雇って撮影会を実施しました - 約10,000枚の画像を教師データとしてAIに学習させシートベルトを検出するモデルを作成
学習には高スペックのマシンが必要の為、AWSが提供する機械学習用のマシンを利用しました - 作成したモデルを利用して、車内で撮影したカメラ画像をリアルタイムで解析。人とシートベルトを検知
苦労したこと
- 「シートベルトをしているかどうか」の判断は即時性が求められることと、動画をクラウドに通信すると通信コストがかかってしまうため、検知処理はエッジ側で行いました
- 教師データの画像1枚ずつに正解の情報(アノテーション)を設定するのが大変でした
- 通常のカメラでは夜間の画像が取れないため赤外線カメラを併用したのですが、両方のカメラに対応した学習モデルを作成するのに苦労しました
この事例について別の詳細記事もありますので併せてご覧ください。
「百年以上の歴史を誇る老舗ハードウェアメーカーが挑む、AIを活用した新規事業開発」
事例2 カメラ画像のAI分析による異物検知
製造プラントにカメラを設置し、そのカメラ画像をエッジデバイス経由で配信するとともに、AWS上でAIによる画像分析を実施しました。
これにより、オペレーターが実際の動画を監視しながら、異常時には自動でAIが異物を検知しリアルタイムで現場の作業者やオペレーターに通知される仕組みを構築しました。
エッジデバイス
- GPU搭載ノートPC
主な使用技術
- AWS IoT Greengrass
- Amazon SageMaker
プログラミング言語
- Python
実施したこと
- エッジPCからカメラ画像をリアルタイムでAWS上に転送して、オペレータがリアルタイムの動画を閲覧可能にする
- 1と並行して、エッジPCでカメラ画像を画像処理してAIの分析に最適化された画像に加工する
- 加工された画像を、AWSのファイルストレージに転送する
- 転送された画像をクラウド上で画像AIで分析をして、異物を検知したら現場の作業者やオペレータに通知
苦労したこと
- 1つのカメラ画像に対して、リアルタイム配信とAIによる分析の2つの処理を同時に実行する処理の組み込みに苦労しました
- エッジPC内のアプリは管理者が一元的に管理・運用する必要があったため、アプリ本体や設定情報を全てAWS上で管理、配信出来るように構築する必要がありました
- 処理される画像の量が膨大であったため、クラウド上でのAIによる異物検知の処理を呼ぶだけでは速度やコストの問題がありました。このため、エッジPC上で画像の最適化処理を実施した後、AWSに画像を送信する処理を実装しました
構成図
事例3 工事機器が持つデータをIoTで即時クラウド連携
工事現場で使用している機器のデータをエッジデバイス経由でクラウド(AWS)に保存、グラフとして表示するアプリケーションを開発しました。
工事の記録を正確に残すことが現場の義務として必要になりますが、従来は機器の表示を見て人の手で報告書をつくるかたちが主流でした。この事例では、工事現場の装置から人手を介さず直接データをクラウドに送ることで、リアルタイムに行う正確かつ効率的な記録を実現しました。
エッジデバイス
- RaspberryPi
主な使用技術
- AWS IoT Greengrass
プログラミング言語
- TypeScript(Node.js)
実施したこと
- 機器のデータをRaspberryPiで受け取る
- RaspberryPiで受け取った情報をGreengrassを利用して、AWS上のDBに保存
- DBに保存された情報をWebアプリでグラフとして表示
- 保存されたデータを元にチェックシートや報告書類をWeb上で作成
苦労したこと
- 現場の工事機器自体はインターネットにつながっていないため、エッジコンピューターが中継機としての役割を担っています。エッジとクラウドの通信については、AWSを活用することでセキュアな環境を用意しました
- エッジデバイスのセキュリティ(ネットワークや権限の設定)の配慮が必要でした
- Webアプリへのリアルタイムなデータの反映の実現に苦労しました
- 業務アプリとIoTの融合が必要であったため、単純なデータの収集だけではなく、業務で必要な情報をわかり易く画面に表示する必要がありました工事現場ではとくに防水防塵に気をつけなければならないため、保管方法についてはプラスチックケースとプラスチックバックを使ってテストを行いました。
構成図

事例4 iPadで撮影した画像をクラウド上でOCR解析
この事例は厳密にはEdgeではないのですが、タブレットで撮影した情報をクラウド(Azure)に保存し、クラウド上でOCR解析をするアプリを作りました。
たとえば、在庫管理のためにモノに表示されているIDを一旦手作業でメモして、後でエクセルを使ってテキストデータ化、報告するというような作業をしているようなシーンでは、こうしたアプリを用いることで大幅な業務効率化が図れます。
エッジデバイス
- iPad
主な使用技術
- AzureのFoundry Tools ( 旧: Azure Cognitive Services)
- OCRサービス
- OpenCV
プログラミング言語
- Flutter (iPad)
- Python (サーバーサイド)
実施したこと
- タブレットで撮影した写真を、Azureに送信
- 送信された画像を画像処理でOCR処理に適した形に変換
- Azure Cognitive Services を利用してOCR
苦労したこと
- iPad上での画像処理の実装
標準のAzure functionsの機能だとOpenCV(画像処理ライブラリ)が動かないなどクラウド上での画像処理の実装に苦労しました
構成図

NCDCのIoTプロダクト「ミエルコウジ」
事例3「工事機器が持つデータをIoTで即時クラウド連携」のような建設・工事現場のIoT活用をさらに発展させ、NCDCでは施工管理に特化したIoTプラットフォーム「ミエルコウジ」を自社プロダクトとして開発・提供しています。
建設現場では、ゼネコンから専門施工業者まで多くの事業者が関わるため、各種データを正確かつ迅速に管理・共有することが課題となっていました。ミエルコウジは、施工現場で使用されるさまざまなセンサーや計測機器と連携し、実測値を自動的にクラウドへ収集。現場の実測値や写真などのデータをリアルタイムで収集・可視化し、企業間をまたいだ情報共有もスムーズに行えるダッシュボードを提供します。
エッジ×IoTの実装経験を持つNCDCだからこそ、センサー連携から既存システムとのAPI連携、カスタム開発まで一貫して対応できる点が特長です。
「ミエルコウジ」を応用したIoT施工管理システムの開発事例もご紹介していますので、ぜひ併せてご覧ください。
地下工事のトップランナーが挑むDX データ駆動型施工と業界の未来(成幸利根株式会社)
エッジサーバー導入時に気をつけるべきこと
エッジサーバーの利用は非常に便利ですが、実際に現場へ導入するには、クラウド環境にはない「物理的」な検討事項がいくつか出てきます。
上記事例の「苦労したこと」でいくつか触れましたが、あらためてエッジサーバー導入時に気をつけるべきことをリストアップしておきます。
- 物理的なセキュリティ:サーバーやデバイスを盗まれたり、壊されたりするリスクがあるため、設置場所のセキュリティ管理が必要になります。
- 電源の確保:オフィスや工場など電源が取りやすい環境なら問題ありませんが、自動車や屋外などにエッジデバイスを設置する場合、どのように安定した電源を確保するのか検討する必要があります。
- クラウドとの通信:エッジを使ってデータを処理し、クラウドにデータを集約して活用をする場合、どうやって通信するのかを検討する必要があります。一般的にはSIMを活用しますが、大量の端末を利用する場合には通信量も増え、ランニングコストがかかるので要件に応じて選定する必要があります。
- 防水・防塵・熱・炎天下への対応:エッジデバイスを外で使う場合も想定されますので、荒天(雨・炎天下)への対応が必要になることもあります。端末を保護するケースを工夫する必要がありますが、電波を妨害してしまうような素材(アルミなど)もあるので配慮が必要です。
- デバイス認証などのセキュリティ設定:エッジの活用においてはパスワードの変更管理が非常に重要です。初期パスワードのまま変更せずに使用して情報が流出してしまったという事例も少なくありません。
- ソフトウェアのバージョンアップ:端末数が多い場合、全ての拠点へ行ってバージョンアップ作業をすることは現実的でないので、遠隔(OTA等)で実施できる仕組みなどの検討をする必要があります。
エッジAI、IoTのご相談はNCDCへ
一口にエッジコンピューティングと言っても、実現したいこと次第で選ぶべきエッジデバイスも使用する技術も異なります。また、そもそもクラウドでの処理が適しているのかエッジでの処理が適しているのかの判断もさまざまな条件によって変わってきます。プロジェクトの目的や環境に応じて、エッジとクラウドを上手く組み合わせることが成功の鍵です。
NCDCなら、こうした初期要件の検討段階からIoTシステム開発のご支援が可能です。また、実際にエッジコンピューティングを導入する際は、既存の製品を単純に当てはめるだけでなく、本当に実現したいことをヒアリングした上で最適な構成を提案させていただくことが可能です。
エッジAIやIoTの導入をご検討中の方は、こちらのフォームからお気軽にご相談ください。
オンラインセミナー資料の公開
より詳しく知りたい方向けに、2021年4月20日に実施したオンラインセミナー「エッジAI、IoTの活用事例から学ぶエッジコンピューティング」のアーカイブ動画とスライド資料を公開しています。















