近年、UX(User Experience ユーザーエクスペリエンス)やUXデザインという言葉が一般化してきたため、異業種や異職種の人たちの会話の中でUXという言葉が出てきても、「UXとは何か?」を説明せずに通じることが多くなっていると思います。
しかし、UX はUI(User Interface ユーザーインターフェース)とひとくくりにして「UI/UX」と表現されることも多いため、実はUXとUIの違いや関係性をきちんと理解していない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、UXとUIという言葉が実践的にどう使われているかという観点から、「UXとUIの違いと関係。よくある2つの捉え方」をご説明します。
目次
なぜUXとUIの捉え方を整理する必要があるのか?
この記事の目的は、UXとUIという言葉について「何が正しい定義なのか」を解説することではありません。
UXとUIという言葉のよくある捉え方、使われ方を示すことで、UXやUXデザインについて話し合う方が「もしかしたらお互いの認識がズレてるかも?」と気づいたり、「最初に関係者間で認識を合わせておこう」と考えたりするためのヒントになれば幸いです。
よくある認識のズレ
- 提案した側はUXについて話している
- 提案を受けた側はUIとUXを混同して話を聞いている
また、近年はWEBサイトやシステムの開発を依頼する際、RFP(提案依頼書)に「UXを考慮した設計を〜」等の文言がついていることもよくありますが、こうしたケースでも「ここで指定されているUXとは何か」があいまいなことはあると思います。
前述したように「UI/UXデザイン」とひとくくりで表現されることが多いために、その違いをきちんと理解しておくことは、UX やUIについて議論をする上で大切な要素ではないでしょうか。
そもそもUXやUIとは何なのか?
- UX(User Experience)→直訳すれば「ユーザー体験」
- UI(User Interface)→直訳すれば「ユーザー接点」
単純に言えば「体験」と「接点」ですね。
そのまま素直に解釈すれば、ユーザーと対象物が直接関わる「接点」がUIで、対象物に関係するさまざまな「体験」がUXということになります。
図のように、UIはUXを構成する一要素と表現できます。
ちなみに、JIS規格Z 8530:2019「人間工学―インタラクティブシステムの人間中心設計」にユーザエクスペリエンス/ユーザインタフェースという用語の定義があるので、ここで紹介しようと思っていたのですが、説明が堅くて読むのが嫌になりそうなので、ここでは触れず、この記事の最後で紹介したいと思います(それだけを知りたい方は途中を読み飛ばして先に進んでください)。
UXとUIの違いと関係。よくある2つの捉え方。
次にUXとUIという言葉が実践的にどう使われているかという観点から、「よくある2つの捉え方」をご説明します。
捉え方① 複数のタッチポイントを総合してひとつのUXと捉える
ひとつめは、複数の「接点」を含む一連の「体験」をひとつのUXと捉えるものです。
たとえば、BtoCのある商品に関して、ひとりのユーザーが次の行動をするとします。
- パソコンで調べる
- ECサイトで購入する
- 何か疑問があってコールセンターに電話をする
- その後3ヶ月後(商品を使い終わりそうなタイミングで)次の商品を勧めるメールが届く
- スマホアプリで再度購入する
捉え方①の場合、これら一連の流れに関連する体験すべてをこの商品に関するUXと捉えています。
商品について調べていた際に目にした広告も、購入時につかったECサイトの使用感も、コールセンターの対応の良し悪しも、すべてこの商品に関するユーザーの体験(UX)です。その商品を店舗でも売っている場合、店舗での接客や商品陳列の良し悪しなども関係してくるでしょう。
この中ではいくつかのタッチポイントが出てきますので、この場合、「ECサイトのUIを改善した」というようなひとつのUIの改善がUXの改善に大きく貢献するとは限りません。
悪い方向に考えると、たとえば、従来はコールセンターのサービスを重視していて、そこでの対応がとても好評だったのに、ECサイトのUI改善により電話問い合わせが減らせるだろうとコールセンターのコストを削減した結果、コールセンターの質が落ちてしまい、従来のユーザーの不評を買ってしまう(UXが改悪される)ということも考えられます。
その場合、ECサイトのUI改善プロジェクト(による予算配分の変更)が間接的にUXの悪化に影響したともいえます。
捉え方② ひとつのUIに直接関連する体験をUXと捉える
もうひとつの捉え方は、「ECサイトで購入する」というひとつのタッチポイントに直接関連するものだけをひとつのUXと捉えるものです。
この場合、「捉え方①」で挙げた、「事前に商品について調べた体験」や、「購入後にコールセンターに電話をかけた体験」は範囲外と捉えています。
(それらはまた別のUXと捉える)
こちらの捉え方でも、決してUI=UXではありませんが、「捉え方①」よりもひとつのUIがUXに与える影響は大きいと言えます。
(「ECサイトのUI改善」が「UXの改善」に大きく貢献する)
そのため、こちらの捉え方をした上にUIとUXの違いをあまり理解していないと、「UXデザイン=UIデザイン」と誤解したり、「UXデザインなんて従来のデザインを流行りの言い方に変えただけだろう」と考えたりしがちです。
このような考え方をしている方と議論する際は、「この議論においてUXとはどういう範囲を指しているのか」を先に確認することが大切です。
一時的UX、エピソード的UX、累積的UX
ここまで、「そもそもUXって何?」を知りたい方にもわかるよう具体例をあげて説明してきましたが、ある程度知識を持っている方向けには「ユーザエクスペリエンス (UX) 白書」の説明を用いる方が簡潔で良いかもしれません。
UXについて議論したり話したりする時には、対象とする期間を明確にすることが重要で、それらは一時的UX、エピソード的UX、累積的UXの3種類に分けられます。一時的UXに着目すると、あるユーザインターフェースに対するユーザーの感情的な応答について情報を得ることができます。それよりも長い期間に着目するならば、一時的UX群が累積的UXに与える影響が明らかになるでしょう。例えば、利用中に起こった強い否定的な反応の重要性は、成功体験の後にはとても小さくなっていて、否定的だった反応は最終的には違ったものとして記憶されるかもしれません。UXデザインとその評価を行う際に必要となる条件は、一時的UXに着目する場合と、エピソード的UXやさらに長い期間のUXに着目する場合とでは異なってきます。
ユーザエクスペリエンス (UX) 白書 日本語訳(2011)より抜粋
いずれにしてもUIはUXの一要素
- 捉え方① 複数のタッチポイントを総合してひとつのUXと捉える
- 捉え方② ひとつのUIに直接関連する体験をUXと捉える
この2つが、UXとUIの「よくある2つの捉え方」です。
(言い換えると「UXは ①累積的UX ②一時的UX の2つの捉え方で語られることが多い」)
もし捉え方が違う二人がお互いの認識を確認せずに話をすすめると、同じモノについて「UXを良くしたい」という議論をしていてもあまりいい結果には結びつかないであろうことは想像に難くないと思います。
ウェブサイトやアプリのデザインを事業としている会社が「UI/UXデザイン」と表現している場合は、上記の「捉え方②」で説明した「ひとつのUIに直接関連する体験をUXと捉える」ケースがほとんどだと考えられます。
この場合、ウェブサイトやアプリのUIを改善することがUXの改善にかなり大きな影響を与えるとは言えます。
しかし、決して「UIの改善=UXの改善(UI=UX)」ではありません。
たとえば「デザインは美しく、誰が見ても好印象」なUIを持ったアプリを実現したとしても、「アプリと連携しているサーバがすぐ落ちるので、ほとんどまともに動かない」という状態では、絶対に優れたUXを提供することはできません。
このように、UIはUXの中の一要素なので、UIをよくすることでよりよいUX の実現に貢献はできますが、UI以外にUXを悪くする問題が残っていれば、いくらUIを改善してもUXは改善できないこともありえます。
UXデザインとUIデザインは「デザイン」の意味が違う
UI/UXという言葉は、多くの場合「UIデザイン」「UXデザイン」に関する話で用いられると思います。
きちんと「UXデザイン」の意味を知るために意識しておきたいのは、UXは「体験」であり、完全にユーザーに属するものであることです。
UXはユーザーの主観と切り離すことはできません。(この点は下記のJIS規格での定義がわかりやすいかもしれません)。
具体的にいうと、iPhone7のホームボタンというUIはひとつですが、iPhone7のホームボタンによって生まれるUXは無数に(ユーザーの数だけ)存在し得ます。
また、同じユーザーでも外的要因でUXが大きく変わることもあります。
iPhone7のホームボタンを例にすると、少し前まで「iPhone7より顔認証できる機種の方が優れている(その分ボタンをなくして画面を大きくとったUIの方が使いやすい)」と考えていた人でも、マスクを常時着用するようになると「マスクのせいですぐに顔認証できないので、物理ボタンで指紋認証ができるiPhone7のUIの方が使いやすい」と感じ方が変わるかもしれません。
UI/UXデザインとひとくくりにされるので、「UXデザイン」も何かかたちのあるものとしてデザイナーが表現できるものだと受け取る方も多いようですが、本来、UIを「デザイン」するのと同じようにUXを「デザイン」することはできません。
UXデザインとはユーザーがより良い体験だと”感じるであろう”仕組みを企画・設計(design)することにすぎないことを覚えておくと、UXとUIの違いと関係性を把握しやすいのではないでしょうか。
最近は「デザイン」という言葉が「ライフデザイン」「コミュニケーションデザイン」などさまざまなかたちで使われるので、こういった無形物の、モノのデザインではない「コトのデザイン」をイメージすると、UXデザインの「デザイン」が何を意味するのか理解しやすいかもしれません。
ここからわかるように、UXデザインはいわゆる従来の「デザイナー」という職業の人だけが考えるものではありません。
ある商品やサービスのUXをよくするためには、ユーザーの体験に少しでも影響する部分に関わる人が一体となって「どのようなUXを提供したいのか」を意識する必要があります。
まとめ
UXとUIの関係は、2つの異なる捉え方をされることが多い。
実践的には「どちらが正解か」が大事なのではなく、文脈によって使われ方が違うことを理解し、UX改善について話す際はどう捉えているのかをお互いに確認することが重要。
UXはユーザーのもの。UIと同じように「デザイン」はできない。
デザイナーに任せたら「正しいUX」が提案してもらえるようなものではない。UXデザインはデザイナーだけの責任範囲にあるものではなく、プロジェクトに関わる皆が関係するものとして捉えると良い。
NCDCでは、新規サービスの検討に用いるような広い意味でのUXデザインを行うためのコンサルティングから、アプリのUIなど具体的なインターフェースの設計まで、UX/UIの改善に役立つさまざまなサービスを提供しています。ぜひご相談ください。
参考資料
ユーザエクスペリエンス (UX) 白書
下記のリンク先にサマリー資料や全文(ページ下部の方にあるTEXTとPDFのリンク)が掲載されています。
ユーザエクスペリエンス (UX) 白書
JIS規格Z 8530:2019によるUXとUI の定義
JIS規格Z 8530:2019「人間工学―インタラクティブシステムの人間中心設計」においては、UXとUIはこのように説明されています。
ユーザエクスペリエンス(user experience)
製品,システム又はサービスの使用及び/又は使用を想定したことによって生じる個人の知覚及び反応。注記1 ユーザエクスペリエンスは,使用前,使用中及び使用後に生じるユーザの感情,信念,し好,知覚,身体的及び心理的反応,行動など,その結果の全てを含む。
注記2 ユーザエクスペリエンスは,ブランドイメージ,提示,機能,システムの性能,インタラクティブシステムにおけるインタラクション及び支援機能,事前の経験・態度・技能及び人格から生じるユーザの内的及び身体的な状態,並びに利用状況,これらの要因によって影響を受ける。
注記3 ユーザビリティは,ユーザの個人的な目標の観点から解釈されたとき,通常はユーザエクスペリエンスと結び付いた知覚及び感情的側面の類を含めることができる。ユーザビリティの基準は,ユーザエクスペリエンスの幾つかの側面を評価するために使用できる。ユーザインタフェース(user interface)
インタラクティブシステムを用いて特定のタスクを遂行するユーザに対して,情報及び制御を提供するインタラクティブシステムにおける全ての構成要素