NCDCでビジネス領域のコンサルティングを担当している早津俊秀です。今日は経営戦略としてのEnterprise UXという概念について紹介したいと思います。
User Experience、略してUX、顧客に価値のある体験を提供するという概念ですが、システムやサービスの使用性やそのUIを考える際のキーワードとしても多く使われています。
そして、最近になってEnterprise UX、EUXというキーワードが米国を中心に登場してきました。EUXを一言で定義すると「企業として真剣に取り組むUX」といったところでしょうか。言い換えると、「一システムなどのことではなく、顧客接点のすべてを顧客にとっての価値のある体験となるように取り組むこと」です。顧客への一貫した優れたサービスの提供者として、ディズニーやリッツカールトンが有名でしょう。かれらのような取り組みをどの企業ももっと力を入れて行うべきだ、そのような取り組みをEnterprise UX、EUXと定義付けているのです。(一部ではEnterprise UXやUX for Enterpriseとして「従業員向けのUX」と定義しているものもありますが、ここではそのような意味ではないことにします。定義がまだ明確ではないのでしょう)
先日、米国、サンアントニオで開催された世界で初のEUXのカンファレンスに参加してきました。その場で紹介されていたEUXの事例として、ソフトウェア企業であるCitrix社の取り組みが発表されていました。Citrix社ではデザイン部門のトップとしてCustomer Experience 担当のVice Presidentが存在しており、そのVPが組織横断でCitrix社としてのEUX全般の責務を負っているということでした。製品開発に関してだけでなく、顧客に対する接点のすべてにおいて適切なUXが実現できるように取り組んでいるということでした。
また、社員に対してデザイン・シンキングの教育なども行っているということでした。中間管理職100名以上をd.Schoolにて研修を受けさせたりしたとのことです。ちなみにIT企業の巨象IBM社も「社員をDesign Thinkerにする!」とVPが話していました。
では、なぜEnterprise UX 、EUXが注目されているのでしょう。
これは色々なところで言われていることですが、企業はその製品やサービスだけでは競争力を維持できないからでしょう。例えば、航空会社であれば、適切な価格で安全に快適に空の旅を提供するだけでは当たり前です。予約サイトやアプリも快適でなくてはなりませんし、コールセンターにおいても顧客視点での接客が求められます。地上係員の対応も、整備の人の笑顔の挨拶も同様です。製品やサービスが高度化すると、それを取り巻く全ての接点を高度化しなければ、お客様の満足は得られなく、競争力を失ってしまうのです。ですからEUXの取り組みが重視され、注目されているのです。
これまでUXはUIデザインなど、デザイナーの分野でよく語られていました。UXに関するコンサルティングなどのサービスを提供している会社もデザイン系の会社が多いようです。一方、Enterprise UXは経営戦略そのものです。経営戦略でありながらEUXを実行する際に従来からのUXの手法やデザイン・シンキングを活用する場合があります。最近、米国の伝統的な経営コンサルティング会社がデザインコンサルティング企業を買収するというニュースが流れてきました。つまりその経営コンサルティング会社もEUXなどの必要性を察知してデザインファームを買収しているのでしょう。
機能で差異化が図れなくなったいま、確実にEUXの取り組みが重要視されます。NCDCでは従来から業務プロセス改革のコンサルティングにデザイン・シンキングやワークショップを取り入れるなど、UXの手法を取り入れたりしてきました。もちろん、新サービスのデザインとしてUXデザインのコンサルティングやその結果からのシステムの開発なども行ってきました。NCDCが今までやってきたことは実はEUXとしてのサービス提供だったのだなと今更ながら感じています。
次は具体的なEUXの推進方法やEUXを取り巻く環境の変化などを書きたいと思います。