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生成AI導入をPoC止まりにしない方法──経営層・情シス・現場のGOサインを揃える

公開 : 2026.08.01

あなたの会社のAI導入は、どこから始まりましたか?

「積極的にAIを活用せよ」というトップダウンの号令から始まった会社もあれば、現場から「この大変な作業をAIでなんとかしたい」との声が上がって推進が始まったケースもあるでしょう。起点はどこであれ、本格導入に向けての課題は「その先」にあります。

生成AIの導入を目指し「PoC(概念実証)は実施したものの、本導入には至らない」という企業は少なくありません。多くの場合、その主因はツールの選定ミスでも、技術の未熟さでもなく、経営層・情報システム部門・現場(ユーザー部門)、三者の導入へのGOサインが揃っていないのです。

本記事では、三者それぞれのAI導入への同意を得るために何が必要なのか、ポイントを解説します。

なぜ多くの生成AI導入はPoCで終わるのか

ある業務を生成AIで効率化できないかとPoCを行い、検証フェーズでは一定の効果が確認できたものの、その後に本導入や全社展開まで進まないというケースは少なくありません。

その理由はさまざまです。経営層から「十分な投資対効果が見えない」と判断され予算化されないケースもあれば、情シスから「セキュリティやガバナンス面の整理が不十分」と指摘されるケースもあります。また、現場から「思ったほど便利ではない」「業務に定着するイメージが持てない」と受け入れられないケースもあります。

とはいえ、誰もAIを敵視しているわけではありません。経営層・情シス・現場、それぞれが納得するための条件が異なるため、すべてが揃わない限り、本導入への検討がどこかで止まってしまうのです。

三者の求める条件はそれぞれ異なる

まず全体像を整理します。

立場納得できる条件
経営層投資判断の根拠となる数字(ROI・KPI)がある
情シスガバナンス・セキュリティへの答えがある
現場仕事が楽になる体験 + 自分の価値が下がらないという安心

多くの場合これら3つの要求水準を満たしてはじめて、本導入が可能になります。

以降のセクションでは、それぞれの条件をどう満たすかを見ていきます。

経営層の同意を得るには数字が重要

「AIを使って業務が楽になりました」——こうした現場ユーザーの正直な感想はひとつの判断材料にはなります。しかし、投資の承認を取るには不十分です。経営層が求めるのは「いくら投資して、その結果、何がどれだけ改善したか」という説明です。

ただの感想を集めても稟議は通りません。必要なのは具体的なROIです。工数削減、エラー率の低下、対応件数の増加—— AI導入で得られるこうした効果を数字で示せてはじめて、経営層と会話できるようになります。

数字は「業務の分解」から始まる

費用対効果の試算は業務の分解から始まります。たとえば、AIが介入する前のタスク(As-Is)と導入後のタスク(To-Be)における一定業務の所要時間を、PoCの現場で実際に計測します。重要なのは「業務全体が楽になった」という感想ではなく、「従来何分かかっていた業務が何分でできるようになった」という計測可能な成果です。

計測可能な成果の具体例

  • 「文書作成時間の50%削減」
  • 「データ検索の平均所要時間を5分短縮」
  • 「月次処理のAI支援により月間約30時間の作業時間を削減」→ 人件費換算で年間約120万円のコスト最適化

NCDCでは、こうした業務の棚卸しからAI導入によるROI試算までを支援するワークショップを提供しています。

あるお客様とこのワークショップを実施したとき、印象的な場面がありました。参加者に「日々の業務で負担に感じていること」を付箋に書き出してもらうと、会場のあちこちから「実はこの作業が一番しんどい」「これだけで丸一日かかることもある」という本音が次々に出てきたのです。
そして、AI導入で削減可能と仮定した時間を人件費に換算した瞬間、「想像以上に大きな数字だ」という認識が会場全体で共有されました。
参考:全社員にAIを配っても業務効率化が進まないのはなぜか?

現場の「しんどい」という思い、つまり「言語化されていない業務の負荷」を定量的なデータへと変換する——この作業が、経営層の投資承認を得るための重要なステップになります。

ただし、現場の定性的な不満を起点として、AI導入の費用対効果に「翻訳」する作業は、現場の人間だけで行うと主観が入り、経営層から「本当にそんなに効果が出るのか?」と疑問を持たれる恐れがあります。

その点で、上述したNCDCのワークショップのように、第三者の視点も取り入れて客観的な人件費や機会価値の数字へとロジカルに変換することは有効なアプローチです。

ROIは「削減時間」だけとは限らない

業務内容によっては、机上で試算したAIによる作業時間の削減(コスト削減)をそのままAIの導入効果として換算すると、投資対効果を過小評価してしまう恐れがあります。
1業務のPoCだけでは測れない次のような効果もありえるためです。

  • 機会価値:削減した時間を、より付加価値の高い業務(提案活動・顧客対応など)に充てることで生まれる間接的な事業貢献(ただし、コスト削減効果と機会価値を単純に合算すると試算上の重複が生じる場合があるため、それぞれの定義を明確に分離するか、投資対効果の評価基準に合わせてシナリオを設計することが望ましい)
  • 事業価値:AI活用によって自社サービスの品質・スピードが向上し、顧客満足度や受注競争力に与える影響
  • スケール効果:全社展開した場合の累積効果

一方で、見落としがちな「AI導入により新たに発生するコスト」もあります。 それは、ハルシネーションが起こり得ることを前提とした「人間による検証工数(レビューコスト)」です。 AIの出力を人間が最終チェックする工数を試算に含めないと、ROIが実態より過大に評価されてしまいます。

情シスが重視するのはガバナンス・セキュリティ

「AとBのAI、どちらが賢そうか?」——この問いだけで利用するAIの選定を行うと、情報システム部門(情シス)に止められてしまいます。情シスが見るのは、性能や機能の多さだけではなく、次の3点をとくに重視します。

  • 既存のセキュリティポリシーが崩れないか
  • 既存システムと競合しないか
  • 統制・監査の仕組みが維持されるか

現場主導で先にツールを選定してしまい、後から情シスに「このサービスは社内規定で使えない」と差し戻されるケースは多々あります。企業によってプロセスはさまざまですが、途中で情シスの判断が入る場合は、早期からツール選定の議論に情シスを巻き込むことが、結果的に最速の道だといえます。

また、導入に際して外部パートナーの協力を得る場合、ただ単に情シスの判断を仰ぐだけでなく、情シスと直接建設的な議論が可能なレベルの、十分な知見を持ったパートナーを選ぶことも大切です。

既存のITガバナンスに合わせることが基本

情シスの立場で考えれば、新たなITガバナンスの仕組みを構築するより、既存の統制の枠組みに乗せることを優先するのは当然です。

既存IT基盤との親和性を最優先に考えれば、Microsoft 365を利用している企業ではMicrosoft 365 Copilot、Google Workspaceを利用している企業ではGeminiが、導入の出発点として検討しやすい選択肢です。 もちろん、これに限らず他社AIサービスを併用している企業も多く存在しますが、その場合は、SSO(シングルサインオン)や、データ統制の要件を満たすエンタープライズ契約、適切なアクセス制御や監査ログの仕組みなどを整備することで、安全性を担保しているケースが一般的です。

重要なのは機能面だけではなく、「既存のガバナンス・セキュリティのルールに整合しているか」を考慮して選定することです。

現場が安心してAIを使える状態を作る

先に、現場の役に立つはずなのに、経営層や情シスのGOサインが出ないケースを紹介してきましたが、その反対に、現場(生成AIのユーザーとなる事業部門)が本導入の壁になるケースもあります。

現場のユーザーがAIを使わないよくある理由を2つご紹介します。

  • 出力への不信:ハルシネーション(事実と異なる内容の生成)や出力のばらつきにより、仕事の品質が下がったり確認作業が増えて余計な手間になるという懸念
  • 自分のポジションへの不安:長年かけて身につけた知識や経験が、AIに取って代わられるのではないかという恐れ

上記のような理由で現場にAI利用が浸透しない場合、次の対策が有効です。

何ができるかをまず体験させる

ただ「使いなさい」と言ってもなかなか人は動きません。まず抵抗なく体験できる入口を設計して、不安を取り除くことが重要です。たとえば、ユーザーがAIを意識しなくてもAIの恩恵を得られるようなAI導入を設計するのです。

普段使っているツールの入力データがAIにより自動チェックされたり、従来は手作業で行っていたレポート作成が、AIによる叩き台の自動作成で楽になったりする──こうした「AIの補助により、いつの間にか自分が楽になっていた」という体験が、抵抗感の最も低い入口です。
(なお、この設計は誤りが致命的でない補助的な業務に限定することが前提です)

人とAIの役割分担をわかりやすく示す

ハルシネーションをゼロにしようとしても現時点では難しいため、ハルシネーションは起こりうるという前提で、生成AIと人の役割分担、境界をしっかり設計することが重要です。
誤りが致命的な業務(法的判断・医療判断など)には使わない。ドラフト生成や情報の一次整理など「人間が必ず確認するステップ」に限定して使う。こうした前提を明示することで、「使えない」という不信は「使い方の問題」として扱えるようになります。

「自分の価値は下がらない」ことを伝える

導入に対して慎重な姿勢を示す層の本音は、「仕事を奪われる」という漠然とした恐れではありません。長年かけて身につけた知識や経験が、AIに取って代わられるのではないかという具体的な恐れです。この感情は、「AIは便利です」という説明では解消できません。

伝えるべきメッセージはシンプルです。

AIにできることはAIに任せることで、人間はこれまでにない高い付加価値を生み出せる。

つまり、AIは定型的な作業を高速化し、人間が本来集中すべき業務のための時間と余力を生み出してくれる道具だということを伝えるのです。

 AI活用度と仕事の成果の相関が見えることで、「AIを使いこなせる人間がより大きな成果を出せる」という前向きな動機づけにもなります。「AIはライバルではなく、面倒な作業を引き受けてくれる優秀なサポーターである」というメッセージが伝わるよう、AI活用の成功事例を社内で可視化することも有効です。

当社があるお客さまの依頼でハンズオン形式のAIエージェント活用ワークショップを提供した際、プログラミング経験のない方が競い合うように、生成AIと対話して業務上の課題を分析し、実務に役立つツールを次々と生み出しているシーンを目にしました。
ワークショップは半日程度の体験に過ぎませんが、「生成AIを使えばこんなに便利なものが簡単に作れるんだ」という成功体験を多くの参加者が共有することで、積極的にAIを活用してみる文化づくりに貢献した事例です。

時間をかけた改善も計画に組み込む

NCDCがご支援した三菱電機様のRAG導入のPoCプロジェクトでは、「AIの精度が悪いとわかると、現場のユーザーは波が引くように使わなくなる」という現象が起きていました。このプロジェクトでは、私たちが回答精度向上のフェーズでも伴走支援を行っていたため、AIの回答精度が上がるよう調整して再提供し、再度使ってもらいフィードバックを受けるというサイクルを繰り返し行いました。そうして業務利用できるレベルの精度へと近づけていくことで、現場への定着率も徐々に高まっていきました。

生成AIのような新しい技術でいきなり「100点の成功体験」を提供するのは難しいため、現場への定着には時間をかけた改善も欠かすことはできません。

三者の納得できる状態をつくるのが推進担当者の仕事

多くの企業では、経営層、情シス、現場の納得のどれか一つでも欠けると、そのプロジェクトはPoC止まりで終わってしまいます。

  • 経営層へ示す数字がなければ、予算も権限も与えられない
  • 情シスへの答えがなければ、ツールの導入許可が出ない
  • 現場の体験と安心がなければ、誰も使わない

推進担当者の大切な役割のひとつが、三者のGOサインを揃える、つまり本導入への合意形成を導くことだといえます。 それぞれが納得できる条件を満たす段取りを組むことがとても重要です。

もちろん、一人でこの三者の納得を得るようプロジェクトを導くのは容易ではありません。そのため、単なる技術実装にとどまらず、経営層を動かすROI設計から情シスとのセキュリティ調整、現場の定着化まで、推進担当者の伴走者としてプロジェクトに関われるパートナーの存在も大切です。

生成AI導入を「PoC止まり」で終わらせないために

経営層の納得を得るための数字の設計、情シスが求めるガバナンス・セキュリティへの対応、現場への定着まで——生成AI導入をPoC止まりにしない道のりには、複数の壁が存在します。

NCDCでは、こうした壁を一つひとつ乗り越えるための支援を、お客様の状況とニーズに合わせてプロジェクトを設計するかたちで提供し、伴走支援を行っています。

「生成AIの適切な活用方法が分からない」という段階からの検討を支援する生成AI活用ワークショップや、AIを用いた業務改革までトータル支援するAI活用コンサルティング、「本当に検証すべきポイントはどこか」「何をクリアすれば次のステップに進めるのか」までしっかり設計して行うPoC(概念実証)サポートAI・機械学習システム開発などを通じて、生成AIの本導入までのプロセスを一貫して支援しています。「現場定着まで見据えてプロジェクトを設計したい」という方は、お気軽にご相談ください

この記事を書いた人

藏原 これはる
NCDCのITコンサルタント。前職では、ゼネコンの建設DX担当者として、AI・データサイエンスを活用した業務改善等を担当。NCDCでは、ビジネスインタープリターのスキルが要求されるコンサルティングワークに従事。AIや自然言語処理、データサイエンスを用いたソリューションの提案や技術検証も得意とする。

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