2026年6月9日にオンラインセミナー「RPAの限界をAIエージェントで乗り越える ― 移行戦略と失敗しない導入ポイント」を開催いたしました。この記事では当日用いた資料を公開し、そのポイントを解説しています。
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は2020年前後から多くの日本企業で取り入れられました。プログラムの知識がない現場部門でも導入でき、既存システムに手を加えずに業務効率化を行えるというメリットにより、多くの現場で導入が進みました。しかし現在は、画面仕様変更に伴う保守コストの増大や、ルール定義の限界といった課題が顕在化しています。この記事では、これらを生成AIによる「AIエージェント」でどのように乗り越えるべきか、失敗しない導入のポイントやセキュリティ設計、具体的な移行・共存の戦略について詳しくご紹介します。
RPAが広まった背景
RPAが広まった背景には、社内システム環境の課題と業務効率化のニーズがありました。多くの企業では、複数のシステムやExcel、PDFなどのファイルにデータが分散しており、主要な業務は連携できていても、システム間連携がされていない業務が依然として残っていました。システムへの入力の二度手間の解消や、システム外の定型処理を効率化したいというニーズに対して、既存システムに手を入れずに業務効率化を行えるRPAは非常に有効なアプローチでした。
また、RPAがノーコード・ローコードをサポートしていたため、プログラミングの知識がない現場部門が自分たちで導入を進められたことも普及を後押ししました。
RPAの一般的な機能としては以下のようなものがあり、定型業務の効率化に貢献してきました。
- 画面操作の記録・再生:WebブラウザやExcelなど、複数アプリの操作を記録してそのまま再実行します。
- データ入力・転記:システム間を横断してデータを入力・転記する作業を行います。
- 定型ファイル処理:ExcelやCSV、PDFなどのファイルを開いて読み書きする処理を行います。
- 条件分岐・ループ:if文や繰り返し処理を組み込むことで、複雑な手順にも対応します。
- スケジュール実行:深夜や定時など、指定した時刻に無人で自動実行させることができます。
- OCR連携:画像やスキャン文書からテキストを自動で読み取って処理します。
- 例外検知・通知:エラー発生時に担当者へメール等で通知し、処理を一時停止します。
RPA導入企業が直面する壁
多くの企業で導入が進むにつれて、課題も明らかになってきました。現在、RPA導入企業が直面する「壁」として、主に以下の3つのポイントが挙げられます。
- 保守コストの増大と属人化:システムの画面変更やボタンの位置変更、データの表示形式の違いが発生するたびにロボットが停止するため、現場がその保守・改修に追われ、本来の業務改善に手が回らなくなります。さらに、一部の担当者しかメンテナンスができない「属人化」が起こり、退職などによってブラックボックス化するリスクを抱えています。
- 例外処理の限界:あらかじめ厳密にルールを定義しておく必要があるため、想定外の例外データが出るたびにロボットが停止し、人が介入してリカバリーしなければなりません。
- 自動化が広がらない:対応できる業務が「完全にルール化された単純な定型作業」にとどまるため、少しでも判断を伴う業務や複雑な業務へと自動化の範囲を広げられないという限界に直面しています。
AIエージェントが得意なこととRPAとの根本的な違い
これらのRPAの限界を乗り越える存在として登場したのが、生成AIを搭載した「AIエージェント」です。AIエージェントの得意分野として、主に以下の4つのポイントがあります。
- 自然言語による処理:AIエージェントへの依頼は、日本語で記載したプロンプト(指示文)で行います。ツールの使い方を覚える必要がなく、新人に手順書を見せて指示するように「稟議の内容が社内規定に沿っているかチェックして」と頼むことができるため、より幅広いユーザーが利用・改善を行えます。
- 非定型データの利用:メールやチャットの文章、取引先ごとにフォーマットが異なる報告書など、構造化されていないデータを生成AIに解釈させて利用できます(例:発注先ごとに異なる報告書から問題箇所を抽出してレポートさせる)。
- 目的へ向けた自律的な判断・実行:ルールベースではなく目的を指示することで、「不足する情報があれば追加で探しに行く」などの対応を自律的に行うことができます。
- システム仕様変更への強さ(API連携):RPAは画面操作を伴うためデザイン変更に弱いですが、AIエージェントはAPIを通じてシステムと連携します 。現在はAIエージェントと外部システムを繋ぐ標準プロトコルとして「MCP(Model Context Protocol)」の普及が進んでおり、Salesforce、freee、ServiceNow、SharePoint、Googleドライブなど、多様なサービスとの連携に対応しています。そのため、システムの表示変更に影響されることなく安定して動作させることが可能です。
| 比較項目 | RPA | AIエージェント |
|---|---|---|
| 動作の基本 | 画面操作の記録・再生 | 目標に向けて自律的に判断・実行 |
| 例外処理 | 基本的に停止 | 状況に応じて判断・対応 |
| 対応業務 | 定型・構造化された業務 | 非定型・判断を要する業務 |
| 変化への耐性 | 低い(UI変更に弱い) | 高い(意味を理解して動作) |
| 保守コスト | 高い | 比較的低い |
失敗しないAIエージェント導入のポイント
AIエージェントを業務へスムーズに組み込むにあたっては、様々な観点からポイントを押さえておく必要があります。ここでは、これらを「RPAからの移行が前提となる場合の注意ポイント」と「RPAを移行せずとも重要な共通のポイント」の2つのカテゴリに明確に切り分けて解説します。
RPAからの移行が前提となる場合の注意ポイント
「間違ったまま先に進めるリスク」を考慮し、人間の確認プロセスを入れる
RPAの場合は想定外の事象が発生すると「ロボットが止まる」ことが多かったですが、AIエージェントの場合は、明確なルールがない場合でも「間違った情報や勝手な解釈のまま処理を先へ進めてしまう」可能性があります。そのため、処理の内容や重要性に応じて、人間が最終確認を行う「ヒューマン・イン・ザ・ループ」のプロセスを設計に組み込むことが不可欠です。プロンプトの中に「〇〇の条件になった場合は、処理を一時停止してTeamsに連絡し、人間の確認を仰ぐこと」といった具体的なルールを明示する必要があります。
大量データ処理における特性を理解し、RPAとの併用・連携を検討する
大量データを一括処理する場合、あらかじめ決められた条件に沿ってシンプルな定型処理を機械的に繰り返すRPAの方が速度が早いことが多いです。AIエージェントはデータが持つ意味や文脈を深く解釈しながら処理するため、1件あたりの処理時間が長くなる傾向があります。人が処理を依頼してその場で待つのではなく、夜間などに自動でバックグラウンド処理させておくことで問題にならないケースがほとんどですが、本格導入前にテストを行い、処理時間やコストが実業務の仕様に耐えるか確認すべきです。場合によっては、大量データの単純な切り出しや転記はRPAで行い、高度な意味のチェック部分のみをAIエージェントに渡すといった「併用・連携」の検討が非常に有効です。
RPAからの移行に関わらず重要なポイント
AIなら何でもできるという過度な期待を捨て、適切な指示基準を明示する
「AIだから適当に指示しても良い感じに解釈してくれるだろう」という曖昧な指示では、作業の再現性が低くなり、上手くいくときと駄目なときのムラが発生します。人間が頭の中で無意識に行っている判断基準を明示的にプロンプトに落とし込む必要があります。人間が普段業務で使用している手順書、マニュアル、社内規定などをそのままファイルとしてAIに読み込ませ、それに沿って判断させるアプローチが効果的です。
AI推進役を置き、現場を巻き込む体制を作る
どんなに優れたAIシステムを導入しても、現場が使ってくれなければ効果は出ません。部署内に「AI推進役」を配置し、実用的なプロンプトを作成してチーム内で共有して使ってもらったり、定期的に勉強会を開催して「どんな業務に使って、どれだけの効果があったか」をデモを交えて話し合ってもらうなど、現場を能動的に巻き込むアプローチが定着の鍵となります。
「なんとなく便利」から成果測定へのシフト
導入後は必ず「何時間削減できたか」「エラー率やチェックの漏れがどのように変わったか」を定量的に計測してください。数値を明確にして部内やステークホルダー、経営陣に共有することで、継続的な協力や次の業務展開への社内承認を得やすくなります。営業活動のKPI集計を自動化することで、営業の作業時間を月あたり4時間/人削減できた事例などがあります。
AIエージェントのセキュリティ設計
自社の重要データがAIの学習に利用されないよう保護することは大前提として、以下のセキュリティ設計も検討する必要があります。
- AIエージェントがアクセスできるデータの範囲:基本的には、そのAIエージェントを今動かしている「ユーザー自身の持つ権限」の範囲内で動作させます。共有データにはアクセスできても、他人のメールや、権限の無い他のプロジェクトのデータをAIエージェントが参照しないような仕組みが必要です。
- AIエージェントができる操作的制限(最小権限の原則):AIエージェントは指示に基づいて自律的に様々なシステムを操作できます。そのため、万が一想定外の動きをした時でも、連携先システム側の権限設定によってブロックする設計が必要です。例えば、参照だけが必要なシステムであれば、AIエージェントが使用するアカウントには「参照権限しか与えない」ようにし、書き込みや更新を行わせないことが原則となります。
RPAからAIエージェントへの移行戦略
既存のRPAロボットをAIエージェントへと移行していくための戦略は、「APIの有無」と「改善を活発に行いたい業務かどうか」のマトリクスで優先度を整理できます。

APIがあり、かつ活発に改善を行いたい業務であれば、もっとも費用対効果が高く恩恵を受けられるため「最優先で移行」すべき領域です。
APIはあるが変更が少ない安定業務は、移行自体は容易なため「計画的に順次移行」します。APIがなく変更も少ない業務は、無理に今動かす必要はないため「現状維持」とし、システムのリプレイスなどのタイミングまで保留します。
そして、「活発に業務改善を継続したいが、対象のシステムにAPIがない」という領域については、「RPAとAIエージェントの共存モデル」もしくは「ファイルを介した中継連携」が有効です。
例えば、APIを持たない稟議申請システムからデータを抽出するステップだけを画面操作が得意な「RPA」が担当し、定期的にCSVファイルとしてBoxやSharePointなどのクラウドストレージに出力します。そのファイルを検知した「AIエージェント」が起動し、社内規定(PDFマニュアル)にそって内容の自動チェックを自律的に行います。間違いを発見した場合は、OutlookやTeamsのAPIを介して、自動的に担当者に根拠付きで修正の連絡を入れる、といったハイブリッド型のフローです。システムにファイル出力機能がない場合であっても、そこだけをRPAに担わせることで、全体の自動化・最適化を達成できます。

費用対効果を試算する際は、単なるRPA領域の置き換えだけでなく、AIエージェントだからこそ可能になった「適用できる業務領域の拡大」を効果側に含めて算出することが成功のポイントです。

生成AI活用を成功に導くNCDCの「AIワークショップ」
AIエージェントの導入やRPAからの移行を具体的に検討し始めても、「自社のどの業務が最適なのか」「具体的にどうプロンプトを組めば期待通りの精度が出るのか」といった点に悩むケースは少なくありません。NCDCでは、こうした企業の課題感や導入フェーズに合わせて、最短1日から試せる3つの支援プログラムを提供しています。

これらは単なる教科書的な知識の提供ではなく、実際のお客様の業務課題をテーマに扱い、現場の担当者が自ら手を動かして解決案を導き出す「ハンズオン形式」を重視しているのが特徴です。
ワークショップの詳細についてはぜひこちらからご覧ください。
法人専用 AIエージェント「BizAIgent」と実証デモ
ここからは、実際に法人専用AIエージェント「BizAIgent」を使った実証デモを行っていきます。
法人専用 AIエージェント「BizAIgent」とは
BizAIgent(ビズエージェント) は、法人専用のセキュアなAIエージェントサービスです。AIと外部データを連携させる標準プロトコルMCPを活用し、企業が社内で利用しているシステムと生成AIを組み合わせることで、高品質な自社専用AIチャットを実現します。

Googleドライブ、Box、SharePoint、OneDriveなどのストレージをはじめ、Google Workspace(Gmail、カレンダーなど)、Microsoft Outlook、Teams、Slackなどのコミュニケーション・共同作業ツール、Notion、NotePMなどのナレッジ管理ツール、Backlog、GitHubといったソフトウェア開発・プロジェクト管理ツールといった多様な外部サービスとの接続を標準の初期費用の範囲内でサポートしています。これに加え、個別にMCPサーバーを用意することで販売管理、生産管理、顧客管理などの各種業務システムとも接続することが可能です。

実証デモ
BizAIgentを用いた、出張旅費精算書の自動チェックフローをご紹介します。多くの企業で毎月膨大な手作業が発生している「経費チェック」の業務が、実際のGoogle Workspace環境においてどのように自動化されるのか、一連の流れを見ていきましょう。
まず、ユーザーがチャット画面から以下のように普段の言葉(自然言語)で指示を出します。
「これからGoogle Driveに格納されている経費精算が問題ないか、出張旅費規程を元にチェックしてもらいます。申請IDは私に聞いてください。チェックした後は結果をSlackの #経費精算 チャンネルに送信して。」
指示を受けたBizAIgentは、一律にエラーで止まることなく「チェックしたい申請の申請IDを教えていただけますか?」とチャット上で確認を求めます。ここで人間が「1234です」と回答するだけで、人間側の作業は完了します。

IDを受け取ったAIは、Google Drive内を自律的に探索して該当する出張旅費精算書(申請ID: 1234)と、同じく保管されている社内の「出張旅費規程(PDF)」を自動で読み込み、内容の突合を開始します。
チェック結果は、指定されたSlackのチャンネルへ即座に自動投稿されます。

実際のSlack通知画面を見ると、AIが単に数字をチェックするだけでなく、内容を「規程違反」「要確認」「問題なし」に仕分けしていることが分かります。例えば、同席人数を踏まえた会食費の上限超過の指摘や、東京〜横浜間の片道距離を考慮した日当支給要件の警告など、人間が手順を教えなくとも自ら文脈を理解してチェックを行います。さらに、次に人間がどう動くべきかという「対応推奨事項」まで自動で提示する点が大きな特徴です。
このように、人間が細かいルールや処理手順を1から10まで厳密にプログラムしなくても、AIエージェントが書類のコンテキスト(文脈)を自律的に読み解き、的確な判断を下して外部ツールに通知することができます。
今回は経費精算を例に挙げていますが、この仕組みは「倉庫の在庫数チェック」や「設備点検報告書の確認」など、柔軟な判断を必要とするあらゆる企業の確認・チェック業務にも応用が可能です。
本記事のまとめ
この記事では、RPAの課題とAIエージェントの本質的な違い、そして導入を成功させるポイントについて解説しました。要点は以下の3点です。
- 定型業務はRPA、判断を伴う業務はAIエージェントが最適:決まった手順の繰り返しはRPAが確実ですが、文脈の理解や柔軟な判断が必要な確認・チェック業務、非定型データの処理はAIエージェントが真価を発揮します。
- 「APIの有無」と「改善ニーズ」で移行の優先度を決める:すべてのRPAを一斉に置き換えるのではなく、ニーズの高い領域から順次移行します。APIがないシステムでも、RPAをファイル出力の中継役として限定的に併用する「共存モデル」が有効です。
- 「適用領域の拡大」に真の価値を置く:単なる運用コスト削減だけでなく、これまで自動化を諦めていた「人間の判断が介在する高度な業務領域」へ自動化を拡張できることこそが、AIエージェント導入の最大のメリットです。
RPAの保守運用コストや例外処理の多さにお悩みの方、あるいはAIエージェントを活用して一歩進んだ業務自動化を推進したいと考えている方は、ぜひNCDCにご相談ください。
貴社のシステム環境や実際の業務プロセスを詳細にヒアリングし、最適なアーキテクチャの設計から導入・現場での定着支援まで、豊富な実績を持つプロフェッショナルチームが一貫してサポートいたします。まずはお気軽にお問い合わせください。




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