2025年10月28日にオンラインセミナー『生成AI活用戦略 自社サービスや業務に生成AIを組み込むには』を開催いたしました。この記事では当日用いた資料を公開し、そのポイントを解説しています。
目次
はじめに
生成AIの進化は、ビジネスの在り方を大きく変える可能性を秘めています。この急速な変革に対応し、競争優位性を確立するためには、企業自らが生成AI活用の主導権を握り、迅速に開発と改善を繰り返す体制を整えることが欠かせません。
今回は、多様な生成AI活用の可能性を踏まえ、生成AIを自社ビジネスへ取り入れるための戦略やロードマップの考え方をご紹介します。
生成AIの活用度向上や内製化、そして生成AIを使ったサービス開発の大きく二つに分けて解説します。
生成AIの活用度向上と内製化
生成AI活用度モデルでチェックする
まず、自社における生成AIの活用度を把握するために、どの程度生成AIを利用しているかを確認する必要があります。
NCDCでは、活用範囲とガバナンスの二軸で評価する独自の4段階モデルを以下のように定義しているので今回はこのモデルを用いて説明します。
| レベル | 利用範囲 | ガバナンス |
|---|---|---|
| レベル1 | 一部の社員が個人で利用 | ルールなし |
| レベル2 | 一部のプロジェクトや部署単位でトライアル | チーム内でルールはあるが全社展開はされていない |
| レベル3 | 会社でMicrosoftCopilot・ChatGPT・Gemini等を契約して社員に提供している、Office製品のファイルにはアクセス可能な状態、例:会議の議事録を生成AIで作成する | 利用可能なツールや利用ルールは明確だが、更新頻度は低く新しいものをめったに取り入れない |
| レベル4 | 業務システムとAIを連携させて日常的に利用している、生成AIを組み込んだサービスを顧客に提供している | ルールが定期的に見直されている、社内開発を行っている場合は社員によりツールが管理されている |
このモデルはレベルが上がるほど生成AI活用が進んでいる状態と位置づけています。
レベル3まで来ると、ある程度会社全体での生成AI活用が進んでいると言えます。ただし、ガバナンスに目を向けると、レベル3は「守りのためのルール」にとどまっており、生成AIを積極的に活用できているとはいえません。
日々進化する生成AIのメリットを業務で活かすには、「攻めの」ガバナンスを定めるレベル4を目指すのが望ましいです。
生成AIを活用した内製化に必要な要素
レベル4へ近づくためには、次の三つの要素が重要です。
- 生成AIのガイドライン
- プラットフォーム(利用環境)
- 内製化のための開発ガイドライン
1. 生成AIのガイドライン
ガイドラインには「利用を制限する」という印象があるかもしれませんが、実際は社員が安心して生成AIを活用できるようにすることが目的です。例えば「業務データを入力しても問題ないのか」といったセキュリティの不安を企業側が解消し、「この範囲なら安全に使えます」と明確に示すことで利用を促進できます。
2. プラットフォーム(利用環境)
文章としてのガイドラインだけでなく、実際に利用できる環境を整備することも欠かせません。ガイドラインに適したツールを社員が個別に探すのは負担が大きいため、企業側が推奨環境を提供し、定期的に勉強会を開催する等、利用を支援する仕組みが効果的です。
3. 内製化のための開発ガイドライン
生成AIを活用して内製化を進める際には、従来ソフトウェア開発を行ってこなかった企業ほど、以下のような開発ルールの整備が必要です。
- ソースコードの管理場所
- 運用に必要な設計情報
- セキュリティ(ユーザー認証、ネットワークなど)
これらが未整備のままでは、担当者の退職などをきっかけにツールが使えなくなり、業務へ影響を及ぼす恐れがあります。
ガイドラインの定期的な見直しの重要性
生成AIは変化が非常に早く数週間でトレンドが変わるほどです。そのため、ガイドラインや利用ルールを定期的に更新することが欠かせません。
NCDCでは生成AIの動向を追うチームを決めていて、トレンドに合わせてルールを随時見直すようにしています。
ガイドラインの見直しが必要になる具体例を2つ紹介します
- 規約や設定の変更により、当初は「AIに学習されない」はずだった情報が、学習対象になってしまうケースがあります。無断で規約が変わることは通常ありませんが、規約変更の案内が来ていても見落としたり、対応を怠ったりすると、ガイドラインどおりに生成AIを使っているのに、意図せず機密情報をAIに学習されてしまうという問題が起こり得ます。
- 利用しているサービス で より優れたツールが登場しても、ガイドラインが古いままだとそのツールが利用可能と定義されていないために導入できず、機会損失につながる可能性があります。
生成AIの利用ガイドラインの例
特に重要な観点は、「自社や顧客のデータがそのツールの学習に使われないか 」と「 他社の著作権を侵害する可能性がないか」といったリスクです。
例えば、生成AIが自動生成したプログラムにオープンソースのライセンス違反のリスクがある場合、そのような設定を回避する方針をガイドラインで定めます。NCDCでもこれらのガイドラインを継続的に更新し、最新の状況に対応できる体制を整えています。

社内への生成AI利用環境の提供例
一般的なチャットで生成AIを使用するのであれば、ChatGPT、Gemini、Claudeなどのサービスを法人契約して社員に使えるようにします。
より専門的な生成AIの利用をする場合、例えば、何らかのプログラムと生成AIを組み合わせたり、クローズドな環境で使用したりする場合には、下記のようなAmazon Bedrock等のクラウドサービスが提供するプラットフォームを使用します。
内製化が加速する背景
これまでは、IT以外の業界においてはシステム開発業務が非競争領域で専門性も高いことから、外部委託が最適化の手段とされてきました。しかし、そのデメリットとして社内にノウハウが蓄積されず、外部パートナーに詳細な指示を出さなければ意図したものが作れないという課題がありました。
さらに近年DXの進展に伴い、IT以外の業界においても自社業務のデジタル化やBtoBサービスの創出においてITのノウハウが不可欠となり、その知識こそが競争力の源泉となりつつあります。
こうした状況を背景に、内製化へのシフトが加速しています。
内製化のメリット
- 競争優位性の確保
- 業務知識の反映
- 変化への迅速な対応
- スピード向上
- 外注コストの最適化
内製化のデメリット
- 体制構築・維持コストがかかる
内製化をどこから進めるか
内製化は「0か100か」で判断するものではありません。企業が達成したい目的と社員のスキルレベルを踏まえ、どの領域から内製化を始めるかを検討することが重要です。
内製化チームの構成についても、自社の事情や、どの部分を柔軟に変えたいのかに応じて決定することが求められます。

- パターンA:PO(プロダクトオーナー)のみ社員:仕様策定や優先順位の決定は社員が行い、エンジニアは業務委託(準委任契約)を活用します。丸投げではなく社員がプロジェクトマネジメントを行うことで、「変更の難易度」や「技術の勘所」といった知見が社内に蓄積されます。
- パターンB:AI部分は社員、Web/インフラは外部:変化の激しいAI部分は柔軟に対応できるよう社員が担当し、比較的変化の少ない画面周りやインフラは外部が担当(または請負での外部委託)します。
- パターンC:段階的な内製化:将来的に内製化したいがスキルがない場合、初期は経験豊富な業務委託メンバーに入ってもらい、徐々に社員を育成して比率を変えていきます。
内製化の体制のアンチパターン(注意点)
内製化を進めるうえでは、特に次のようなパターンに注意が必要です。
- ビジネスサイドと開発サイドを完全に分離する
- 内製化チームをつくっても外部発注と変わらず、ビジネスサイドの人がITの勘どころ(変更が大変な部分や簡単な部分)を身につけられません。
- ビジネスと開発を同じチームで進めることで、技術の勘どころとビジネスの両方を理解したメンバーを育成できます。
- 社員の現行業務が忙しく、業務委託メンバー頼りから脱却できない
- 社員が開発に関わらないため育成が進まず、せっかく育成した人材が別部署へ異動してしまう可能性もあります。
- 内製化を重要と位置づけるのであれば、優秀な人材を通常業務から切り離し、プロジェクトへ専念させる判断が必要です。
生成AIを組み込んだサービスの企画・開発
生成AIを組み込んだサービスの企画の進め方
生成AIの導入自体を目的にするのではなく、顧客やユーザーの課題解決を起点にサービス企画を考えていくことが重要です。
一方で、生成AIで何ができて、どこに限界があるのかを正しく理解しておくことも重要です。そのためには、本番開発に先立ちPoCを実施し、どの程度の精度が得られるのかを検証することが有効です。
ここでは、生成AIの代表的な活用パターンをいくつかご紹介します。
生成AIの活用パターン
| パターン | 概要 | 具体例 |
|---|---|---|
| 1. 要約・生成 | 既存のデータ(文書、ファイルなど)を元に、要約や文章を生成させる。 |
・議事録の要点まとめ |
| 2. 自然言語による要求 | 複雑なシステム操作でも、専門知識のないユーザーが日常使う言葉(自然言語)でAIに指示を出し、処理を実行させる。 |
・「今月施行中の現場を〇〇順に10件表示して」 |
| 3. RAG(検索拡張生成) | 企業の独自データ(社内マニュアル、最新の業績データなど)をAIのナレッジベースとして連携させ、その情報源に基づいた正確な回答や文章を生成させる。 |
・社内規定に基づいた回答 |
| 4. レビュー・判断の自動化 | 人間が行っていたチェック、評価、分類、リスク分析などの判断プロセスをAIが代行・支援する。 |
・契約書の内容チェック |
| 5. AIエージェント | 上記のようなタスクをまとめて自動で実行できる。 |
・議事録から課題を抽出し、管理ツールに登録後、チャットに通知 |
| 6. 形式変換・マルチモーダル生成 | 画像、音声、数値、動画などのデータを入力として受け取り、人間が理解しやすい別の形式(テキストや要約)に変換したり、そのデータに基づいて新たな形式のコンテンツを生成したりする。 |
・YouTube動画の概要説明 |
アイデア出しの手法
前述の「生成AIの活用パターン」と「自社が保有するデータ/自社の課題」の掛け合わせでアイデアを検討していきます。
企画チームだけではなく、開発チーム、カスタマーサポートチーム、営業チーム等、部門や役割を横断してワークショップを実施し、幅広い視点から発想することが有効です。
既存サービスを保有している企業であれば、そのサービスに蓄積されたデータと活用パターンを組み合わせることで、新たなアイデアを導き出せます。
競争力を高める技術:MCPとは
ここで一つ、ぜひ覚えていただきたい技術キーワードとして「MCP(Model Context Protocol)」をご紹介します。
MCPとは、生成AIの基盤と外部のデータやサービスを接続するための標準規格であり、AIアプリケーションにおける“USB-Cポート”に例えられることもあります。MCPに対応することで、多様な生成AIツールや外部サービスと互換性を確保し、円滑な連携が可能となります。
自社製品をMCP対応させるメリット
例えば、BtoBサービスを持っている企業がそのサービスをMCPに対応させた場合、SalesforceやSlack等、他のMCP対応ツールと生成AIを通じた連携が容易に(個別のプログラム開発なしに)できます。
これにより、顧客は生成AIに対して「Salesforceから◯◯社の請求情報を取得し、△△△(BtoBサービス)へ登録するように」や、「△△△(BtoBサービス)に登録された請求情報を取得し、Slackへ送信するように」といった自然言語による指示をするだけでこの業務を実行できるようになります。
一方で、競合製品がMCPに対応していない場合、顧客は上記のような業務を行うために手動でデータ入力や操作を行う必要が生じます。
競合製品がMCP未対応で、自社製品が対応していれば、連携のしやすさが大きな競争力になります。

業務システムと生成AIを繋ぐBizAIgentのご紹介
最後に、弊社が提供する「BizAIgent」をご紹介します。
BizAIgentは前述のMCPに対応したAIエージェントであり、企業の業務システムと生成AIを安全かつ柔軟に接続します。ユーザーがチャット画面から指示を入力すると、裏側で複数のシステムと連携し、必要な処理を自動的に実行します。

BizAIgentを利用するメリット
- 自社情報を活用した高精度な生成AIの利用
インターネット上には存在しない、貴社独自の高精度な情報を基に生成AIを活用できます。

- 企業向けのガバナンスに対応
お客様専用のセキュアな環境で、管理者が許可したデータのみ連携できる仕組みを提供します。ガバナンスを維持しつつ、自社情報を活用した精度の高い生成AIを利用できます。

BizAIgentの接続先
外部データとAIを接続する標準プロトコルであるMCPを通じて、社内システムやストレージに蓄積されたデータと連携します。

※上図に示す「各種業務システム」以外との接続も標準サポートの対象であり、標準初期費用内で複数接続が可能です。
BizAIgentの利用イメージ
依頼例:
「Google DriveにあるECプロジェクトの直近の議事録を確認し、Backlogに課題を作成してください。完了後はSlackへ通知してください。」
処理の流れ:
- BizAIgentがGoogle Driveへアクセスし、該当する議事録ファイルを検索。
- 生成AIが議事録を解析し、次のアクションとして記載された内容を抽出。
- 抽出内容を基に、Backlog(課題管理ツール)へ5件のタスクを自動登録(期限・優先度も設定)。
- 一連の作業が完了した旨をSlackへ自動通知。
このようにBizAIgentは、複数のシステムにまたがる一連の処理をまとめて依頼できるため、議事録分析、課題抽出、システム登録、通知等の業務を自動化できます。営業日報の分析と営業支援ツールへの登録など、さまざまな業務への応用も期待できます。
BizAIgentのデモンストレーションは、アーカイブ動画でご覧いただけます
AI活用に関するご相談はNCDCへ
実際に生成AIを業務へ導入しようとする際には、メンバーの一部が積極的であっても、セキュリティ上の懸念や社内ルールの未整備により、組織として実務利用へ踏み切れない場合も少なくありません。
NCDCは、こうした課題に直面する企業に対し、次のような多面的な支援を提供しております。
- AI活用コンサルティング、PoCの実施
- AIを安全に使える自社専用の環境構築
- システム開発
- AI活用を推進するための人材育成支援 など
AI活用に関して課題に直面している方がいらっしゃいましたら、ぜひご相談ください。

