個人向け不動産仲介「三井のリハウス」をはじめとした多彩な不動産関連サービスで、業界のリーディングカンパニーとして知られる三井不動産リアルティ株式会社。
同社DX推進部の皆さまに、新規Webサービス開発プロジェクトにおいてクラウドネイティブな設計を取り入れた経緯や、今後の展望などを伺いました。
山本氏 ── 三井不動産リアルティの使命は、お客さまの抱える”すまい”や”くらし”の様々な課題について解決のお手伝いをすることで、暮らしと社会を広く継続的に支えていくことです。
具体的には全国約280の店舗で、住み替え、住まいの購入、売却をしたい方の仲介を行っているのですが、近年、お客さまが求める日常のコミュニケーション方法が店舗での対面相談や電話連絡から、インターネットを介してのものへと変化してきています。
私たちが所属するDX推進部は、こうしたお客さまのニーズに答える新しいサービスを提供していきたいと考えています。
櫻井氏 ── ここ数年、さまざまな領域で急速にデジタル化が進み、それに合わせて法改正も行われています。不動産業界は消費者保護の観点から事業者側の都合でサービスをIT化・省力化できないような規制が存在するのですが、その業界特有の制約にも影響は波及してきました。
2021年4月にITを使った重要事項説明が自由化され、その後2022年5月には不動産売買に関する書類を電子化できるようになったように、今多くの変化が起きています。
山本氏 ── 法改正に応じた契約関連業務のデジタル化については、従来は店舗の営業社員が行っていたことの一部をITの活用により効率的に行えるようにする第一歩を踏み出したところです。
デジタルの活用は事業者だけではなくお客さまにとっても利便性が向上する方向への変化なので、当社に限らず業界全体でもこの変化に対応する動きが出てくると考えています。
櫻井氏 ── 以前、NCDCさんに別の顧客向けアプリ開発を頼んだときに、技術力の高さに加えUX/UIデザインの面でも強みを持っている印象を受けました。
今回のサービスもお客さまに使っていただくものなのでUX/UIを大切にしたいと思い、NCDCさんに相談しました。
山本氏 ── 目に見えるものとしてはデザインへの期待がありましたが、もうひとつ、NCDCさんに相談した目的としてシステムのバックエンドをサーバレス※で実現したいという考えもありました。
他の業務システム開発時もサーバレス化の検討はしてきたのですが、Amazon EC2 などの一般的な仮想サーバーを利用した構成に落ち着くこともありました。いろいろなベンダーさんとお付き合いはありますが、業務要件に合わせたサーバレスを実現するには業務への理解と技術力の高さの両方が必要になるため、どのベンダーさんでも設計の難易度が高いという課題があります。
そうした背景がある中で、以前NCDCさんに提案してもらったAWS Lambdaを使ったサーバレスシステムの設計がとても良かったので、今回もその点をNCDCさんに期待しました。結果的にアプリケーションの目的に最適なサーバレスの構成をご提案いただけたので、とても満足しています。
※サーバレスとは、常時起動のサーバーを維持する必要がなくイベント発生時のみ仮想サーバーが起動する仕組み。AWS Lambdaなどのマネージドサービスにより、従来は人手が必要だったサーバー管理を自動化することができる。
櫻井氏 ── 一般的にはシステムに何か変更を加える際には一旦稼働を停止して更新作業を行いますが、サーバレスにしてCI/CD※を実現したことで、稼働後も可用性の心配をする必要がなく、変更のリリース時にシステムを止めなくていいというメリットがあります。
今回はとくに顧客にも使っていただくシステムなので、稼働を止めずに更新できるのはありがたいですね。
※CI/CDとは、開発と運用の境界にある、開発した機能を本番環境にリリースするための煩雑な作業(ビルド・テスト・デプロイ・リリース)を簡略化・自動化する手法。CI(Continuous Integration)は「継続的インテグレーション」を意味し、自動で「ビルド」、「テスト」を実施。CD(Continuous Delivery)は「継続的デリバリー」を意味し、自動でアプリを「デプロイ」 、「リリース」できるようになる。
山本氏 ── 実は、当初私たちからはCI/CDの要望は出していません。もしかすると他のベンダーさんに対して同じように要件定義を行ったら、CI/CDの提案はいただけなかったかもしれません。
NCDCさんからは当たり前のようにCI/CDを考慮した設計で提案をしてもらえたので、それを取り入れてみました。正直なところ開発中は必要性をあまり意識していませんでしたが、システムが稼働し始めてからとても便利なことに気づきました。
櫻井氏 ── お客さまにも使っていただくシステムなので、リリース直後はユーザーから細かい改善要望が立て続けに出てきた時期もありましたが、CI/CDによりシステムを停止せず更新できるので、管理者としてストレスがなかったのはありがたいです。
また、他のシステムとの連携面でもシステムを止めずに更新できるのは非常に楽です。通常は両システムの関係者で調整した上で同時に2つのシステムを停止して作業しなければならないケースでも、一方のシステムを停止せず対応できるのであれば手間がほとんどかかりません。
山本氏 ── サーバレスの場合、実際に利用された分だけの従量課金になるので、無駄がないですね。サーバー費用はかなり抑えられていると思います。
また、このシステムではシステムの死活監視サービスを省略できたのもコスト削減に貢献しています。当社では外部公開するシステムには24時間365日の死活監視サービスをつけるのが原則なのですが、このシステムは万一のときも手動でサーバーを再起動するような対応が必要ないので、有人対応の外部サービスを契約しない方針で社内の承認を得られました。
山本氏 ── デザインもよく対応してもらいました。多くのシステム開発プロジェクトでは上流工程のデザインフェーズが終わるとデザイナーのリソースがゼロになってしまうので、後の工程でデザイン調整の相談をするとデザインが崩れるという問題が起きてしまいます。
NCDCさんは社内にデザイナーがいて最後まで関与してくれるので、受け入れテスト時にUIの微調整をお願いした場合でもデザインが崩れないようにしっかり対応してもらえました。最後までより良いデザインを目指すことができたのでとてもありがたかったです。
櫻井氏 ── 実は私はデザインに関しては対面で指示しないと意図がきちんと伝わらないのではないかと不安だったのですが、NCDCさんはリモート会議でもスムーズにこちらの意図を理解して、とてもいいデザインを出してくれました。何か指示をお伝えすると、ブラウザでデザインを共有できるFigmaというツールですぐに変更案を見せていただけて、それをそのまま関係者にも共有できるので、とても楽でしたね。
私たちDX推進部はシステムのオーナーである事業部門と開発者の間に入るポジションなので、両者の意思疎通がうまくいかないと苦労するのですが、NCDCさんとの仕事ではデザイン案を事業部門に見せたらすぐ合意を得られるのでありがたかったです。
山本氏 ── コミュニケーションに関しても良い印象ですね。私はシステム開発においてコミュニケーションがとても大切だと思っています。何か問題が起きると責任を押し付け合うようなかたちになってしまうプロジェクトも残念ながら一部でありますが、今回NCDCさんとのやりとりではそういう不安がありませんでした。こちらの意図をよく汲み取ってくれるし、説明もわかりやすいのでコミュニケーションでストレスを感じたことがないです。
櫻井氏 ── 連携システムに関して不明点があった時なども、問題が解決するまで根気良くサポートしてもらえたのが印象に残っています。NCDCさんは自社側の調査だけでなく「連携先のシステムのこの部分を調べてみてはどうか」とアドバイスもしてくれるので、よく助けられました。「うちが作った部分ではないので、そちらで調べてください」と断ることもできたと思うのですが、常に私たちの味方という立場で助言をもらえたので、リリースを延期するような大きな問題にならずに済みました。そこまで協力してくれるパートナーはなかなかいないですね。
山本氏 ── 言わなくても気遣ってやってくれたことも多かったのかなと思います。今回開発したアプリは複数のシステムから取得したデータにバッチ処理を加えて取り込むのですが、実はデータ毎に性質が違うため、それぞれ適切な処理をする必要があります。明確にその説明をしたことはないのですが、受け入れテスト時にデータを見たら、私たちのやりたいことを汲み取ってNCDCさんが適切な処理を施してくれていたことに気づいて驚きました。そういった気遣いのおかげでとても保守性が高いシステムになっていると思います。
山本氏 ── 不動産業界は扱う商材が高額なので、かつては対面でのサービス提供を求めるお客さまが多かったと思います。しかし、コロナ禍での非対面サービスが世の中に浸透したことで、時間や場所を選ばないコミュニケーションにメリットを感じているお客さまの数が確実に増えています。
こうした変化がある一方、不動産業界は今までそれほどデジタルを活用したサービス提供が得意ではなかったので、お客さまのニーズを捉えて期待に沿うものを提供していくことが今後の課題です。そして、デジタルを活用して、お客さまに新たな価値を体験いただけるサービスをご提供していくことが私たち三井不動産リアルティDX推進部の取り組んでいきたいテーマでもあります。
櫻井氏 ── もちろん、必ずしもすべてのお客さまがデジタルでのサービス提供を望まれるわけではないので、それぞれのニーズに応じて最適なサービス提供ができる体制を目指しています。
お客さまの抱える”すまい”や”くらし”の課題解決を私たちがより良いかたちでお手伝いできるよう、今後もNCDCさんの力を貸してもらえるとうれしいです。