事例紹介

事例紹介
パートナーとの共創プロジェクトで、内製化とデジタル人材育成を同時に推進
戸田建設株式会社様

建設の企画からコンサルティング、設計、施工、運用までトータルに手掛ける戸田建設株式会社。ものづくりから運用までさまざまな場面でのデータ活用を計画している同社のDX推進室の皆様に、次世代システムの開発やデジタル人材の育成についてお話を伺いました。

お客さまのニーズ
将来の内製化やDevOpsに備えた技術・ノウハウを吸収するため、戸田建設社員をチームに加えた共創体制でシステム開発を行うパートナーを求めていた。
NCDCの役割
共創チームによるアジャイルプロジェクトの推進に加え、対象システムの将来像を見据えたUX/UIデザインやアーキテクチャの検討まで幅広くサポート。

デジタルを会社の強みにする

── NCDCが参画したプロジェクトは、TIP-Extraというシステムの開発と、貴社へのスキルトランスファーという2つの大きな目的がありました。この2つは貴社のDXにとってどのような意味をもつのでしょうか?
── NCDCが参画したプロジェクトは、TIP-Extraというシステムの開発と、貴社へのスキルトランスファーという2つの大きな目的がありました。この2つは貴社のDXにとってどのような意味をもつのでしょうか?

佐藤氏 ── 個人的にはDXという表現はあまり使いたくないので、あえて別の表現をすると、今私たちが進めているのは「デジタルを会社の強みにする」ための取り組みだといえます。
今はまだ、どうすればデジタルを戸田建設の強みにできるか考えはじめた段階ですが、その中で唯一具体的なイメージを持てているのがTIP-Extraと呼んでいるシステムです。これは既存のTIP(Toda Information of Products)という社内用の施工物件情報管理システムに代わる次世代システムで、顧客との物件情報共有を実現するために取り組んでいます。

宮崎氏 ── スキルトランスファーについては、デジタル資産をできるだけ社内のメンバーで維持管理していく体制を整えるための取り組みです。本プロジェクトではまずDevOpsのDevの部分(開発工程)を社内メンバーに学んでもらおうと考えて、DX推進室から2名を開発チームに参加させています。

※DevOpsとは、開発(Development)と運用(Operations)を組み合わせた造語。開発と運用が緊密に連携して柔軟なシステム開発を行うことを指す。

めざす姿は建物の企画から運用まで一貫したデータ管理

–– TIP-Extraについてもう少し詳しく教えてください。

佐藤氏 ── 簡単に説明すると、TIP-Extraは戸田建設とお客様(建物の発注者)の双方がアクセスできる施設情報の共有プラットフォームです。建物をつくる時間よりも建物ができた後の時間の方が何倍も長いので、運用まで含めた建物のライフサイクルに役立つプラットフォームをつくりたいと考えています。
これにより建物の完成後も発注者やエンドユーザーに対して価値のあるサービス提供が可能となります。

開発中のTIP-Extraの一画面(ファイル管理)
── もともと設計や施工だけでなく、建物の運用に関するサービスも提供されているのですよね?

佐藤氏 ── 現在も建物の維持管理は戸田ビルパートナーズというグループ会社が担っていますが、戸田建設が建てたビルのうち維持管理まで受注している例は少ないです。とくに大規模なビルの維持管理は今まではほとんどできていないです。

── TIP-Extraによりその状況が大きく変わるのでしょうか?
── TIP-Extraによりその状況が大きく変わるのでしょうか?

佐藤氏 ── まだそこまで大きなことは言えません。ちょうど今、本社建替えを含む大規模開発を進めているので、まず私たち自身が新社屋(TODA BUILDING)の管理者・ユーザーの立場で必要なものは何であろうかと考えて、TIP-Extraのめざす姿を皆で描いている段階です。
将来、戸田建設が建物の維持管理に力を入れたとしても、世の中にはそれを専門にしている会社がたくさんあるので、いきなり真っ向勝負を挑むのは難しいでしょう。
しかし唯一、戸田建設が参入しても遅くないのがTIP-Extraで実現したい「BIMをベースにした建物の維持管理」です。この方法は業界全体を見てもまだ成熟しておらず先行者がいないため、今、戸田建設がグループで取り組むべき領域だと考えています。
BIMを活用した建物の運用とはどういうものなのか、TODA BUILDINGを通じて戸田建設がメリットを示すことがでれば、その先にいろいろな可能性が見えてくると思います。

※BIMとは、Building Information Modelingの略称。建物の3次元デジタルモデルに管理情報などの属性データを追加して使用する。このデータを設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で活用するワークフローの実現が期待されている

重視したのはパートナーとの共創による人材育成

── TIP-Extraの開発について伺います。NCDCは貴社との共創チームでアジャイル開発を担当させていただきましたが、当社のことはAWS(Amazon Web Services)のイベントで偶然目にして興味をもたれたのですよね?

宮崎氏 ── TIP-Extraの開発に取り組もうと準備していたときに、佐藤が「デジタル変革2022 モダンアプリケーション開発の新潮流(関連記事)」というセミナーを見て、いい会社があったと私に紹介してくれました。
実はその時点では本プロジェクトのRFPを何社かのベンダーに渡し終えていて、NCDCさんにも急遽コンペに参加してもらえないかと声をかけました。

── 複数社の提案を比較されたと思いますが、何がNCDCを選ぶ決め手になったのでしょうか?
── 複数社の提案を比較されたと思いますが、何がNCDCを選ぶ決め手になったのでしょうか?<br data-eio= ">

宮崎氏 ── ただTIP-Extraをつくるのではなく、本格的なアジャイルに取り組んでみたい、そのやり方を習得したいという思いがありました。また、内製化に必要な社内エンジニアの育成も重要なテーマでした。そのため戸田建設とパートナーの共創チームでアジャイル開発プロジェクトを進め、実践を通じて当社にノウハウを伝えてもらうことを期待していました。
しかし、経験の浅い当社の人員を開発チームに受け入れるのはそう簡単なことではないと思います。人材育成をしつつ納期も守れといわれて苦労するのではないかと警戒したベンダーもいたのではないかと思います。
そうした背景がある中で、我々のやりたいことを一番よく汲み取ってスキルトランスファー重視の提案をしてくれたのがNCDCさんでした。

── 人材育成と納期のバランスについては、NCDCとの共創チームを立ちあげた後も議論になったそうですね。

宮崎氏 ── 実際に、開発初期の段階で、このまま両者を追い求めると計画通りに完成しないという状況が見えてきました。その際にNCDCさんから体制や計画の見直し案を出してもらえたのが印象に残っています。
結果的に、納期を遅らせてスキルトランスファー重視の姿勢を明確にしましたが、NCDCさんが状況に応じて柔軟に動いてくれるのはありがたかったですね。

── 開発メンバーの加藤さん、鈴木さんは、共創チームでの開発をどう感じましたか?
── 開発メンバーの加藤さん、鈴木さんは、共創チームでの開発をどう感じましたか?

加藤氏 ── 始まる前はどんな雰囲気のチームになるのか不安だねと、鈴木とよく話していましたが、実際は雰囲気の良いチームで仕事をしやすかったです。大半がリモートワークでしたが、バーチャルオフィスのoViceやチャットツールのSlackで繋がっているので、気軽に連絡できる環境がありました。

宮崎氏 ── 他にもmiroやgoogleの各種サービスなど、両社の使っているツールの親和性が高かったのも良かったですね。

鈴木氏 ── NCDCさんには私たちと同年代の、若くて高いスキルをもつメンバーが多いので、その点もコミュニケーションしやすいポイントでした。作業を一から十まで教えてもらうわけではないですが、ちょっとした悩みに対して「こんな方針でやってみてはどうか」「他にもこんなやり方もあるよ」という感じで適切なアドバイスをいただけたのは良かったです。

加藤氏 ── 今回は、比較的手間のかかる序盤の環境構築作業をNCDCさんがやってくれたので楽だったのですが、一方で少し残念でもありました。将来に備えてできるだけ広い範囲のスキルを身につけたいので、次フェーズでは序盤から、環境構築やプロジェクトの立ち上げにも関わらせてもらって学びたいですね。

── 開発と並行して、TIP-Extraの将来像を見据えたシステムアーキテクチャのコンサルティングもさせていただきましたが、そちらの成果はいかがですか?

宮崎氏 ── 実現したいシステムのイメージを伝えると、次回にNCDCの茨木さんがアーキテクチャの案を用意して来てくれるので、その案をベースに両社で議論しながらブラッシュアップしていくという作業をしていました。

AWSアーキテクチャ検討資料の一部

佐藤氏 ── TIP-Extraの全体像のうち着手したのはまだほんの一部分です。そのため、現在の開発スコープ以外も考慮して全体を設計する必要があります。たとえば「最終的に社外ユーザーも利用することを考えて、どういう構成にしておくべきか」などの議論をしながら、将来あるべきアーキテクチャを検討しました。
社内のメンバーだけでも大まかなイメージは描けますが、本当にそれで正しい設計といえるのか判断が難しいところがありました。茨木さんからなぜそのアーキテクチャが良いのか説明を受けながら検討を進めることで、納得しながら将来像を描けています。

宮崎氏 ── NCDCさんはAWSの知見が豊富であることや、サーバーレスの設計に強いこともコンペ時の選定ポイントのひとつでした。商談時から、早くサーバーレスアーキテクチャに転換するためにどう進めるべきかという視点の提案があったので、そのあたりも参考になりました。

NCDCから提案したAWSアーキテクチャの例

開発と人材育成を両立させながらプロジェクトを推進

── 開発、人材育成、将来像の検討などさまざまな要素が関係していますが、ここまでの進捗を総合的に見て、満足のいく成果が出ていますか?
── 開発、人材育成、将来像の検討などさまざまな要素が関係していますが、ここまでの進捗を総合的に見て、満足のいく成果が出ていますか?<br data-eio= ">

宮崎氏 ── 鈴木と加藤の生産性は間違いなく向上しており、人材育成はよくできていると思います。
開発についても、NCDCの大沼さんがPMとしてすごく優秀で、エンジニアが自分のやるべきことに集中できる環境を整えてくれるので感謝しています。当初はPM役も徐々に戸田建設側に移管していこうと考えていたのですが、もうしばらく大沼さんと一緒にやっていきたいですね。

佐藤氏 ── 個人的には、NCDCのUX/UIデザイナーのプロジェクトへの関わり方が新鮮でした。他のベンダーさんとの仕事ではデザイナーが早期から加わる体制を提案されたことはなく、テクノロジーは良くてもアートが全然ダメな成果物ができてしまうことも多々ありました。今回は要件定義時からデザイナーが入ってくれたので大きな違いを感じます。システムは正しく動けばいいという人もいますが、UIがひどいシステムでは仕事のやる気が削がれてしまうので、私はデザイナーの伊藤さんの存在がこのプロジェクトのひとつの特長になっていたと思います。

── 人材育成に関しては、貴社では土木や建築などの部門にいた社員をデジタル人材として育成する取り組みもされているのですよね?

佐藤氏 ── 中途採用でDX推進室に入ったメンバーはIT経験者が多いですが、他部門から異動してきたメンバーはほぼIT未経験です。彼らには現業の知識に加え新たなデジタルスキルを身につけて、当社のビジネスモデルを変革する人材になってほしいと期待しています。
ここにいる田中もそのひとりですが、彼は設備部門出身で建物の運用に関する知識があるのでTIP-Extraの開発に関わってもらっています。

田中氏 ── 最初の開発フェーズは、私自身は見て学ぶようなポジションで参加していましたが、次のフェーズでは私がプロダクトオーナーのポジションに就いて、竣工後の不具合や問い合わせに対応するカスタマーサポート(CS)部門と連携しながらTIP-Extraの新しい機能の開発を進めていきます。

佐藤氏 ── 開発を内製化してアジャイル形式で進めることで、ユーザー部門に開発プロジェクトの重要な役割を担ってもらうことができます。たとえばCS部門がよく使う機能はCS部門に意思決定者の役割を担ってもらい、DX推進室がそのサポートをするような体制で、現場の声を柔軟に取り入れながらシステムをつくっていくのです。
とくにCS部門は建物の運用に関するお客様の意見を一手に受ける部門なので、次フェーズに深く関わってもらうのはTIP-Extraにとって重要なことだと考えています。

現業とデジタルの距離を縮めることで変革をめざす

── TIP-Extraの計画や人材育成の話はよくわかりました。最後に、デジタルを戸田建設の強みにするために、会社全体で今後取り組むべき課題などがあれば教えてください。

佐藤氏 ── TIP-Extraは建物の運用においてお客さまへ高い付加価値を提供していくものですが、建設会社としては本来、建物の企画、設計、施工時のデジタル活用にも向き合っていかないといけません。
ただ、完成した建物の運用と違って、建設現場は毎日変化するのでデジタル化のハードルが高いという問題があります。また、デジタルを活用するには現場のプロセスも変えていく必要がありますが、数百年かけてつくられてきた既存のやり方を変えるのは簡単ではありません。

── 設計や施工など現業の主要領域にもデジタル活用の可能性を広げていくために、DX推進室はどんな役割を担うのでしょうか?
── 設計や施工など現業の主要領域にもデジタル活用の可能性を広げていくために、DX推進室はどんな役割を担うのでしょうか?

佐藤氏 ── どうすればデジタルを会社の強みにできるのか? その問いに対して本当に良いアイデアを返せるのは現場を深く知っている人材だと思います。ただ、現状は「現場」と「デジタル」には距離があります。
DX推進室としては、まずデジタル化により何が実現できるのか成功例を社内に見せて、“新しい世界観”を知ってもらいたいと考えています。それを知った社内の人たちから新しいデジタル活用のアイデアを相談しに来てくれるような関係が構築できるととても良いと思います。
私たちが「現場」と「デジタル」の距離を埋める存在になり、徐々に両者が連携した取り組みが増えていけば、その結果として、デジタルを強みにした戸田建設の姿が見えてくるのではないかと期待しています。

── その過程でNCDCがお役に立てそうなことがあればぜひご相談ください。

佐藤氏 ── NCDCさんは建設関係のプロジェクト経験が豊富なようなので、ゼネコンの仕事をよく知っている人がいるのであれば一緒に何かやってみたいですね。そうしたパートナーとの連携から生まれる新しいアイデアもあるかもしれません。

佐藤 康樹 氏
佐藤 康樹 氏
ICT統轄部 DX推進室 室長
田中 光太郎 氏
田中 光太郎 氏
ICT統轄部 DX推進室 主管2級
宮﨑 孝一 氏
宮﨑 孝一 氏
ICT統轄部 DX推進室 主任
鈴木 和哉 氏
鈴木 和哉 氏
ICT統轄部 DX推進室
加藤 旺樹 氏
加藤 旺樹 氏
ICT統轄部 DX推進室
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