事例紹介

事例紹介
UXデザインからのアプローチで取り組む 「選ばれるUI」の先行研究
アズビル株式会社様

“計測と制御”の技術をもとに、人々の安心・快適・達成感と地球環境への貢献をめざす「人を中心としたオートメーション」を追求するアズビル株式会社。
同社が取り組んでいる、工業機器のUI/UX研究プロジェクトについて、技術開発本部商品開発部 デザインマネジメントグループの長田光彦様・奈良千尋様に聞きました。

UX/UIデザイン
お客さまのニーズ
UXデザインからのアプローチで、スマートデバイスを用いた工業機器の設定ツールを検討・試作したい。
NCDCの役割
お客さまとともにUI/UXデザインを検討し、対象機器とBluetoothで接続するスマートデバイス用の試作アプリを開発。

先行研究としての、スマートデバイスを用いた工業機器のUX改善の取り組み

──はじめに、プロジェクトの概要を教えてください。

長田氏──私達が扱う製品のひとつに工場用の計測制御機器があります。現在は、大部分の機器において設定作業用にPCベースのツールを提供しており、ユーザーは現場で機器とPCをケーブルで繋いで作業を行っています。
今回のプロジェクトでは、スマートデバイスの導入によってその設定作業を直感的なUIと無線接続で行えないかというスタディを行いました。
私達デザインマネジメントグループとしては、具体的な商品開発の前に一度開発課題の洗い出しと全体的なフレームワークを検討しておきたいと思っており、現在はその最初のステップにトライしている段階です。

奈良氏──ほとんどの機器には設定・操作用のボタンも付いていますが、ボタン操作では複雑すぎる細かい設定を行う場合、作業者が現場にノートPCを持っていき、それを手に持って作業したり、場合によっては床に置いて作業したりしています。
そうすると、ケーブルをあちこちに繋ぎ変えたりPCの置き場所を用意したりという準備が必要になり、無駄な時間がかかってしまいます。

長田氏──私達の製品は何千もの設定パラメータを持つものもあり、複雑な設定をする際にはPCが必要になります。ただ、多くの場合は簡単な設定作業で済むのです。
このように実際のユーザーを想定して、現場で製品が使われるシーンを描きながらから考えていくと、現在のPCベースのツールが抱えている課題が浮かんで来るのです。

──なるほど。そういった背景から、UXデザインからのアプローチで工業機器のUIを考えるという、この先行研究がはじまったのですね。

長田氏──私達が重視している背景がもうひとつあります。
この5年位で、世の中のさまざまなデバイスやUIが変わってきており、その環境の変化とともに社会に出てくるエンジニアの属性も変わってきていることを感じています。
私は大学で講師もしているのですが、学生を見ていると、最近はエンジニアでも専攻によってはほとんどPCを触らないで卒業していくのですね。「エンターキーってどれですか?」と真面目に質問するエンジニアがいる。
良い・悪いではなく、大きなジェネレーションギャップがあって、以前の世代とは常識が違うのですね。
将来、そういった若者がお客さまの製品開発部門の中心になっていくと、従来の設定ツールでは「なんですかこれは?使い方がわかりません」と言われてしまう可能性があるのです。

奈良氏──考えてみると、日常生活において何か新しいツールを使うとき、今はほとんどマニュアルを見て操作することがないですよね。使い方がわからないときもマニュアルを見るのではなくまず検索する。その時代に対応したツールを提供していかないと、製品の競争力が落ちてしまいます。

長田氏──ユーザーのことを本当によく考えてつくられた製品は、製品の形やUIのデザインを比較しただけでもお客さまにその良さが伝わり、選んでいただけるものです。そういった背景から、先を見据えてアジャイル的に新しいツールの試作に取り組んでいく必要があったのですが、自社のリソースだけでは難しいため外部のパートナーを探すことにしました。

決め手はUXデザインとハードウェア・ソフトウェア連携を1社で対応できること

──先行研究のパートナーにNCDCを選ばれたのはなぜですか?

長田氏──まず、前提条件としてUXデザインとアプリ開発において十分な実績がある会社を探しました。いくつかのパートナー候補と会った中でNCDCを選んだ理由は、ひとことで表すなら「人が良かった」からです。
最初の打ち合わせの時から、いろいろなことをよく知っているなと感心しました。ソフトウェア業界の人にとっては、当社の製品は特殊でわかりにくいところがあると思うのですが、専門的な領域でもよく私達の話を咀嚼して返してくれたのが印象的でしたね。

──ソフトウェアだけでなくハードウェアの知識も備えたエンジニアがいて、それらを連携する仕組みづくりが得意なことはNCDCの特長だとよく言われます。

長田氏──既存のパートナーの中にも、いわゆるUXコンサルや、ハードウェアのデザインをする会社はありますが、UXデザインからハードウェアと連携するアプリの開発まで1社でやってくれる会社はあまりないですね。その両サイドからアプローチできるところはNCDCさんの強みだと思います。

奈良氏──実際に一緒にプロジェクトを進めた感想としては、とてもスムーズな進行だったと思います。打ち合わせの際に毎回「次はこの点に取り組みましょう」と課題を決めて持ち帰り、次回にはそれに対する提案を持ってきてくれるので、私達は安心しておまかせすることができました。

長田氏──今回はトライアルとして最初のステップに取り組みましたが、とても良いプロジェクトになったので次のステップもNCDCさんと一緒に進めたいと思います。社内にここまでの結果報告もしてあり、とても好評です。

試作品のUIはテストユーザーの100%がマニュアルなしで使いこなせた

──最初のステップの成果というのは、具体的にはどのようなものでしたか?

奈良氏──実際に当社の製品ひとつをモデルに、Bluetooth接続したスマートデバイスで主要なパラメータを設定できる試作品をつくりました。NCDCさんに試作してもらったUIを用いて十数名にマニュアルなしで設定作業をしてもらったのですが、できない人は一人もいませんでした。誰もが直感的に操作できて、テストの結果は良好でしたね。

長田氏──実は、試作品の検証結果以外にも成果が得られています。それはアジャイル開発の経験です。当社はアジャイル開発が得意ではないのですね。何故かというと、当社の製品は使い方を間違えると大きな事故が起きかねないものです。仕様書を書いて、設計レビューをして、ドキュメントの整備をして、安全設計をして…という多くの工程を積み重ねていかないと製品を完成させることができません。
これはとても大切な文化なのですが、一方で、アジャイル開発ですばやく検証するということは得意ではないですね。

奈良氏──プロジェクトに参加した当社のエンジニアは、NCDCさんのやり方を見て驚いていましたよね。打ち合わせ中に課題に出たものをライブコーディングで修正して、その場で確認してしまうあのスピード感に。

長田氏──従来型の、コンパイルが必要な開発言語を扱っている者からすると、その場で修正して見せてしまうあの進め方にはびっくりしてしまうのです。
ただ、外部を知るということは大切で、他のやり方を知ることで「もしかしたら当社もHTML5とJavaScriptでアジャイル開発をできるのではないか」という議論のきっかけになるのですね。

──私達NCDCの側も今回のプロジェクトで学ばせていただくことが多くありました。
工場用の機器としてあるべきUX/UIの議論は何度もしましたよね。

長田氏──スマートデバイスに適したUIを導入しましたが、プロダクト独自の考え方もあるので、いわゆるモバイルアプリの一般的な操作のインタラクションを何にでも適用すればいいというものではないですね。今回のプロジェクトでは、両方の意見を組み合わせながらあるべき姿を模索していった感じでしたね。

奈良氏──スマ―トフォンをはじめとしてシンプルな操作性を備えたモードレスなUIが増えていますが、当社の機器はある部分においては簡単にモードが変わると危険ということもあります。そういうケースではボタンの長押しをしないと画面の切り替えができないようにするなどの工夫をしていきましたね。

長田氏──デザイナーの仕事はものごとを簡単にすることだといえますが、場合によっては簡単にしすぎてはいけないこともある。使いやすいUIを提供する必要があるが、簡単すぎて誤操作やセキュリティの問題につながってはいけない。そういうことを考えながら、一緒に課題に取り組んでいったプロジェクトでした。

将来の内製化や、アジャイル開発の取り組みに対する技術支援にも期待

──デザインマネジメントグループとして当初期待していた、UXからのアプローチでUIを考えるフレームワークを社内に提示できたと思いますか?
──デザインマネジメントグループとして当初期待していた、UXからのアプローチでUIを考えるフレームワークを社内に提示できたと思いますか?

長田氏──各事業部に広く展開していくのはまだ先になりますが、大切なのは私達が大上段にかまえて「UXとは何か」を講義することではなく、「きちんとお客さまのことを考えましょう」というメッセージを社内に届けていくことだと考えています。
エンジニアは構造を考える。デザイナーは形を考えるというそれぞれの部分だけに閉じた作業になってしまうと、肝心のユーザーが抜け落ちてしまう。そういう意味で、私達はユーザーがどう使うのかを理解することを大切にしようと常に訴えています。
そうしたデザインマネジメントグループの役割の中に、「これからの自社製品のUIのあるべき姿」を検討するという部分も含まれているので、20年後・30年後に企業が存続していくために何をしなければならないのかを先駆けて考え、マネジメントしていくことを続けていきたいと思っています。

──このプロジェクトはこれから第2第3のステップに進んでいきますが、今後、NCDCに期待することはありますか?

長田氏──ゆくゆくはインハウスで開発したいと考えているので、今回のプロジェクトではソースコードも全部提供してもらっています。しかし、今後はモバイル系のプログラミングを得意とするエンジニアの養成もしていかなければいけません。
今回のプロジェクトでNCDCさんの技術力の高さはよくわかりましたし、技術コンサルティングもしてもらえるので、将来は当社のエンジニアを育てるところも一緒にお手伝いしてほしいと思っています。

長田 光彦 氏
長田 光彦 氏
アズビル株式会社
技術開発本部 商品開発部 
デザインマネジメントグループ
工学博士
奈良 千尋 氏
奈良 千尋 氏
アズビル株式会社
技術開発本部 商品開発部 
デザインマネジメントグループ
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