三井住友フィナンシャルグループ(以下SMFG)と住友商事の合弁会社として、企業向けに工作機械、航空機・船舶、発電設備などのリースを行う、三井住友ファイナンス&リース株式会社(以下SMFL)。
同社がNCDCと共同で取り組んだ、シェアリングビジネスの実験的なプロジェクトの事例を、事業開発部 デジタルイノベーション推進室の野口耕司様・伊藤広隆様に聞きました。SMFLがめざす、デジタルを活用した新しいビジネスの創造過程や、その展望をご紹介します。
※写真右から:事業開発部 デジタルイノベーション推進室 野口耕司氏、伊藤広隆氏
野口氏 ── 当社の事業開発部は2000年代の後半から発足し、文字通り新しい事業をつくっていくことがミッションです。その中でも注力している分野の1つがデジタルイノベーションです。
伊藤氏 ── リース事業の中にデジタルという要素を盛り込み、新規事業を生み出すことに注力しています。
私たちはリース会社としてお客さまの代わりにモノをたくさん保有していますが、昨今はIoTが大きなテーマになっています。工場の中の機械や設備など、いろいろなモノがIoT化していくはずなので、それを応用していく発想です。
野口氏 ── 当社がお客さまにリースしているフォークリフトや計測器にIoTセンサーを搭載して、1台ごとの稼働効率の把握や最適化などに活かすというプロジェクトです。この案件は社内でも意義の高い取り組みだったので、2017年度にプレスリリースを出しました。
さらに、もし遊休資産になっているような設備があれば、それを一時的に使いたい別の企業とマッチングさせ、シェアリングモデルの事業にするところまで検討しました。
伊藤氏 ── リースではなくレンタルにしている事例はありますが、シェアリングだと世界でもほぼないに等しい状況です。
野口氏 ── レンタルというのはレンタル事業者から一定期間借りるだけのシンプルなものですが、このとき考えたのはユーザーさん同士で貸し借りし合うモデルです。
当時、ビジネス誌でAirbnb(エアビーアンドビー)の特集をしていて。それを見て、チームメンバーで議論したところ、個人ではなく企業でも「一時的に使ってない資産を貸す」という発想があるなと気づきました。
野口氏 ── このプロジェクトはSMFLのほかに、当社株主のSMFG、住友商事と共同で進めました。
当時、このビジネスに可能性を感じていたものの、一方でまだ前例がないビジネスモデルだったので、どのようにして企業に価値を感じてもらえる形にできるか悩んでいたのです。
そのときに、住友商事さんからサービスデザインからシステム構築まで支援いただける会社があると聞き、ぜひお会いしたいという話になりました。
伊藤氏 ── 社名を聞いたことがなかったので、最初は不安がなかったわけではありません。ですが、NCDCさんのホームページを見ると誰もが知る大企業からの受注実績が豊富だったことと、代表の早津さんから説明を受ける中で、ノウハウが豊富に蓄積されていることを実感できたのが決め手になりました。
野口氏 ── 当社側でフォークリフトと計測器に目をつけたのは、シェアリングのしやすさでした。
NCDCさんには、フォークリフトと計測器にとどまらず、ほかにはどのようなモノがシェアリング向いているかの議論にはじまり、収益化できるビジネスモデルの設計やサービス開始時の契約関係のことまで、当社と同じ目線で考えていただきました。
伊藤氏 ── そのほかにも、既にリースしている機器にはどのようにセンサーを取り付けるか、バッテリーの交換・返却はどうするかなど、具体的なオペレーションにまでアドバイスがあり、パートナーとして心強かったです。ビジネスモデルを考えるだけではリアルなビジネスは成り立たないことを痛感しました。
伊藤氏 ── 顧客像(ペルソナ)の仮説立てから、カスタマージャーニーマップを設計するというフローでしたね。
今回は企業の総務部長をペルソナとして立て、そのペルソナがフォークリフトを購入するところから、貸し借りするところまで、どういう心理で行動をするのか、議論しながら細かく考えていきました。個人的にも、このプロセスが非常に勉強になりましたし、ビジネスを検討する上でも有意義なプロセスでした。
野口氏 ── 例えば、センサーをお客さんのフォークリフトに取り付けるにしても、当初は「価格が安ければ付けてもらえるだろう」と考えていたのですが、フォークリフトをたくさん所有している場合、取り付けだけでもかなりの負担になることが、カスタマージャーニーを通じて明らかになりました。
センサーの取り付け方法を簡単にすることもそうですし、同様に「1週間に1回電池交換してください」なんてこともできないので、バッテリーを長寿命なものにするなど、製品の要件も自然に導けました。
野口氏 ── 印象的だったのは、NCDCさんにもはっきりと意見を出していただけるなと。
これまでの経験ですと、仕事をお願いしたコンサルティング会社さんは、クライアントである私たちが言うことを否定せずに進めていきがちでした。
立場を優先していただいているのかもしれませんが、結果、期待したものができなかったこともありました。一方でNCDCさんには、議論の段階で良いことはもちろんですが、「悪い」という意見も率直にいただきました。私たちはそういうパートナーさんに慣れていなかったので、最初は驚きましたが(笑)。
伊藤氏 ── もちろん私たちを否定しているわけではなくて、良いサービスを生み出すための目線での指摘だったと感じられました。結果的にとことん深く考え、議論することができ、それがPoCにも反映されていて、社内外でも良い反応を得られました。
NCDCさんが掲げている「UI/UXの追求」は、技術もさることながら、前提となるビジネスモデルやオペレーションがしっかりしていないと実現できないと思います。そのため、単にクライアントが言ったままにつくるのではなく、その大元になるところから一緒に突き詰めていく姿勢だったのが一番印象的でしたね。
野口氏 ── プロトタイプとはいえUIの完成度も高く「これってもうできたのですか?」と社内で言われるほどでした。
伊藤氏 ── 細かい部分ですが、画面中で随所に使われている「借りる」「買う」「売る」など、誰が見ても分かる表現や、機器の稼働データも見やすいグラフになっていました。社内でも「これをそのまま使おう」と言われて、「まだプロトタイプなので完成していないのです」と返したり(笑)。そのぐらい良いものをつくっていただけたと思っています。
野口氏 ── 「買う」とか「借りる」といった表現を使うのは簡単そうなものですが、法人向けのビジネスに慣れているとなかなかたどり着けない発想なので、とても新鮮でした。
伊藤氏 ── 現在は、フォークリフトと計測器のシェアリングに縛られず、SMFG・住友商事と引き続きアイデア出しを行っています。
ここでもNCDCさんとのプロジェクトで培った検証、プロタイピング、ユーザーインタビューという進め方のフレームワークを活用しています。実現性のある事業が見定められて、PoC段階になれば、再度NCDCさんのご協力が必要だと思っています。
野口氏 ── 今回協力いただいた案件は実用化段階の途中ですが、ビジネスモデルがない段階から一緒に悩みながら進んだ4カ月間でした。
私たちの部署は、既存のリースや金融といった事業の枠を飛び越えたビジネスをつくることがミッションなので、毎週それを乗り越えるための試行錯誤ができたこと自体に、大きな価値があるプロジェクトだったと感じています。
NCDCさんとは再び熱い議論をしながら、世の中があっと驚く新しいビジネスを共創できればと思っています。