ダークパターンを学び、業務システムのUX/UI改善に活かす(無自覚な落とし穴を避けるために)

公開 : 2025.09.19 
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Webデザインにおける「ダークパターン」は、ユーザーを意図的に欺き、望まない行動へ誘導する不誠実なUIのことを指し、UX/UIデザインを考える上では典型的な悪例といえます。

デザイン検討の過程で「ダークパターンを避ける」という意識を持つことは「これは本当にユーザーのためになるUIか?」と自ら問い直し、ユーザーを尊重した設計へと導くことに繋がります。

この考え方は、一般ユーザー向けのWebデザインに限らず、従業員が日々利用する業務システムのUX/UIデザインにも応用できます。 本コラムでは、ダークパターンを反面教師として、業務システムにおいてよりよいUX/UIデザインを追求する方法をご紹介します。

ダークパターンとは?

ダークパターン(Dark pattern)とは、主にWebサイトやアプリケーションなどのデザインに関して、ユーザーの意図に反して事業者側にとって有利な行動をとるように設計されたインターフェースを指します。 わかりやすいケースは、課金サービスを解約しにくいようなUIにして、ユーザーにお金を余計に使わせるよう仕向けるものです。 ダークパターンという言葉が広まりましたが、現在では「欺瞞的なデザイン(Deceptive Design)」とも呼ばれます。

企業が自社の社員や関係者に向けて用意する業務システムにおいて、悪意を持ってダークパターンを用いることは通常ありません。しかし、ユーザーへの配慮が足りずに、無自覚のうちにダークパターンに当てはまるようなUIを採用してしまう可能性は大いにあります。

たとえばユーザーが本来必要としない操作を強いられたり、特定の作業フローに強制的に誘導されたりすることで、結果的に業務効率の低下や、業務への不満の蓄積につながる可能性があります。

ダークパターンを学ぶことで、こうした無自覚な落とし穴を避けることができれば、業務システムの価値向上に大いに役立ちます。

業務システムのUIで気をつけたいダークパターン

ダークパターンは、ユーザーエクスペリエンス(UX)の専門家であるハリー・ブリヌル氏が、ユーザーを騙す目的で巧妙に設計されたユーザーインターフェース(UI)の事例を収集・分析し、その共通する手口を分類・体系化したことで定義されました。

独立行政法人国民生活センターが公開している「消費者を欺く ダークパターンとは」という記事でわかりやすく解説されているので、ダークパターンについて詳しく知りたい方はご参照ください。

ダークパターンの類型

  1. 行為の強制(例:望ましい範囲を超えた個人情報の開示を強制する)
  2. インターフェース干渉(例:事業者にとって好都合な選択肢を視覚的に目立たせる)
  3. 執拗な繰り返し(例:事業者にとって好都合な設定に変更するよう繰り返し要請する)
  4. 妨害(例:サービスのキャンセルを困難にする)
  5. こっそり(例:最初に明示せず、取引の最後の段階において追加料金を加える)
  6. 社会的証明(例:他人の評価などを根拠に過度に良い商品に見せかけてユーザーの意思決定に影響を与える)
  7. 緊急性(例:割引期限を知らせるカウントダウンタイマーなどを用いてユーザーの判断に影響を与える)

続いて、こうした代表的なダークパターンの手法の中から、業務システムのデザインにおいて特に注意すべきものをいくつかご紹介します。

行為の強制

行為の強制には、例えばユーザーにアカウント情報等の登録を強制する、又は登録が必要だと誤解させる「登録の強制」などがあります。

業務システムに置き換えて考えると、本来はその業務に不要な情報の入力まで強いられる。その業務においては無関係な複数の外部システムへの連携や登録を強制される。ということが考えられます。
こうした悪いUX/UIデザインを放置すると、業務効率の低下や、本来登録すべきデータが登録されないという問題を招いてしまいます。

インターフェース干渉(隠された情報)

顧客にとって重要な情報を見つけづらくしたり、隠ぺいしたりするダークパターンもあります。トライアル期間終了後に自動的に定期購入に移行される仕組みになっているのに、その説明や、定期購入を取り消す方法がとても見つけにくいデザインになっているという例がわかりやすいのではないでしょうか。

業務システムに置き換えて考えると、重要な設定や機能がUI上目立たず見つけにくかったり、奥深い階層にあって辿り着きにくかったりする問題はよく起きているのではないでしょうか。
または、業務システムの管理者にあまりに多くの問い合わせが来ても困るので、問い合わせ先の情報が目立たないように表示されているというケースも考えられます。

インターフェース干渉(事前選択)

インターフェース干渉には、事業者に有利な選択肢が事前選択されていたり、視覚的に異常に強調されていたりするダークパターンもあります。事前選択をユーザーの意思で外すことはできても、ユーザーが初期設定を推奨設定だと思い込んでしまい、変更に伴う負担を避ける心理(デフォルト効果)が働きます。

「おすすめのオプションを初めから選択した状態にしている」 場合は、悪意ではなくユーザーが迷わないように善意でやっているケースもありますが、ユーザーにとっては「意図しない選択」へと導かれる可能性があるので注意が必要です。

業務システムに置き換えて考えると、たとえば新しいワークフローを作成する際に、特定の承認フローがデフォルトで設定されているということが考えられます。ユーザーがそれを推奨設定だと勘違いしてしまうと、本来は不要な無駄な承認経路がついたワークフローがつくられてしまう可能性があります。

妨害

ユーザーが解約や特定の行為を行う手続きを複雑化したり、冗長化したりすることで、その行動を途中で諦めさせる「妨害」というダークパターンもあります。サービスの利用契約はインターネット上ですぐできるのに対し、解約は電話でしかできないというのはよくある事例ではないでしょうか。

業務システムに置き換えて考えると、設定変更やデータ削除の手順が分かりにくく、多くの承認が必要なためにユーザーが途中で諦めてしまう。あるいは、システム部門への連絡が必須となっているが、なかなか連絡が繋がらなかったり、回答を得るまでに時間がかかる。という問題が考えられます。
妨害する意図はなくとも、本来はすぐに反映したい設定変更やデータ削除ができないとなると、効率的な業務遂行を邪魔することになってしまうため、注意が必要です。

執拗な繰り返し

位置情報の取得や通知の設定の承認など、事業者にとって都合のよい行動を要請するポップアップがユーザーの画面に繰り返し表示され、ユーザーが仕方なく許可してしまうというダークパターンもあります。
「拒否する選択肢が用意されていない」 ことも、このダークパターンの特徴です。

業務システムに置き換えて考えると、既に確認済みの通知やアラートが、繰り返し表示され、消す方法が用意されていないために毎回通知を見にいかないと次の作業に進めないということが考えられます。
UIの設計時に「重要な通知は必ず全ユーザーに見せたい」と考えることはあるでしょうが、このようなUIでは業務の妨げとなってしまいます。

なぜ業務システムでもダークパターンに要注意なのか?

企業が自社の社員や関係者に向けて用意する業務システムにおいて、悪意を持って使いにくい設計を行うことは考えにくいでしょう。では、なぜ業務システムにおいてもダークパターンが生じてしまうのかというと、背景として以下の要素が考えられます。

「ユーザー重視」という視点の欠如

業務システムの多くは、ユーザーが選んで使うものではありません。業務において必要だから指定されたものを使っているに過ぎません。システムを用意する側は「選んでもらう」必要がないため、コンシューマー向けサービスのような丁寧なUX/UI設計がおろそかになりがちです。
しかし、本来は社員が日常的に使うツールだからこそ、使いやすさへの配慮が重要です。

縦割り組織と連携不足

企業においてはありがちな問題ですが、業務システム開発においても、縦割り組織と組織間の連携不足による問題はよく起きます。設計段階で各部署の意見が十分に調整されず、部署ごとに都合の良い設計を主張しあった結果、ユーザー体験を損なうデザインを生むことがあります。

業務システムに関わる担当者が取るべき対策

業務システムにおいてよりよいUX/UIデザインを追求する健全なプロジェクトを推進するためには、以下の対策が重要です。

1. 「ユーザー(社員)尊重の原則」の徹底

「ユーザーファースト」や「現場の声を聴く」といった文化を業務システムの担当部門に根付かせることはとても大切です。ユーザーを第一に考えれば、結果的にダークパターンは生まれにくくなります。

2. デザイン監査や多角的なレビュー

UX/UIデザインを軽視せず、第三者や専門チームで定期的に点検・改善する体制があることが望ましいです。また、本記事のように「ダークパターンの観点から問題がないかをレビューする」という多角的な確認も大切です。
たとえば、要件定義や開発の段階で、システム部門だけではなくさまざまな部署のメンバーが確認し、意見を出し合える体制を整えることも有効です。

3. オープンな議論と文化の醸成

社内の上下関係や利害関係に影響されず「ユーザーにとって不利益ではないか?」と声を上げられる倫理観と、さまざまな役割の人がオープンに意見を交わせる文化の醸成も大切です。
業務システムの開発担当者やデザイナーは、利害にとらわれることなく、オープンに議論し、よりよい選択を行うスキルを磨くことが求められます。

UX/UI設計のご相談はNCDCへ

「良かれと思って実装した機能が、かえって業務の妨げになっていないだろうか?」
「現場から『使いにくい』という声は聞こえるが、具体的な問題点がどこにあるのか分からない」
このような不安や課題を感じていませんか?

業務システムのUX/UIデザインにおける「落とし穴」は、開発者自身も気づかないうちに生まれていることがほとんどです。

私たちNCDCは、業務システムのUX/UIデザインに関する豊富な知見を持っています。専門家による第三者の視点で現状のシステムをレビューし、ユーザーテストやヒアリングを通じて「無自覚のダークパターン」を発見し、具体的な改善策をご提案します。

「まずは課題を整理したい」「第三者の意見を聞いてみたい」といった段階からでもサポートは可能です。お客様の状況に合わせたご提案をしますので、ぜひお気軽にご相談ください

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