ゼロから学ぶブランドコア策定:ステップバイステップで解説

公開 : 2025.07.04 

ブランドとは、商品・製品・サービスや企業など、あらゆるブランディング対象の理念、価値観、そしてそれがユーザーや関係者にどのように伝わるかを示す重要な要素です。
本記事では、ブランドコアとは何か、その重要性を解説した後、実際にブランドコアをどのように明確化し、具現化していくかのステップについてご紹介します。これを通じて、初心者の方でも自社のブランドの本質をしっかりと捉え、持続的な成長を支える強力な基盤を築くための手助けとなることを目的としています。

ブランドコアの説明の前に、「ブランディングとは?」というところから知りたい方は、以下の記事でブランディングの全体プロセスの説明をしていますので、ぜひご参照ください。
ブランドの基本的な考え方とブランディングプロセスについて

ブランドコア(ブランドの核)とは何か

ブランドの核となる部分、すなわちブランドコアは、ブランドの「根底を支える様々な要素の集まり」と捉えてください。(以降、ブランドコアと統一して呼びます。)
抽象的な概念であるため言葉で定義することは容易ではありませんが、一般的にはミッション、ビジョン、バリュー(価値観)を策定しそれらを中心に、その他の「ブランド価値観を表現する要素」(ブランドパーソナリティ、ブランドアイデンティティ、ブランドコンセプトなど)を追加して定義していき、ブランドコアとなる部分の要素を作り上げていきます。

ブランドコアとは「ブランド価値」を明確化する要素の集合体

この「ブランド価値」を表現する要素の集合体ですが、こうして説明していてもかなり抽象的なので、明確化する必要があります。ブランドコアを明確化する主なステップは以下の通りです。

ブランドコアを明確化する主なステップ

  • ビジョン、ミッションと価値観・行動の定義
    • ブランドが提供する価値、目指す未来像、そして大切にしている価値観を明確に定義し、ブランド全体の方向性(コンセプト)を決定します。
  • ユーザーベネフィットの定義
    • 消費者(ユーザー)が得られる具体的な利益や価値を明確にし、ブランドが提供する「解決策」を把握します。
  • ブランド価値を明確化する要素の追加
    • ブランドパーソナリティやアイデンティティ、コンセプトを組み込み、ブランドコアを完成させます。これにより、ブランド全体の一貫性が保たれ、消費者に対して強いメッセージを送ることができます。

上記はあくまで主なステップとして挙げましたが、「重要となる要素の策定・定義」がこの段階で行う活動にあたります。

以下に各ステップの説明を詳しくしていきたいと思います。

1. ミッション・ビジョンと価値観・行動の定義

ストーリー構造を利用したミッションとビジョンの明確化

ミッションの語源はラテン語の「送る」を意味する mittere(ミッテレ)です。「神の言葉を送り届ける」というキリスト教文化が発祥で、「伝道」という宗教的な行為と結びつき、「使命」を示す意味へと発展しました。「使命」には「使者としての務めを果たす」という強い意味があり、企業や商品のミッションも、「社会的使命」というニュアンスを持つことになります。
一方、ビジョンの語源もラテン語で videre(ヴィデレ)であり、「見る」という意味から「先見性」や「見通し」を意味するようになりました。企業やブランドにおいては、「目指すべき理想の未来」を示します。
このミッションとビジョンは、時系列で整理し、運用することで、コンセプトの軸を明確にすることができます。時間軸で整理すると、ミッションは「なぜ生まれたのか」という過去の位置にあり、ビジョンは「何を目指すのか」という未来の位置にあります。そして現在に位置するのは「そのために何をするのか」です。
この「何をするのか」は、

  • どのような印象を与えるのか
  • どのような機能を実装するのか
  • どのような取り組みをするのか
  • どんな価値をユーザーに提供するのか

といった複数の要素を含み、ブランドの基盤となります。

  • ミッション(過去):「なぜ生まれたのか」=担う社会的使命
  • ビジョン(未来):「何を目指すのか」=理想の未来
  • 価値観・行動(現在):「何をするのか」=取るべき行動基準・大切にすべき価値観

この現在の「何をするのか・何を大切にすべき価値観とするのか」(バリューやコンセプトなどが表現として当てはまる)こそが、ブランドを通して感じる信頼感や期待感、ブランドコアを強く形成していく要素となってくるのです。
この「過去」と「未来」をつなぐ現在の部分「価値観・行動」を表現する要素を明確に構築していくことこそが、ブランドを一貫して伝えるための土台となるのです。

事例:オーガニックコスメブランドのストーリー

具体例として、オーガニックコスメブランド「ヴェレダ」を挙げます。ヴェレダは1921年にスイスで誕生し、「自然と人間との調和」を大切にするオーガニックコスメブランドです。スキンケア、ボディケア、ヘアケア、ベビーケアなど、幅広い製品ラインナップを展開しています。「ミッション、ビジョン、バリューおよびブランドメッセージ、世界観」は以下の通りです。

ヴェレダは、哲学者であるルドルフ・シュタイナーと医師であるイタ・ヴェーグマン、そして化学者であるオスカー・シュミーデルの3人によって始まりました。当時、化学物質に頼る医療や美容が主流となる中で、従来の薬は、病気の症状を抑えることを主な目的としていました。しかし彼らは、薬は体の自己治癒力を刺激し、本来持っている治癒力を高めるためのサポート役であると考え、「自然の力を信じ、自然の恵みこそが人間の心身を癒し、健康な状態へと導くのだ」という信念を持っていました。
そのため、自然の力を最大限に活かし、人間が本来持っている力を引き出すことを使命(ミッション)とし、「自然と人間との調和」を実現することで、人々が健康と美しさを持続可能な社会の中で手に入れられるよう貢献することを目標(ビジョン)にしました。

そして、このビジョン(未来)にむかっていくために、7つの基本原則を大切にして行動していくことを定義し、自然へのこだわり、人智学に基づく思想、品質へのこだわり、環境に配慮した持続可能な事業運営を行ってきました。そしてそれらをベースに、ブランドメッセージである「YOU ARE NATURE;わたしたちはひとつだ。」や世界観を定義して、さらにブランドの価値観を濃厚なものにしています。
この、1:MISSION「そもそも」私たちは〇〇のために立ち上がった、2:VISION「いつか」〇〇を目指して、3:CONCEPT>「そのためにいま」〇〇な価値観を持ち〇〇行動する、という構図は1つの物語構想になっており、ミッション、ビジョン、バリューの定義、そしてコンセプトの策定に役立つ考え方です。

P-MMVを利用したミッション、ビジョン、バリューの定義

ここまでの内容で、ブランドコアを構築するうえで、ミッション・ビジョン、そしてバリュー(価値観・行動規範など)が中心的な役割を果たすことをご理解いただけたかと思います。
企業や製品・サービスが「何を目指すのか」、そして「どのような価値を提供するのか」を明確に定義することが、ブランド構築の出発点となります。
このステップでは、ブランドの方向性を明確にする手法の一例として、「P-MMVフレームワーク」を活用した定義の方法について、企業ブランディングの事例を交えながら解説していきます。

P-MMVとは、「PURPOSE(目的)」「MISSION(使命)」「VISION(目標)」「VALUES(価値観)」の4つを整理し、企業の志を具体化するフレームワークです。これにより、企業やサービスが掲げるゴールが明確になります。
「PURPOSE(目的)」は企業やサービスが「なぜ、存在するのか」を考えます。そして、「MISSION(使命)」は「どのような貢献をしたいのか」を考えて定義します。
次に、「VISION(目標)」ですが、具体的に達成ができる目標や理想の姿を考え「どんな未来をつくりたいのか」を定義します。そして、「VALUES(価値観)」は重要視すべき価値を定義します。
このフレームワークに沿って、パタゴニアのコアバリューをP-MVVに当てはめた例が以下です。

こちらで紹介したP-MMVの図のピラミッドは、基本的に下から上へと実現されて成り立つという考え方ですが、企業により定義も考え方も異なります。
企業やサービス側の目指す先(ゴール)を明文化する際の整理に有効なので活用してみてください。

2. ユーザーベネフィットの定義

次のステップは、ブランドが提供する製品やサービスが、社会や生活者(ユーザー)が感じる便益(ベネフィット)を定義することです。
「このブランドを選ぶことで得られる利益」や「他の選択肢との差別化ポイント」を考え整理していきます。
1つ目のステップでは企業・サービス側の観点で「目指す先」や「大切にすべき価値」を考えましたが、このステップ2では、社会や生活者側(ユーザー側)が感じるベネフィット(便益)を明確化することが大きなポイントです。
ユーザーベネフィットを定義する際には以下の3つの価値を整理します

  • 機能的価値:製品やサービスが持つ具体的な機能や性能の利点。
  • 情緒的価値:ユーザーがそのブランドや製品を通じて得られる感情的な満足感やつながり。
  • 社会的価値:ブランドがもたらす社会的な意義や影響。


同じくパタゴニアを例に、ベネフィットの定義を見ていきます。

機能的価値を考える

機能的価値を考える際はその企業・サービスの「具体的機能や性能に関する最大な特徴は何か?」を挙げていくと良いです。
ユーザー視点で「ユーザーが何をするための、どんな問題を解決できる、どこが他社より優れていると思うか」をリストアップします。
たとえば、パタゴニアの場合はその製品の持つ耐久性や機能性が優れていること、リペアサービスを通して修復できるサービスを展開していることが挙げられます。

情緒的価値を考える

情緒的価値は、ブランドを通してユーザーがどのような感情や体験を得られるのかを定義します。「ブランドの印象」やブランドに関わると「どんな気分になるか」、ユーザーがブランド製品を持つことや関わりを持つことで「どんなふうになりたいか」等を考えると定義しやすいです。パタゴニア製品を通して、「持続可能なライフスタイルに共感し行動している満足感」やブランド創業者の哲学への共感などが挙げられます。

社会的価値を考える

そして社会的価値を考える際は、「社会に対してどのような貢献をしているか」その「ブランドが持つ社会的責任や意義はどんなものと考えるか」を検討します。
以下は、これらの例をまとめたものです。

2つ目のステップでは、ユーザーベネフィットの定義についてお話ししました。最初のステップで行った「ミッション・ビジョンの策定」と「価値観・行動の定義」、そしてこのユーザーベネフィットの定義を掛け合わせることで、企業の志とユーザーに提供する便益の接点を見出すことができます。これにより、自社ブランドの本質を明確にし、強固なコアの基盤を築くことが可能となります。

3.ブランド価値を明確化する要素の追加

ここまでで、ブランドのコアとなる基盤が整いました。次のステップでは、それらをさらに具体的に表現する要素を追加し、ブランドコアを立体的に構築していきます。
本記事では、その一例として以下の2つを紹介し、ブランドコアを強化する要素として解説します。

  • ブランドパーソナリティ
  • ブランドメッセージ

ブランドパーソナリティの策定

ブランドをより明確に定義する手法の一つに、ブランドパーソナリティの策定があります。
ブランドパーソナリティとは、ブランドを人間のように捉えたときに、どのような特性や個性を持つのかを明文化するものです。たとえば、人に対して「上品だ」「信頼できる」といった印象を抱くように、ブランドも「上品」「洗練されている」「親しみやすい」などの特性を持つことができます。「パーソナリティ」としてブランドの性格を定義し言語化することで、ユーザーに与える印象が明確になり、ブランドの一貫性を強化することができます。
ブランドパーソナリティを策定する際によく活用されるフレームワークとして、以下のようなものがあります。

  • アーカーの「ディメンションフレームワーク」
  • カール・グスタフ・ユングの「アーキタイプフレームワーク」  など

本記事では、ディメンションフレームワークを活用した手法について解説します。

<ディメンションフレームワークの概要>

ディメンションフレームワークは、ブランドパーソナリティを以下の5つの次元(ディメンション)に分類し、それぞれの特性を分析・定義するための手法です

  • 誠実 (Sincerity)
    • 信頼感や親しみやすさを持つ特性
  • 刺激 (Excitement)
    • 活気や情熱、冒険心を表す特性
  • 能力 (Competence)
    • 知性や信頼性、リーダーシップを反映する特性
  • 洗練 (Sophistication)
    • 上品さや高級感、魅力を持つ特性
  • 頑丈 (Ruggedness)
    • タフさや力強さ、耐久性を象徴する特性

<フレームワークの活用方法>

  1. 自社ブランドの特性を分析する
    自社ブランドがどの次元に属するのかを検討します。
    例:「親しみやすさ」は誠実、「上品さ」は洗練 など
  2. ブランドに適した特性を選定する
    自社ブランドに最適な特性を選択します。複数の次元にまたがって選択することも可能です。ただし、特性を絞り込むことでブランドの個性を明確にできます。
  3. ブランドパーソナリティの言語化
    選定した特性をもとにブランドパーソナリティを明文化します。特性が明確であるほど、ブランドの一貫性が高まり、ユーザーに強い印象を与えることができます。

このようにディメンションフレームワークを活用することで、自社ブランドがどの次元のどの特性に位置づけられるのかを整理し、ブランドパーソナリティを明確に定義できます。位置付けは記載したように複数の次元にまたがることも可能ですが、特性を絞り込むことで、ブランドの個性をより強調することが可能です。個性を強く打ち出したい場合は特性を絞ることをおすすめします。

ブランドメッセージの策定

ブランドを明確に定義するもう一つの手法として、ブランドメッセージの策定があります。
ブランドメッセージとは、ブランドがユーザーに伝えるべき核心的なメッセージであり、以下のような要素を簡潔に表現したものです。

  • ブランドが提供する価値
  • ブランドの個性
  • ユーザーに与えたい印象

キャッチコピーやタグラインなども、こちらに該当します。
ブランドが提供する価値が伝わりやすい例として、スポーツ用品メーカーの「ナイキ」の例をみてみましょう。

事例:ナイキのブランドメッセージ

ナイキのブランドは、「力強い」「情熱的」「挑戦的」「インスパイアリング」という特性を持ちます。
ナイキは、常に挑戦し、常識を乗り越え、他者に勇気を与えるブランドです。ナイキ製品を通じて、消費者に強い印象を与え、前進し、限界を超える力を感じさせます。
ナイキのブランドメッセージは、

「Just Do It」(とにかくやれ)

シンプルながらも強烈なインパクトを持ち、スポーツを愛するすべての人に、挑戦し続けることの重要性を伝えています。

ブランドメッセージを策定する際には、ブランドコアとなる価値観や提供する体験を明確にし、それを一貫性のある言葉で表現することが重要です。以下のステップで考えていくと、より明確で効果的なブランドメッセージを作ることができます。

<ブランドメッセージの策定ステップ>

1. ブランドのコアを整理する(PMVV × ユーザーベネフィットの整理)
ブランドの「ミッション」「ビジョン」「バリュー」と「ユーザーベネフィット」からコアの価値観を整理して導き出します。

2. ブランドのターゲットを明確にする

  • 誰に向けたブランドなのか?(年齢、性別、ライフスタイル、価値観など)
  • ターゲットの課題や悩みは何か?
  • ブランドはどのような価値を提供するのか?

を整理し明確にします。

3. ブランドのトーン&マナーを決める

  • カジュアル or フォーマル?
  • エモーショナル or 論理的?
  • 力強い or 柔らかい?

など、どのようなトーン&マナーで伝えるかを決めます。例えば、ナイキのように 力強く勇気を与えるメッセージ や、ロクシタンのように 温かくナチュラルな雰囲気 を持つブランドでは、使う言葉や表現が異なります。

4. ブランドの「約束」を一文で表現する
例えば、以下のような一文で

  • 「私たちは○○なブランドである」
  • 「○○を通じて、△△な価値を届ける」
  • 「○○な人々のために、△△を実現する」

ブランドがユーザーに対してどのような価値を提供するのかを書き出し、表現してみましょう。そしてそれらを端的なメッセージや言葉としてコピー案を模索します。

以下は著名な例です。

  • ナイキ:挑戦するすべての人に勇気を与える→「Just Do It」
  • アップル:革新を求める人々に新しい価値を届ける→「Think Different」
  • ダヴ:すべての人が自分らしい美しさを持つことを支援する→「Real Beauty」

5. 実際のコミュニケーションに落とし込む
策定したブランドメッセージを、具体的にどのように伝えていくのかを考えます。

例えば、

  • 広告・プロモーション:TVCM、SNS広告、WEBサイトなど
  • パッケージデザイン:商品ラベルやタグラインの表現
  • ブランドストーリー:企業サイトやパンフレットでの発信
  • ソーシャルメディア:ターゲットに合ったトーンで発信

など、ブランドメッセージは 一度作って終わりではなく、ブランドが成長するにつれて進化させていくもの です。ユーザーの反応を見ながら、適宜アップデートしていくことも重要です。

このようなブランドのパーソナリティやメッセージの策定は一例にすぎませんが、コア要素を追加することでブランドの価値をより強固なものにすることができます。ブランドのコアとなる基盤を整えた上で、これらの要素を加えることで、ブランドの個性や魅力がより鮮明になり、ターゲットとなるユーザーに一貫した印象を与えることが可能になります。最終的に、ブランドの持つ世界観が統一され、長期的な信頼や共感を生み出す力へとつながっていくのです。

まとめ

本記事を通じて、ブランドコアの重要性とその明確化・具現化検討の仕方についてご理解いただけたかと思います。ブランドコアは、ブランドの根幹を支える要素の集合体であり、ミッション・ビジョン・バリューを軸に、ブランドパーソナリティやアイデンティティ、コンセプトなどを加えながら、その本質を定義していきます。
ブランドの強固な基盤を築くことは、持続的な成長と市場での競争力を高めるために不可欠です。自社のブランドコアとなる部分を見直し、より一貫性のあるブランド構築を進めていただければ幸いです。

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