NCDCでは業界を問わず、また業務用か、コンシューマー向けかを問わず、さまざまなお客様からシステム・アプリ開発のご依頼をいただき、日々ご支援を行っています。
今回は、そうしたプロジェクトに携わる中で、人間中心設計スペシャリスト※の資格を持つデザイナー伊藤が重要だと感じている「ユーザーリサーチの必要性とポイント」についてご紹介します。
※:人間中心設計スペシャリスト資格とは、ISOで標準化されたUXデザインの実践に必要な知識を体系的に証明する、HCD-Net(特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構)発行の専門資格です。
目次
ユーザーリサーチとは
ユーザーリサーチとは、サービスやプロダクトを利用する人々(以下、ユーザー)のニーズ、行動、思考、感情などを理解するために行う調査活動全般を指します。ビジネスを進める上で、ユーザーが何を求めているのか、どのようにサービスやプロダクトを利用するのかといった情報を把握することは、成功の鍵となります。
ユーザーリサーチは、アンケート、インタビュー、行動観察、ユーザビリティテストなど、様々な手法を用いて実施され、最終的にサービスやプロダクトの改善、新たな価値の創出に繋げることを目的としています。一般的な手法としては、アンケートやインタビューなどがよく知られています。
新規サービスやプロダクトを検討する際には市場規模調査など行われることがありますが、こうした直接的なユーザー理解を目的としない調査はユーザーリサーチには当てはまりません。
ひとことで調査といってもさまざまなものがあるため、ビジネスの種類や段階に応じて、適切なリサーチ手法を使い分けることが重要です。
ユーザーリサーチが重要な理由
サービスやプロダクトの企画担当者として活躍されている方は、多くの場合それぞれの事業領域において深い専門知識と豊富なご経験をお持ちです。NCDCにプロダクト開発のご相談をいただく際も、もちろんお客さま社内では知識と経験に基づく十分な検討を行った上で企画がまとめられています。
しかしながら、ユーザーリサーチ、特にインタビューなどの定性的な調査までは実施されていないケースが少なくありません。そのため「ユーザーにとっての本質的な価値」を見出すことに苦労されていることが多いようです。
比較的容易に行えるアンケート調査は実施されている場合もありますが、アンケートはユーザーの属性や傾向を定量的に把握するための手法であり、「ユーザーにとっての本質的な価値」を見出すには限界があります。
また、コンシューマー向けのサービスの場合は市場分析やポジショニング理論といった視点が企画の中心となることも少なくありませんが、それだけに偏ったアプローチにはリスクが伴います。
なぜならば、サービスやプロダクトの成功に不可欠なのは、顧客が求めているものが適切な市場に提供されること、すなわちPMF(Product Market Fit)の実現だからです。
ユーザーが「お金や時間をかけてでも使いたい」と感じる価値がなければ、いかに戦略的に企画されたビジネスであっても、その成功は難しいと言わざるを得ません。
ユーザーリサーチの基本「インタビュー」
インタビューという言葉は一般的なものとして幅広い分野で使われますが、UXデザインにおいては主に以下の2種類の手法を指します。
- 半構造化インタビュー
- フォーカスグループ
半構造化インタビューとは、質問をクローズドクエスチョンではなくオープンクエスチョンで行い、アドリブで質問を広げ、ユーザーの思考や行動に迫ります。
クローズドクエスチョンとは、「はい」または「いいえ」で答えられる設問や、選択肢の中から回答を選ぶ形式の設問です。一方、オープンクエスチョンは「この業務はどのように行いますか?」のように、ユーザーに自由に語ってもらうための質問です。
フォーカスグループとはグループで議論してもらう形式のインタビューで、ある共通の属性をもった集団の共通認識や一般論を引き出す際に有効です。また、一人一人インタビューを行うスケジュールがないときにも活用されます。
より深いユーザー理解のためには半構造化インタビューが有効です。
一般的に、半構造化インタビューを最低5人に行うことで、ユーザーに共通する行動様式やニーズの兆候が見えてくると言われています。そのため、半構造化インタビューはサービス企画段階で強力な仮説を得るための実践的な手法といえます。
インタビューの基本的な進め方
インタビューは以下の工程で行います。
- 目的設定
- インタビュイーのリクルート
- 質問設計
- パイロットテスト
- インタビューの実施
- 再設計と繰り返し
- まとめ・整理
目的設定
リサーチを行う上でのゴールを設定します。
ゴールはその時点でビジネスの状況によって柔軟に設定します。
企画を始めたばかりの段階であれば、幅広いタイプのユーザーにインタビューを行い、検討中のビジネスに対する行動や考え方のデータを集めます。一方、すでにサービスが始まっている場合は、既存顧客とは異なる層のユーザーにインタビューを行い、利用範囲を広げるための情報を集めることがあります。
ここで重要なのは、インタビューはあくまで「調査」の手法であり、ビジネスの仮説を裏付けたり、商品の価値を評価したりするものではないということです。たった5人に話を聞いただけでビジネスの価値を判断してしまうのは、非常に危険な考え方です。
インタビュイーのリクルート
インタビューにご協力いただく方(インタビュイー)の条件を設計し、募集します。目的設定でも述べましたが、リサーチの目的に合わせて条件は柔軟に設定します。その際、注意すべき点は、プロジェクト関係者や社内の人物を候補に含めないことです。
社内の専門的な要件に関する業務システムに関してインタビューを行う場合は例外ですが、インタビューの際に社内の関係性が影響した忖度が加わってしまうと本来の目的を達成できないため、基本的には関係者は除外します。
一般的には、マーケティングの定量的なレポートやビジネスの目標などに基づいてインタビュー対象者の属性を特定し、モニター募集サイトやSNS、知人の紹介などを通じて応募者を募ります。
質問設計
半構造化インタビューは、通常、オープニング、アイスブレイク、いくつかのオープンクエスチョン、全体を通して気になった点の再質問、そしてエンディングという流れで進めます。オープンクエスチョンの数は、多くても10個程度になることが一般的です。
オープンクエスチョンを設計する際には、事前にインタビューで聞きたい内容をクローズドクエスチョンとして書き出し、それらをグループ分けしてからオープンクエスチョンにすると効果的です。
私自身は、書き出したクローズドクエスチョンはインタビューを行うためのメモとして活用することが多いです。
パイロットテスト
本番のインタビュー調査を始める前に、プロジェクトの関係者などに協力してもらい、実際のインタビューと同じ流れで試行的に実施します。これは、質問の流れやインタビューの進め方に問題がないかを確認するためです。
事前に試してみることで、質問の順番が不自然だったり、回答しにくい点が見つかったりすることがあります。
インタビューの実施
インタビューを実施する上で、特に重要な点を二つ紹介します。
一つ目は、事前説明とラポール(お互いの信頼感や親近感に基づいた、良好な人間関係)形成です。これは、インタビューにご協力いただく方(インタビュイー)の警戒心を解き、考えや気持ちを包み隠さず話していただくための重要なポイントです。
具体的には、インタビューを行う部屋の環境を整えたり、録音などを行う場合はその目的を丁寧に説明し、拒否する権利があることを伝えるなど、インタビュイーが安心して話せるように配慮することで実現できます。
アイスブレークを取り入れるのも有効ですが、インタビュイーの特性によっては逆効果になることもあるため注意が必要です。
二つ目は、オープンクエスチョンと臨機応変な会話の展開です。これは半構造化インタビューの最も大きな特徴であり、ユーザーに自由に話してもらった上で、重要な情報についてさらに深掘りし、より多くの情報を引き出すことを目的とします。
また、一般的に、人は記憶を頼りに話すと表面的な情報しか出てこないことが多いため、「具体的にはどのようにしましたか?」「そうすることでどのように感じましたか?」といった質問を適宜行うことで、予想を超える貴重な情報を得られることがあります。
再設計と繰り返し
たった一人にインタビューするだけでもさまざまな発見があり、それらをもとに質問内容やインタビューの流れを改善できます。ただし、インタビューを実施するたびに次回から大きく質問内容を変えてしまうと、後でデータを整理する際に一貫性がなくなる可能性があるため注意が必要です。
インタビュイーに資料を見せる場合の見せ方を調整したり、追加で質問したい項目などを修正しながら、本番のインタビューに臨みます。
まとめ・整理
インタビューが終わったら、その結果を関係者に共有したり、プレゼンテーションしたりするために、内容を整理して資料にまとめます。
まとめる形式は、インタビュイーごとにインタビューシートのような形式で記述しても良いですし、上位下位分析やペルソナを作成しても良いでしょう。プロジェクトの目的に合わせて、最適な方法でまとめます。
「何が欲しい?」との質問は無益
ユーザーインタビューで特に注意すべき点は、「何が欲しいですか?」という質問をしてしまうことです。この質問は一見有効に見えますが、多くの場合、有益な回答は得られません。
なぜなら、人が欲しいと思うものは、基本的に「すでに存在する何か」に基づいており、まだ存在しない新しい価値を自ら思い描くことは難しいからです。
親切心から答えてくれるユーザーの意見をそのまま信じてしまうと、かえって判断を誤る可能性があります。
重要なのは、「ユーザーが実際にどのような行動をしているのか」「なぜそのような行動を取るのか」といった具体的な行動や思考を探ることです。ユーザーはこのような新しいサービスがあると嬉しいのではないか?という仮説を立てるために、まず行動や思考を正しく知ることがユーザーインタビューの目的です。
ユーザーリサーチが足りていなかったらNCDCへ
この他にもNCDCのユーザーリサーチにはさまざまな手法やポイントがあります。ユーザーリサーチをスポットで相談いただくことも可能です。「ユーザーにとっての本質的な価値」を見出すことに苦労されている方は、お気軽にご相談ください。