2022年7月28日にオンラインセミナー『新規事業立ち上げや商品・サービスの差別化に役立つ「ブランディング」のポイントとは?』を開催いたしました。この記事では当日用いた資料を公開し、そのポイントを解説しています。
なお、このセミナーは大規模なブランディングに取り組む方向けでなく、新規事業の立ち上げなどに関わるためにブランディングについて学びたいノンデザイナーの方向けの内容です。ブランディングの基礎知識や、人も予算も少ないプロジェクトでも最低限考えておきたいブランディングの要点などをご説明します。
目次
ブランディングとは?
ブランディングとは、商品やサービス、もしくは企業のイメージにある一定の方向性を作り出すことで、競合と差別化をすることです。
誤解されがちですが、かっこいい広告やロゴをデザインすることがブランディングのゴールではありません。広告やロゴのデザインなどを含む多様なメッセージを通じて「差別化された状態をつくる」ことこそがブランディングの本質だということです。
ここでいう差別化とは、競合とどう違うのかというそのブランドの持つ本質的価値がお客様に正しく伝わることを指しています。
ブランディングにより期待できる効果
ブランディングによって期待できる効果は以下のようにさまざまあります。
- 価格競争をしない
- 競合の新規参入を阻止
- 広告費などのコスト削減が可能になる
- 採用による人材確保
- 社内メンバーのモチベーション向上
- 優良な取引先を確保
- 満足感や期待感を上げることができ、リピートにつなげられる
「そのブランドの持つ本質的価値がお客様に正しく伝わっている状態」を作り出すことができれば、その価値を求めるお客様は自ずと購入してくれるので、他より安くないと売れないというような競争に巻き込まれるリスクが減ります。
ブランドの起源は?
そもそもブランドの起源とは何なのかにも少し触れておきたいと思います。
諸説ありますが、放牧していた自分の牛が他の牛と混ざってしまったときに区別がつくように「焼き印を押す」行為を表す言葉が転じてブランドとなったといわれています。
つまり、ブランディングという言葉にはそもそも「他と区別する」という意味があります。
「ブランド=高級ブランド」という誤解をされている方も時々いますが、このように商品やサービスを競合と区別することがブランドの意味なので、価格は関係ありません。ユニクロや無印良品というブランドをイメージしてもらうとわかりやすいのではないでしょうか。
よくあるブランディングの失敗
ブランディングの悪いケースと良いケースを、概念図を用いて解説します。
緑色の丸が企業側で意図しているブランドとします。
NG例では、企業側から伝えたい情報が顧客の方に届いたときに変わってしまっていまい、ABCがそれぞれ別のイメージを持ってしまっています。企業から顧客に情報がうまく伝わっていないということです。なぜそのような状態が起きてしまうのでしょうか?
ひとつ例を挙げて説明します。
ある一般消費者向けの商品開発でデザイン重視の企画を立てたとします。斬新なデザインを前面に打ち出すことで、競合と差別化を図りたいというのが最初の案です。
しかし、社内承認を取り付けるために各部署に回覧したところ、営業部からは特売キャンペーンを製品発表の目玉とする指示が、開発部からはマシンのスペックをもっとアピールするようにと指示が出てきたとします。
これらの方向性の異なる意見をうまく整理できずにすべて盛り込んでしまうと、何が最大の特徴かわかりにくく情報量だけが多い広告ができてしまいます。こうして、企業から顧客に情報がうまく伝えられないという問題が起きてしまうのです。
こうした問題を解決するためには、「ブランディングにおいて情報はできる限りシンプルにする。その上で大事なポイントや他社と差別化ができている点にフォーカスしていること」「伝えることだけではなく、伝えないことも明確に分けること」が重要です。
ブランディング=マーケティングではない
ブランディングとマーケティングの区別がつかない方もいるようなので、その違いについてもご説明します。ブランディングが伝えるための活動であることに対して、マーケティングとは売るための活動です。手段レベルでは、ブランディングもマーケティングと似たようなことを行いますが、目的が違うのです。ブランディングの目的は「売る」ではなく、「伝える」。別の言葉で表現するとファンになってもらう活動ともいわれています。目的を間違えるとブランディングの失敗につながってしまうので、最低限、マーケティングとは似て非なるものだということだけは認識しておくと良いと思います。
ブランディングを進める上での必須条件
ブランディングを進める上での必須条件は以下の3つです。
- 良いサービス・良いプロダクトであること
- メンバーの熱い想い
- 伝えるためのコミュニケーションチーム
まず一つ目は、良いプロダクト・良いサービスであるということです。
サービスやプロダクト自体に特徴や強みが無いものはいくら頑張ってもブランディングの本質である差別化はできません。明確な基準はありませんが、サービスやプロダクト自体のクオリティが市場の中で競合に見劣りしない一定の水準を超えていることは必要です。
二つ目は、メンバーの熱い想いです。
熱い想いを判断基準の真ん中に置くとブランドの芯が揺らぎません。先程、ブランディングとマーケティングは目的が違うという話をしましたが、売上や損得勘定を中心にブランディングの意思決定を行うとブランドの本質がブレていき、伝える活動が効果を成さなくなってしまうのです。
三つ目は、伝えるためのコミュニケーションチームです。
新規事業の場合、資金が潤沢にあるプロジェクトは少ないため、限られたリソースの中でブランディングにも取り組むことになります。自社内でブランドを伝えるためのメンバーを育てていかなければいけません。この場合、先に挙げたメンバーの熱い想いをストレートに反映するためにも「作る」メンバーと「伝える」メンバーは同じであることが理想的だと思います。
ブランディングの進め方
ここからは「新規サービスのブランディングにおいて最低限抑えておきたいポイント」を中心に解説します。
社内にディレクターやデザイナーが居て、すべてのプロセスに継続的に関与できるのが理想的ですが、新規サービスの立ち上げ時にはそのような体制はあまり期待できないと思います。
そこで、できる部分は社内のメンバーで行った上で、専門性が高いところは外部のデザイナーなどに依頼するという進め方を想定して説明します。
まず、ステップ1として次の3つを説明します。
- リサーチ&プランニング
- コンセプト定義
- ネーミング開発
このステップ1は社内のメンバーで(プロジェクト関係者が中心となって)進めます。
そして、ステップ2ではブランドを具現化するプロセスとして次の2つを説明します。
- ムードボードやパーソナルスライダーを用いた方向性の検討
- ロゴやWEB、チラシや映像などの制作
このステップ2は外部のディレクターやデザイナーなどに依頼して一緒に作り上げていきます。
一定の方向性をつくるデザインディレクション
「方向性の検討」や「ディレクター」という言葉が出てきたので、ここで簡単にデザインディレクションについて触れておきます。
ブランディングやデザインに関する知識をあまり持っていない場合、「ブランディング=デザイン」であり、それは「デザイナーの仕事」だと考える方も多いと思いますが、それは間違いです。しっかりブランディングに取り組むためにはいきなりデザイナーが何かをつくるのではなく、まずデザインの方向性を決めることが大切です。
新規事業を立ち上げる際には、ロゴやWEBサイト、パンフレットなどさまざまな関連物のデザインも必要になると思います。こうして多くの制作物があると、デザインディレクションを気にせず、各ツールをバラバラに複数のデザイナーに発注してしまうケースは意外と多いのではないかと思います。
それでもそれぞれのデザインは作れますが、一定の方向性やルールが示されていないとクリエーターが思い思いに良さを伝えようとするため、統一感のないものが仕上がってしまいます。
そうするとメッセージに統一感がなくなり「企業側の意図したものと顧客側の受け取り方が違う」という、最初に挙げたブランディングの失敗がすぐに起きてしまいます。
デザインを外部に頼む場合、広告代理店、デザイン制作会社、フリーランスのデザイナーなどの選択肢があると思いますが、複数関わる場合は誰がデザインディレクションを担うのか決めておく必要があります。
また、ディレクターとなる人物は社外の人であっても社内のメンバーのように一緒に考えることが大切なので、忌憚なく発言してもらえるような関係づくりが必要です。何かを作る瞬間だけ依頼するのではなく、制作の前や、制作物が一旦仕上がった後も定期的に意見交換して、ブラッシュアップしていけるような間柄であることが理想的かもしれません。
ステップ1「ブランドを設計する」
本題に戻ります。
ステップ1は「ブランドを設計する」です。これらは社内のメンバーで(プロジェクト関係者が中心となって)進めていくことをイメージしています。
リサーチ&プランニング
まずは、競合のリサーチをチームメンバーで行います。メンバー全員の認識を合わせるという意味で、特定の人だけでなく、多くのプロジェクト関係者がチームとして取り組むと良いでしょう。
競合のリサーチを通じて自分たちの強みを考えていきます。他者と同じことをしていてはブランディング(差別化)にならないので、他社はどのようなコンセプトで、市場の中でどんなポジションにいるかは注意して見ていく必要があります。
上図のようなポジショニングマップは、市場における自社の立ち位置を定めるために役立つフレームワークです。競合との違いを理解し、自ブランドではどのようなポイントを訴求すべきかを考えるために有効です。
自ブランドの強みを知るための方法としては、この他に3C分析、PEST分析、SWOT分析などのフレームワームも挙げられます。
コンセプト定義
次に、リサーチとプランニングで見えてきた自ブランドの進むべき方向性をコンセプトとして定義します。ブランドのコアとなるものなのでブランディングにおいてとても重要なフェーズです。
通常、ブランドコンセプトは1単語から1文程度の短いテキストに集約させます。
ブランディングを上手に行うための言葉のデザインのコツは、「短くて覚えやすい」ことです。
有名な例を挙げると、家庭とも職場とも違う人々がリラックスできる3つ目の居場所というスターバックスコーヒーのコンセプト「サードプレイス」や、個性や流行とは関係なく満足できる省資源、低価格、シンプルな商品を作るという無印良品のコンセプト「これでいい」などがあります。
ネーミング開発
製品やサービスの名前を決める方法は、外部の専門家(コピーライターなど)に依頼する、社内で公募するなどさまざま考えられますが、新規サービスの立ち上げ時に関しては、そのプロジェクトの関係者でワークショップなどを行なって検討するのが良いかと思います。
ネーミングのポイント
ここでネーミング開発の重要なポイントをいくつかご紹介します。
- ブランドコンセプトを表現しているか
- オリジナリティーがあり市場で差別化できているか
- シンプルであること
- 印象的で発音しやすく覚えやすいか
- ドメイン名が利用可能か
- 気にいっているか
- ネガティブチェック/商標登録ができるか
6つ目の「気に入っているか」は抽象的でわかりにくいですが、関係者が納得感を持って決めたかどうかだと考えてください。トップダウンで知らない間に決められてしまった名前と、関係者が納得するまで話し合って決めた名前では、その後対外的にブランドのメッセージを発信していく際の熱意に差が出てしまうので意外と重要なポイントだといえます。
7つ目の「ネガティブチェック/商標登録ができるか」は見落としがちですがこれも重要です。要は本当にその名前で問題ないかどうかの確認です。
魅力的な名前に思えても他社の商標を侵すものはNGですし、意図しなくてもネガティブな意味を持ってしまうような名前は避けるべきです。特に国外に展開する場合は、音の響きがその国の言葉でふさわしくないものを想起させないかまで考える必要があります。
ここまでをステップ1「ブランディングの設計」とします。
ブランドの目指す方向性を決め、コンセプトとして短い言葉で定義し、ネーミングを決める。これらは必ずしも外部の専門家に頼らなくてもできるのではないでしょうか。
ステップ2「ブランドの具現化」
先に書いた通り、ここから先はある程度のデザインの専門知識などが必要となるので、ステップ2は外部のデザイナーなどに依頼して一緒に作り上げていく工程だと考えてください。
ムードボード
まずはムードボードというものを作成し、ブランドのイメージを視覚化することで、ビジュアルの方向性を検討していきます。
ノンデザイナーの方が特別難しいことをせずムードボードを作るなら、ピンタレストで自ブランドに近いと思った画像をひたすら集めておくという方法があります。ピンタレストでつくったボードをデザイナーに見せることで自分のイメージを明確にデザイナーに伝え、認識のずれをなくすことができます。
※ムードボード:特にインテリアやファッション、グラフィックデザインの分野で一般的に利用されているアイデアやコンセプトを、紙面やスクリーン上にまとめてコラージュしたものを指します。写真やイラストデザイン、配色カラーパレット、テクスチャ、追記事項など何でも含めることができ、プロジェクトの進行を手助けしてくれます。
パーソナリティスライダー
続いて、パーソナリティスライダーをご紹介します。ムードボードと同様に、イメージを具体化していく際に使えるフレームワークの一つです。
下図のように「モノトーンなのかカラフルなのか」などのイメージを示すスライダーを用いて、抽象的なイメージを言語化していきます。これをデザイナーと依頼者の両者でそれぞれ行いメージのすり合わせに使います。具体的には、下図では緑色の丸がデザイナーのイメージ、青丸が依頼者のイメージを表しています。「モノトーン・カラフル」などの軸は厳密に決まっているものではないので、デザイナーと一緒に考えていくと良いと思います。
ロゴ等の制作
ムードボードやパーソナリティスライダーを使ってそのブランドにふさわしい表現の方向性が定まったら、その方向性に沿って実際に使うロゴ、WEBサイト、パンフレットなどを制作していきます。
具体的なデザインをつくる作業自体はデザイナーに依頼すべきものなのでここでは詳しい話は省略します。ただ、複数のデザイン案から何を採用するのか判断は発注者側で行う必要があり、その検討時には単なる好き嫌いではなく目的を理解して判断することが大切なので、ロゴ作成を例にいくつかポイントだけご紹介します。
まず、ロゴの目的としては以下の2つが挙げられます。
- コンセプトやストーリーなどを伝えること。
- サービスを認識してもらうこと。サイン的な意味で識別してもらうこと。
ロゴの目的をしっかりと認識した上で判断すれば、コンセプトとは無関係な個人の好き嫌いで決めてしまったり、競合と比較せずに決めてしまったりすることはできないはずです。
また、ロゴ制作に限っていえば、小さなスペースでコンセプトの表現や他ロゴとの識別を実現しないといけないので、ある程度の量をつくって数多くの候補を見ながら検討するプロセスも大切だといえます。最低でも20~30個のロゴ案を用意し、絞り込みながらデザインをブラッシュアップしてつくっていくのです。ちなみに、大手のブランディング専門の会社では、ロゴ制作の際は最低でも200案は作るそうです。
下図はTeamPlanetというNCDCが開発したSaaSのロゴのデザイン過程の資料です。
このように多くのロゴ案を用意して、サービスの提供したい価値を表しているか、他ブランドと比較してどう感じるかなど、多くの観点を持って社内で検討を行いました。
ロゴ制作では、デザインの耐久性も忘れず検討しておくことが必要です。
具体的には、ロゴデザインの最終段階ではWEBサイトやチラシなど実際の用途に当てはめてみて確認することが大切です。ロゴ単体を大きなサイズで見ているときは良いと思ったが、実際のWEBサイトに載せてみたら思っていたのと何か違うというような問題はとてもよく起こります。
ロゴの印象はサイズや周りの要素によっても変わりますし、細かいデザインの場合は実際によく使うサイズで十分な細部の視認性があるのかどうかがとても重要です。そういったことを確認するためには多様なツールに実際に当てはめてみたらどうなるのか、各ツールの完成イメージを用いてデザインの耐久性をチェックすることが必要なのです。
最後に、こうした判断のプロセスを誰が担当するかですが、ネーミングの項目で説明したのと同じくロゴもトップダウンで決めるのではなく、チームのメンバーで議論して納得するまで話し合って決めていくのが理想的だと思います。
ロゴデザインのプロセスを図解付きで公開という記事で、詳細なロゴ制作プロセスや検討過程の例も紹介していますので、ぜひ併せてご覧ください。
リリース後も続くブランディング
ここまで「新規事業の立ち上げ時」をイメージして説明してきましたが、ブランディングは最初に作ったコンセプトを長い時間かけて体現していく取り組みだといえます。時が経てば市場の状況が変化していきますし、変化する市場の中でお客様のブランドへの感じ方も変わっていくので、そうした変化に対応していくこともブランディングには欠かせません。
つまり、ブランディングは立ち上げた時がスタートで、その後もデザインのメンテナンスなどをしながら継続的に育てていくことが必要なものなのです。最初に一通りのデザインをつくってしまうとそのあとは意識が薄れがちですが、ブランディングは継続が重要であることも是非覚えておいてください。
新規サービスのご相談はNCDCへ
ビジネスにおけるブランディングの重要性は広く認知されつつありますが、新規サービスの立ち上げ時などはそこまで手が回らず、ブランディングは二の次という扱いにされているケースも多いようです。
しかし「商品やサービスを競合と差別化してお客様に認識してもらう」という意味において、ブランディングは重要な事業戦略のひとつだといえます。
先進的なデジタルサービスの立ち上げ支援を得意としているNCDCでは、サービスロゴ、UI、各種マーケティングツールなどサービス立ち上げ時に必要になるもののデザインを担うことも多く、ブランディングという視点を持ってサービスコンセプトの明確化やデザインディレクションからご支援しているケースも多々あります。
新規サービスのブランディングやデザインに課題をお持ちの方はぜひご相談ください。