こんにちはCTOの十川です。
前回「IoTのビジネス活用事例 代表的なパターンとは?」という記事を書きましたが、今回はIoTを導入するときによくある課題を説明したいと思います。
NCDCはIoTを用いたプロジェクトの実績が豊富なので、経験から学んだ注意点を皆さんにお伝えできれば幸いです。
目次
機器からデータをどう取得するか?
IoTの導入時によくある課題の一つ目は「既存の機器からデータを取得できるのか?具体的にどう取得するか?」です。
最初は「この機器からこんなデータを収集したら役に立つはずだ」という発想から始まると思いますが、それが技術的に可能なのかどうか? アイデアの実現可能性が最初のポイントになります。
IoTで機器からデータを集めるというアイデアが出る場合、その機器自体がもともと内部にデータを記録していることは多いと思います。
しかし、問題はその先です。その機器がインターネット経由でクラウドにデータをアップロードする機能を持っていれば話は簡単ですが、昔から使われている機種なんかだと通信の仕組みを持っていない機器の方が一般的ではないかと思います。
NCDCが関わったプロジェクトでは、電車の車両、建設機器などからIoTでデータを収集したケースがありますが、この手の機械は開発されてから十年以上使われることが多く、欲しいデータを内部に保持していないとか、インターネットにつながる機能を持っていないことも多々ありました。
一方で、製造業ではかなり前からファクトリーオートメーションが進んでいるので、工場内のデータを収集する場合、比較的IoTに対応しやすい機器が多いのではないかと思います。
また、機器の種類にもよりますが、老朽化を見据えて何年か後にはリプレースするという計画を立てている場合「どうせ数年後に使わなくなる既存の機器に新たな投資は行いたくない」と考えるのが普通ではないかと思います。
この場合、リプレース後にIoTも再検討という話になりがちです。
類似の問題としては、対象となる機器を自社で保有していないのであまり自由に扱えないというケースもあると思います。
具体例を挙げると、建設現場で使われる大型の建機などはリース会社が保有しているとか、工事を依頼している協力会社が機械を現場に持ち込んでいるというケースも多いです。その場合は、機器メーカーや機器を保有している会社にあらかじめ協力してもらう準備をしておく必要があります。
こうした背景があるので、IoTを導入したいという企画が出た際に、「既存の機器からデータを取得できるのか?具体的にどう取得するか?」という点が最初の課題になるケースは意外と多いです。
機器からデータ取得するいくつかのパターン
先に書いた通り、データを取得したい機器がインターネットにつながる仕組みを持っていないとIoT導入の敷居は少し高くなりますが、それでも工夫すれば必要なデータを取り出して利用できる可能性は十分にあります。
次に、NCDCで実践したことがある、機器からデータ取得する方法をいくつかご紹介します。
PLCやシーケンサーを経由する
一つは、建設機器や工場の生産装置によく使われている制御用のPLC(Programmable Logic Controllerプログラマブルロジックコントローラー)や、シーケンサーと呼ばれる装置を利用する方法です。
PLCやシーケンサーとは、キーエンスさん、住友電工さん、三菱電機さんなどが作っているもので、それが建設機器や生産装置などの中に組み込まれていて、いろいろなデータを管理・制御しています。
PLCやシーケンサーが利用できれば、そこに有線のLANケーブルなどを繋いでデータを取り出し、別途用意した通信機器を用いてクラウドにアップする仕組みが考えられます。
最近の機械だとBluetoothやWi-Fiの機能を持っていることもあるので、その場合は有線でやる必要もなく、BluetoothやWi-Fiでまずエッジサーバに繋ぎ、そこからクラウドにアップすることが可能です。
NCDCが関わったプロジェクトでは、まずPLCやシーケンサーを確認し、それが使えそうなら該当機器の仕様を調べて(どういう口が用意されていてどの経路だったらアクセスできそうかを調査して)、データ取得の方法を検討していくケースが多いです。
ただ、このPLC、シーケンサーのような制御装置はデータにアクセスする口は用意されていることが多いのですが、そこからどういうデータの取り方ができるのか(プロトコルといいます)は、メーカー独自で決められていることが多いのが難点です。
PLCがあれば必ずこのやり方でデータが取れるという汎用的な決まりはないので、メーカーやプロトコルを確認し、個々に対応する必要があります。
新たにセンサーを取り付ける
正攻法ではないやり方(もともと用意されているアクセスする口を使わない方法)もいろいろ考えられます。
ひとつには機器の内部にあるデータを取るのではなく外側にセンサーをつける方法があります。機器の内部データと比較して正確ではないかもしれませんが、大まかなデータが得られれば良い場合は有効です。
例えば、工事現場で使う重機に赤外線・超音波の距離センサー、ジャイロセンサーなど付ければ、だいたいの動作距離を計測するようなことは可能です。
SDカードのWi-Fi機能を利用する
少し古い機器だと、インターネットに繋がる機能はないがSDカードにデータを保存していて取り出しは容易だというケースもあります。そういった機器の場合はFlashAirというWi-Fi機能を持ったSDカードを用いることで、無線でデータを取得することができるかもしれません。
(ただ、FlashAirは最近在庫があまりなさそうなので、新規で検討する場合は別の方法を考える必要があるかもしれません)
取得したデータが業務利用に十分なものか?
IoTの導入時によくある課題の二つ目は「データは取得できているけど必要なデータがない」です。「業務に活用できるレベルではない」ということもよくあります。
IoTでデータを収集してそれを活用するには、大きく分けてふたつの進め方があると考えています。
パターン1.見当をつけてからデータを集める
一つは、事前にこういうデータが必要だろうと見当をつけておく進め方です。
はじめに「こういう業務改善をしたい」「こういう分析をしたい」という目的があって、そのためにどんなデータが必要なのかブレイクダウンしていき、取得すべきデータを決める方法です。
見当をつけていたデータが本当に取れるのかどうか技術的な課題はあるかもしれませんが、この場合、意図したデータさえ取れれば実際に活用できる、意味あるデータが得られやすいのではないかと思います。
パターン2. データを集めてから使い方を考える
もう一つは、取れるデータを全部集めてみて、その後でデータの相関性などを分析する進め方です。
この進め方は問題が多いので、「とりあえず取れるデータを見て考えよう」というIoTの企画の仕方はあまりお勧めしません。
とりあえずデータを取っておくという考え方の問題点を一つ挙げると、データ量が多いだけでトレーサビリティが難しいという問題があります。
複数の装置からさまざまなセンサーのデータを取得して分析する場合、どのデータがどの装置の何を示すのか判別するために識別子が必要になります。例えば、製造番号、注文番号、トランザクションIDと呼ばれるような要求の一つひとつにユニークに振られる番号がありますが、複数の装置・複数のセンサーのデータを横串で分析するためのそういった識別子が必要になるのです。
具体例として、製造現場にIoTを導入して各工程のデータを取得していたケースを考えてみてください。
出荷時の検品でNGの製品が見つかり、製造工程のデータでその原因を調べてみようと思っても、何時何分にどの生産装置から得たどのデータがNG製品に該当するのかを正確に追える状態でないと(トレーサビリティがないと)、有効な分析ができません。
もうひとつ例を挙げると、データを分析する段階になって「あのデータも取得しておかないとダメだった」というデータの欠けが発覚することもよくあります。
そうなると、過去のデータは取れないので取得項目を追加してもう一度データを取るところからやり直しになり、結果を分析できるのが1ヶ月後にずれ込むというようなリスクも出てきます。
計画的にデータを集めることが大切
「見当をつけてからデータを集める」「取れるデータを全部集めてから使い方を考える」という2つの進め方を紹介しましたが、できれば前者の進め方で、業務知識や機械の知識を持っている方にも検討の中に入っていただいて実施するのがお勧めです。
現場にどういう課題があって、どんなデータが取れたら有効な分析ができるのかを事前に把握し、計画的にやる必要があります。
後者の進め方は、たとえば業務知識や機械の知識を持っている方でもまったく認識していないようなデータ間の関連性や、隠れた課題を見つけるという目的で、前者のやり方に付加して行う場合は有効だと思います。その際はAIや機械学習を用いて分析を行うと良いと思います。
導入する場所が増えても効率的な運用が可能か?
IoTの導入時によくある課題の三つ目は、「遠隔地対応」です。
IoTを本格的にビジネスに活用する場合、全国の工場、工事現場、倉庫など、いろいろな場所のデータを取得することが考えられます。そうすると、管理対象となる装置やセンサー、エッジサーバーの数が増え、対応すべきエリアも広がっていきます。
例えばエッジサーバーのソフトウェア更新があった場合、バージョンアップするために一旦現場から機器を送付してもらったり、誰かが出張して入れ替えたりするのは非常に大変です。
AWS IoT Greengrassを用いた管理
IoTを業務利用する場合、多くの場所で多くのデータを取る可能性が高いため、クラウドから一括で遠隔地にあるハードウェアのソフトウェア更新を行うような仕組みが必要になるケースが多いです。
その際、NCDCではAWS IoT Greengrassというサービスをよく使っています。エッジサーバーにGreengrassを入れておくとクラウド上でソフトウェアの一括配信やエッジサーバーのエラーのログ監視などができるのです。
エリアを限定してプロトタイプで運用しているような段階ではそこまで用意しなくてもいいと思いますが、全国展開していくときは遠隔地でも効率的な運用ができるような仕組みを考えていく必要があると思います。
IoTプラットフォーム「ミエルコウジ」
NCDCでは、建設業にフォーカスしたIoTプラットフォーム「ミエルコウジ」を提供しています。
IoTでデータを集める仕組みとモバイルアプリ、Webアプリなどをセットで提供しているので、ミエルコウジによって現場の管理、現場の建機から取得したデータの見える化、帳票の出力などが便利に行えます。
この記事ではIoTの導入時によくある課題をご紹介してきましたが、例えば建設業であれば上記のミエルコウジを利用するなど、その業界で実績があるサービスを活用するのもひとつの手だと思います。
ミエルコウジは建設現場で用いられる機器との繋ぎ方、取得したデータの活用方法、遠隔地の監視などのノウハウが詰まっているので、IoT導入時に気なる課題の多くが比較的容易にクリアできます。
また、ミエルコウジは建設業にフォーカスしていますが、当社が持つIoTプラットフォームの構築経験と、それに基づくノウハウや技術は建設業に限らず応用が可能なものです。
製造、物流など他の業界でもIoTを業務に活用する機会は多いと思いますので、IoTの導入で悩んでいる方、既存のIoTの仕組みに課題を感じている方などがいらっしゃればお気軽にご相談ください。