2022年4月27日にオンラインセミナー『実践で違いを生むUX知識「ペルソナとカスタマージャーニーマップのウソ・ホント」』を開催いたしました。
この記事では当日用いた資料を公開し、そのポイントを解説しています。
UXデザインとは?
「UX」とはユーザーエクスペリエンスの略称で、日本語では「ユーザー体験」や「顧客体験」と訳されます。
ユーザー体験とは、ユーザーが一つまたは複数の接点(タッチポイント)から得られる体験のことです。サービスを初めて知った時から、購入する、実際に使ってみるなど、製品に関して得られる体験全体のことだと考えてください。
またUXデザインの「デザイン」は色や形を創るという美術的な意味ではなく、「設計」の意味で使われています。
つまり日本語に訳すと、UXデザインとは「顧客体験を設計する」ことです。
なぜ、現在UXデザインが注目されているのでしょうか。
それは、物があふれ機能や価格での差別化が難しい現代においては、ユーザーが「心地よい体験」や「満足感」を重視して商品やサービスを選ぶようになってきているからです。
では、具体的にどのようにしてユーザー体験を設計していけば良いのでしょうか。
より良いUXを提供するには、ユーザーの無意識下にある要望や不満を把握することが大切です。これらを可視化するために「カスタマージャーニーマップ」がよく用いられます。
カスタマージャーニーマップとペルソナ
カスタマージャーニーマップ(以下CJMと略します)とは、ユーザーの行動とその際の思考・感情・心理状態を可視化した図のことです。
CJMにはグローバルで標準化されているテンプレートのようなものはなく、多くの人が目的に応じて試行錯誤してつくっています。
NCDCでは下図のフォーマットを用いることが多いです。
この特徴は、インサイトという項目があることです。インサイトとは簡単に言うと本音のことで、行動や思考の裏にある本音を想起していきます。
このCJMを作るために必要な材料が、「ペルソナ」です。
「ペルソナ」とは、製品やサービスを使用する典型的かつ仮想的な人物像のことです。ペルソナには仮面という意味もあり、CJMを作る人は仮面を被ってその人物になりきる必要があります。
なりきるためにはペルソナがどんな人物なのかを具体的に想像できないといけないため、ペルソナの名前や年齢、仕事、趣味、生活習慣などを細かく設定していきます。
ここまでがUXデザインと、ペルソナ、CJMの概要説明です。
次に、ペルソナとCJMそれぞれについてお客様からよくいただく質問をいくつかピックアップし、ペルソナ、CJMづくりの際に大切なポイントをお伝えします。
ペルソナのウソ・ホント
老若男女すべてがユーザーになりえる場合、全ペルソナを定義する必要がある?
結論からいうと、すべてのペルソナを定義する必要はありません。
ビジネス的に注力したいターゲット層をまずしっかり作ることが重要です。
高齢者なども使う場合、ユーザビリティに特別な配慮が必要なことがあるためペルソナが必要ではないかという相談もよく受けますが、メインターゲットではない場合は基本的にはペルソナとCJMを用いて検討する対象に含む必要はありません。
配慮が必要なユーザーに対しては、サービスを使用していただくために欠かせない要件を追加してあげれば良いと思います(たとえば高齢者向けに文字を大きくする機能を足すなど)。
ペルソナになりきれないが、仮想の人物像なので適当に考えるしかない?
ペルソナになりきれない理由の多くは、どんな人物なのかを具体的に想像し得る知識を持っていないためだと考えられます。そんな時はUXリサーチを行います。
UXリサーチとはその名の通りUXに関する調査でさまざまな手法がありますが、ペルソナに近い人にヒアリングやインタビュー、アンケート等を実施するといった調査もあります。
ペルソナを定めるための調査で重要なことは、特定の人物を調査するのではなく、必ず複数のユーザーに対して調査を行うことです。ペルソナは「典型的かつ仮想的な人物像」なので、特定の人物になってはいけません。
ペルソナをつくる際に考えるべき属性(項目)は決まっている?
原則は、どんな人物なのかイメージできるだけの属性を考える必要があります。とくにペルソナをイメージしにくかったり、関係者間で人物像が共有できていなかったりする場合は、設定を細かくしてペルソナを具体的にしていきます。
一方で、そこまでしなくても誰もがペルソナをイメージできて、意見のずれも起きないようない場合は、そう多くの設定をつくらなくても問題ありません。
ペルソナのつくり方に決まりはないので、何らかのフォーマットに無理やり合わせて、無駄な項目を埋める必要はありません。
ペルソナの設定ができたら、次にそのペルソナの行動、思考、本音を書き出していくCJMを作成します。
カスタマージャーニーマップのウソ・ホント
CJMはとにかくその人の行動を朝から書いていけばいい?
CJMを描き始めるときは、議論したいことや、ある製品とユーザーの接点にある課題を見つけたいというような、キーにポイントを定め、そこに直接関わる行動を初めに置くことです。
キーになる行動を中心として、そこに至る前後の行動を列挙していけば、その行動に至るペルソナの気持ちやその背景にあるものを探ることができるはずです。
そして、CJMを作成する上でもう一つ重要なことは、まず「現状」を書くということです。
現状というのは、サービスが開発されていない、導入されていない状態のことです。ユーザーが持つ何らかの課題をそのサービスで改善したい場合も、まず改善する前の「今」の状態で書いていきます。
この、現状で書くことを「As-Is」と言います。反対に、あるべき姿や理想の状態を「To-Be」と言います。
こんなサービスにしたいとか、こんな機能を追加したいといった構想が頭の中にあると、どうしても理想形で描きたくなってしまうのですが、まずはAs-Is(現状)を作成し、ユーザーの不満や課題を探ることが大切です。余力があれば理想型のTo-Beに取り組んでください。
CJMでユーザーの行動「DO」は、できるだけ細かく書くべき?
ユーザーが何を感じているかを大まかに把握したい場合は、かなり広い視点で「DO」を設定するのが適しています。議論したい内容と関係のないところを細かく書く必要はありません。
一方で、あるツールの特定の部分の機能について問題点を見つけたいというような、ユーザー体験の細部に目を向けることが重要な場合は、できるだけ細かい粒度で「DO」を設定します。
DOの粒度を粗いものから細かいものまで段階的に作ってみて、課題がありそうな所や新しい発見がありそうな所を見つけたらその点をどんどん深掘りしていくと良いと思います。
CJMをつくったら必ず検証すべき?
CJMそのものを検証するわけではないですが、CJMで考えたことが正しかったかどうかを知るには、できるだけ素早く、コストを抑えてプロトタイプを作りユーザーに体験してもらうことがお勧めです。
CJMそのもので机上検証を何度も行おうとするのではなく、プロトタイプを用いたテストでフィードバックを得たら、それを改善してまたユーザーに使ってもらうという繰り返しが重要です。
ただし、仮説とプロトタイプでのテスト結果にあまりにも大きな差異があるようであれば、ペルソナの設定やCJMを見直す必要があります。
セミナー当日の質疑応答
セミナー中にもいくつかご質問をいただきました。
多くの方の参考になりそうな良いご質問が多かったので、回答・公開できるものをピックアップしてここでご紹介します。
(なお、ご質問の文言は当社で編集しています)
As-IsでCJMを作成しなければならない理由は何か?
例えば何らかのサービスでユーザーの課題を解決するためにCJMをつくっているとします。将来のあるべき姿(To-Be)から描くと、既に問題が解決してしまっている理想的な状態を都合よくつくってしまいがちですし、それでは今のユーザーが何を感じ、どのような課題解決が望ましいのかを探ることはできません。
問題がある「今」の(As-Isの)状態を描くことでこそ、UXを設計するためのヒントを得ることができます。
ペルソナの氏名はどのように決めればいいのか?
ペルソナの氏名はなんでもいいです。ただ、いかにもウソくさい名前や、特定の人物を想起してしまうような有名人の名前はやめた方が良いでしょう。
ペルソナやCJM作成におすすめツールはあるか?
アナログ作業であれば、大きい模造紙とホワイトボード、付箋、マジックがあれば十分です。
オンラインの場合、弊社ではmiroというオンラインホワイトボードを使っています。社外の方と一緒にワークショップを行うようなときはとても便利です。
UXデザインに関するご相談はぜひNCDCへ
NCDCでは、本格的なUXデザインフェーズをご支援するUXデザインコンサルティングや、短期間でのサービス検証・社員研修などにご利用いただけるUXデザインワークショップ。そして、業務システムのUX/UIデザインに特化したコンサルティングなど、さまざまなサービスを提供しています。
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