2022年2月16日にオンラインセミナー「新規事業を加速する!ノーコード・ローコード開発の基礎から具体的な活用例まで解説」を開催いたしました。
この記事では当日用いた資料を公開し、そのポイントを公開しています。
目次
ノーコード・ローコード開発とは?
ノーコード開発は「全くコードを書かないシステム開発(ITのスキルや知識を持つ必要がない)」を、ローコード開発は「ほとんどコードを書く必要がないシステム開発」を意味し、専用の開発ツールを用いてドラッグアンドドロップ等のシンプルな操作で開発を行います。
ノーコード・ローコードの対義語として「スクラッチ」という言葉があり、これはゼロからコードを書くことを表します。
上図の通り、ノーコードは、開発工数が少なくすみますが、機能の拡張性が低くなります。反対にスクラッチは開発工数が多くなりますが、機能の拡張性が高くなります。その間に位置するのがローコードです。
ノーコード・ローコードのメリット
ノーコード・ローコードで開発するメリットは以下の4つが挙げられます。
- 早く実装ができる
- 早く改善ができる
- 早くできる分、開発費用が少なく済む
- エンジニアがいなくてもできる
セミナーでは、ノーコードでどれだけ簡単にアプリ開発ができるのかを、非エンジニアがBubbleというツールを使って実演しました。
実演はセミナー動画でご覧いただけます。
このように簡単にアプリを作成できるためノーコード・ローコードを利用するユーザー・企業は徐々に増えてきており、ノーコード開発されたアプリが事業で活用されている例もいくつかあります。
ノーコード・ローコード開発の代表的な事例
- Marlow(マーロウ):ノーコードツールBubbleで開発された学びたい人と教えたい人のマッチングプラットフォーム
- SmartDish:ノーコードツールAdaloで開発された日本のイートイン事前予約 支払いアプリ
- HelloPrenup(ハロープリナップ):ノーコードツールBubbleで開発された結婚前契約のプラットフォーム
ノーコード・ローコード開発の課題
多くのメリットがあり、ビジネスで活用された実例も出てきているノーコード・ローコード開発ですが、日本ではまだそれほど一般的であるとはいえません。なぜなかなか浸透しないのでしょうか?
ノーコード・ローコードが浸透しない大きな理由として、それが決して万能ではないことが挙げられます。できること・できないことがツールに依存するので、ノーコード・ローコード開発ではアプリに求める機能・非機能要件を満たせない場合があります。
また、なんとか最低限の要件は満たせたとしても、UIや機能が自由に設計できるわけではなく、それぞれのツールの制約内で検討するしかないことも課題の一つです。
ツールによってそれぞれ特長も制約も異なるため、ノーコード・ローコード開発に取り組む際はツール選定が非常に重要なのです。
ツール選定の重要性
参考までに、コンシューマー向け・ビジネスユーザー向けどちらのアプリ開発が得意なのかと、工数の大小という2つの軸で4つのツールのポジショニングを比較したのが次の表です(あくまでも講師が調べてわかった範囲で各ツールの特徴を表現したものです)。
Bubbleというツールは、フルスタック型ノーコードツールとも呼ばれています。プラグインが充実しており、高い拡張性を誇ります。そのため、ノーコードツールの中では自由度が高く、幅広く機能をカバーできますが、反面、設計のノウハウが必要となります。
Adaloというツールの強みは、ネイティブアプリとしてツール内で公開作業ができることにあります。GoogleやAppleへ公開するための手順を削減できるため、ユーザーに優しいツールとなっています。しかしながら、プラグインが少ないので柔軟さという観点では多少bubbleに劣ります。
また国産の代表的なサービスではkintoneやYappliがあります。
kintoneは、業務システムで使うような機能が豊富に用意されているため、とても手軽に社内システムを構築することができます。
Yappliは、kintoneと比較するとtoCアプリ開発でよく使う機能が充実しており、クーポンやスタンプカード、動画やチャットなどの機能をドラッグアンドドロップで作ることができます。
このように、それぞれのツールに特徴があるので、それを把握し、適材適所で使わなければいけません。
例えば、新規事業を検討していてアプリ開発のツールとしてkintoneを選定したとします。kintoneを使うことを決めた後で「動画コンテンツをアプリに埋め込みたい」という要望が出てきた場合、kintoneにはそのような機能は用意されていないため大きな問題になってしまいます。
このような場合、ツールを決める前に「動画をアプリに埋め込む機能をもったノーコード開発ツール」という条件を出しておく必要があります。
別の例で、セキュリティが重要なアプリの開発でAdaloを選定したとします。Adaloではセキュリティに関する情報が少ないため、要件を満たさない可能性があります。
(Adaloの公式サイトにはセキュリティに関しては特に記載がありません。調べたところ、一部は担保しているという公式なコメントがありましたが、その後10ヶ月ほどアップデートがないので、恐らくサポートしていないようです)
一方、Bubbleであればセキュリティや暗号化、持続可能性、GDPRが担保されていることが公式サイトに明記されているので安心して利用できます。
これらは決してkintoneやAdaloが劣っているという例ではではなく、ツールの選定時には要件に合うかどうかに注意を向けることが大切だという話です。
ノーコード・ローコードならではの注意点
他にも、ノーコード・ローコード開発ツールは、差分管理などの開発者を支援する機能がないことが多いので大規模での並行開発が難しいことや、利用者や関連システムが増えて負荷が高まるとパフォーマンスに不安があることは注意が必要です。
最初はノーコード・ローコードでつくっても、規模が大きくなるとスクラッチ開発への移行を検討する必要があることはよくノーコード・ローコード開発の課題として挙げられます。
さらには、ノーコード・ローコード開発はそのツールに依存しているため、ツール自体のサービス提供が続くかということも懸念点です。とくに海外のサービスだと突然サービス停止になるような可能性も考えておく必要があります。
ノーコード・ローコードの向いている分野
では、こういったメリットや注意点を踏まえてノーコード・ローコードが向いている分野はどこなのでしょうか。
結論としては、PoCやMVPなど新規サービスの事業化可否を検討するフェーズでの利用に向いていると考えられます。
新規サービスの検討時はMVP(Minimum Viable Product=検証が可能な最低限の機能を備えたプロダクト)を用いた検証を実施し、そこで得た結果をアジャイルで追加機能開発しながら、検証と改善のサイクルを繰り返して事業化判断へ持っていくのが理想的な流れになります。
しかし、いざ始めてみるとMVPに対してテストユーザーからそう重要ではない部分にばかり意見が出てきてしまい、本来工数をかけるべきではないMVPの修正で時間を浪費するなどの問題が生じることも多々あります。
そうなると肝心の事業化判断のフェーズまで至らない恐れがあります。
その課題を解決するためにノーコードツールが活用できます。MVPをノーコードツールでスピーディに開発するのです。最初からスクラッチで作るよりは遥かに工数削減につながりますし、仮にMVPの修正を求められても変更を加えるのも比較的容易なので、このような迅速・柔軟にユーザーの要望に答えていかないといけない場面ではかなり有用です。
要件によりできるか否かは異なりますが、ノーコードツールでつくったMVPを基盤として活用し商用化の際に機能追加を行う、もしくはスクラッチで一部だけを作り変えるような進め方ができる可能性もあります。
以上のように、ノーコード・ローコードは、PoCやMVPなどのフェーズでの利用が適しているといえます。先に述べたようにノーコード・ローコードならではのさまざまな制約はありますが、適材適所で利用すればとても有効なツールになるはずです。
質疑応答
本セミナーではたくさんのご質問をいただきました。その中から4点を抜粋してご紹介します。
ご質問
エンジニアでない人がBubbleを使うにはどういった知識が必要でしょうか?
回答
どのデータを参照してUIのどこに反映させるのかなど、簡単な設計を描けるかどうかがポイントになると思います。Bubbleの公式サイトにさまざまなチュートリアルがあるので、それを見ながらやれば、大体のことはできると思います。
また、日本語の解説動画がYouTubeにアップされているので、そちらも参考になると思います。
ご質問
自分の目的に向いたノーコードツールを探すコツはありますか?
回答
数多くのツールがあり全てを試すのは難しいので、一旦汎用的なツールを試しに使ってみるのがいいと思います(NCDCで調査した結果BubbleとAdaloがおすすめ)。新しいツールもどんどん出てくるので、気になるツールを見つけたら先に試した汎用的なツールとの比較で考えていくと自分の目的に向いたものを探しやすいかと思います。
ご質問
スクラッチ開発と比べてどのくらい期間やコストに差が出ますか?NCDCではどちらを選択すべきかなどの相談にも乗ってもらえますか?
回答
もちろんご相談可能です。ご要件に応じてスクラッチ開発をおすすめする場合もありますが、ノーコードで開発できるものであれば、最短1時間くらいでサンプルを作れる場合もあります。
スクラッチと比較して期間やコストにどう差が出るかは一概にはいえませんが、スクラッチの場合、インフラの構築、ステージング・本番環境の構築などさまざまな準備も必要なので、その点だけを見ても期間・コストに大きな差が出るのは想像していただけるとかと思います。
ご質問
ノーコードでモバイルアプリ開発をした場合、Apple Storeやプレイストアへのリリースも簡単にできますか?
回答
難しいツールもあります。Bubbleの場合はWebベースのアプリをAndroidに埋め込んで表示するため、一度Androidの公開基盤をアンドロイドスタジオ(Androidに公開するための専門ツール)で作り、そこにURLを埋め込むという処理をしないといけません。この作業には半日程度要します。
Adaloの場合はツールの画面上で公開作業ができるので、アプリストアでの公開が前提であればまずAdaloを検討してみるのがいいと思います。
新規事業のご相談はNCDCへ
NCDCは新規サービスの立ち上げ支援を得意としており、アイデア創出のワークショップや、ノーコード開発等を用いたスピーディなPoCの実施、PoCで得た結果評価、事業化に向けたアドバイスなど多様な新規サービス支援を行なっています。
新規事業の検討やPoCの実施方法についてご相談がある方はぜひお問い合わせください。