資料公開|実践で違いを生むUX知識「カスタマージャーニーマップの本質とは?」

公開 : 2021.08.26  最終更新 : 2021.09.15

2021年8月24日にオンラインセミナー「実践で違いを生むUX知識『カスタマージャーニーマップの本質とは?』」を開催いたしました。
この記事では当日用いた資料を公開しています。

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UXデザインの基本概念

カスタマージャーニーマップ(以下文章内ではCJMと表記)はUXデザインを検討する上で、最も中心的なツールです。CJMの本質を理解するためにはUXデザインを正しく知っておく必要がありますので、UXデザインについて簡単に説明しました。

UXデザインとは?

UXデザインとはユーザーエクスペリエンスデザイン(User experience Design)の略称で、「ユーザー体験を設計する」ことです。
「ユーザー体験」とは、ユーザーが製品・サービスを認知した瞬間から発生する「ユーザーとその製品・サービスに関するやりとりの全て」を指します
「デザイン」という言葉からは、一般的に色・形などの美術的な意味合いをイメージしがちですが、この場合は「企画・設計する」ことを意味します。

なぜUXデザインが注目され、求められているのか?

UXデザインが求められるようになった背景には、市場と機能の成熟があると私達は考えています。

携帯電話を例にしてみると、市場に出現して間もない頃は「カラー画面になった」「他社より軽量・安価」「防水機能付き」「カメラ付き」など機能・性能・価格で商品を比較することができました。その後、市場が成熟し、今ではどのメーカーの商品もほぼ同等の機能・性能・価格で提供される状況に変わってきています。

するとユーザーは「使い心地の良さ」「フォローの満足度」など、商品・サービスとの接点で起こる体験(UX)を重視するようになります。その結果、UXを重視していない商品はユーザーから選ばれにくくなります。

このような市場の成熟・変化を背景として、近年ではさまざまな商品・サービスにおいてUXデザインが注目され、求められているのでしょう。

カスタマージャーニーマップの本質

ここからは、セミナーの主題となっているCJMについてです。
CJMの作り方や、活用方法、検証方法などに触れつつ、その本質についてご紹介しました。

カスタマージャーニーマップとは?

CJMとはユーザーの感情を可視化するための手法です。
簡単に説明すると、ユーザーがサービスや商品を通じた一連の体験(ジャーニー)の過程で何を考えて、どんな行動を取るのかを可視化したものがCJMです。
ユーザー体験を良くするためには、ユーザーがどんな期待をもっているのか?どんな不満を持っているか?を知り、ユーザー自身も気づいていない無意識な気持ちまで把握する必要があります。

CJMをWebで検索してみるとさまざまな形式のものが見つかります。他社のものを参考にしてCJMをつくってみるのは構いませんが、CJMには「ISOで定義された国際的な標準フォーマット」のような規格は存在しませんので注意が必要です。
本質を理解せず、ただどこかで見つけたフォーマットに当てはめて考えると自社商品・サービスの検討に必要な視点や項目が抜けてしまう恐れがあります。

有意義なCJMにするためには、使う目的やプロジェクトに合わせて自らフォーマットを作成する必要があります。

【CJMの本質1】
カスタマージャーニーマップに標準は存在しない。使う目的に応じて自らカスタマージャーニーマップのフォーマットを考えて作る。

カスタマージャーニーマップの作り方

自社の目的にあったフォーマットを決めたら、次は「ユーザーの感情や行動」を書き出していき、ユーザーに対する理解を深めます。

「ユーザーの感情や行動」を知る手法として他にもアンケートやインタビューがあります。ユーザーの意見を直接聞けるためこれらも役に立つ手法ですが、ユーザーの回答は実際の行動と一致しないことがあるため注意が必要です。

例えば、下図に紹介している調査結果のように「アンケートで商品購入の意向を示した場合でも実際に購入するのは半数を下回る」というようなことがあります。

このように、アンケートやインタビューでユーザー自身が正しく行動や感情を表現できるとはかぎりません。また、「顕在的なニーズは把握できるが潜在的なニーズは把握できない」「実施から時間が経つとニーズが変化してしまう」といった側面もあるので、有効ではない場合もあります。

そこで新たな方法として生み出されたのが、自らユーザーになりきってその思考や行動を考えてみる方法で、そのために必要なものがこの後で説明する「ペルソナ」です。

CJMは、ペルソナのその時々の感情や行動の変化を書き出していきます。そうすることでアンケートやインタビューでは得られない潜在的な感情や要望を把握できるようになります(もちろん仮想のものではありますが)。

ペルソナの定義

ペルソナは自分がペルソナの感情や行動を想像できるように定義する必要があります。つまり、自分がペルソナになりきることができる状態を目指します。そのためにはある程度詳細な項目を考える必要があります。
下図のように名前、職業、年収、性格、趣味、生活スタイルや病歴といった項目、イメージに近い写真なども入れてみました。

注意しなければならないのは、同じペルソナでも状況やタイミングによって想起される感情が異なる場合があるということです。あらゆる可能性を想定してより多くの感情や行動を書き出してみることが大切です。

なぜCJMという手法を用いるのか、なぜペルソナを詳しく決める必要があるのか、こうした背景を理解せずになんとなくCJMづくりに取り組んでもいい結果は生まれないでしょう。

【CJMの本質2】
使用者の感情を自ら想起できるためのカスタマージャーニーマップ、そのためのペルソナであることを忘れずに。

セミナーでは弊社で使用している標準的なCJMも実例とともにご紹介しました。
ユーザーの「行動」や「考え」だけでなく、その深層にある「インサイト」をどうすれば見出せるのかなど、ご興味がありましたらアーカイブ動画をご覧になってみてください。

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カスタマージャーニーマップをどう活かすか?

CJMでユーザーの行動や感情を可視化できたら、実際の商品・サービスを検討するプロジェクトに活用することになります。活用方法はプロジェクト次第ですが、典型的なパターンとしては以下のようなものがあります。

  • アプリなどのUIを考える
  • ウェブサイトのメニューや機能を考える
  • ウェブサイトのコンテンツとその配置を考える
  • 業務フローを考える
  • 顧客接点業務の見直しを考える

CJMを活用してUXデザインを行なう目的としてアプリのUI設計やWebサイトのコンテンツの作成をイメージする人は多いと思いますが、用途はそれだけではありません。サービス業での業務フローの検討や顧客接点の最適化などにも有効です。

カスタマージャーニーマップは万能か?

このように幅広く活用できるCJMではありますが、万能ではありません。
使い方に工夫を要するケースや、CJMが効果的な意味をなさないケースもあります。

①ペルソナの設定から工夫すべきケース
商品・サービスのユーザー層が幅広い場合、すべてのペルソナを設定するとその分作成するCJMも膨大な数になります。もちろん必要であればそれはしょうがないことですが、大量なCJMを後から見てみると、内容としては似たものが多いという場合もあるかと思います。労力に対して得られるものが少ない場合があるといことです。

また、老若男女が使うサービスでそれぞれへの最適化が難しい場合は、小学生やお年寄りの方など、もっとも配慮すべき層に合わせて考えれば、それで事足りる場合もあります。これはペルソナとなる人物像はたくさんあるけれど、全員の感情を可視化する必要がないケースだといえます。

②CJMを効果的な意味をなさないケース
冒頭でお伝えした通り、市場が成熟し機能や性能での差別化が難しくなってきたときにUXデザインが求められるようになります。そのため、世の中で唯一の商品・サービスであれば、CJMやUXデザインの検討はなくてもよいかもしれません。
このような場合、市場で勝つためにはCJMを作るよりも競合サービスが出ないように特許取得などのほうが優先順位は高いかもしれません。

【CJMの本質3】
ペルソナの感情を可視化する必要がないもの、UXデザインの検討に必要のないものにカスタマージャーニーマップを作っても意味をなさない。

UXデザインやカスタマージャーニーマップで難しいところ

CJM・UXデザインを使って素晴らしい商品・サービスのアイデアが生まれたとしても、実現できなければ意味がありません。

しかし、多くの場合、商品・サービスの検討を進めていくと、コスト、技術的な問題、社内のルールなど、さまざまな問題が立ち塞がります。
CJMを作るのと同時にそれが実現可能かどうかも検討しておかないと、ただの「願望」で終わってしまいます。

【CJMの本質4】
UXデザインやカスタマージャーニーマップで検討するのであれば、実現可能性についても同時に検討、対策しておく必要がある。

カスタマージャーニーマップをどのように検証するか?

CJMを活用して素晴らしいアイデアを生み出し、さまざまな壁を乗り越えてそれを実現しても、そのサービスや商品が成功するとは限りません。
CJMは仮説でしかないので、その仮説が本当に正しいのか検証する必要があります。

しかし、CJMは人によって異なる「感情」を扱っているため、論理的な検証は不可能です。
そこで以下のような方法を取り入れることで検証・改善を行います。

①ユーザーテストの実施
コストをかけずに最低限の製品・サービス・機能を持った試作品を短期間で作り、ユーザーに使ってもらいます。実際に出来上がったものに触れてもらうことでCJMで作った仮説通りの反応が得られるのか検証することができます。

②アジャイルのような継続的な改善
正規版をリリース後も、問題点があればそれを改善し、再度リリースする。それをアジャイルのように素早く繰り返し継続していくことで改善を進めることができます。そうした体制を最初から想定しておくことも大切です。

【CJMの本質5】
カスタマージャーニーマップの確実な検証は不可能です。ユーザーテストやアジャイルなどでカバー、サポートするのみです。そのような計画や体制や予算でカバーする必要あり。

まとめ

最後に、今回お話しした内容の中から「CJM活用の際に抑えておくべき本質」を5つのポイントにまとめてご紹介します。

本質1:カスタマージャーニーマップに標準は存在しない。使う目的に応じて自らカスタマージャーニーマップのフォーマットを考えて作る。

本質2:使用者の感情を自ら想起できるためのカスタマージャーニーマップ、そのためのペルソナであることを忘れずに。

本質3:ペルソナの感情を可視化する必要がないもの、UXデザインの検討に必要のないものにカスタマージャーニーマップを作っても意味をなさない。

本質4:UXデザインやカスタマージャーニーマップで検討するのであれば、実現可能性についても同時に検討、対策しておく必要がある。

本質5:カスタマージャーニーマップの確実な検証は不可能です。ユーザーテストやアジャイルなどでカバー、サポートするのみです。そのような計画や体制や予算でカバーする必要あり。

CJMはUXデザインに必要なユーザーの感情や行動を可視化し、商品・サービスが差別化しにくい時代にヒントを与えてくれる、非常にイノベーティブなツールです。
ただし、本質を理解していないと求めていたような成果を得られないこともありますので、ご紹介したポイントを押さえて、正しく使ってみてください。

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