アジャイルにおけるキックオフとインセプションデッキの役割(NADP解説)

公開 : 2021.05.18  最終更新 : 2024.02.28

Scrum Inc.認定スクラムマスターの局です。

一般的なアジャイル方法論やスクラム開発のプラクティスをベースとしつつ、NCDCのこれまでの経験を取り入れた独自の方法論「NCDC Agile Development Process」の概要を全6回に分けて説明します。
(2024年2月 一部変更を加えました)

NCDC Agile Development Process(NADP)解説記事
キックオフ(Kick-off)←本記事
要求(Requirements)
デザイン(Design)
スプリント計画(Sprint Planning)
開発(Development)
総合テスト(System Testing)

今回はプロジェクト開始時のキックオフについてです。
多くのプロジェクトでキックオフ会議は開催されていると思いますが、その内容はスケジュールの確認や体制の紹介、会議体の確認などが一般的かもしれません。
NCDC Agile Development Processのキックオフはそれよりも一歩中身に踏み込んで、チームビルディングとチームとしての決まりごとを参加者で決めていくことに重きを置いています。

もちろん「チーム」の中にはお客様も含まれています。チームはお客様である発注者側、受託者側の我々と分かれていてはうまくいきません。キックオフでは発注者側も受託者側もみんなで「One Team」として決まりごとや優先順位を合意することが重要です。
キックオフでOne Teamとしての一体感を醸成することは非常に重要です。NCDCではワークショップ形式でフランクに議論しながら進めるようにしています。もちろん、キックオフ後の懇親会もオススメです!

「キックオフ」の要点

プロジェクト目標の共有や 想定リスクについて対策を考えておきます。チームの認識を細かく合わせておくためのイベントです。
インセプションデッキ方式を採用し、ワークショップで意見を出し合うことを推奨します。

インセプションデッキとは?
プロジェクトの方針を決める「最初の山札」という意味です。プロジェクトが何か判断を迫られるとき、WhyとHowを振り返るために作成します。
一般的には下記の10の質問に対する回答をチームで議論しながら決めていきます。

  1. 我われはなぜここにいるのか(Why1)
  2. エレベーターピッチを作る(Why2)
  3. パッケージデザインを作る(Why3)
  4. やらないことリストを作る(Why4)
  5. 「ご近所さん」を探せ(Why5)
  6. 解決案を描く(How1)
  7. 夜も眠れなくなるような問題は何だろう(How2)
  8. 期間を見極める(How3)
  9. トレードオフスライダー(How4)
  10. 何がどれだけ必要なのか(How5)

NCDCではこれを少しアレンジして、どちらもマスタースケジュールに関わる「期間を見極める」と「何がどれだけ必要なのか」をひとつに統合した9項目を用いています。さらに、必ずすべてを決めなければならないものとはせず、プロジェクトの特性に応じて必要なものだけを選びキックオフ時に議論することにしています。

NCDCが用いているインセプションデッキの手法

次にNCDCが用いているインセプションデッキの9項目を解説していきます。

我々はなぜここにいるのか

目的はプロジェクトが「何を解決したいために発足したのか?」を確認することです。
例えば「日本の貧困格差を是正するため」などのように、プロジェクトの存在理由を1つ書き出します。

エレベーターピッチ

エレベーターピッチとは、エレベーターに乗っている30秒程度の間にキーマンにプロジェクトの説明をするという意味を持ち、そのためにはプロジェクトの価値を簡潔に説明できるよう整理することが重要です。
「我々はなぜここにいるのか」と整合性をとりながら、このプロジェクトで解決したい課題とプロダクトの価値を具体化します。

やらないことリスト

「やること」ではなく「やらないこと」のリストを作成します。
プロジェクト立ち上げではやりたいことが多くなりがちです。この時、スコープ外リストをチームやステークホルダー間で共有しておくことがとても重要です。
具体的には「やらないこと」を列挙した上で「やる」と判断したものは「やることリスト」に加えます。その場で判断がつかず保留にしたい場合は「あとで決めるリスト」に加えます。

トレードオフスライダー

トレードオフスライダーは、プロジェクトの中で必要な機能の取捨選択をする際に立ち返る指標です。
品質、予算、納期、スコープの優先順位を決め、プロジェクトが判断を迫られた際の材料とします。例えば、予算はどうしても固定である場合は、予算が優先順位1位となり、予算に合うようにスコープや品質、納期を調整することとなります。

下図の例ではトレードオフスライダーが「期日最優先」を示しており、期日を守るためであれば予算を使っても構わず、ある程度のスコープアウトやバグは許容する指標となっています。

夜も眠れない問題は何か

プロジェクトのリスクを管理しておくための方法です。
何が起きたらプロジェクトを中止せざるをえなくなるのか、夜も眠れない問題を列挙し、そのリスクをプロジェクト立ち上げから管理しておくことで、早めの対策を打つことを目的とします。

ご近所さんを探せ

プロジェクトの相関関係を図示します。何か決済を仰ぐとき、どのような承認が必要なのか、競合他社やパートナー企業などを洗い出します。

パッケージデザイン

プロジェクトないしサービスの特徴を捉えるための手法です。スーパーやコンビニに、そのサービスが陳列されていたとしたら、何を売り文句として差別化し、どのような色になるのかを考えます。デザインコンセプトの策定とも置き換えられます。

何がどれだけ必要なの?/期間を見極める

リリースまでに必要な予算、メンバー、期間をざっくり見積もります。
まずは下図のような粗い内容でかまいません。

解決案を描く

サービス課題に対して、大まかな解決手段を描きます。

特に重要だと感じるポイント

以上が最初にプロジェクトの方針を決める手法です。NCDCではこれらのすべてではなくプロジェクトに応じて議論すべきものを選んで実施していますが、多くのプロジェクトで重要な役割を担うと感じているのは、「トレードオフスライダー」と「やらないことリスト」です。

品質、予算、納期、スコープの優先順位を決めるトレードオフスライダーは、お客様側から「どれも優先度が高い」という回答が出てきてしまう場合があります。
もちろん全部が重要なのはわかっているのですが、ここで決めるのは「いざという時」の優先順位です。いわゆるリスクマネジメントの観点になりますので、そのあたりをお客様にしっかり理解していただき、合意を得ながら決めていくことが大切です。

やらないことリストは、プロジェクト進行中も常に追加して記録しておくことがとても重要です。
スプリントミーティングの中で、「これをやりたい」、「あれをやりたい」という要望は出てきます。やることになったものは成果物やドキュメントなど何らかの形で残りますが、「やらなくなったもの」については、記録しておかないと後で「なんであの機能は実装されてないんですか?」「なんでやらないことにしたんでしたっけ?」といった質問が出てくるようになってしまいます。
キックオフ時もプロジェクト進行中も、やらなくなったものこそ理由を添えて記録に残していったほうが良いかと思います。

コミュニケーション計画作成

アジャイル開発では一つのスプリントの間にいくつかのイベントがあります。それらのイベントがいつ実行されるかを計画します。

開発チームとお客様が近い開発故に、POが主催となって進めるイベントもありますが、POが忙しい場合など、プロジェクトによって主催者を調整します。いずれにしても、POと開発チームが近い開発であることを念頭に、コミュニケーション計画を練り、その際の役割も確認します。
各ロールの人数や役割、その場の決定権は、プロジェクト状況により可変です。

アジャイル開発に取り組みたい方、改善したい方へ

今回の記事では「NCDC Agile Development Process」に関して、キックオフ(Kick-off)で行うインセプションデッキの説明をさせていただきました。

NCDCでは「NCDC Agile Development Process」をベースに、これからアジャイル開発に取り組みたい方や、既存のやり方を改善したい方へのご支援を行なっています。
アジャイルを用いた開発案件の依頼先をお探しの方、または自社でアジャイル開発体制を構築したい、改善したいといったご相談がある方は、お問い合わせフォームからご連絡ください

また、ご希望の方には資料も配布しております。
NCDC Agile Development Processを取り入れてみたい方は下記フォームからお申し込みください。
資料請求「アジャイル開発方法論」

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