UXデザインのコンサルティングを数多く行っているなかでよく質問されたり、議論になることについて書いてみたいと思います。
それは「UXデザインのプロセスでプロジェクトメンバーの意見が割れてしまった際に、どうやって皆を合意に導き、意思決定すべきか」という問題です。
目次
UXデザインのプロセスでは、コンフリクトが必ず起きる
本題の前にまず、UXデザインに対する誤解を一つ指摘しておく必要があります。
「カスタマージャーニーマップの作成などUXデザインのプロセスを回せば、自ずとUXの優れたサービスができる」そういった誤解というか、妄想というか、高すぎる期待値を感じることが多々ありますが、残念ながらそんなことはありません。
UXデザインのプロセスを回して体系的に議論を進めていけば、『UXの優れたサービスを作るための指針』は出来上がります。
しかし、指針ができた後に実際にどこまで、どうやるかはプロジェクトオーナーが意思決定する必要があるのです。
別の言い方をすると、UXデザインのプロセスを回すことで自動的に合意形成も意思決定もできるわけではありませんので、UXデザインプロジェクトでは合意形成と意思決定において必ずコンフリクト(意見の対立、論争)が起きるものだと理解しておいていただきたいのです。
では、実際にコンフリクトが起きた場合に、どう対応すべきなのか?
UXデザインのプロセスで意見が分かれたときにすべきこと
第一にこれまでの成果物をしっかり理解してみることです。
成果物とは、多くの場合、ペルソナ、カスタマージャーニーマップ、ユーザテストの結果等になるでしょう。その中でペルソナにとっての価値についての優先順位は議論しておくべきです。
第二にプロダクトオーナーの優先順位も可視化・共有しておく必要があります。
例えば、会員数を増加したい、売上を上げたい、こんな機能は経営戦略の一環として入れたい、といった内容が多いでしょう。
UXデザインはあくまで使用者にとっての価値から物事を考える手法です。したがって、理想的にことが進めば
「これは素晴らしいサービスだ」→「だから会員登録しよう」→「購買もここからやったほうが楽」といった流れになり、「売上が向上する」という結果に繋がっていくはずです。
つまり、UXデザインを適切に設計できると、プロダクトオーナーの優先順位も満たされるはずなのです。
しかし、実際のプロジェククトを回してみると、なかなかそうも行かないことが多いです。
そんな場合にプロジェクト内でコンフリクトが起きるのです。
「UXの視点からすると、そんな機能は必要ないです。使用性が落ちます」
「いやいやその機能がないと、このサービスの意味がありません」
そういった議論が延々と続くようになってしまうと、お互いに譲らず、合意形成が難しくなる場合もあるはずです。
さて、その解決策はどうすべきでしょう?
合意形成に時間をかけるよりプロセスを進めるべき
結論をいうと、UXデザインの成果物を再度理解し、プロダクトオーナーの優先順位も可視化し、その上で議論しても合意形成ができない場合は、それ以上議論に無駄な時間を費やさず、プロダクトオーナーの意思決定を持って先にすすめるべきです。
なぜなら、やったことのないサービスについて事前に正解を得ることは不可能なのです。
最初に書いたように、UXデザインのプロセスを回せば唯一無二の正解が得られるというものではありません。
それであれば、どちらの意見を採用するかを素早く決めて先に進め、ユーザーテストやプロトタイプで確認するなど、改善・改修を早くできる方法を考えた方がより良い結果に近くことができます。
大切なのは、「合意形成に時間をかけるよりも、素早く判断して検証へ進む。そのサイクルを素早く何度も繰り返す」という考え方を皆で共有しておくことなのです。
そして、サービス開始後も継続的に改善・改修ができるように、ユーザーフィードバックを得る方法を仕込んでおきましょう。
例えばアクセスログなどもそうですが、ユーザーからアンケートを回収できる仕組みを作ることも有効です。
机上の議論より実証による納得
「皆の合意を得ずに意思決定して、あとで問題になったり、協力を得られなくなったりしないか?」
そんな心配をされる方もいるかもしれませんので、参考までに私たちの実績をお伝えします。
NCDCが関わるUXデザインプロジェクトでは、対象となる製品やサービスに関わるさまざまな立場の方に参加していただいくワークショップを取り入れています。
もちろん、私たちが行うワークショップでも参加者の意見が分かれることもありますし、合意形成するほどの時間が確保できないこともあります。
その場合、「合意形成に時間をかけるよりも、素早く判断して検証へ進む」ことをご提案しており、実際にそのように進めたプロジェクトが数多くあります。
それでも、多くのプロジェクトで(反対意見を出していた方も含めて)ワークショップ参加者のほとんどがプロジェクト推進に協力する流れを生み出すことに成功しています。
その理由は次の3点ではないかと考えています。
・経験豊富なUXデザイナーによるファシリテート
・ユーザーテストやプロトタイプでの確認工程の重視
・素早くサービスを立ち上げ、改善しつづけることの重要性の周知
もちろん議論において多くの意見を出し合うことは大切ですが、何よりも素早く検証してその結果を共有することが、結果的にスムーズな進行とより良い成果に繋がっていると考えられます。
「皆の意見の折衷案」が一番怖い
最後に、ありがちな失敗についても触れておきたいと思います。
プロジェクト過程での合意形成にこだわり、議論に議論を重ねて「皆の意見の折衷案ができた」場合、それはもっともリスクが高い案になっているかもしれません。
言い方を変えれば、その方法だと中途半端な誰にも喜ばれないモノが出来上がってしまう確率が上がります。
日本の家電メーカーが新商品開発する際、非常に多くの稟議をパスしなければならず、結果として、機能盛々で使いにくい商品になってしまったということを聞いたことがあります。
一方、アップル社のスティーブ・ジョブス氏はユーザーインタビューなど全く参考にせず、独自の感性と信念でプロダクトデザインを行っていたと言われていますよね。そうしたスタイルであったからこそ、世界を相手に大きなイノベーションを引き起こすことができたのであり、もし皆の合意を得るプロセスにこだわっていたら…その結果はまったく違っていたのだと考えられます。
私としては、iPhone Xでイヤホンと充電で一つになってしまったのはUX的には本当に不便に感じるのですが・・・
まとめ
UXデザインプロジェクトでは必ずコンフリクト(意見の対立、論争)が起きる。その場合の対処としては次の点を意識しておく。
・検討内容を可視化、再度議論し、意思決定はプロダクトオーナーが行う。
・無理に合意形成を行って中途半端なものができないようにする。
・その後、いち早くサービスを実現して、使用者のフィードバックから改善を繰り返す。
簡単にまとめるなら「UXデザインに過度に期待して、合意形成や意思決定に無駄な労力を使わないこと。」
これがベストプラクティスではないでしょうか?
NCDCでは簡易的にUXデザインのプロセスを体験できる短期のワークショップから、長期にわたるUXデザインのコンサルティングまで、ニーズに応じたサービスを提供しています。
「UXデザインについてもっと知りたい」「今のやり方に不安がある」という方は、ぜひ一度ご相談ください。
代表取締役 早津 俊秀