事例紹介

事例紹介
JR東日本研究開発センターが切り拓く、鉄道メンテナンスの未来
東日本旅客鉄道株式会社様

鉄道を取り巻く環境の変化に迅速・的確に対処するため、研究開発組織を集中・強化する形で2001年に設立されたJR東日本研究開発センター。
安全な鉄道輸送を実現するため技術革新に取り組む同社の皆様に、列車の運行に欠かせない軌道回路が故障した際の復旧時間を短縮するアプリケーションの開発プロジェクトについてお話を伺いました。

UX/UIデザイン
先端テクノロジー
お客さまのニーズ
列車の安全な運行に欠かせない軌道回路の故障発生時の測定データを一元管理し、リアルタイムに故障箇所を推定するアプリケーションの実現。
NCDCの役割
要件定義から、UIデザイン、アジャイル的なプロセス(2週間ごとの仮納品)を取り入れた開発、そして複数フェーズにわたる機能追加まで、長期プロジェクトを伴走支援。

列車の安全な運行に欠かせない信号保安装置の調査業務をDX

── はじめに、JR東日本研究開発センターがどういった組織なのか教えてください。

佐々木氏 ──JR東日本研究開発センターは、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)の企業内研究所として設置されています。さまざまな技術や人々を繋いで新たな顧客価値を共創し、グループ全体の発展に貢献することをミッションとしています。

── 今回弊社では、「軌道回路故障原因調査支援システム」通称「Kidoko(キドコ)」の開発をご支援させていただきました。まずは「軌道回路」について簡単にご説明いただけますか。
── 今回弊社では、「軌道回路故障原因調査支援システム」通称「Kidoko(キドコ)」の開発をご支援させていただきました。まずは「軌道回路」について簡単にご説明いただけますか。

佐々木氏 ──軌道回路とは、列車がいる場所を検知するシステムで、列車の安全な運行に欠かせない信号保安装置のひとつです。軌道回路の構成にはレールも使用しておりますので、豆電球と乾電池を導線で繋いだ回路を思い浮かべていただければ、その大規模版ということでイメージがしやすいかと思います。
またレールが折れていた場合、それを知らずに列車が通過してしまうと脱線の危険性が生まれますが、軌道回路はこういったレールの異常状態の把握にも使用されている場合があります。そのため、軌道回路が故障した場合には、早期に原因を究明し復旧することが求められます。

── 軌道回路が重要な装置であるということがわかりました。今回開発された「軌道回路故障原因調査支援システム」は、どのようなシステムなのでしょうか。

佐々木氏 ── 軌道回路は、駅と駅との間だと長いところで1.5kmほどの長さとなります。また、複数の機器を複雑に組み合わせて回路を構成しているため、故障した場合には故障箇所の特定に非常に時間を要するという特徴があります。従来は軌道回路が故障した際には、ベテランの知識や経験といったノウハウにより、人海戦術で調査を行い、何とか早期復旧に努めてきました。本システムは、紙ベースでマニュアル化されていた復旧手順やベテランのノウハウをまとめてプログラム化し、論理的に故障箇所を絞り込むことで軌道回路の早期復旧を支援することを目指しています。

軌道回路故障原因調査支援システム(通称:Kidoko)の概要
従来は原因特定に多くの時間を要していた軌道回路故障時の調査作業の正確性向上と効率化を図り、早期復旧を支援するためのアプリケーション。

Kidokoの特徴

  • 軌道回路の迅速な可視化:わずかな手順で軌道回路の電気回路図を自動的に作成して画面に表示。現場の実測値や正常/異常の判断を回路図上で可視化
  • 測定データの一元管理:軌道回路故障発生時の測定データを一元的に管理し、複数チームの調査情報から、原因をリアルタイムで推定。
  • 故障原因の特定支援:データに基づいて故障部位を推定し、調査箇所や調査手法を提案することで、早期の復旧に貢献
  • データとアクションの統合管理:平常時や調査時の電気的データに加えて、目視点検などの作業履歴も同じ画面で管理
  • 操作履歴記録機能:操作履歴が記録されるため、復旧作業完了後の振り返りや改善に役立てることが可能

(出典:軌道回路故障原因調査支援アプリケーションの開発

丸山氏 ──私はずっと現場経験をしてきまして、実際に軌道回路の故障対応も経験していました。この「軌道回路故障原因調査支援システム」は現場で欲しいと考えていたものでもあるのですが、実現が難しかったという背景があります。
また軌道回路は複数のメーカーが製造した複数の装置の組み合わせで構成されています。そのため特定のメーカー単独では軌道回路の中から故障箇所を特定したり、修理したりするノウハウはお持ちではありません。そのため、我々の意見を取り入れながらアイデアを実装してくれる頼れる開発パートナーを探していました。

── NCDCをパートナーに選んでいただいた理由をお聞かせください。

佐々木氏 ──諸元登録支援システムの開発という社内の別プロジェクトでNCDCさんにご協力いただいていたので、私も月に一度はそのチームのミーティングに顔を出していました。ミーティングに参加する中で、NCDCさんの技術力や、我々のニーズを汲み取って実現する対応力が魅力的に思えたので、他のパートナーを探す前にまずは相談してみようということで、お声がけさせていただきました。

ベテランの持つノウハウもシステムに落とし込む

── 現場でも待望されていたシステムとのことですが、開発に至った経緯について教えてください。

佐々木氏 ──紙のマニュアルをベースに業務を行っているということもあり、社内では業務のDXが盛んに求められていました。それから、ベテランの知識が形式知となっていないため、ベテラン社員が退職すると、その方たちの持っていた経験やノウハウが失われてしまうという問題もありました。そのため、そういったベテランの持つノウハウも含めた業務のDXというニーズが開発の後押しになりました。
我々は鉄道の設備に関する運用や保守、工事に関するノウハウを持っていますが、それらの業務をソフトウエア化・システム化することは得意としていませんでしたので、NCDCさんにプロジェクトに参画いただいたことで、「以前からやりたいと考えていたけれども実現できなかったこと」を形にすることができたと思います。

── 画面を拝見すると、特徴的なUIデザインになっている印象を受けます。どのようにして出来上がっていったのでしょうか。また、実際の使用感についても教えてください。
Kidokoの調査画面の一例

佐々木氏 ──デザインに関しては、我々からシステムを使用するユーザーや、使用される環境、こういう形にしたいという希望をお伝えしました。NCDCさんには、それをベースにより使いやすいようにブラッシュアップしていただきました。ユーザーが迷いなく使えるように、という観点からどんどんバージョンアップされていった印象で、最初と比べると相当改良されたと思います。多くの場面で、要求や相談に対するレスポンスの速さと仕事の丁寧さを実感しました。

丸山氏 ──多数ある軌道回路の機器構成を選択すると一瞬で回路図を描いてくれる機能があるのですが、すごくいいと思っています。軌道回路は現場によって構成する機器が全く異なるので、全てのパターンを網羅しようとすると膨大な量になってしまいます。この機能はどんな軌道回路の構成にも対応できる面でも非常に重宝しています。

アジャイル的な開発で膨大な改修を繰り返し、プロジェクトを推進

── プロジェクトの進捗状況を教えてください。
── プロジェクトの進捗状況を教えてください。

佐々木氏 ──昨年度までの開発でKidokoのシステムはほぼ完成していますので、現在は、業務で使用するための製品版の製作フェーズに入っています。当初、研究開発(R&D)用のスタンドアローンアプリとして開発したものを、商用版としてクラウド環境に構築するための移行準備なども進めています。実導入間近というところですね。

── クラウドへの移行に関して、セキュリティ要件が厳しかったというお話を伺っています。

佐々木氏 ──お客様のデータなど会社の資産であるデータを管理する上で、セキュリティは厳しくなっています。クラウド環境の構築に関しては、我々にクラウドに関する知識があまり無かったため、たびたび疎通に失敗することもありご迷惑をおかけしましたが、NCDCさんにもいろいろサポートしていただき非常に助けられました。

── 3年を超える長期的なプロジェクトの中で、膨大な改修を繰り返されたとのことですが、どのようにプロジェクトを進めていったのでしょうか。

丸山氏 ──アジャイル的と言いますか、2週間に1度NCDCさんから仮納品があって、我々からすぐにフィードバックをして、またNCDCさんに修正していただくというような進め方をプロジェクト当初からしていました。こちらとしては短期間でフィードバックを返さなければいけない大変さはあったのですが、お願いしたことが素早く実装されて返ってきて、改善されているかどうかの検証もすぐにできたことが良かったです。

── 印象に残っているエピソードがあればお聞かせください。
── 印象に残っているエピソードがあればお聞かせください。

佐々木氏 ──プロジェクトの開始当初は、NCDCさんの鉄道に関する知識やノウハウはわずかだったはずです。3年を超えるプロジェクトを一緒に進めてきた結果、鉄道事業者側の視点に立ってシステムに関する提案をいただいたり、弊社から提出した要件定義に関する誤りを指摘していただけたりするようになって驚きました。NCDCさんとしては、言われた通りに作ってしまえばバグではないので問題ないはずですが、意図しない挙動を未然に防ぐために指摘してくださるので非常に助かりました。

丸山氏 ──システムにデータをインポートする機能を実現していただいたのですが、インポートするためのデータを管理している側のシステムにリプレイス計画があり、データセットの仕様が変わるかもしれないという中でプロジェクトを進めていました。NCDCさんには「装置が変わるとデータがこういう風に変わるから、影響が少ないこの部分から進めましょう」という風に判断をしていただけたのがありがたかったです。

佐々木氏 ──プロジェクトの後半では、口頭で伝えたアイデアをNCDCさんにすぐに実現されてしまって、我々が管理しているドキュメントへの反映が後手に回ったこともありましたね。

システム導入で約45%の時間短縮

── 実導入間近ということですが、Kidokoの現場導入が実現したらどのような効果が期待できるのでしょうか。

佐々木氏 ──過去に発生した軌道回路故障の事象に対して、当時の原因特定に要した時間と、Kidokoを用いた場合の比較シミュレーションを実施したところ、原因特定までの時間を約45%短縮できる可能性があったとの結果が得られています。
ユーザーによる検証も進めているのですが、利用者から軌道回路故障の復旧方法を教育するためのツールとしても活用したいという希望も出ていますので、幅広い業務での活用が期待されています。

丸山氏 ──軌道回路は国鉄時代から使われているものなので、Kidokoは当社に限らず、他の鉄道事業者さまでも使える可能性があると考えています。次のフェーズでは、検証や実績を重ねて、他の鉄道事業者さまにもアピールしていきたいですね。

── 最後に、今後取り組んでいきたい課題について教えてください。
── 最後に、今後取り組んでいきたい課題について教えてください。

佐々木氏 ──鉄道事業は労働集約型産業と言われていて、我が国における生産年齢人口の減少の影響を、セールス面でもオペレーションやメンテナンスの面でも大きく受けることが確実視されています。
我々としては、将来にわたり列車を安全に運行して、お客さまに安心してご乗車いただくため、鉄道のメンテナンス業務をより高度に、より人手のかからない仕組みにしていく必要があると思っています。そのひとつの手段として、業務のDXは必要不可欠だと考えていますので、AIの活用なども視野に入れつつ、今後もNCDCさんにご協力いただきたいです。

※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。

佐々木 和洋 氏
佐々木 和洋 氏
JR東日本研究開発センター
信号通信技術メンテナンスユニット
信号メンテンナンス
マネージャー・主幹研究員
丸山 智彦 氏
丸山 智彦 氏
JR東日本研究開発センター
信号通信技術メンテナンスユニット
信号メンテンナンス
副主幹研究員
(現 長野信号通信設備技術センター(長野メンテナンスセンター))
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