多様なコラボレーションにより、最先端のデジタルヘルスを実現するため、住友ファーマの完全子会社という形で2024年にスタートしたFrontAct株式会社。
ウェアラブルデバイスと連携したヘルスケアアプリの開発プロジェクトについて、フロンティア事業本部の落合様にお話を伺いました。
落合氏 ── そもそも我々は住友ファーマの中でデジタルヘルスに関する事業を行う新規事業部隊として、フロンティア事業推進室という形でスタートしています。活動量計「ミモリー」や、ヘルスケアアプリ「じくら」、サイボーグ技術を使った手指のリハビリデバイスや簡易の脳波計といったものの開発を行っていました。
我々としては多様な領域の先進的企業とコラボレーションしたいという思いがあったのですが、製薬会社のビジネスモデルとして、ある種、他社を排除してマーケットを作っていくというような側面があるため、他の製薬会社さんなどとの提携が難しいという課題を抱えていました。
落合氏 ── そうですね。そういったこともあり、100%子会社という形でフロンティア事業推進室を切り出すことで自由度を高めることを目指したのです。実際に、FrontAct設立後は他社さんとの連携が大幅に進みました。「FrontAct」という社名には、フロンティア領域でアクトする、という意味合いが込められているのですが、フロンティア領域で何かやりたいという気持ちだけだったところから、実際にアグレッシブに動けるようになったという実感があります。
落合氏 ── 簡単に言うと、リストバンド型活動量計MiMoRy(ミモリー)と接続することで、歩数や睡眠時間、活動ログなどを確認できる、スマートフォン用のアプリです。システム全体をみると、ユーザー個人が見るだけではなく、ヘルスケアのデータを研究者と共有できる特長を持っています。
高齢者にも利用していただくことを想定しているので、計測結果をわかりやすく、見やすく表示することを重視しています。
落合氏 ── もともと、アプリの開発メーカーさんを何社かリストアップしていて、各社からご提案を募って検討を進めていたのですが、一番重視したのは我々の実現したいことを理解して、プロアクティブに動ける会社かという点でした。
担当者、責任者もアプリ開発の素人で、社内にも分かる人がいないといった不安のある状況で、我々のやりたいことをお伝えしたときに、NCDCさんはそれを具体化してスケジュールに落とし込むだけでなく、将来のことも考えて拡張性のある選択肢を提案してくださいました。細かく指示を出したわけでもないのに、提示した情報を読み込み、意図を汲み取って期待以上の提案をしてくれるという提案力が決め手になりました。
落合氏 ── NCDCさんからの提案で、我々が気付かなかったところに気付けたというのは大きかったです。今回、アプリ側はNCDCさん、クラウドシステム側は別のベンダーさんに頼んでいるのですが、クラウド側とのデータの連携について、NCDCさんのエンジニアの方たちが「こういう仕様にした方が、データ連携がスムーズになるんじゃないか」とか、「ここはアプリ側ではなくクラウド側で制御した方が、後々改修や保守のコストを抑えられますよ」とかいったふうに、よく提案してくださいました。
そうですね。しかも、意見を出すだけではなく相手方のベンダーさんへの伝え方も含めてアドバイスを下さったのは助かりました。クラウド側のベンダーと契約しているのは私たちなので、私たちから依頼をしないといけないのですが、専門知識がないため要望を正しく伝えるのに苦労していました。自社の担当範囲だけでなく、プロジェクト全体が良い方向に進む方法を一緒に考えて手伝ってくれるNCDCさんのようなパートナーは本当にありがたいです。
落合氏 ── 一度、強く意見を言われたことも印象に残っています。クラウド側のベンダーさん、NCDCさん、我々と3社の連携が必要なプロジェクトで、その中心に素人の私たちがいるためコミュニケーションやマネジメントがうまくいかない時期が開発初期にあったのですが、その際は、NCDCの担当の方が「このままでは大変なことになりますよ」と、歯に衣着せぬ感じで伝えてくださいました。当時、そこまで大きな問題だと気づいていなかったのですが、はっきり言ってもらえたことで我々も危機的状況なのだということが分かって、優先度を上げて専門人材の確保のために動くことができました。
落合氏 ── アプリと連携して使用するこちらのウェアラブルデバイス「ミモリー」ですが、高齢者の方が不自由なく使えるように「軽さ」「シンプルさ」を追求していて、ボタンも2つしかありません。アプリのUIも同様にユーザーの使いやすさが重要なのですが、NCDCさんから出てきたUIデザインは初期の段階から出来が良かったです。
落合氏 ── 我々は技術に関しては全く知識がなかったので、各OS用に完全に独立して別々にアプリを作るものと思っていたのですが、NCDCさんがiOSとAndroidのどちらにも対応したアプリを開発できるFlutterというフレームワークの利用を提案してくださいました。共通の基盤で開発すると効率化が図れるということだったので、そのように進めていただいたのですが、結果的に、開発期間とコストを抑えることができました。
落合氏 ── 定例のミーティングを実施していたのですが、一通り説明されたあとに、理解が追いつかないというようなことはありました。そういった際は、NCDCの担当の方が察してすかさず補足説明をしてくださったり、解説を加えてくださったりして、我々のような不慣れな人間にもわかりやすいように気を配ってくださいました。ホスピタリティのある方たちだな、と思いましたし、非常に助かりました。
落合氏 ── ほぼほぼ順調に進行していて、2025年4月には臨床実験用にストアリリースをしています。アプリ開発の過程ではデバイス側の情報や通信ライブラリの情報をNCDCさんにお渡しするのが予定よりも遅くなってしまってご迷惑をおかけしました。そうした状況でも、「いま手元にある情報を元に、無駄にならない範囲でやっておきます」というように、柔軟に対応していただきました。おかげさまで概ね予定通りプロジェクトを進行することができました。NCDCさんは請け負った範囲に限定されず、我々が目指しているところを一緒になって考えてくれる伴走者という印象でした。
落合氏 ── アプリのコンセプトとして、ウェアラブルデバイス「ミモリー」と、ヘルスケアアプリ「じくら」から取得したデータを元に、推論エンジンを活用して、未病の状態にあるユーザーにメンタルの状態についていち早くお知らせする。あるいは、反対に生産性の高い状態をユーザーにお知らせすることで、ご自身のパフォーマンスが最大になるのはどんな状況なのかといったことを認識してもらう。こういったことに使えるものにしていきたいと当初から考えていました。ですので、今はちょうどプロセスの第一歩目を踏み出したところです。
今はまだ実証実験の段階なので、アプリの継続率は問題になっていませんが、ヘルスケアアプリの抱える一番の課題は継続率の維持だと思っています。ヘルスケアアプリはユーザーが楽しむような性質のものではないため継続して使ってもらうことは難しいですが、毎日アプリを開きたくなるような仕掛けを考えたり、もっと使ってみたくなるような機能を足していったりとユーザーに長く使ってもらえるアプリになるよう開発を続けて行きたいと考えています。その際はまた、NCDCさんに協力してもらえるとありがたいです。