ダイムラー・トラック・ファイナンシャルサービス・アジア株式会社は、三菱ふそうトラック並びにバスのリースやローンを取り扱うファイナンス会社として、商用車に特化したビジネスを展開している。同社のシステム改修プロジェクトについて、デジタルトランスフォーメーション&カスタマージャーニーマネジメントの左座様・上田様にお話を伺いました。
左座氏 ── 簡単にご説明すると、自社開発しているリース料計算、与信のためのお客様情報入力、契約手続きを行うPOSシステムの改修プロジェクトです。
お客様がリースやローンといった当社が提供するファイナンスをご利用される際、お申込などを受ける窓口となるのは、基本的にはバス・トラックを販売する販売店です。従来は、POSシステムはファイナンスを担う当社内だけで利用していましたが、窓口となる販売店にも展開してセールスの業務をデジタル化すること、また、それにより販売店・お客様双方のプロセスを効率化することを目指しています。
上田氏 ── 乗用車の販売店をイメージすると、セールスがお客様の希望を聞きながらタブレット端末などを用いてさっと見積もりをつくる姿が思い浮かぶのではないでしょうか。
しかし、トラックやバスなどの商用車販売は乗用車とは異なり企業間契約が主体なので複雑な点もあり、昔からのやり方を踏襲して紙で書類を作成しているケースが多いと思います。
左座氏 ── 販売店からリースやローンを取り扱う金融部門への情報連携がすべて紙で行われるわけではありませんが、販売店からメールで送られてきたPDFを見て、金融部門でPOSシステムに入力し直しているようなケースはよくあります。
上田氏 ── 2021年12月に、分社により私たちのいる商用車部門と乗用車(メルセデス・ベンツ)部門が切り離されたのですが、このシステムのベースは分社以前に主に乗用車販売向けに作られたものでした。しかも海外製システムなので、日本のユーザーにわかりにくかったり、実際の手続きの流れに沿っていない点があったりして、そのまま商用車の販売店に展開するのは難しいものでした。
左座氏 ── 既存システムを見直して一部機能を商用車販売に最適化するという目的でしたので、当初は社内の人員のみで改修案をまとめようとしていました。
各部門から人を集めて議論することで機能の要件はある程度まとまったのですが、どんなUIなら販売店に使ってもらえるのかを考えるのは困難でした。ある時「UIはプロに頼んだ方がいいのではないか?」という意見が出たことからデザイン会社を探すことになりました。
上田氏 ── 結果的に、デザインをプロに任せたのは大きな転換点になったと思います。
左座氏 ── 改善の必要性が議論されながらも数年間使い続けていたシステムなので、社内には改修は難しいと諦めている雰囲気も少しありました。しかし、デザインも一新することになり、過去の経緯を断ち切ってシステムを生まれ変わらせる「Re-brandingプロジェクト」だというイメージを社内にあらためて発信できたと思います。
左座氏 ── UI改善を専門家に依頼する案は後から出てきたため、各社に相談をし始めた時点でリリースまでのスケジュールや予算の枠はほぼ決まっていました。そのためUI検討の工程には制約が多かったのですが、NCDCさんにはこちらの希望を取り入れて柔軟な提案をしてもらえたことが決め手になりました。
左座氏 ── 他社からいただいた提案は、スケジュールも費用もこちらの希望に合わせるのは難しいというものでした。
一方でNCDCさんからは、設計(ワイヤーフレーム作成)フェーズとデザインフェーズを分けて契約すること。設計の段階では開発費用を考慮して変更を抑えた案と抜本的に改善する案の2パターンを作ること。この2点をご提案いただきました。
上田氏 ── 何度か商談する中で私たちの事情を理解して柔軟な対応をしてもらえたのだと思います。プロジェクト開始後もデザイナーの清水さん・伊藤さんには臨機応変な対応をしていただけて、本当に良かったなと思っています。
上田氏 ── 最初に関係部門それぞれにヒアリングの時間を設けて現状の課題を洗い出すことや、課題の解決策として考えられるレイアウト・画面遷移の案を当社のプロジェクトメンバーを含めた定例会で議論していく進め方をご提案いただきました。このプロセスによって皆が当事者意識を持ってプロジェクトに参加できたのでとても良かったです。
他にもペルソナ(販売店でPOSシステムを使うユーザー像)を「デジタルに不慣れなベテランセールス」と設定してUX(ユーザー体験)を検討することや、UIのトレンドを考慮したアドバイスなど、さまざまなご提案をいただけてありがたかったです。
左座氏 ── デザイン的なアドバイスをもらいながら、定例会ではこちらからも業務の流れを説明したり、いただいた案への意見を伝えたりして、より良いUIを一緒に検討していきましたね。
多くのステークホルダーを上手く巻き込みながら進められたと思います。
上田氏 ── 社内のメンバーだけで議論していたときはUIの案が出てもその良し悪しが判断できませんでしたが、プロのデザイナーから論理的にアドバイスをもらえたことで、納得してこのUIがよいと決めることができました。
左座氏 ── 設計フェーズで作っていただいた2案を比較した結果、時間と予算を追加してでも大きく変えた方がいいという声が多かったのです。UIの大幅変更で開発費は予定をかなり超過することになってしまいましたが、現場をよく知る部門の意見を受け入れて、決裁者が判断しました。
上田氏 ── 正直なところ、私たちは、時間も予算も事前に決まっていたので小さな変更で済ませる案が採用されるだろうと思っていました。
左座氏 ── プロのデザイナーにしっかり設計してもらえたことと、2案の比較をさせてもらえたことがこの判断に大きく影響したと思います。NCDCさんに頼んだ結果が、予算ありきで妥協するようなUIではなくて現場が納得して使えるUIに繋がったので、とても良かったと思っています。
上田氏 ── まずビジュアルデザインの方向性を決めるために3つのデザイン案を用意していただきました。社内の意見を取り入れてその中の2つをブレンドしたような案で決裁者の承認を得たのですが、そのプロセスでも当社の意見を受けて柔軟に対応していただけたのがとても良かったです。
上田氏 ── 柔軟な対応にとても感謝しています。たとえば、ある程度設計が進んだ頃に当社からの追加要望が出て手戻りすることもありました。中には社内の私たちでさえ「今さら言われても困るな」と思う要望もありましたが、NCDCのデザイナーさん達はできる限りユーザーの声を取り入れようと真摯に対応してくれました。
左座氏 ── ステークホルダーがとても多くて、デザイナーには難しいプロジェクトだったのではないかと思います。個人的には、清水さん・伊藤さんのファシリテーション能力の高さに感心しました。各所の意見を吸い上げて、テーブルに乗せて、整理していくだけでも大変ですが、それに加えて当社の事業内容やリースの審査プロセスなども一から学ばなければならない状況だったはずなので、短期間に本当に良くやっていただいたと思います。
上田氏 ── きっと懸命に勉強して、全力で対応してくれたのだと思います。まだ開発が済んでいないのでプロジェクト全体を見れば途中ではありますが、UI改善の部分だけ見れば大満足といえる結果です。
もしNCDCさんに頼まず私たちだけで検討を続けていたらこの結果には永遠に辿り着けなくて、途中で諦めていたと思います。
左座氏 ── 物流業界は数多くの中小規模の企業で成り立っているため、トラックやバスの販売もまだまだデジタル化が進んでいない業界です。しかし、いつまでも電話と紙の書類に依存した仕事をしていては効率化が進まないので、今回の当社の取り組みが業界全体のDX促進に繋がればうれしいです。
上田氏 ── DXのひとつとして、デジタルを活用したセルフサービス化が重要だと考えています。
たとえば、契約時に膨大な入力項目をお客様に自ら入力していただくのは難しくても、必要な情報を写真に撮って送るだけならやっていただけるかもしれません。その結果として契約のプロセスが効率化されるならお客様にも喜んでいただけるはずです。
そうしたお客様自身が簡単に使えるデジタルソリューションを提供していくことが私たちの役割だと思います。
左座氏 ── 私たちのいる「デジタルトランスフォーメーション&カスタマージャーニー」は社長直下のチームで、部門横断的なデジタルソリューションを検討する際には各部門と連携しながらプロジェクトをリードしていく機能を担っています。
顧客体験向上のためにはまだやるべきことが無数にあり、システムの新規導入や改善も必要なはずなので、これからも会社が掲げるカスタマーファーストという方針を大切にしてDXに取り組んでいきたいと思います。
上田氏 ── 当社の場合、システム開発はグローバルでの意思決定がされるので、これまでは日本法人が独自にパートナーを探す機会はほとんどなかったのですが、このプロジェクトでひとつ良い実績をつくることができました。
NCDCさんはデザインだけではなくフロントエンドの実装やシステムの設計・開発もできるので、今後のプロジェクトもぜひ相談したいと思います。
※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。