農業をはじめ、環境やエネルギーなどのテクノロジーを軸に世界でビジネスを展開するヤンマーグループ。その中で、グループ全体のITを支えるのが、ヤンマー情報システムサービス株式会社(以下、YISS)です。
今回は、同社のITソリューション部と私たちNCDCが一緒に取り組んだプロジェクトでのエピソードを紐解きながら、ヤンマーグループがめざす新たな価値提供の姿をご紹介します。
※写真左から:YISS・ITソリューション部デジタルビジネス技術推進グループの谷口真悠氏、石野慎二氏、中村圭志グループ長
中村氏 ── このグループは2017年1月、会社が30周年を迎えたタイミングで発足し、現在は私を含めて8人のメンバーがいます。私たちの役割は社内のデジタル化を牽引して、まだ手を付けていない新しい事業領域を創造したり、新しい技術を検証して実用化に向けて挑戦したりすることです。
石野氏 ── 私もグループが立ち上がって間もないタイミングから参画しましたが、実は「さて、何をやろうか」というところからスタートしているのです。 議論の末、現在はスマート工場やデータ分析、シェアリングエコノミー、コグニティブサービス等の7つの領域に絞りこんで、PoC(概念実証)を中心にしたさまざまな取り組みをしています。
中村氏 ── ヤンマーグループとして従来のいわゆる「モノ」のビジネスだけでなく、「コト」のビジネスにシフトしつつあります。そのためにはデジタル技術は必須要素になり、私たちの取り組みが非常に重要になってくるのです。
ガートナー社が提唱する「バイモーダルIT」の考え方でいうと、新たなテクノロジーによってこれまでにない価値を生み出す、“モード2”のIT活用を担っているグループと考えると分かりやすいかもしれません。
中村氏 ── そのとおりです。NCDCさんをはじめとしたパートナー各社にも、デジタル領域の新しい提案をどんどんお願いしている背景にはこのようなことがあります。
石野氏 ── いろいろな企業とご一緒させていただいていますが、やはり企業によって特色があります。
私たちのような実験的な取り組みをするチームには、誰もやったことがない未知の技術でも対応でき、小回りのきくパートナーさんが非常にフィットします。
まだノウハウがない分野のPoCプロジェクトでは、進め方もアジャイル開発になりますし、短期間・少コストで、どんどん数をこなしていく必要があると思います。
そういったニーズに対して、NCDCさんは個々のスキルが高く、なにより納期の面でも柔軟に対応してくれて、一緒に解決策を考えてくれます。多少難しい相談でも一緒に悩んでくださるNCDCさんはありがたい存在です。
谷口氏 ── はい。そちらのプロジェクトの評判を聞いて、NCDCさんにいろいろ相談するようになりました。最近では圃場(農地)の生育状況を航空写真で撮影し「より正確な肥料の配分・与え方を農家さんが把握しやすいようにする」というリモートセンシングを活用した画像解析のAPI開発や、自動運転で話題を呼んでいるロボットトラクター(ロボトラ)のAWSを活用したシステム基盤の実装などでお手伝いいただきました。
UI/UXだけでなく、システム開発やAWSの環境構築など、お願いしているものも多岐に渡っているかと思います。
中村氏 ── リモートセンシングのプロジェクトは、当初UI/UXの部分だけのご相談をしていて、途中から開発まで担っていただきましたよね。
中村氏 ── こうしたサービスがまさに、今後ヤンマーグループが取り組むべき事業ドメインになっていくはずです。
これまでのように製品を売っていれば良いだけの時代は過ぎたと考えています。テクノロジーを使っていかにお客様の課題に寄り添えるサービス開発ができるかどうかが、これからの成長の鍵です。
リモートセンシングで言えば、これまでは目視や“勘と経験”だけが頼りだった作物の生育状況の把握が、「ドローンの空撮写真を使った5メートル刻みのメッシュ画像」というデータによって早く・正確にできるようになりました。農業生産プロセスへの新しい価値提供の形だと思っています。
谷口氏 ── サービスの企画が決まり、私たちからNCDCに相談をしたのが4月ごろ。そのときに「3カ月後の7月までになんとか形にして農家さんに提供したい」というお願いをしましたよね。
私たちのビジネスは農業分野の案件を扱う場合が多いので、収穫時期のピークを逃すとリリースが翌年になってしまう事情があったのですが、あらためて振り返るとタイトなスケジュール感でした…。
中村氏 ── ロボトラは、ヤンマーグループ全体を巻き込んだプロジェクトです。この秋の発売に向けて、北海道で実証実験を繰り返してきました。 NCDCさんにはAWSによるバックエンドのサービスの構築をお願いしました。
中村氏 ── はい、まずは本件でAWSをバックエンドとして使えるか検証しようと思い、AWSの開発実績があり、スピード感を持ってPoCが進められるのはNCDCさんじゃないかということでお声がけしました。
また、AWSに関していうと、当時は大手のSIerさんはEC2やS3といったIaaS部分の実績は豊富という印象がありましたが、今回のようなPaaS領域でのさまざまなAWSのサービスを組み合わせての開発実績は少ないように感じていました。その点でもパートナーとして適切だと判断しました。
谷口氏 ── この案件では、ロボトラアプリの機能をアクティベーションするための設計を当社が担当し、実装を御社にお願いしました。仕様が複雑で簡単ではなかったので、その分、プログラム開発も苦労したのではないかと思います。
また、短期集中型のプロジェクトとして走っていたので、課題があったらすぐにスカイプでも電話でも連絡を取って進めていくスタイルでご一緒できたのが心強かったです。
中村氏 ── そう言っていただけると救われます(笑)。私たちも北海道など、全国各地の農場に出かけていることも多かったですが、御社のメンバーがいつでもスカイプなどで対応してくれたので、こちらのスピード感も出しやすかったです。
石野氏 ── そうですね。このプロジェクトは現段階では実用化に至っていませんが、AI技術のノウハウを得ることができた良い失敗事例だと捉えています。
トラクターの製造出荷では、シートベルトや高温になる部分などに付ける注意喚起のステッカーやラベルの貼り付け位置が正しいか、出荷先国に合った言語になっているかなど、細かい検査が求められています。
今は工場スタッフが写真と目視で品質を担保しているのですが、私たちのグループとしてはスマートファクトリー化に向けて、ここにもテクノロジーが入りこむ余地がないかと考えました。
中村氏 ── そうした業務改善的な意図もありますが、AIや機械学習を駆使したプロジェクトのノウハウや知識を社内で蓄積して定着化させることを見据えてプロジェクトを立ち上げました。
石野氏 ── パソコンに貼ったステッカーを解析した実験初期段階から、実際の工場で撮影した写真に変わった際に、何がうまくいかなかったのかなど、失敗のプロセスを把握できたことは貴重でした。
今回のように苦労したところを共有してもらえれば、YISSのスキルも上げることができ、互いに情報をオープンにしながら共創をしていくメリットがあると感じます。
中村氏 ── 特に今回は、御社のエンジニアさんがカメラを持ち込んで工場まで来てくれましたよね。頼んだこと以上をやってくれるのがNCDCだと印象付けられました。
もちろん、今後の実用化に向けて課題は多くありますが、「とりあえず1回結果を出してみて、良い失敗をして、そこからどう改善させるか」を一緒に考えていくスタイルは他のプロジェクトにも展開していきたいです。
中村氏 ── テクノロジーをどうやって農業に応用していくか、事業部の方々を支援するのが私たちのミッションであることは変わりません。その中でも注目しているのはトラクターと農機具(作業機)との通信・データ活用です。この部分にはISOBUSと呼ばれる国際規格の通信プロトコルがあり、様々な応用が期待されています。この領域もNCDCさんとプロジェクトを進めていきたいと思っています。
谷口氏 ── 一般に、農業機械というとトラクターが主役のようなイメージですが、実はその後ろについている作業機が、圃場を耕す・肥料をまくといった、いわば実務をこなしています。
この作業機とトラクターを通信させることで、例えば生育状況の画像データを読み込ませたり、作業機がデータを収集してトラクターにフィードバックさせたりと、農業におけるデータ活用がさらに進みます。
ヨーロッパなどがリードしている分野なのですが、クラウド連携した次世代のprecision farming(プレシジョン・ファーミング、精密農業)をYISSをはじめヤンマーグループでリードしていくことを目指しています。
中村氏 ── NCDCさんは営業や開発など、担当者の役割が分かれていないので、ついこの話もあの話もと、思いつくままに相談してしまいます。
実装もできるプロジェクトマネージャーが窓口になるというスタイルは、相談したその場でフィジビリティや金額、スケジュールがある程度見えて、意思決定も早いのはうれしいですね。
アジャイル開発を主体としたチームなので、これからも柔軟な体制や、個々の高いスキルでご協力いただけるとうれしいです。