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UX/UI・ブランディング

業務システムの品質を高めるユーザビリティテスト ー 実践のためのステップと重要ポイントを解説。

公開 : 2026.08.22

業務システムの新規導入やリプレースを行った結果、「仕様書どおりに動作するものの、導入後に現場から使いにくいと不満が出はじめた」「リプレース後に入力ミスが多発している」といった課題に直面する企業は少なくありません。

どれほど高度な機能を備えたシステムであっても、現場の従業員が迷わずスムーズに操作できなければ、システム導入によって目指す本来の成果を十分に引き出すことは困難です。このような事態を回避し、システムの定着化と生産性向上の両立を目指すために欠かせないプロセスが「ユーザビリティテスト」です。

本稿では、業務システムにおけるユーザビリティテストの基礎から、その他のテストとの違い、現場で成果を出すための実践的なステップ、そして品質を高めるためのポイントまで詳しく解説します。

業務システムにおけるユーザビリティテストとは?

業務システムにおけるユーザビリティテストとは、実際のユーザーである現場の従業員にシステムを操作してもらい、操作性や画面のわかりやすさ、業務フローとの適合性を観察・評価する検証手法です。

システム開発の現場では「テスト」と呼ばれる工程が複数存在しますが、その目的と検証対象は大きく異なります。特に混同されやすい「機能テスト(バグ検出)」や「ユーザー受け入れテスト(UAT)」との違いを正しく理解することが、適正な品質検証を行うための重要な前提となります。

テスト種別主な目的評価指標
機能テスト仕様書どおりにシステムが動くかプログラムを検証するバグの有無、処理結果の正誤
ユーザー受け入れテスト完成したシステムが業務要件を満たしているか発注者が確認する業務プロセスの網羅性、データ連携
ユーザビリティテスト実際のユーザーが迷わず効率的にシステムを操作できるか検証するタスク完了率、エラー率、操作の迷い

機能テストやUATが「システムが仕様どおりに正しく作られているか」を確認するものであるのに対し、ユーザビリティテストは「ユーザーにとって使いやすいシステムになっているか」を評価します。

仕様上の不具合が一切ないシステムであっても、入力項目の配置が不自然であったり、ボタンの意味が直感的に理解できなかったりすれば、業務の滞りを引き起こします。システムの意図したパフォーマンスを現場で発揮させるためには、動作検証だけでなく、利用者の視点に立った操作性の検証が重要と言えます。

なぜ業務システムでユーザビリティテストが重要か

一般消費者向けのBtoCアプリでは、使いにくい画面はユーザーの離脱やアンインストールに直結します。そのため、開発の過程でユーザビリティの検証が行われる仕組みが確立されているケースが多々あります。
一方で、業務システムは「業務上使わざるを得ない」ため、ユーザー各自の意思で「使いにくいから利用をやめる」ことはなく、直感的な使いやすさは後回しにされがちです。業務システムの新規導入やリプレースの計画を立てる際、ユーザビリティテストのプロセスがないプロジェクトも多いのではないでしょうか。

しかし、業務システムは使いにくくても日常的に使わざるを得ないという特性を持つからこそ、ユーザビリティの低さが看過できない悪影響をもたらすリスクが存在します。

ユーザビリティ低下が引き起こす課題

ユーザビリティの低い業務システムを使い続けることによって起こりうる問題を4例紹介します。

1. 誤操作や入力ミスによる重大なトラブル

業務システムでの操作ミスは、誤発注や在庫データの食い違い、顧客情報の誤登録など、事業活動に直接的な実害を及ぼすこともあります。誤発注により多額の損害が起きたというニュースを目にしたことがある方も多いでしょう。ボタンの配置や警告表示の視認性をユーザビリティテストで検証しておくことで、人間のうっかりミス(ヒューマンエラー)を構造的に、未然に防ぐことができます。

2. マニュアル作成や教育コストの増大

操作性が悪く直感的に使えないシステムは、手厚いマニュアル作成や長時間の研修を必須とします。新入社員や異動者が着任するたびに発生する教育コストは、長期的に見れば大きな負担となります。設計段階で直感的に操作できるUIを実現しておけば、最小限のトレーニングで現場がスムーズに操作できるようになります。

3. シャドーITの発生とガバナンスの低下

使いにくいシステムは現場のユーザーから敬遠され、「本来は新システムで行うべき業務を、以前の古いExcelや非公式のツールで勝手に処理してしまう」といったシャドーITを誘発します。これにより、データの一元管理が崩れるだけでなく、情報漏えいのリスクやITガバナンスの低下を引き起こします。

4. システム定着の阻害と業務効率の低下

操作に迷うUIは現場の大きなストレス源となり、システムへの入力作業そのものが後回しにされる問題を生みます。その結果、データ登録の期限間近に入力作業が集中して残業時間が増加するなど、本来システム導入で実現したかったはずの業務効率化を根本から阻害してしまう恐れがあります。

現場のユーザーが直感的に作業を完結できるUIを提供することは、こうしたリスクを排除し、新システムの導入効果を組織全体に浸透させるための重要な基盤となります。

業務システム向けユーザビリティテストの実践5ステップ

業務システムのユーザビリティテストで成果を上げるためには、適切な手順に沿って評価を進める必要があります。ここでは、計画立案からUI改善施策への落とし込みまでの実践的な5つのステップを解説します。

ステップ1:検証目的の設定と評価指標の定義

テストを開始する前に、「今回のテストで何を明らかにするのか」という検証目的を明確にします。目的があいまいなままテストを実施すると、単なる個人の好みの意見収集に終わってしまう危険性があります。

評価指標には、客観的な数値で測定する「定量指標」と、ユーザーの行動や心理を把握する「定性指標」の両方を設定することが推奨されます。

  • 定量指標の例: タスク完了率(目標90%以上)、タスク完了までの所要時間、平均エラー発生回数
  • 定性指標の例: 画面遷移時の迷いの有無、ラベルや用語の解釈の差異、操作中に感じたストレス要因

これらを定義しておくことで、テスト結果に基づく改善案の優先度判断がスムーズになります。

ステップ2:実務に即した正常系・例外系シナリオの作成

テスト被験者に依頼する「操作タスク」と、その背景となる「業務シナリオ」を作成します。業務システムのテストでは、「特定のボタンを押す」といった単純な単体操作ではなく、実際の業務の流れに沿ったリアリティのあるストーリーを用意することがポイントです。

たとえば営業管理システムの場合、「見込み顧客から電話を受け、問い合わせ内容を履歴に登録した上で、次回訪問のタスクを同僚に割り当てる」といった一連の流れをシナリオ化します。また、正常な手順だけでなく、「途中で入力内容を変更する」「必須項目をあえて空欄のまま登録を試みる」「作業途中で別画面からの割り込み処理を行う」といった例外処理ややり直しの操作をシナリオに組み込むことで、エラー処理のわかりやすさやリカバリーのしやすさも同時に検証できます。

さらに、管理者や一般社員といった「権限別」のテスト環境を用意し、実際の利用シーンに合わせたアカウントで検証を行うことも、実効性のあるデータを得るために重要な要素です。

ステップ3:現場の真のユーザーのリクルーティング

テスター(被験者)には、開発中のシステムを将来実際に日常業務で使用する「現場の担当者」を選定する必要があります。

ここで注意すべきは、プロジェクトを推進しているIT部門の担当者や、現場の管理職のみを被験者に選定することは避けるべきだという点です。日常的にシステム開発に関わっているメンバーや管理職は、業務仕様やシステム構造に精通しすぎているため、初めて触れるユーザーが抱く「操作の迷い」を再現できません。

テスター(被験者)選定のポイント

  • 新人やITスキルの平均的な現場メンバーを被験者に含めること
  • 拠点や部署ごとの業務ローカルルールが存在する場合は複数の拠点から選定すること
  • 被験者を「業務理解度」と「ITリテラシー」の2軸でマッピングし、それぞれの層をバランスよく含めること

テスト数が多い方がより多くのデータを得られますが、数を増やせば当然期間や費用の負担も大きくなります。5件のテスト結果を検証すれば主要な問題の多くは発見できるため、まずは代表的な利用者のペルソナに合わせて、1つのロール(ペルソナ)あたり5名程度のテスターを確保し、評価を実施することが効率的と言えます。

ステップ4:テストの実施と行動・発話データの収集

テスト実施時は、被験者が操作しながら頭の中で考えていることを声に出してもらう「思考発話法」を採用します。「次はどこをクリックすればよいか迷っています」「この用語の意味がわかりません」といった声をリアルタイムで発声してもらいながら、操作の様子を観察します。

観察者は、被験者の発言だけでなく、以下の行動ログを正確に記録します。

  • マウスカーソルが滞留した場所や無駄な往復動作
  • 想定と異なる画面をクリックした回数と箇所
  • 画面を注視したまま止まった時間や、困惑した表情

テスト中は、観察者が安易に操作方法のヒントを出さないように徹底することが重要です。ユーザーが自力で問題を解決できるか、あるいはどこで完全に手詰まりになるかを客観的に見極めます。

ステップ5:UI改善への落とし込みと優先度付け

テスト終了後は、収集した行動データや発話ログを分析し、ユーザビリティ上の課題をリストアップします。

抽出された課題は、業務への影響度と発生頻度をもとに優先度を分類し、改修計画へ落とし込みます。

改修計画の立案例

  • 優先度高(致命的課題): タスクが完了できない、誤データを登録してしまう、業務が完全に停止する→最優先で対応(即時改修)
  • 優先度中(効率上の課題): タスクは完了できるものの著しく時間がかかる、遠回りな操作を強いられる→次期リリースまでに対応
  • 優先度低(微細な課題): 表示位置の微妙なずれや、個人の好みの範囲に左右される見栄えの問題→リソース状況に応じ対応

【重要】ユーザーの「要望」を鵜呑みにせず「真の課題」を抽出する

分析時に注意すべきは、被験者の「ここにボタンを追加してほしい」といった要望(解決策の提案)をそのまま仕様に反映しないことです。ユーザーの提案をそのまま実装し続けると、ボタンや項目がツギハギになり、かえって画面が複雑化してしまいます。

「なぜそのボタンが欲しいと感じたのか(根本的なつまずきの原因)」を行動ログや発話から読み解き、情報設計のプロの視点で「導線を見直す」「レイアウトを整理する」といった最適なUIの解決策へと変換することが不可欠です。

その上で、抽出した定性的な課題を「誤入力によって処理時間が平均○分増大している」「ボタン配置の認知難易度が高くタスク完了率が○%にとどまっている」といった定量的なインパクトに換算して提示することが重要です。これにより、開発チームや経営層に対して論理的な優先順位付けと改修の必要性を説得力を持って説明できるようになります。

業務システムの品質を高める実践的アプローチ

業務システムのユーザビリティテストには、コンシューマー向けWebサイトやアプリのテストとは異なる独自の注意点が存在します。プロジェクトを成功へ導くために押さえておくべきポイントを解説します。

現場と管理職の意識ギャップに配慮する

業務システムの検討過程では、管理職や経営陣が求める「集計機能の充実」や「管理項目の多さ」が優先され、現場の「入力のしやすさ」が犠牲になる問題が起こりがちです。

また、テストに管理職が同席していると、現場の担当者が本音の使いづらさを発言できなくなる傾向があります。テストを実施する際は、被験者がリラックスできる環境を用意し、本音のフィードバックが得られる場を作ることが不可欠です。

事前スクリーニングとして専門家による評価を活用する

ユーザーを集めたテストを実施する前に、UX/UIの専門家が既知の法則に基づいて画面を評価する「ヒューリスティック評価」を挟む手法も有効です。

専門家評価によって「ラベル表記の表記揺れ」や「レイアウトの不統一」といった基本的な不備を事前に解消しておくことで、ユーザーテストではより本質的な「業務フローとの合致」や「複雑な権限分けによる使いづらさ」などの検証に集中できるようになります。

【事例】ヒューリスティック評価の活用

NCDCが支援したダイムラー・トラック・ファイナンシャルサービス・アジア様のシステム改善事例においても、ヒューリスティック評価によって課題を可視化した上で改修方針を決定し、スムーズなUI改善を実現しています。

初期段階でヒューリスティック評価を行って基本的な問題点を解消した後、より詳細な実務に即した操作感の検証でユーザビリティテストを実施するという「二段階のアプローチ」をとることは、プロジェクト全体の効率化において有効な戦略となります。

比較項目ユーザビリティテストヒューリスティック評価
評価者実際の現場ユーザーUX/UI専門家
主な目的業務文脈でのつまずきを発見UI原則への違反を網羅的に特定
実施時期要件定義〜開発終盤ワイヤーフレーム・既存画面診断時
コスト高(ユーザー調整・設備が必要)中〜低(短期間で実施可能)

プロトタイプを活用した早期・アジャイルでの検証

システムを完全に組み上げた開発終盤でユーザビリティテストを実施すると、致命的なUIの問題が見つかった際に大幅な手戻り工数が発生します。
一方で、早い段階で画面の操作感を検証できれば、開発コストを抑えつつ高品質なシステムを構築できます。そのため、UIに関してはプロトタイプ(試作)の段階で早期にユーザーテストを実施し、アジャイルに改善を繰り返すアプローチが効果的です。

ユーザビリティテストの結果を実効性のあるシステム改修へと還元するためには、以下の4ステップによる実践的なワークフローを確立することが推奨されます。

  1. インパクトの定量化: ユーザーの迷いやミスによって「1タスクあたり何分損失しているか」「業務効率が何%低下しているか」を数値化する。
  2. 費用対効果の評価: 算出した損失コストと改修にかかる開発工数を比較し、投資対効果を明らかにする。
  3. 優先順位の最終決定: ビジネスリスク(データ誤登録など)と投資対効果に基づき、改修のバックログを確定する。
  4. プロトタイプ検証と反復改善: 改修案をプロトタイプで再度テストし、狙い通りの改善効果が得られるまでアジャイルに修正を繰り返す。

【事例】ユーザーテストに基づく工作機械操作画面のUX/UI改善

工作機械メーカーの安田工業さまとのプロジェクトでは「誰もが使いやすいUX/UI」の実現を目指すため、実際の機械ユーザーの方にご協力いただき、ユーザーテストを行いました。

テストを実施した結果、次の発見がありました。

  • 開発者の想像とは違う部分でユーザーが操作につまずいていた
  • 一部画面の使用頻度が開発者の想定とは大きく異なっていた

このケースでは工作機械への実装よりかなり早い段階で、プロトタイプを用いたユーザーテストを実施したため、この結果を踏まえて操作画面のデザインを再度ブラッシュアップすることができました。

まとめ:ユーザビリティテストで現場に定着するシステムへ

業務システムにおけるユーザビリティテストは、単なる見た目のデザイン評価ではなく、現場の業務効率化とシステム定着化を確実にするための重要な品質検証プロセスです。

本記事のポイントを以下にまとめます。

  • 目的の明確化: UATとは異なり、機能の正誤ではなく「使いやすさ・効率性」を検証する
  • 現実的なシナリオ: 単体機能の操作ではなく、実際の業務の流れや例外処理を含むシナリオを作成する
  • 適切な被験者: 管理職ではなく、日常的に操作を行う現場の真のユーザーを被験者として選定する
  • 早期検証の推進: 本開発後の手戻りを防ぐため、プロトタイプを活用したアジャイルな検証を導入する

システムのリプレースや新規開発を進める際は、早い段階からユーザビリティテストを計画に組み込み、現場のユーザーが迷うことなく本来の業務に集中できる環境を整えることが推奨されます。

業務システムのUX/UI改善のご相談はNCDCへ

NCDCでは、数多くの業務システムやBtoBプロダクトにおけるUX/UIデザイン、ユーザビリティテスト、プロトタイピング、そして開発まで伴走支援を行った実績があります。

既存システムの操作性に課題を感じている方や、リプレースプロジェクトにおいてより良い画面設計を進めたいプロジェクトリーダーの方は、NCDCの業務システムUX/UIデザインサービスをご活用ください。

お客さまの業務フローや課題に合わせた最適なテスト設計・改善アプローチをご提案いたします。システム開発や画面評価に関するご質問やご相談がございましたら、ぜひお気軽にご相談ください

この記事を書いた人

菅原 慎也
NCDCのマネージングデザイナー。コンシューマー向けアプリから業務用まで幅広いUX/UIデザインの実績を持つ。ブランディングやクリエイティブデザイン、サービスデザイン、業務システムのUI設計まで多岐にわたる領域をカバーし、豊富な知識と経験でNCDCのデザインチーム牽引するチーフデザイナー。

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