DX推進の現場において、経営層やプロジェクトマネージャーを最も悩ませる事態の一つ。それは、多大なコストと時間をかけて開発した業務用のシステムが、いざ現場に導入されると「見にくい」「使いづらい」と敬遠され、定着しないことです。
デザイナー不在のプロジェクトならいざ知らず、デザイナーが十分な時間をかけて開発したシステムでもこうした問題はよく起きます。
実際に現場に導入されたということは、デザインを検討する段階で多くの関係者が「綺麗で見やすい」「これでいこう」と合意していたはずです。それなのに、なぜ現場からは不満の声が上がるのでしょうか。
現場の業務フローと提供した機能が合致していない、あるいはUIの設計意図そのものがユーザーの感覚とズレているなど、理由は複合的でしょう。
しかし、それらと同様に決して無視できず、かつ多くのプロジェクトで意外なほど見過ごされている「物理的な要因」があります。
それは、開発と現場の「環境」の違いです。
照明の整った会議室で高解像度のモニターを利用できる静かで快適なオフィスと、実際にシステムが使われる現場(たとえば直射日光が照りつける外での作業、十全な設備の整っていない現場、あるいはユーザーが独自に設定した固有の環境)では、画面の見え方が劇的に異なります。この「環境のギャップ」を見落としたまま開発を進めることは、プロジェクトにとって隠れた、しかし致命的なリスクとなります。
私たちは、このリスクを開発の初期段階で検知し解消するために、デザインツール「Figma」上で動作する独自の検証ツール「USER VIEW」を開発し、社内運用を開始しました。

目次
想像力だけに頼るリスク
デザイナーや開発者がどれほどユーザーの利用シーンを想像しようとしても、自分自身の「健康な目」と「快適なオフィス環境」というバイアスからは完全には逃れられません。
「現場は暗いかもしれない」「老眼のユーザーもいるかもしれない」。頭ではわかっていても、多くのデザイナーの手元にあるディスプレイは鮮やかで、小さな文字もくっきりと表示していることでしょう。
その結果、無意識のうちに「自分たちにとって心地よいデザイン」が量産されてしまうのです。
このギャップを埋めるために必要なのは、想像力ではありません。
強制的に「現場の悪条件」を再現し、その環境下でもデザインが機能するかを検証する「仕組み」です。
「物理的な悪条件」をハックする
私たちが開発したツールの最大の特徴は、一般的なアクセシビリティ検証(色覚などの医学的要因)に加え、ビジネス現場特有の「物理的な環境要因」までシミュレーションできる点にあります。
特に、現場での利用を想定したモバイルアプリやSaaSのデザインを行う際に、以下の機能が検証において役立ちます。
1. 直射日光(グレア)の再現
屋外作業や窓際での利用において、最強の敵は「太陽光」です。画面が白く反射し、淡い色のボタンや文字は一瞬で視界から消えます。このツールは、強烈な逆光下でコントラストがどう低下するかを擬似的に再現します。「おしゃれな薄いグレー」が、現場では「存在しないも同然の色」になってしまうリスクを明確に確認できます。

2. 指紋・皮脂汚れの再現
工場や物流などの現場では、常にシステムユーザーの手が清潔とは限りません。使い込まれたタブレットは指紋や皮脂で汚れ、画面の鮮明さは著しく低下します。
指紋や皮脂で汚れを検証するモードでは、汚れのフィルターをかけることで、「汚れた状態でもボタンとして認識できるか?」「重要な数値が読み取れるか?」を検証します。
3. プロジェクター・低コントラスト環境の再現
システム画面を投影して会議を行う際、プロジェクターの性能や照明環境によっては、映像の黒い部分が環境光に負けてしまい、コントラストが低く見えます。すると、色が飛んでしまい資料内の重要な情報が見えなくなることがあります。
このモードでは、コントラストが下がった状態を再現し、プレゼン資料やダッシュボードの視認性をチェックします。
4. ブルーライトカットの影響
ユーザー側で端末の「ブルーライトカット機能」を強めに設定しているケースが近年増えています。画面のブルーライトカット機能を使うと、目の負担軽減のために青い光を減らす代わりに画面全体が黄色っぽく(暖色系に)変化します。
ブルーライトカット検証のモードでは、画面全体が黄色味がかった状態でも、色の識別(例えば、赤色のアラートとオレンジ色の注意の区別など)が可能かどうかを確認します。
「多様な目」を持つことのビジネス価値
物理的な環境だけでなく、ユーザー自身の「目の特性」への配慮も欠かせません。
一般的にアクセシビリティというと「福祉的な対応」と捉えられがちですが、ビジネスの文脈では業務システムのアクセシビリティは「ベテラン社員の知見を活かすための基盤」でもあります。
なぜなら、加齢による白内障や黄斑変性、あるいは緑内障による視野の欠損。これらは特別なことではなく、経験豊富な現場のリーダー層や経営層にこそ起こりうる現実です。
また、日本人男性の約20人に1人は赤や緑の混じった特定の範囲の色について差を感じにくいという「色覚特性」を持っていると言われています。例えば、グラフでデータを示す際に「赤と緑」という色分けだけで情報を区別していると、重要なデータが伝わらないリスクがあります。
多様な見え方をシミュレーションすることは、誰ひとり取り残さず、すべてのユーザーに正確に情報を届けるための「品質保証」なのです。
「感覚」の議論を「事実」の議論へ
このツールは、単にデザイナーが検証作業を行うためだけのものではありません。プロジェクトの意思決定プロセスそのものを変える力があります。
これまでは、「見やすさ」か「見た目の良さ」か、個人の感覚やモニターの性能に依存した水掛け論になりがちでした。しかし、このツールではシミュレーション結果を画像として出力し、エビデンスとして提示することができます。
客観的な画像を提示することで、議論の質は一変します。チーム全員が「現場での見え方」を共通認識として持ち、ビジネスゴールに沿った合理的な判断を下せるようになるのです。
結論:UIの「堅牢性」を高める
美しい画面を作ることは重要です。しかし、NCDCが目指すのは普段通りではない環境やユーザー固有の特性があっても、確実に情報が伝わり、迷わず操作できる「美しく堅牢なUI」です。
ビジネス、デザイン、テクノロジーを分断せずシームレスに支援するという私たちのポリシーは、こうした細部の検証プロセスにも息づいています。
「実際には使えないシステム」を作らないために、まずはその画面をあらゆる方面から徹底的に検証してみる。そこから、本当に現場で使用されるDXシステムの開発が始まります。
貴社のプロジェクトでは「現場の環境」や「ユーザーの特性」まで考慮された検証が行われていますか?
NCDCでは、単なる画面デザインにとどまらず、利用環境のリスクを洗い出すアクセシビリティ診断や、手戻りを防ぐためのUIガイドライン策定など、プロジェクトの成功確率を高めるためのご支援を行っています。
現状の課題感や、開発中のシステムに対する懸念など、まずはお気軽にご相談ください。


