アジャイル開発における心理的安全性の重要性と向上の工夫

公開 : 2024.01.24 

Scrum Inc.認定スクラムマスターの局です。

以前、「アジャイル開発は文化である」という記事を書きました。
本記事では、先の記事で文化の一つとして取り上げた「心理的安全性」について深掘りし、アジャイル開発に心理的安全性が必要な理由と、その文化を作り上げる工夫について紹介します。

心理的安全性とは?なぜアジャイル開発に重要なのか?

まず心理的安全性の定義を見てみます。
この概念を最初に提唱したのは、ハーバード大学で組織行動学を研究しているエイミー・エドモンドソン教授(Amy C. Edmondson)です。
エドモンドソン教授は心理的安全性を、次のように定義しています。

チームにおいて、他のメンバーが自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰をあたえるようなことをしないという確信をもっている状態であり、チームは対人リスクをとるのに安全な場所であるとの信念がメンバー間で共有された状態

次にアジャイル開発に心理的安全性が必要な理由ですが、アジャイルソフトウェア開発宣言には「プロセスやツールよりも個人と対話を」「契約交渉よりも顧客との協調を」との文言が入っています。
これを実行するためには、立場に関係なくチーム内のメンバーが発言できる心理的安全性の確保が重要となります。

しかしながら、上司・部下の関係性、先輩・後輩の関係性、また特に発注者、受注者の関係性において心理的安全性が保たれる環境を作りだすことは容易ではありません。
残念ながら、立場の違いなどが影響する心理的安全性の欠如がチームの課題となることはよくあります。

アジャイル開発で心理的安全性を生み出す手法

では、どのようにしてアジャイル開発チームで心理的安全性を生み出すことができるのでしょうか。
いくつかの手法をご紹介します。

1、定期的な振り返りの時間を設けること

まず、アジャイル開発の一つであるスクラム開発のフレームワークでは、1スプリントの終わりに必ずレトロスペクティブという、振り返りの時間を設けることが決まっています。この時間はチームづくりに重要なものです。仮にスクラム開発のフレームワークでなくとも、定期的に振り返りの場を設けておくことは大切です。
そして、そこは誰が何を発言しても否定しない場で、生産的な改善項目を洗い出すための場であると予め定義しておくことがとても重要です。

振り返りの方法にもさまざまなものがありますが、チームや個人にとって障害になったことを取り上げられるようなフレームワークを利用することを推奨します。
どうしてもバッドニュースは隠したくなり、何とか自身で解決しようとして一人で問題を抱え込んでしまいがちですが、あえて振り返りの際に議題に挙げてもらうことが本人にとってもチームにとっても心理的安全性の醸成に繋がります。

またエドモンドソン教授は、心理的安全性を7つの質問で計測する方法を提唱しているので、これを用いてときどき現在のチーム状態に問題がないかを確認するのも有効です。

心理的安全性を7つの質問で計測する方法
チームのメンバーに下記の7つを問い、「強くそう思う」「そう思う」「どちらとも言えない」「あまりそう思わない」「そう思わない」の五択で回答ししてもらいます。
1、3、5は「そう思わない」に近く、度合いが低いほど心理的安全性が高い、一方、2、4、6、7は「強くそう思う」が多く、度合いが高いほど心理的安全性が高いと判断されます。

  1. チームの中でミスをすると、たいてい非難される
  2. チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える
  3. チームのメンバーは、自分と異なるということを理由に他者を拒絶することがある
  4. チームに対してリスクのある行動をしても安全である
  5. チームの他のメンバーに助けを求めることは難しい
  6. チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない
  7. チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる

2、既存の関係性をアジャイル開発に持ち込まない

既存の組織の関係性を開発チームにできるだけ持ち込まないことも大切です。DXを目的として、既存のやり方を変革するために新たにアジャイル開発を取り入れようとしている企業には特に推奨します。
上下関係に厳しい組織などが既存の関係性を開発チームに持ち込んでしまうと、やり方だけアジャイル風に見せても何も変わっていきません。

スクラム開発のフレームワークにはプロダクトオーナー(PO)、スクラムマスター、開発者のロールが存在しますが、彼らはフレームワークの元で平等です。
一見、POやスクラムマスターがマネジメントやコーチをするような役割のため、偉いと思われがちですが、チームスポーツのポジションのようなもので、上下関係は存在しないのです。

既存の組織の関係性を持ち込まないために「〜部長」「〜課長」などの役職名をチーム内の会話に入れないというのは基本的なやり方ですが、もっと意識高く取り組むのであれば、先輩が後輩を呼び捨てするようなこともなくして、お互いを平等かつ、尊重するような呼称で呼ぶことが望ましです。
もしくはプロジェクト内のニックネーム、バスケでいうコートネームのようなものを設けて呼び合うという方法もあります。

3、雑談(仕事に関係ない話)をあえてミーティング前に行う

心理的安全性が高い職場には、以下の3つのサインが見られるということも、エドモンドソン教授は提唱しています。

  1. ポジティブな発言が多い
  2. ミスや問題についても話す機会が多い
  3. 職場に笑いとユーモアがある

この中で、”職場に笑いとユーモアがある”というサインの実現のため、仕事のミーティング前などにあえて雑談(仕事に関係ない話)をすることを推奨します。
これはアジャイル開発の潤滑油となるべき、PMやスクラムマスターが最も意識すべきことかもしれません。
会議室に入る際、だんまりで各自が打ち合わせの開始を待っている空間に入っていくのと、談笑が行われている会議室に入っていくのと、どちらが入りやすいでしょうか? 誰もが後者の方が良いと思うのではないでしょうか。

プロジェクトメンバーのだれが中心となってもかまわないのですが、PMやスクラムマスターが率先して雑談できる雰囲気をつくってあげるといいでしょう。
また、対面のミーティングであれば茶菓子などを置いておくことや、輪になるような机配置にすることも笑いとユーモアのある職場にするためのちょっとした工夫です。

アジャイル開発のご相談はNCDCヘ

アジャイル開発における心理的安全性の重要性と向上の工夫を解説しましたが、何かヒントを掴んでいただけたでしょうか。
NCDCではこのようなスムーズにプロジェクトを進めるためのチームの文化醸成なども含めて、多様なかたちでアジャイル開発の支援を行っています。具体的な進め方のご相談などありましたらお気軽にお問い合せください

ページトップへ

お問い合わせ

NCDCのサービスやセミナー依頼などのお問い合わせは
下記のお電話 また、お問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。

050-3852-6483