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多くの企業が生成AIの全社導入に踏み切り、社員にChatGPTやMicrosoft Copilotなどのアカウントを配布しています。しかし、導入から数ヶ月が経った今、多くのIT部門が直面しているのは活用がなかなか広がらないという停滞感ではないでしょうか。
実際、展示会などで生成AIを導入した企業の話を伺うと、実務で日常的に活用できているのは全社員の1〜2割程度という声をよく耳にします。
大半の社員は調べ物や資料の要約といった補助的な利用に留まっており、自身のミッションにおいて最も重要な「核心となる業務」の質的向上やスピードアップには生成AIを活用できていないケースが多いようです。
「個人の裁量」に委ねる限界と、認識のズレ
なぜ、現場の仕事の進め方は変わらないのでしょうか。その要因は、実務への具体的な落とし込みを現場の裁量に委ねてしまっている点にあります。多忙な現場にとって、複雑に絡み合った日々の業務をAIが扱えるかたちに整理し、切り出す作業は非常に負荷が高く、本来の業務とは別のスキルを必要とします。
また、多くの人は、AIを「調べ物をするツール」という枠組みで捉えており、自身の核心的な業務には適用できないと思い込んでしまっています。
しかし、生成AIは今この瞬間も進化を続けており、本来は複雑な判断や一連の処理までこなす実力を備えています。この「先入観」と「日々進化するAIの能力」との間にあるギャップが、実務への導入を阻む大きな障壁となっているのです。
「生成」から「実行」へ。実務を動かす「AIエージェント」という視点
AIを単なる資料づくりの相談相手ではなく、実務を任せられる担当者のように活用する。その鍵となるのが、AIエージェントという考え方です。
従来のAIが問いに答えることに特化していたのに対し、AIエージェントは目的達成のために必要な一連の作業を代行することを目指します。例えば出張手配なら、ホテルの候補を挙げるだけでなく、社内カレンダーを確認し、旅費規定に沿って予約までを一通りおこなう。
AIに何を聞くかではなく、AIにどの実務を任せるかという視点の転換が、停滞していた活用を具体的に進める力になります。
現場の課題を「整理・翻訳」するワークショップ
NCDCでは、こうした業務の整理を現場主導で行うためワークショップ「生成AIエージェント Discovery Workshop」を提供しています。これは単なるアイデア出しの場ではなく、以下のステップで現場の課題をテクノロジーで解決可能なかたちに落とし込むための実践的なプログラムです。
- 業務の洗い出し:現場が日々手間に感じている実務を書き出します。
- 情報源の特定:各業務に必要なデータの所在を特定し、その流れを整理します。
- 導入効果(ROI)の試算:削減時間を数値化し、投資判断の材料を揃えます
- レポートの提出:ワークショップの結果から、特に改善効果の大きい業務をまとめた資料を後日送付します。

では、実際にこのプロセスを経るとどのように変わるのか。実際にワークショップを受けた企業様の事例を紹介します。
航空機地上支援企業の事例
実際に航空機地上支援企業で実施したワークショップの様子を紹介いたします。
開催の背景と目的
今回の取り組みは、同社が間接部門の業務効率化および人員配置の最適化を目指し、AIエージェントの活用を検討されていたことがきっかけでした。
展示会にて弊社のAI エージェントに興味を持っていただいたものの、当時は「具体的な実務にどう組み込むか」「どの程度のインパクトが出るのか」という活用イメージを掴みきれていない状況にありました。
すでに個人単位でのAI活用は進んでいたものの、組織として「業務プロセスの自動化」へ踏み出し、確実な省人化につなげるためには、どの実務が適しているのかを慎重に見極める必要があります。
そこで、現場の実務を具体的に棚卸しし、導入の適正や判断材料を明確にするためのステップとして、本ワークショップを提案・実施する運びとなりました。
当日のプログラムとワークショップの様子
参加者
当日は、役割の異なる5つの部署の皆様にお集まりいただきました。部署を横断した計3つのチームを構成し、それぞれの視点から実務の棚卸しに取り組んでいただきました。
参加部門
- 旅客ハンドリング部門
- グランドハンドリング部門
- 人事部門
- 安全推進部門
- 経営企画部門

ワーク1.課題の洗い出し
最初のステップでは、「AIにできるかどうか」という技術的な制約は一旦考えず、まずは日々の業務で純粋に負担に感じているタスクを書き出すことに注力いただきました。
AI活用の前提を取り払ったことで、会場のあちこちから「実はこの作業が一番しんどい」「これだけで丸一日取られることもある」といった本音の混じった声が上がっていました。普段、当たり前になりすぎて意識していなかった業務も、改めて振り返ることで「これも、あれも」と次々に付箋が増えていき、会場は非常に活気ある雰囲気となりました。
最初は考えを出すのに苦労されていた方も、他のメンバーの意見をヒントに「それなら自分のこの業務も対象になるかもしれない」と具体例を挙げられるようになるなど、対話を通じて課題が可視化されていくプロセスが確認できました。

ワーク2.対象となる情報源の洗い出し
タスクの特定に続き、それらを実行するために必要な「情報」がどこに存在するのかを具体的に特定する作業を行いました。
ここでは固有の社内システム名も多く挙がりましたが、それ以上に目立っていたのはスプレッドシートやExcelによる運用です。どのグループも、共有フォルダに格納されたファイルを参照・加工し、別の成果物を作成するというフローが共通している傾向が見て取れました。
参加者の皆様は日々の実務で使用するファイルを熟知されており、このステップは非常にスムーズに進んでいきました。「結局、Lドライブ(共有フォルダ)のファイルに行き着くよね」といった、現場ならではの共通認識が次々と可視化されていく様子は非常に示唆に富むものでした。
また、同じ部署のメンバーで班を構成しつつ、すぐ隣には別部署の班がいるという環境だったため、「隣の部署ではそんな情報源を扱っているのか」といった、部署間の違いに対する新たな気づきも生まれていました。

ワーク3.ROIの試算
最後は、特定したタスクが「実際にどの程度の工数削減につながるのか」を具体的な数値に落とし込むステップです。
ここでは、毎日発生する細かな作業から、半期に一度の数日がかりの重い業務まで、さまざまな切り口で試算が行われました。チームによって「数人のチーム内での削減」から「全社員に関わる膨大な工数」まで規模は様々でしたが、共通していたのは、時間に換算した瞬間に「想像以上に大きな数字である」という認識が会場全体で共有されたことでした。
また、「一人あたり何分」という個人の視点だけでなく、「会社全体で一日にこれだけの件数を処理している」という業務総量からアプローチする視点も提示されました。単なる個人の時短にとどまらず、組織全体のボトルネックを解消するという全体像が示されたことで、議論も一段と深まっていました。
なお、実務においては人の手による最終チェックが不可欠なため、工数が完全にゼロになるとは限りません。今回はあえて「最大の影響量(ポテンシャル)」を算出することで、導入の是非を客観的に議論するための判断基準を明確にしました。

ワーク4.NCDCからのレポート
当日のワークショップ内容を取りまとめ、弊社にて分析を行いました。AIエージェントの導入によって、どの程度の時間とコストを削減できるのかを定量的に算出しました。

※ワークショップで作成するレポートのイメージです
参加者の声・アンケート結果
参加者の皆様からは、具体的な実装を見据えた、現実的かつ前向きなフィードバックをいただきました。単に「イメージが掴めた」という感想に留まらず、「次に何を精査すべきか」という具体的な論点まで踏み込めたことは、本ワークショップの大きな収穫でした。
- 「自分たちの業務」への適用イメージ
「AIエージェントをどの業務に導入できるのか、具体的にイメージしやすくなった」という意見が多く寄せられました。終了後には、参加者の皆様から「この業務にも導入できるのではないか」といった自発的なアイデアが挙がる場面もあり、AIを自分たちの実務を改善する手段として、より主体的に捉え直すきっかけとなったことが伺えました。
- 削減効果の精度と、今後の精査
一方で、今回算出した削減効果については「あくまで概算であり、実際に導入する際には精査が必要である」という、非常に冷静で実務的な声もあがりました。期待感だけで進めるのではなく、シビアな投資判断を行うための検討材料として機能したことが伺えます。
- 既存システムとの連携が成功の鍵
特に具体的な議論となったのが、既存システムや社内ツールとの連携です。「いかに関連システムとスムーズに接続できるかが鍵になる」という共通認識が得られました。今後は、接続先となる情報源の詳細な確認など、より踏み込んだ実現可能性の検討へとステップを進める予定です。
AIを「便利な道具」から、「実務を担うチームメンバー」へ
全社員へアカウントを配布しただけでは、現場の景色は変わりません。
多くの企業で活用が1〜2割に留まっているのは、AIを「調べ物や要約の補助」と捉える先入観が根強いからです 。いま必要なのは、AIを単なる相談相手ではなく、一連の業務を代行する「AIエージェント」として活用する視点の転換です。
現場が自ら実務を棚卸しし、AIに任せる領域を再定義する。この主体的なプロセスを経て初めて、AIは組織の当たり前の戦力として、日々の業務に溶け込んでいきます。
NCDCでは、現場を巻き込むワークショップをはじめ、上流の課題特定から具体的な構築・実装まで、伴走型の支援を行っています 。「自社ならどう活用できるか」という最初のご相談から、ぜひお気軽にお声がけください。












