2025年8月26日にオンラインセミナー『バイブコーディング入門:ビジネスを加速させる迅速なプロトタイピング術』を開催いたしました。 この記事では当日用いた資料を公開し、そのポイントを解説しています。
目次
はじめに
現代のビジネスにおいて何か新たな取り組みを始めようとすると、多くの場合は、何らかのシステムが必要となります。
しかし、「良いアイデアはあるのに、形にするスキルがない」「エンジニアとうまく意思疎通できず、期待したものが実装されない」——そんな悩みを抱えたことはありませんか。
このような課題はバイブコーディングを活用することで解決できるかもしれません。
今回は、バイブコーディングとは何か、そしてどのように活用できるのかを解説します。
なぜAI活用がビジネスの常識になったのか
これまで、業務の自動化やアプリケーションの開発は、専門知識を持つエンジニアやIT部門の領域とされてきました。しかし、生成AIの登場により、プログラミング経験のないビジネスパーソンでも、簡単なアプリやツールを作成できる時代になっています。
実際、NCDCでもエンジニア以外の社員が生成AIを活用し、日常業務の効率化やアイデアの実現に取り組んでいます。
非エンジニアが生成AIを活用するメリットと注意点
メリット
非エンジニアが生成AIを使いこなす(バイブコーディングを行う)ことで、具体的にはどんなメリットが得られるのか、代表的な例を挙げます。
- 新規サービスのプロトタイプ開発時に、エンジニアとの調整やコミュニケーションコストを削減できる
- 従来はPowerPoint等で作成していた新規サービスの画面イメージを、実際に動く形で提示できる
従来は、新規サービスの企画段階で実際に操作できるプロトタイプをつくることは難しく、PowerPointなどで画面イメージを用意して機能を説明するケースが一般的でした。
バイブコーディングを上手に活用すれば、実際に操作できるプロトタイプを短時間で作成でき、上司や顧客に見せながら直感的にサービスの価値を伝えることが可能になります。
注意点
一方で、バイブコーディングには以下のような注意も必要です。
- すべてのプロトタイプ開発に生成AIが適しているわけではない
- 画面数が多い、あるいは仕様が複雑なサービスでは、AIが意図を正確に理解できず、期待した成果物を出力させるのが難しい場合がある
バイブコーディングによりこれまでにできなかったことが実現できますが、万能ではないことの理解も必要です。
- 簡単なホームページ
- オセロゲーム
- 毎月、複数のサービス提供会社から請求書がメールで届く
- 添付されたPDFを手動でBoxの対象フォルダに格納し、ファイル名を個別にリネームしている
- GASを用いて、毎日自動でPDFをリネームし、Boxの指定フォルダに格納する仕組みを構築
- 新しい経費申請システムのアイデアをPowerPointで作成したが、使いやすさをうまく伝えられなかった
- アイデアを具体的な画面で表現できるようAIに指示し、実際にクリック操作できる試作品を生成
- 試作品を関係者に触ってもらうことで、企画の説得力が向上する
- Web上で使えるチャット型の生成AIサービス
- 例:ChatGPT/Claude/Gemini など
- ブラウザで利用でき、自然言語でのやり取りに最適
- AIが組み込まれた開発環境(エディタ)
- 例:VSCode + GitHub Copilot/Cursor など
- コーディングを伴う業務に適しており、より細かい指示や精度の高い実装が可能
- 生成AIを代表するサービス
- 国内外で広く利用され、汎用性が高い
- 長文処理や文章生成に強み
- アーティファクト機能があり、生成結果をその場で視覚的に確認できる
- Googleのサービス(Google Drive/YouTubeなど)との親和性が高い
- Claude以上に大量文書処理が得意
- コード生成の精度が高い
- アーティファクト機能によって、生成された成果物をその場で確認できる
- セキュリティ上の欠陥:生成AIが作成したコードには、セキュリティ上の問題が含まれる可能性があります。最終的にはプロによるチェックが必要です。
- メンテナンス性:現時点では、生成AIが生成するコードはメンテナンス性の確保が難しい場合があります。
- 個人情報などの高機密情報は、すべての生成AIで利用不可
- 上記に該当しない情報は、生成AIで利用可能
バイブコーディングとは
あらためて、バイブコーディングとは何かを簡単に紹介します。
バイブコーディングとは、「自然言語による指示で、AIにソフトウェアを開発させる開発手法」です。
「Vibes(バイブ)」は英語で「雰囲気」や「感覚」を意味し、「感覚的にソフトウェアを開発する」という考え方から、この言葉が生まれました。
バイブコーディングのサンプル実演
セミナーでは、実際にどのようなものかをイメージしていただくため、以下の2つのテーマでバイブコーディングのデモンストレーション(サンプル実装)を行いました。
今回のデモでは、生成AI「Claude(クロード)」を使用しています。
ClaudeはChatGPTと同様の操作感で利用できますが、生成速度が速く、成果物をブラウザ上ですぐに確認できる点が特徴です。
指示次第で結果が変わる—生成AI活用のポイント
バイブコーディングのデモのひとつは簡単なホームページの生成です。当社(NCDC)のホームページをイメージしながらも、あえて細かい指示を書かずに「簡易的な企業HPを作ってください」と依頼してみます。すると、たったこれだけの指示でAIがページを作成してくれました。
しかし、その結果は「想定していたホームページのイメージ」とは大きく異なるものでした。
このことから分かるように、生成AIは与えられた指示の内容に大きく依存します。適切な情報を具体的に伝えなければ、期待した成果物が得られない場合があります。
また、注意点として、同じ指示を与えても生成結果が毎回異なることが挙げられます。
例えば、以下はどちらも、「試しにオセロゲームを作ってください」という簡単な指示で生成させたオセロゲームです。

基本的なゲームロジックは変わりませんが、1回目では「黒と白の駒のカウント」が画面上部に表示され、2回目では下部に表示されるなど、細部の構成が異なることがあります。
これは、AIが明示的に指定されていない部分を自動的に判断して実装するために起こる差異です。
そのため、再現性を重視する場合は、レイアウトや要素配置まで具体的に指示することが求められます。
バイブコーディングをビジネスに活かすために
バイブコーディングを活用することで、例えば業務効率化や新規サービスのプロトタイプ開発などが可能になります。
業務効率化というと幅広いですが、バイブコーディングは日常業務の効率化を目的としたツール開発によく活用されているのではないでしょうか。例えば、GAS※を用いて、繰り返し発生する作業を自動化できます。
※GAS(Google Apps Script):Googleが提供するGmail、Googleスプレッドシートなどと連携し、業務プロセスの自動化や機能拡張ができるサービス
バイブコーディングによる業務効率化の事例
課題
バイブコーディングによる改善
このように、バイブコーディングで日常的な作業を自動化するプログラムを書くことで業務効率化を実現することが可能です。こちらの事例は、実際にNCDCの社員(非エンジニア)が自らAIに指示を与えて実現したものです。
バイブコーディングによるプロトタイピングの事例
課題
バイブコーディングによる改善
先に紹介した通り、生成AIによるコーディングの結果は与えられた指示の内容に大きく依存するため、こうしたプロトタイピングを行うためにはかなりスキルが必要になりますが、簡単な画面であれば実現は可能です。
生成AIツールの特徴と選び方
次に、バイブコーディングで活用する生成AIツールの選び方について整理します。大きく以下の2種類に分類されます。
Web上で使用できるチャット型生成AIサービスを比較し、特徴を下表にまとめています。
| ツール名 | 特徴 |
|---|---|
| ChatGPT |
|
| Claude |
|
| Gemini |
|
バイブコーディングを行う際には、Claude(クロード)の利用をおすすめします。
主な理由は次の2点です。
アーティファクト機能は特別な設定をしなくても利用でき、ブラウザ上で生成結果を「目に見える」「触れられる」形で確認できる点が大きな魅力です。
ただし、すべての成果物を表示できるわけではなく、例えばモバイルアプリの生成結果は確認できないといった制約がある点には注意が必要です。
実践で学ぶバイブコーディング
バイブコーディングの基本を理解したうえで、より実践的な活用例として「社内向け勤怠管理ツールのプロトタイプ開発」を題材に紹介します。ここでは、AIと協調しながら必要な要件を定義し、実装プロセスを進める流れを具体例として解説します。
バイブコーディングのサンプル実演はアーカイブ動画でご覧いただけます
プロンプト(指示)のポイント
生成AIに与える指示文は「プロンプト」と呼ばれ、成果物の品質を大きく左右します。適切なプロンプトを作成することで、期待した結果が得られる確率が高まります。ここでは、指示を作成する際のポイントを2つ紹介します。
ひとつめは、抽象的な指示をしないことです。
悪い例
「勤怠管理アプリを作成して」
このような抽象度の高い依頼では、AIは必要な機能を正確に把握できません。最低限の打刻機能は実装されるものの、期待した成果と異なる結果になることがあります。
良い例
「勤怠管理を行うWebアプリケーションを作成してください。
必須要件は以下です。
・出勤・退勤の打刻ができる
・打刻履歴を確認できる
現在時刻が確認できる」
要件を明確に示し、「出勤・退勤の打刻」「打刻履歴の確認」などを箇条書きで提示します。
「出勤・退勤ボタンはページ中央に配置する」など、レイアウトまで具体的に指示すると、UIも意図に沿ったものになりやすくなります。
ふたつめは、一度に複雑な要求をしないことです。
悪い例
「従業員の勤怠を管理できるアプリを作りたいです。まず、みんなが簡単にログインできるようにして、メイン画面には「仕事はじめます」「仕事おわります」の大きなボタンを置いてください。ボタンを押した時に、ちゃんと会社にいるか分かるように、その時の場所も記録したいです。あと、一日何時間働いたか自動で計算して、カレンダーで過去の記録も見れるようにしてください。もしボタンを押し忘れたら、後から修正の申請ができて、上司がそれをOKできるように。上司はチーム全員の記録を見れて、月末には給料計算のために、みんなの労働時間を一覧で取り出せる機能も必要です。見た目は、とにかくオシャレで使いやすい感じにしてください。」
このように複数の要件を一度に伝えると、AIが正確に意図を理解できず、期待した結果からずれる可能性があります。
AIが自動でタスク分割をしてくれる場合もありますが、ポイントを押さえた指示と比べると精度が落ちます。
良い例
従業員の勤怠を記録するシンプルなアプリを作りたいです。まずは一番大事な画面から作りましょう。画面に『仕事はじめます』という大きなボタンを一つだけ置いてください。
次に、そのボタンを押したら『仕事おわります』という表示に変わって、時間のカウントが始まるようにしてください。
AIはこのようなシンプルな指示だと要件を理解してくれやすいので、正しく生成してくれる可能性が高いです。
一つの機能が期待どおりに実装されていることを確認したうえで、次の機能を依頼します。このように、段階的にシンプルな依頼を行うことで精度の高い生成結果が得られます。
バイブコーディングで作成した成果物の注意点
バイブコーディングは、AIとの対話を通じて動くプロトタイプを迅速に生成できる点が大きな利点です。しかし、作成したものを製品として提供する場合には注意が必要です。
生成AIはあくまでアシスタントであり、最終的な品質責任は開発者にあります。
生成AIをセキュアに業務利用するために
最後に、生成AIを安全に業務活用するための注意点を整理します。バイブコーディングに限らず、生成AIは高い利便性を持つ一方で、利用にはリスクを伴います。ここでは特に重要な3つのリスクを取り上げ、具体例とともに解説します。
1. 情報漏洩
生成AIに入力した内容は、学習データとして利用される可能性があります。そのため、入力した機密情報が他のユーザーの生成結果として出力されてしまうリスクがあります。
たとえばXXX社の人が内部情報(新規事業のアイデア)をAIに相談したところその相談内容をAIに学習されて、競合のYYY社にアイデアが漏れてしまうという可能性もあります。

この場合、本来知るはずのない人間に情報が渡ってしまい、ビジネス活動に大きく影響を与えてしまいます。
現実的には、このような直接的な漏洩が発生する確率は極めて低いものの、ゼロではありません。したがって、学習に利用されないことが保証されているサービスを使う、または個人情報や機密情報をAIに入力しないといった基本的な対策が必要です。
2. 知的財産権・著作権の侵害
生成AIが出力したコンテンツは、意図せず既存の著作物や商標と類似する場合があります。
例えば、AIが生成したロゴが他社のものと酷似しており、著作権侵害に該当する可能性があります。

実際に侵害が認められれば、損害賠償や信用毀損など、重大な問題に発展しかねません。
そのため、生成物をそのまま使用せず、既存の著作物との類似性を確認する、参考情報としてのみ扱うなど、適切な運用ルールが求められます。
3. 虚偽の生成結果(ハルシネーション)
今回紹介するリスクの中で最も発生しやすいのが、AIが事実でない情報を生成する「ハルシネーション」です。
例えば、競合調査をAIに任せきりでまとめた結果、AIが提示してきた存在しないサービス名を上司へ報告してしまい、怒られるというようなことは容易に起こり得ます。

このように怒られたとしても社内の出来事であれば影響は限定的ですが、これが顧客や取引先に対して発生した場合、企業の信用問題に発展します。
便利であるがゆえに、生成AIの出力をそのまま信じてしまいがちですが、正確性が求められる情報は一次情報の確認が不可欠です。
生成AI利用に伴うリスク管理
生成AIを業務で利用する際には、これらのリスクを正しく理解し、適切な管理体制を整える必要があります。
企業として利用を許可する場合は、明確なルール設定が不可欠です。
例として、NCDCでは以下のルールを定めています。
ただし、入力内容が学習に利用されないことが規約で明記されているサービスに限る(NCDCが許可したサービスのみ)
以下はClaudeの利用規約の抜粋で、入力内容および生成結果が学習に使用されないことが明確に記載されています。

Claudeの場合、生成AIに対する入力や生成結果がAIの学習に使用されないということが明記されています。
このように、情報漏洩リスクを一定程度排除できるサービスを選ぶことが重要です。
ただし、同一サービスでもプランによって規約が異なる場合があるほか、利用規約は変更される可能性があります。定期的な規約チェックを推奨します。
業務改善のAI導入はNCDCへ
生成AIを業務に活用しようとする際、多くの企業がさまざまな課題に直面します。生成AIの活用意欲はあっても、セキュリティ上の懸念や社内ルールの未整備により、実際の業務でAIを利用できないケースも少なくありません。
NCDCでは、実務に役立つ生成AI導入を多角的に支援しています。明確な課題はもちろん、「何から始めればよいかわからない」といった段階のご相談にも対応していますので、お気軽にお声がけください。
さらに、「社内ツールやストレージに関連データが散在しており、必要な情報をまとめて検索・要約したい」といった業務改善ニーズには、バイブコーディングによるツール開発だけでなく、AIが自律的にタスクを実行する「AIエージェント」の活用も効果的です。
NCDCでは、社内データを安全に扱える法人向けAIエージェントを提供しており、検索・要約・整理といった業務の効率化を実現できます。
▼ 法人専用生成AIエージェント「BizAIgent」 :専用環境、MCPを活用し社内のデータを安全に扱う
https://ncdc.co.jp/service/enterprise_ai_assistant/
加えて、新規サービスのプロトタイプをバイブコーディングで作成したい場合でも、商用レベルの品質が求められる段階ではプロの支援が欠かせません。NCDCでは、プロトタイプを用いた検証から商用アプリケーション開発まで一貫してサポートしています。
生成AIの業務活用やAI導入に課題を感じている方は、ぜひお気軽にご相談ください。

