1988年度から第一線の職場の社員による技術開発活動「現場第一線における技術開発」に取り組み、累計約14,500件もの成果を生み出してきた東日本旅客鉄道株式会社。その豊富な成果を社内外へ広く届けるため、2026年4月に新ブランド「GENICHI」を立ち上げた同社の知的財産センターの皆様に、ブランド策定からWebサイト構築までの取り組みについてお話を伺いました。

事例紹介Case
東日本旅客鉄道株式会社様
ゲンバ発の技術を、社内外へ。ブランド「GENICHI」が生む知財活用と開発者の活性化

お客さまのニーズ
1988年度から続く伝統的な取り組み「現場第一線における技術開発」の成果を広く社内外へ認知させ、埋もれていた知的財産の利活用の推進や、開発者のモチベーション向上を達成したいと考えていた。このため、ブランド策定からWebサイトの構築まで一貫して依頼できる専門家を求めていた。
NCDCの役割
新ブランド「GENICHI」のコンセプト策定、ロゴデザイン、ブランドガイドラインの整備といったブランド開発を包括的に支援。さらに、ブランドの世界観を守りつつ、開発者自身が更新していける仕組みを見据えたCMS構築まで一括して担った。
ゲンバ発の技術を、社内外へ。ブランド「GENICHI」が生む知財活用と開発者の活性化
はじめに、知的財産センターの概要と、ビジネス上のビジョンについて教えてください。

栃原氏:知的財産センターは、私たちの会社から生まれた、あるいはこれから生まれそうな知的財産を適切に発掘し、または戦略的に創出して権利化し、それを有効に利活用していくための組織です。私たちの大きな目標は、社員全体の「知財リテラシー」の向上を実現して、知的財産の効果を経営に反映させていくことにあります。特許の確保はもちろんですが、それをいかに有効活用するかというところが本質ですね。
今回取り組まれた新ブランド「GENICHI」の立ち上げとWebサイトの構築は、知的財産センターの目標に対してどのような役割を担っているのでしょうか。
栃原氏:当社には、発足間もない1988年度から続く「現場第一線における技術開発(通称:現一)」という長い歴史を持つ素晴らしい取り組みがあります。駅をはじめとする第一線の職場の社員が、日々の業務の中で気づいた不便さや課題を自ら解決するために取り組む技術開発で、これまで1万5千件近い優れた成果が生み出されてきました。しかし、その成果が社内で十分に共有されていない状況がありました。組織が5万人規模と非常に大きいため、他の支社やエリア、あるいは異なる系統の第一線の職場でどのような開発が行われたのかが伝わりにくかったのです。
こうした課題意識、つまり「せっかくの優れた成果が活かしきれずに埋もれてしまっているのはもったいない」という強い危機感が、このプロジェクトを始めた一番の動機です。自社内・自部門に閉じてしまった成果を幅広く社内外に認知させることで、開発品の導入数を増やすことはもちろん、第一線の職場の社員に自らの成果を実感してもらい、その意識や行動の変化につなげることも狙いの一つです。
こうした課題意識、つまり「せっかくの優れた成果が活かしきれずに埋もれてしまっているのはもったいない」という強い危機感が、このプロジェクトを始めた一番の動機です。自社内・自部門に閉じてしまった成果を幅広く社内外に認知させることで、開発品の導入数を増やすことはもちろん、第一線の職場の社員に自らの成果を実感してもらい、その意識や行動の変化につなげることも狙いの一つです。

谷口氏:やはり、第一線の職場の「モチベーション向上」は大きな目的でした。これまでは、苦労して開発しても、社内の展示会で発表したらそれでミッションが終わりだったんです。GENICHIのWebサイトに自分が手がけた開発品が載れば、自分で振り返ることができますし、他の支社や系統の人もサイトを見て「これ欲しいな、使えるな」と感じられるようになります。社外へのブランディングと合わせて社内のインナーブランディングを行うことで、開発した人のモチベーションは大きく上がるんじゃないか、という狙いがありました。
「現場第一線における技術開発」と「GENICHI」
- 「現場第一線における技術開発」とは
東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)が1988年度から取り組む、第一線の職場の社員による技術開発活動。日々の業務課題を解決するために第一線の職場の社員が自ら考案・開発した技術は累計約14,500件(1日1件以上)にのぼり、そのうち近年は約3割が実用化されている。 - 「GENICHI」とは
「現場第一線における技術開発」から生まれた技術・製品を、鉄道業界の枠を超えて広く社会に届けるために2026年4月に立ち上げたブランド。「ゲンバ発、セカイ行き。」をコンセプトに掲げ、Webサイトではこれまでの開発品の紹介や一部販売に加え、開発者へのインタビューを通じて各技術が生まれた背景や第一線の職場の思いも発信している。
異なるプロジェクトでも再びNCDCをパートナーに。決め手は「一緒に試行錯誤できる柔軟さ」と「デザインの力」
栃原様が以前ご担当されていた「諸元登録支援システム※1」での取り組みがきっかけで、今回のGENICHIでもお声がけをいただいたと伺っていますが、全く性質の異なるプロジェクトで再度NCDCにお声がけいただいた理由は何だったのでしょうか。
栃原氏:一番の理由は、仕事の進め方において相性が良かったからです。私は、最初に仕様を「凍結」してから進めるシステム開発のやり方が得意ではありません。何が正解か分からないものに挑む研究開発センター※2のような組織では、「仕様凍結」は馴染みません。大まかな方向性に対して試行錯誤しながら積み上げていくアプローチの方が、研究開発には向いています。以前の仕事でNCDCさんのプロジェクトの進め方がしっくりきていたので、今回も同様に、柔軟に動いてくれるNCDCさんにお願いしました。仕様が固まりきっていない段階でも柔軟に対応してくれることがパートナー選びの必須条件でした。
- 諸元登録支援システム:機器の新設・更新時に必要な諸元データの登録作業を、OCRを活用し効率化するシステム。
- 研究開発センター:JR東日本研究開発センター。鉄道を取り巻く環境の変化に迅速・的確に対処するため、研究開発組織を集中・強化する形で2001年に設立された企業内研究機関。NCDCでは、過去に「諸元登録支援システム」や「軌道回路故障原因調査支援システム」の開発支援を行った。
「諸元登録支援システム」は業務効率化を目的としたプロジェクトで、どちらかというと機能的価値が重視されていたかと思います。「ブランド構築」という情緒的価値が重視される本プロジェクトでもNCDCにご期待いただけたのはなぜでしょうか。

栃原氏:以前は、私個人としては「機能的価値だけあればよくて、情緒的価値はいらない」と思っていました。研究者の立場から、機能がすべてであって、感情的なものはいらない、プログラムが動けば背景は白で十分だという考えを持っていたので、デザイナーの方がプロジェクトの初期から参画していることに意味があるのかと疑っていたんです。そんな中、デザイナーの菅原さん(NCDCのマネージングデザイナー)たちがめげずに画面デザイン案をいっぱい提示して、デザインによって第一線の職場での使いやすさや業務効率が変わってくることなどを力説してくるんですよ。最初は「デザインはもういいよ」と思っていたのですが、徐々に情緒的価値の重要性やデザインの大事さに気づかされました。今や私たちも「ブランドやデザインといった情緒的価値が提示できないと、社内すら説得できないよね」という話をするようになっています。そう思えるようになったのは、御社のデザイナーの頑固さというか、折れずに主張を続けてくれたおかげですね。価値観を変えられました。

今回、ブランド策定からGENICHI WebサイトのCMS構築まで一貫してご支援させていただきましたが、一括でご依頼いただいたことのメリットはありましたか。
栃原氏:ブランディングとCMS構築を一括で契約したメリットは非常に大きかったです。ブランドを作る段階で、この後にこういったコンセプトのWebサイトを製作するという実務を見据えて進めてもらえたと思っています。CMSを構築するときも、システム側のデザイナーがブランドを作ってきた経緯を全て知っていますから、ブランドガイドラインをちゃんと守ろうと意識してくれました。これが別々の会社への依頼だったら、せっかく作ってもらったブランドガイドラインも形骸化した資料として十分に活用されずに終わっていたかもしれません。ブランドとシステムをトータルで作れたのは、一括で依頼したからこそですね。


「GENICHI」というブランドを構築していく上で、ペルソナ定義やカスタマージャーニーマップの作成など、様々なフレームワークを用いて議論がなされたと伺っています。印象に残っているエピソードなどあれば伺えますか。
谷口氏:私がグループ会社全体のブランドに携わっている関係で、本プロジェクトのメンバーにもプロジェクト開始前にブランド構築の手法をワークショップ形式で体験してもらったことがありました。そこで作成したペルソナと、後にNCDCさんがアンケートやインタビューの分析を経て定義してくださったペルソナとが全く同じだったんです。
栃原氏:あれは本当に面白かったですね。40代前半という年齢層から、趣味がバイクやゴルフという細かいところまで全く同じでした。ペルソナに設定されていたイメージ写真もうちの第一線の職場の社員そのものという雰囲気で、見た瞬間に「このブランドの方向性は間違いない、ちゃんと第一線の職場のリアルが伝わったんだな」と100%の確信が持てました。

吉田氏:私も開発品が生まれてくる第一線の職場にいた経験があるのですが、第一線の職場の空気感がうまくブランドアイデンティティに取り込まれているように感じました。

田村氏:プロジェクトメンバー間で意見が分かれた際に、NCDCさんがうまく意見をまとめてくださったことが何度もあり、印象に残っています。主にこの四名でプロジェクトを担当していましたが、それぞれ異なる意見を持っているため、自分たちでは意見が拡散してしまって取りまとめるのが難しい場面が多くありました。NCDCさんは四人の主張を方向づけて、納得できるかたちで集約してくださいました。また、提案の具体性が高かったのでイメージが湧きやすく、意思決定がしやすくなった点も良かったです。

「技術屋の畑」から生まれたブランドへの反響と、国内業界外・海外展開を見据えた展望
歴史ある伝統的な取り組みに、新たにブランドを導入するには、社内の合意形成に難しさがあったのではないでしょうか。
栃原氏:「現場第一線における技術開発」という名称に対し、愛着やこだわりを持っている社員も多くいますので、社内の合意形成は大変な面もありました。だからこそ、細かい要件の話をする前にまずNCDCさんと作り上げたブランドコンセプトとイメージを提示することで、社内の意思決定者に「いいね、これで行こう」と言ってもらうことを目指しました。洗練された「GENICHI」のコンセプトを示した結果、実際に「いい取り組みだね」という声を引き出すことができ、スムーズにプロジェクトを進めることができました。
2026年4月にプレスリリースが出され、「GENICHI」ブランドが今まさに世に向けて発信されているところかと思います。社内外からの反応はいかがでしょうか。

吉田氏:先日開催された「第2回鉄道技術展・大阪」では、大型ディスプレイでコンセプトムービーを流していたのですが、来場者から大変好評をいただきました。PRのために用意した「GENICHI」のロゴステッカーも3日間で3,000枚を配り切ってしまい、現在増刷中です。展示していた開発品を実際に手に取りながら、熱心に話を聞いてくださる来場者が多く、強い関心を寄せていただけていることが実感できました。
谷口氏:Webサイトに開発品が掲載された第一線の職場の社員たちのモチベーションアップという面では、大きな効果を実感しています。インタビューを受けることで彼ら自身の意欲がさらに高まり、「次の開発にも取り組みたい、特許も出したい」という前向きな熱量を感じています。また、私自身は名刺の裏面にGENICHIのロゴを印刷してご紹介するようにしているのですが、非常に反響が良く、興味を持ってくださる方も多く、話題の広がりを実感しています。
栃原氏:最近、社外の特に同業者から「GENICHIのブランドってどうやって作ったんですか?」とよく聞かれます。鉄道業界では機能をアピールする傾向が強いためか、ブランド構築が後回しにされがちなところがあると感じているのですが、そうした「技術屋の畑」において本格的なブランドを作ったこと自体が珍しい取り組みとして注目されているのだと思います。
プロジェクトの進捗状況について教えてください。

栃原氏:ブランド活動全体としては、まだ最初の一歩を踏み出したところです。活動を継続・加速していかなければならない段階ですね。ユーザーの目に見えるデザインや見せ方についてはほぼ100%満足していますが、更新頻度を上げられるよう、CMSをより使いやすく改修しているところです。
今後は、これまでお付き合いのなかった他業界のユーザーや商社にも技術・ノウハウを提供し、当社がライセンスを持っている製品をより多く販売できる状態にしていきたいと考えています。現在はWebサイトへの掲載点数はまだ少ないですが、製品化した成果品をすべてサイトに掲載し、アイテム数を増やしていきたいと思っています。
また、すでに社内では海外展開への期待も高まっています。先ほど話題に上がった「鉄道技術展・大阪」では、東アジアの鉄道関係者やヨーロッパの地下鉄関係者が見学に来て、非常に興味を持たれていました。ホームの水はけの悪さや故障による漏水など、同じ鉄道事業者だからこそ抱えている第一線の職場の課題も共通しているのです。
国内の他業界への展開と海外の同業への展開、両方を目指していきたいですね。
今後は、これまでお付き合いのなかった他業界のユーザーや商社にも技術・ノウハウを提供し、当社がライセンスを持っている製品をより多く販売できる状態にしていきたいと考えています。現在はWebサイトへの掲載点数はまだ少ないですが、製品化した成果品をすべてサイトに掲載し、アイテム数を増やしていきたいと思っています。
また、すでに社内では海外展開への期待も高まっています。先ほど話題に上がった「鉄道技術展・大阪」では、東アジアの鉄道関係者やヨーロッパの地下鉄関係者が見学に来て、非常に興味を持たれていました。ホームの水はけの悪さや故障による漏水など、同じ鉄道事業者だからこそ抱えている第一線の職場の課題も共通しているのです。
国内の他業界への展開と海外の同業への展開、両方を目指していきたいですね。
国内に留まらず、世界共通の第一線の職場の課題を解決するブランドへと成長していくのは非常にワクワクしますね。最後に、今後NCDCに期待することや、一緒に取り組んでいきたいことがあればお聞かせください。

田村氏:私たちはブランディングに関しては全員が素人でしたが、今回の取り組みを通じてNCDCさんから多くのことを学び、社内ではブランディングに一番詳しい人間になれたのではないかと自負しています。今後はブランドの継続的な発展や、マーケティングの面でも、ぜひNCDCさんに引き続き伴走していただきたいです。
栃原氏:GENICHIの登録製品は、耐震構造の基礎から壁、屋根、階段、スプリンクラー、ナノバブルのノズルなど水回りまで幅広く揃っています。これらをすべて組み合わせると実は家が一軒建つのではないかという「GENICHIハウス」の構想を、冗談半分でみんなで話しているんです。鉄道博物館の隣あたりにリアルな体験型展示場として「GENICHIハウス」が本当に建ったら面白いなと、誰か本気で実現してくれないかと企んでいます。

- 所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。

栃原 開人 氏
イノベーション戦略本部
R&Dユニット
知的財産センター
チーフ
R&Dユニット
知的財産センター
チーフ

谷口 美佐 氏
イノベーション戦略本部
R&Dユニット
知的財産センター
チーフ
R&Dユニット
知的財産センター
チーフ

田村 光 氏
イノベーション戦略本部
R&Dユニット
知的財産センター
主務
R&Dユニット
知的財産センター
主務

吉田 卓矢 氏
イノベーション戦略本部
R&Dユニット
知的財産センター
主任
R&Dユニット
知的財産センター
主任







