XX
ホームchevron_right事例紹介chevron_rightAIを用いた生コンの品質予測システム構築で、品質安定と省人化を目指す
事例紹介Case
UBE三菱セメント株式会社様

AIを用いた生コンの品質予測システム構築で、品質安定と省人化を目指す

主力事業であるセメントをはじめとする社会インフラ構築用の材料開発に加え、持続可能な社会構築に向けた脱炭素・資源循環・環境改善など幅広い分野で研究開発を推進するUBE三菱セメント株式会社。
同社が、生コンクリート製造現場における労働力不足や高齢化、熟練技術者の退職による技能喪失といった問題に対し、少ない人員でも効率的に製造・出荷できる体制の整備や、コンクリート品質のさらなる安定化を目的として進めてきた機械学習モデルを用いた品質予測システムの構築について、研究所 先進建設資材研究室の皆様にお話を伺いました。

お客さまのニーズ
独自に開発したコンクリートの品質予測の機械学習モデルを実務で活用するため、クラウド基盤の整備や直感的な操作感を実現するUX/UIデザイン、アプリケーションとしての実装ができるパートナーを探していた。
NCDCの役割
クラウド機能に係るアプリケーションの要件定義、画面デザイン、インフラ環境構築、実装まで対応。また、MLOps※1の観点から、 Azure Machine Learningによるモデル更新処理や推論APIの実装、UX/UIを考慮したタブレット/PC向けアプリ開発も担当。

※1 MLOps:Machine Learning(機械学習)とOperations(運用)を組み合わせた言葉で、モデルの開発から運用までの一連のプロセスを効率化し、継続的に最適化するための考え方や仕組みを指す。

労働力不足と技術者高齢化に直面する生コン製造現場の問題

はじめに、貴社と貴部門について教えてください。
玉滝氏:弊社は、セメント・生コン事業を中核としながら、建設資材、資源、環境エネルギーと幅広い事業を展開しています。
研究開発部門全体としては、カーボンニュートラルへの取り組みを最優先に、全社を挙げて推進しています。また、日本の既存インフラは建設から50年ほどが経過し、老朽化が深刻化しています。近年も道路陥没といった事故が発生しており、こうした社会課題に対応する技術の追求にも注力しています。例えば、硫酸による劣化を防ぐ下水道用コンクリートの開発や、高速道路の床版※2取り替え工事に対応できる高耐久コンクリートの開発を通じて、社会に貢献しています。
今回、NCDCさんにお世話になった生コン製造現場のDXの取り組みもその一つです。AIを活用して生コン工場の品質向上と、効率化・省人化を図っています。

※2 床版:歩行者や車両などの荷重を直接受け止め、それを梁や桁に分散して伝えるための部材。

品質の向上と効率化、省人化に同時に取り組む理由を教えてください。
玉滝氏:背景には、少子高齢化による人手不足という問題があります。その中で、生コン工場を現状と同様に稼働させつつ、少ない人数で品質を維持していかなければなりません。加えて、お客さまからの品質に対する要求も高まっており、それに応えていく必要もあります。今回のプロジェクトは、こうした課題に対し、「省人化しながら、誰でもコンクリートの品質を評価できる技術の開発」を主目的として始まりました。
現状の品質検査にはどのような負担があるのでしょうか。具体的な試験手法や労力、課題について教えてください。
市川氏:生コンの品質試験には、人手がかかります。現場から要求される品質を安定して確保するためには、実際に試験をして品質を確認する必要があり、 地域差はありますが、首都圏・名古屋・大阪といった稼働率の高い大都市部の工場では、1日に数十回もの試験を繰り返すなど、特に多くの労力が割かれています。 また、工場では1日に運搬車50~150台分程度の生コンを出荷しますが、全車両を検査することはできないため、抜き取り検査にならざるを得ません。そのため、検査を実施していない車両の品質を把握できず、品質異常が判明しても製造へのフィードバックが事後対応になってしまうという問題もあります。この問題を解決するためには、品質試験の負担を軽減し、全バッチ※3の品質をリアルタイムで可視化できる品質管理手法を確立することが課題です。

※3 バッチ:1回のミキサで練り混ぜた生コンクリートの量。製造1回分=1バッチ。

先ほど、熟練技術者の技能喪失という問題もあると伺いました。
玉滝氏:現在、コンクリートを製造する工場のバッチャールーム(製造管理室)では、熟練作業者が多く従事しており、製造中の画面を見て「スランプ※4が大体何cm下がっているな」「このバッチはおかしいな」といったことを感覚で判断しています。しかし、生コン工場では、新たな若手人材の確保が難しいのが現実です。若手が不足する中、現在の主力層は50代半ばに差し掛かっており、こうした技能・経験を持つ人材が今後順次退職していきます。そのため、熟練者の経験や勘に依存しない、客観的・定量的に判断できる仕組みの確立が急務となっていました。

※4 スランプ:生コンクリートのやわらかさ(流動性)を表す指標。

独自開発のモデルを「実務で使える形」にするためのパートナー選定

独自に品質予測を行うための機械学習モデルの開発を進められていたとのことですが、システム化にあたりどのような課題をお持ちでしたか。
市川氏:本プロジェクトの開始前は、機械学習モデルの開発自体は自社内で進めることができていました。しかし、そのモデルを実際の製造現場で活用するための仕組みが十分に整っていませんでした。具体的には、モデルをクラウド上で動作させる推論APIの実装、データの入力・予測結果の出力を行うアプリケーションの構築、ユーザーが使いやすいUX/UIの設計などが自社だけでは難しい状況でした。社内にシステム実装ができるメンバーがいなかったため、外部ベンダーへの依頼が必要でした。また、モデルの予測精度改善とシステム開発を並行して進めるための、プロジェクト全体の調整・推進も自社のみでは困難な状況でした。
多くのベンダーがある中で、NCDCをパートナーに選定していただいた理由を教えてください。
玉滝氏:以前の別のプロジェクトでNCDCさんに参画していただいた実績が、選定のきっかけです。実際に一度一緒に仕事をした実績があったため信頼を置きやすく、弊社の課題や業務特性、社内環境をすでにご理解いただいている点にも安心感がありました。また、NCDCのこれまでの実績を拝見した際、建設会社さんなど、我々にとって身近なお客さまとともにデジタル技術の活用に取り組まれていたことも、信頼できる会社だと感じた理由の一つです。他社とも比較検討しましたが、技術力に加えてプロジェクトの推進力・コミュニケーション・費用面も含め、総合的に信頼できると判断し選定しました。
パートナーを選ぶ上で、特に重要視されていたポイントはどのような点でしたか。
市川氏:システムとして適切に構築できるというのは大前提としてありますが、こちらの要求を的確に汲み取って、それを素早く形にしてくれる柔軟性やスピード感を特に重要視していました。
玉滝氏:私も同じく、最も重視したのはフットワークの軽さとスピード感です。今回取り組んでいるコンクリートのフレッシュ性状※5予測は、業界的に見ても特許出願が少ない分野であり、早期に開発・リリースした企業が特許や知財を獲得できる領域です。そのため、スピード感は非常に重要でした。
当初は、自社ですべて開発できれば、コスト・スピードの両面で最善だと考え、内製化も検討していました。しかし、社内のDX戦略プロジェクトや情報システム部門とも相談した結果、自社のみで内製化して形にすることは難しいという結論に至りました。今回NCDCさんに依頼したことでスピードも大きく向上し、研究開発段階の成果を形にできたことは大変ありがたく感じています。

※5 フレッシュ性状:コンクリートを練り混ぜてから硬化する前の、柔らかい状態における性質のこと。施工に適した状態かどうかを判定するために管理される、重要な品質指標。

現場の使いやすさを追求したUX/UIデザインへのこだわり

開発された「フレッシュ性状予測アプリ」の概要や機能について教えてください。
市川氏:簡単に言うと、製造時に工場で取得される各種データを基に、機械学習モデルを用いてコンクリートの品質を予測し、その結果を分かりやすく可視化するツールです。コンクリートは、使用材料の特性や温度などの環境条件によって品質が変動しやすいことから、「生もの」と言われています。そのため、品質変動を可視化できるようにしました。「フレッシュ性状予測アプリ」は、主に次の3つの画面で構成されています。

一つ目は「波形表示画面」です。製造中のバッチについて、フレッシュ性状の予測値とミキサ電力負荷値※6の波形を、過去の実績データと併せて表示します。過去の実績と比較する画面自体は従来から存在していましたが、それは熟練のオペレーターが感覚で判断するための定性的な評価にとどまっていました。今回はAIによる定量的な予測値を導入することで、定量的な評価と視覚的に判断しやすい画面を組み合わせ、製造状況を把握できるようにしている点が特徴です。
波形表示画面。熟練の技術者でなくても、画面を見て品質を評価できるようになる。
市川氏:二つ目は「変動管理画面」です。現場ごとに出荷しているコンクリートの品質変動を確認することができ、品質のばらつきや変化の傾向をマクロに把握することが可能です。
変動管理画面。1日の中で製造した生コン品質のばらつきや変化の傾向が把握できる。
市川氏:三つ目は「推論結果一覧画面」です。予測結果をリスト形式で確認できるとともに、現場で行った実際の工程検査データの入力にも対応しており、入力されたデータに基づいて機械学習モデルの更新を行うことができます。
推論結果一覧画面。結果をリスト形式で確認できるほか、現場での実測データの入力にも対応。
UIの設計にあたり、現場の利用環境の共有など、どのようなやり取りがあったのでしょうか。
市川氏:現場の写真や資料をお渡ししたり、実際の製造現場を見ていただいたりして、できるだけ詳しく利用環境をお伝えしました。また、開発の過程では実際に使用した結果のフィードバックをまとめた資料を作成・共有していました。
基本的な要望はこちらから提示しましたが、私たちだけでは気づかないシステム開発会社ならではの視点で、画面デザインや操作性に配慮した具体的な改善提案をいただけた点が良かったです。
「フレッシュ性状予測アプリ」に工程検査データを入力している様子
特に印象的なエピソードがあれば教えてください。
市川氏:UX/UIに関する検討の中で、現場での利用シーンを踏まえた提案を迅速に反映していただいたことが特に記憶に残っています。例えば、検査データを入力する画面において、iPad標準の入力パッドでは製造現場での入力が困難でした。これに対してNCDCさんから、キーパッドのみで入力作業が完結する操作フローや、画面上に専用テンキー入力パッドを実装する提案をいただき、迅速に対応していただきました。単にこちらの要望を受け入れるだけでなく、理由を添えてより良い形を一緒に考えていただけた点が非常に印象的でした。

データの蓄積からモデル更新までをシームレスに回す仕組みの構築

NCDCがインフラ構築や実装を担当したことで、どのような効果をもたらしましたか。
市川氏:自社のAzure環境上で、既存のIT環境やセキュリティ要件を踏まえた上で、安定的に運用できるWebアプリケーションとして一貫して構築いただけた点が非常に良かったです。
特に、アプリから実際の工程検査データ(実測値)の蓄積と機械学習モデルの更新をシームレスに行える点は、MLOpsの観点から見ても、モデルの改良とシステム運用を分断せずに進める上で大きな効果があります。研究開発段階の成果を実務に落とし込み、その後も継続的に改善していける仕組みとして、完成度の高さを感じています。
システム導入以前は、工場で試験した実測データをExcelに入力して送付してもらい、工場側で取得した製造データと手作業で照合しながら学習データを蓄積するというプロセスを踏んでいました。その手作業の部分が非常に煩雑でしたが、今回のシステム化によってデータが自動的に蓄積され、照合作業も効率化されたことで、データ収集の面では大幅に負担が軽減されました。
Azureアーキテクチャ図。アプリから工程検査データの蓄積と機械学習モデルの更新をシームレスに実現。
現在のプロジェクトの進捗状況はいかがでしょうか。
市川氏:現在は、アプリケーションの基本機能を実装し、実際の工場での試験運用を通じてデータを活用しながら、モデルの予測精度検証や画面の操作性確認を進めている段階です。使用感については、概ね問題ないことを確認できています。
一方、現時点での課題として予測精度の改善に取り組んでいます。日常的に出荷量の多い通常のコンクリートのデータが中心となってしまい、本来必要なエッジケースのデータが十分に収集できていない状況なので、様々なケースのデータ収集が今後の課題です。
なお、システムの開発を依頼した時点では、技術的な観点から「異常検知の実装は難しい」という結論に至っていました。しかしその後もモデルの改良を重ねた結果、精度の高い異常検知が実現できる見通しが立ってきました。この予測精度の課題を解決できれば、工場で稼働している既存の品質管理システムや配合設計システムとの連携も視野に入れた、より包括的な活用を目指していきたいと考えています。

JIS規格という壁への挑戦と、製造から運搬までを見据えたトータル管理の未来

アプリケーションとしての検証が進む一方で、社会への本格的な普及に向けてはどのような課題があるのでしょうか。
玉滝氏:手作業による試験をシステムで代替していくことで、将来的には人手不足にも対応できると考えていますが、現状では本システムを工場に導入しても、システムに全面的に依存することができません。工場の製造はJIS規格をはじめとする厳密な規格に準拠しなければならないという規定があるためです。JIS規格はデジタル技術が普及する以前に策定されたものであり、システムの精度がいかに向上しても、規格そのものが改定されない限り、手作業による試験を廃止することはできません。
そのため今後は、今回開発した「フレッシュ性状予測アプリ」の成果を、業界関係者が出席する会合や学会で発表し、この技術を広く周知するきっかけを作っていきたいと考えています。さらに、大学の研究者や有識者への働きかけを通じて認知を高め、規格改定の実現につなげていくことも、システム開発と並行して取り組むべき重要な課題です。
今後の技術的な目標や、さらなる拡張の展望について教えてください。
市川氏:直近では、フレッシュ性状の予測にとどまらず、品質に影響を及ぼす材料品質の管理にも取り組んでいます。特に骨材の粒度はフレッシュ性状に影響を与えるため、その変動管理として骨材の粒度を測定・予測する「骨材粒度推定アプリ」の開発も、NCDCさんとともに継続して進めています。こうした材料側の品質確認とフレッシュ性状の予測結果を組み合わせることで、生コンを総合的に管理できる仕組みの実現を目指しています。

骨材粒度推定アプリとは

  • 目的:コンクリートなどに使用される骨材(砂・砂利)の品質を、スマートフォンで撮影した写真から自動で判定するアプリ。
  • 背景:従来は「ふるい分け試験」と呼ばれる手作業で骨材の粒の大きさ(粗粒率)を測定していたが、作業者による判定のばらつきや手間が問題となっていた。
  • 特徴:本アプリでは、撮影した画像を機械学習モデルで解析し、粗粒率を自動で推論することで、現場での品質管理の効率化と精度向上を実現。また、クラウド(Azure)と連携することで、全国の工場・グループ会社への展開や、将来的な機能拡張にも対応できる設計となっている。
玉滝氏:材料の粒度予測・自動化に加え、製造したコンクリートをトラックアジテータ(生コン車)でお客さまのもとへ運搬する際の変動予測も今後の目標です。運搬距離や時間、外気温が変われば、現場到着時のコンクリートの性状も変化します。今後は運搬中の変動も予測可能な技術をシステムとして実装し、最終的には「この距離・時間・温度条件で運搬するならば、工場ではこの製造条件・配合で製造する」というプロセス全体を自動化する包括的なシステム(全QMS化)の実現が、私たちの目指す姿です。

また将来的には、グループ会社で保守ができるよう社内の内製化・保守体制の構築支援や、若手技術者をNCDCさんのチームに参加させることでモダンなアジャイル開発やクラウド基盤の経験を積ませる人材育成支援など、システム開発の枠を超えた領域でも、これからもともに歩んでいければと考えています。
玉滝 浩司 氏
UBE三菱セメント株式会社
研究所
先進建設資材研究室 先進技術推進グループ
グループリーダー
市川 翔太郎 氏
UBE三菱セメント株式会社
研究所
先進建設資材研究室 先進技術推進グループ

Contactお問い合わせ

本サービスの詳細についてご興味のある方は、下記よりご連絡ください。

Contactお問い合わせ

お見積もり・案件のご相談はこちら

Download資料ダウンロード

各サービス概要・お役立ち資料はこちら