安全・安心な社会に貢献する画像センシング事業を行う会社として2019年にパナソニックから独立し、2022年4月には社名も新たになったi-PRO株式会社。
同社が取り組んでいるVSaaS開発プロジェクトについて、各部門の関係者(企画・開発・セールスエンジニア)にご参加いただき話を伺いました。
(VSaaS とはVideo Surveillance as a Serviceの略で、クラウド型の映像監視システムを指す)
伊藤氏 ── i-PROはパナソニックから画像センシング事業を行う会社として独立しましたが、1957年に松下電器産業株式会社の中央研究所において業務用監視カメラを開発したのがはじまりであり、60年以上の歴史があります。
セキュリティ、医療、産業向けの映像機器を扱っており、機器・モジュールの開発、製造、販売に加え、システムインテグレーション、施工、保守、メンテナンスおよびサービスを含む各ソリューションを提供しています。
伊藤氏 ── 私たちは「安心・安全への取り組みで、笑顔で楽しく過ごせる社会の実現へ」という理念を掲げており、ネットワークカメラをはじめとするセンシングテクノロジーを通じてより良い社会づくりに貢献したいと考えています。
今回新たにリリースするi-PRO Remo. サービスも、その理念に基づくソリューションで「今までの監視カメラよりも手軽にカメラと人を結びつけるサービス」をコンセプトにしています。
伊藤氏 ── その通りです。近年、この分野では大きくニーズが変化してきており、お客様がリモートでカメラ映像を見る機会が増えています。i-PRO Remo. サービスは、クラウドを通じてスマートフォンやPCからカメラのライブや記録画像を簡単に確認できるサービスで、お客様のニーズの変化に対応する重要な役割を担います。
伊藤氏 ── 従来は大規模店舗等にカメラを設置するのが主流でした。しかし、近年カメラ価格も安くなってきており、小規模事業者や個人経営の店舗などでもニーズが増えています。i-PRO Remo. サービスはこうした環境の変化を踏まえてはじまった、小規模の顧客をターゲットとした新しい試みです。
ご利用になるユーザーも既存事業とは異なりますので、UIデザインにもこれまでにない新しい発想が必要だと考え、UX/UIデザインの実績が豊富なNCDCさんに依頼させていただきました。
鎌田氏 ── UXデザインの知識や経験がまったくなかったわけではありませんが、ここまで本格的に取り入れて意識したのは本プロジェクトが初めてではないかと思います。過去に自分たちで取り組んでみたケースでは、ペルソナやカスタマージャーニーを関係者全員でここまで詳細に検討したことはなかったのではないかなと思います。
今回のNCDCさんとのプロジェクトを通じて、お客様視点でデザインを作るプロセスを詳しく知ることができました。
若子氏 ── ひとつの例ですが、今までは開発メンバーとデザイン担当者だけでUIを決めてしまいがちで、最終形に近い段階でセールスエンジニア(SE)から意見をもらい、手戻りが発生することがありました。
今回はNCDCさんにファシリテートしていただき、SEや企画メンバーも一緒になってUXの検討を進められたので、実装を始める前に考え得るベストなUIを作ることができたと思います。
我々だけで実施するとファシリテート役がおらず、最終的に議論が収束せずに終わってしまうことが多かったのですが、今回はうまく進められました。このプロセスこそがパートナーに期待していたことであり、期待通りのアウトプットが得られたと感じています。
大谷氏 ── 多くの関係者が集まりUXを検討したことで、見た目だけではなく機能的な工夫につながったこともありました。
例えば「ある部分の設定が難しい」というような課題も、従来のやり方では最終段階での議論となり改善範囲が狭まってしまうケースがありましたが、今回は「カメラ権限付与をカメラ1台ずつ設定するのは手間がかかる」というユーザーにとって重要な課題を、UXデザインのワークショップを通じて早期に見つけることができました。
大谷氏 ── カメラの設置工事をされる方は1日に2〜3件担当するそうなので、短時間で設定できる方がいいという要望はよく聞いています。さらに、工事担当者がPCを持っていないケースもあるので、複雑な設定を嫌がって他製品を選ばれてしまう可能性もあります。
そういった問題を解消するためにも、UXを考慮した機能の工夫は非常に重要でしたね。
大谷氏 ── トレンドを取り入れたデザインにしたいという思いはありましたが、どんなテイストにすべきか、当初私たちの方は答えを持っていない状態でした。NCDCさんからさまざまな調査の結果を踏まえて複数のデザインサンプルの提示とそれらの特徴の説明をいただき、最初からかなりレベルの高い提案をしてもらえたのでありがたかったですね。
NCDCさんは、悩みや困っていることを投げかけるといつも素早く対応してくれる印象です。あたかも我々の事業を一緒にやっているかの様に寄り添っていただいている感覚がありました。
若子氏 ── 一緒に開発を進めている感覚は強かったですね。例えば、デザインへの要望をお伝えしたときに「一旦持ち帰って後日修正データを送ります」といった進め方ではなく、会議中に色や配置の変更をその場ですぐに試して「こんなイメージですか」と提示していただけたことも良かったです。メンバーからの意見も出やすかったですし、最終的により良いものに仕上がったかなと思います。
大谷氏 ── 以前のやり方だと、デザイナーとはExcelやテキストでやりとりすることが多かったので、実装してみたら自分の想定と動作が異なるという問題も起きていましたが、NCDCさんの場合は早い段階で動くもの(InVisionによるプロトタイプ)を見せてもらえるので、わかりやすく、「もっとこうしたい」という踏み込んだ議論をする意欲がどんどん出てきましたね。
若子氏 ── 今までデザインはグループ内のデザインセンターに依頼するのが基本方針だったのですが、パナソニックグループからの独立に伴い、他社との協業を検討し始めました。
あるお取引先にデザイン会社を探していると相談したところ、数社の候補を教えていただけて、その中からNCDCさんを選びました。
若子氏 ── 理由は2つあります。1つは、デザインといっても単なる見た目の良し悪しではなくUXの観点であるべきUIを検討していただけそうだと思えたことです。
もう1つは、ブログなどを拝見して「技術的な知識にも長けている」と確信できたことです。
鎌田氏 ── 今回は、i-PROらしさをどうやって出していくかと、監視カメラを使用したサービスをあまり使われたことのないお客様でも利用しやすいサービスとして最適なUIはどういうものか、この2点を特によく検討する必要があると考えていました。
NCDCさんに依頼したことで、i-PROのカラーを入れつつ、お客様が理解しやすいサービスを作ることができたと思います。
鎌田氏 ── はい。デザイン提案に関してはログイン画面でのやりとりが印象的です。私たちは最初にもらった案で良いかと思っていたのですが、その後、デザイナーの菅原さんが自主的にデザインを再提案してくださいました。
再提案されたものはi-PROのカラーを入れつつ、より洗練されたデザインになっていて、私たちの気づいていないところまで考えてくださって、すごいなと思いました。
若子氏 ── 最終的には全体のUIもメインカラーのひとつであるi-PROブルーをうまく取り入れたものに仕上がり、社内でも評判が良いです。
若子氏 ── CSSに適用すればすぐに実現できる指示書を用意していただいたので、基本的にはそれで問題ありませんでした。
使っているライブラリの制約上いくつか変更も生じたのですが、実装後に見つかった課題についても一緒に解決策を検討していただけましたので、滞りなく開発を進めることができました。
大谷氏 ── 私はワークショップのファシリテートをしていただいた代表の早津さんがとにかく印象的でした。頭の回転の速さや百戦錬磨の経験から出てくるアイデアがすごいなと思いました。
また、今回のプロジェクトはコロナ禍もあり対面でのやりとりはなかったのですが、オンライン会議に適した最先端のツールの利用や進め方の工夫があって、とても効率的にプロジェクトを進められたと感じています。
若子氏 ── 対面会議だと集まったその場でしか検討しない傾向があるので、一貫して対面会議を行わなかったのが逆に良かったかなと思います。
今回はmiroというオンラインホワイトボードを使ったので、会議で貼った付箋などを片付けてしまって見直すのに困るようなこともなかったですね。会議後でもオンラインで思いついたことをすぐ書き込めるし、会議の準備もスムーズにできます。
大谷氏 ── 新しい仕事のかたちで、普通のやり方よりも成果が出たのではないかなと思います。ワークショップではNCDCの社員の方がアグレッシブで、たくさんの意見をいただけたもの非常に嬉しかったです。おかげで活発な議論ができました。
若子氏 ── NCDC側からの発言が呼び水になって、普段あまり発言しない当社のメンバーもどんどん意見を出すようになったので、すごくやりやすかったですね。何より楽しくできたのが非常に良かったです。
期待以上のアウトプットを出していただけたので、今回に限らずこれからもぜひ一緒にいろいろやっていきたいなと思っています。
大谷氏 ── 当社のサービスを導入していただく際、従来は必ずセールスエンジニア(SE)が関与していましたが、これは導入時の作業が複雑だからだといえます。
実はi-PRO Remo. サービスが目指すことの一つに「SEレス」があります。工事会社がSEを挟まずに、もっというと工事会社さえも関与せずエンドユーザーが自分で導入できるものが理想です。サービスそのものがSEの機能を内包していて、お客様がストレスなく利用開始できるものを目指していきたいと思います。
また、防犯だけでなく、導入されたオーナー様のあらゆる悩みを映像センシングで解決できるようなサービスをつくっていきたいと思っています。
伊藤氏 ── 映像センシング業界全体の傾向として、カメラの高画質化やAI活用が進んでいます。カメラの台数も増えてより多くの映像データを扱うようになっていますし、それらを加速する要因としてネットワーク環境の変化もあります。そうした変化にどう対応していくのかは常に考えています。
今回作ったUIに関しても、カメラの台数が今の想定よりも増えた場合にどうUIを最適化するのかは新たな課題になると考えますので、その時はまたNCDCさんと一緒にUX/UIを検討していけたらと思います。
若子氏 ── 今回のプロジェクトではUIデザインの段階になってからNCDCさんに参加していただきましたが、今後は開発をスタートするよりも前に、サービスの企画を考える段階からご支援していただくことで、より良いサービスができるのではないかと期待しています。
※所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです。