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2014/07/01 アジャイル, 勉強会

Agile Japan 2014 基調講演参加レポート

NCDCの北村(@chipstar_light)です。
先週末の2014/06/27に日本IBM本社で行われたAgile Japan 2014に参加してきましたのでその内容をレポートしたいと思います。今年のAgile Japanは午前中のみの参加となったため、今回のレポートは基調講演を対象にしたいと思います。

agilejapan2014

 

基調講演内容
ソフトウェア開発者に問う ~日本人のモノづくりの本質とは~
水野 和敏 氏(元日産GT-R開発の総責任者)

 

日本人の伝統的モノづくりの特長

  • 分業化しない
    伝統的なモノづくりは、設計・開発・販売が分かれておらず、一人の人間が全てに携わっていた。セクショナリズムがなく、個々の能力を最大限に発揮できる。
  • 単一民族チームの形成
    チーム全員が同じ文化・価値観・習慣を持っていることで意思疎通がスムーズに行える。特に、日本人は相手を洞察する能力に長けている。日本語は相手を洞察して表現を変える言語であり、それを使っている日本人は常に洞察力を訓練しているという事。
  • 職の安定
    将来を保障し、安定して一人一人に役割を与える。チームとモノづくりに集中できる。

しかし、このような特長を殺し、欧米に右へならえになっていないか?ドイツの車、スイスの時計、フランスのファッションなど、世界に認められる製品はナショナリティブランドを持っており、自国の文化や価値観、それを踏まえたモノづくりへのこだわりを持っている。日本のモノづくりを取り戻すためにも、その素晴らしさをGT-Rで証明したかった。


冒頭でこの日本人としてのモノづくりという話があり、これを主題に以降の話が展開されました。講演は終始熱のこもった内容となり、話が盛り上がる箇所によっては、様々なテーマが交差する内容に発展していました。それにより時間が押しており、用意されていたスライドもかなり飛ばされていましたので、想定されていた構成の話になっていないと思われます。そのため、今回のレポートは、私なりに全体的な内容をカテゴライズして、印象に残った部分を要約する形にさせて頂きました。

 

ポイント1:人の為に仕事をするという姿勢

自分のために仕事をしている人とは真の意味で目的やビジョンは共有できない。自分のための目的とは、褒められたい…、儲けたい…、楽したい…、etc…。
自分のためでなく、”人のため”だと目的の共有が可能になる。”人に喜んでもらいたい”というチームの共通の動機がベクトルを合わせる。これには、相手を思い描き、耐える心強さが大切。中途半端な想いではダメ。そのため、優秀な人材を集めるのではなく、人のために働ける人材を集める。


利他の精神は日本人の特長の1つだと思います。そして、こういう哲学的・心理的な部分は、海外の合理的な考え方には少なく、アジャイルにおいてもありそうでない要素だと思います。もちろん、アジャイルにおいても、目的の共有や顧客価値の最大化などの重要性は語られていますが、利他の精神をそれらに明確に取り入れるという着想はなく、日本が諸外国と差別化できる要因になり得るのではないでしょうか。

 

ポイント2:感性を共有し本質を見極める

  • 感性の共有
    学習するという事は、過去が理解できるだけであり、未来は見えない。過去は言葉や数字から読み取る事ができるため共有が簡単。
    一方で、未来は言語化できず、データもないため、学習は難しい。(言語化できるのは既にあるものだけ。)未来は感性で考えなければならない。実際には、画像や動きとして想像され、洞察力を持ってとらえる。価値観や習慣を共有している単一民族だと、この感性の共有が行え、さらに日本人は少ない情報からそれを洞察する力に長けている。
  • 本質を見極める
    セオリーを追いかけても2番手が限界。また、カタログスペックだけを追い求めても本質は見えない。目的を突き詰め、未来を感性でとらえる必要がある。そして、突き詰めた未来を徹底的にデータ分析する。分析結果から役割毎にを目標を細分化し追求する。

感性の共有、簡単にいうとイメージの共有だと思いますが、少ない情報から相手の考えを洞察する能力は、確かに日本人は得意そうです。そして、イメージを共有した事により、自分に与えられた役割を超えた相手への配慮もまた実現できるのだと思います。一方で、共有する以前に、未来を感性でとらえること、本質を見極める事は、日本人は得意なのでしょうか?新しいアイデアを出す事や、発想の転換など、むしろ苦手と言われている分野かなとも思います。この辺りは、私自身も含めて課題ですね。

 

ポイント3:技術力による原価低減

  • 技術開発で原価を下げるか、賃金格差で原価を下げるか
    低賃金の労働力、特に海外生産の問題は、低いレベルに合わせた設計とモノづくり、品質の妥協・劣化、技術開発の停滞を引き起こす可能性がある事。廉価版を造ることができても、ブランドを形成するプレミアム版は造れない。
  • ドイツの車造りの良さ
    国家レベルでの技術者の育成を推進。マイスター制度を認定し、マイスターの子供が親を自慢できる環境がある。職も安定し、技術に打ち込める環境作りを行っている。また、技術者は徒弟制度での育成が行われ、ナショナリティブランドにこだわった妥協の無いモノづくりを受け継いでいる。
  • 現場の価値の想像(モノづくりの最上流は開発)
    現場(開発)が造れないもの、現場が持っている技術を超えたものは、事実上、企画・設計はできないわけであり、製品開発の善し悪しは開発現場の技術力ありきである。このため、開発は自立して新しい技術に挑戦していかなければならず、会社はそれをバックアップしなければならない。

この話は、日本のIT業界、特にオフショア開発の失敗や技術力の低下を目の当たりにしているSI業界は耳が痛いと思います。私も、日本のIT業界では、開発者の地位向上や、技術者育成への投資が重要な課題だと感じています。日本のIT業界は、自動車業界に比べ、海外での存在感を示せていないこの状況の中で、ドイツの自動車業界の事例のように、国家レベルで、エンジニアを育てる環境作りが必要なのではないかと思います。

 

ポイント4:工数じゃなく能数で管理する

工数の管理では、管理の都合でエンジニアの能力を平準化し、潜在能力を封じ込めてしまう。このため、チームを工数ではなく能数(保有する能力の数)で構成する。能数には、イメージ力や共有力も指標として含まれる。そうする事で、個人の潜在能力を最大限発揮させ、無駄に人数をかけず最適化されたチームになる。工数では、コストを押さえる管理の仕方にしかならないが、能数では、同じ金額をどれだけ良い使い方ができるかで管理する事ができる。


この能数という考え方は、人月を否定するアジャイルに共通する部分があります。アジャイルではベロシティという考え方がありますが、根本として、個人毎の能力の違いを計画の前提に組み込むという点が共通します。また、独立した個人の力ではなく、チームとしての相乗効果を加味している点も通じます。そして、双方とも大規模生産のための管理体系合理化ではなく、少数精鋭で個人が能力を最大限に発揮できるチーム作りに重きを置いています。業種が異なっても、次世代のマネジメントが向かっている方向は一致していると感じました。

 

全体を通して、とても熱のこもったトークで(いわゆる水野節)、会場全体が引き込まれているのがよくわかりました。話をきれいに纏めるのではなく、想いをぶつけるような話し方と言った方が適切かもしれません。日本人として熱くなり勇気をもらえるような講演でした。

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